■国内にいる「中国共産党の代理人・弁護人」とは
11月以降、高市早苗首相率いる日本に対して、中国による計算しつくされた戦略が展開されている。
SNS上の偽情報キャンペーン、海軍示威、経済圧力、沖縄主権への異議、文化人招待の取り消し……。北京の狙いは、そうやって「日本」というダック丸ごと一羽を一気に料理することだ。複数の細かな戦術を通して相手に細切れの交渉余地を与えず、最初から全体像を突きつけて主導権を握り、最終的に支配しようとする戦略だ。
習近平の戦術・戦略を分解してみよう。
情報戦では「真実」が解体される。中国国営メディアが、沖縄に対する日本の主権を疑問視し、高市首相を危険な軍国主義者として描写する。琉球王国が中国に朝貢していたという事実を歪曲し、現代の沖縄が日本に「占領された領土」であるかのような印象を与える。この情報戦の狡猾さは、真実と虚偽を巧妙に織り交ぜる点にある。
経済的強制では「市場」が武器になる。レアアースの輸出制限、中国人観光客の訪日制限、日系企業への規制的嫌がらせ。この戦術の目的は、日本企業を「北京の代弁者」に変えることだ。
■日本の文化産業に自主検閲をさせる狙い
軍事的威嚇が続くと、戦争でも平和でもない「曖昧な緊張状態」(グレーゾーン)が日常化する。その結果、日本は対応に追われ続け、国際法や安全保障の隙間を突かれる危険が増す。
例えば、尖閣諸島周辺では、中国海警局の船舶が日本の領海に毎日侵入する。2024年度、航空自衛隊は669回のスクランブルを実施し、約60%が中国機に対するものだった。これは中国の軍事的存在を「新しい正常」として常態化させることが目的だ。
文化戦争では「ソフトパワー」が支配される。
2025年6月、J-POPグループの上海公演が突然中止され、日本のアニメ映画3本が中国市場から締め出された。日本の文化産業は今後、自主検閲を始め、北京の好みに合わせた作品を制作するようになるかもしれない。そう差し向けるのが北京の作戦なのだ。
政治家、学者や有名人を「中国の代理人」として起用し、その人の権威や信頼を利用してエリート層を取り込み、一般社会に影響を及ぼす。
法律戦では「歴史」が書き換えられる。
2025年7月、北京で「琉球の歴史と現状に関する国際学術会議」が開催された。「琉球の法的地位は未解決である」と主張する論文が発表された。今日の学術論文が、明日の外交白書となり、明後日の領土主張となる。
これが北京ダック戦略である。日本という「ダック」を丸ごと消費するのだ。
■内なる脆弱性を抱えて焦っている北京
この一見強大な戦略には、深い焦りが隠されている。中国経済は次のような深刻な構造的危機に直面している。
・GDP成長率は4.7%に減速し、不動産部門は事実上崩壊。
・若年失業率が21.3%超。2023年6月以降、北京は統計の公表を停止。
・「寝そべり族(※)」の増殖。
(※)住宅を買わない、車を買わない、恋愛・結婚・出産をしない、消費は最低限に抑えるという、競争社会を拒否し、最低限の生活で満足する若者のライフスタイル
2023年、中国の人口は61年ぶりに減少した。出生率は1.09に落ち込み、国連は中国の人口が2100年までに7億7000万人に減少すると予測する。これは「豊かになる前に老いる」という悪夢のシナリオだ。
そして最も深刻な問題は、台湾だ。2025年6月、63.7%の台湾住民が自分を「台湾人のみ」と認識し、「中国人のみ」は2.5%に低下した。習近平の任期中、台湾の「心」を勝ち取るどころか、台湾人のアイデンティティは急速に強化された。
これらの国内的・戦略的課題が、習近平政権の焦りを生んでいる。経済は失速し、若者は幻滅し、人口は減少し、台湾は遠ざかる。時間は北京の味方ではない。
この焦りが、対日強硬姿勢を駆り立てているのだ。
■竹のように強靭に:日本の抵抗戦略
竹は嵐の中でしなるが、決して折れない。その強さは硬直性ではなく、柔軟性と深い根にある。日本もまた、戦略的柔軟性と深い同盟関係を通じて、中国の圧力に耐えることができるのではないか。
根本的には日本の抵抗戦略は5つの柱が必要だ。
第1の柱:情報レジリエンス。
内閣サイバーセキュリティセンターの権限を拡大し、中国側の組織的な虚偽を特定・対抗する迅速対応チームを設置する(推定予算:年間50億円)。批判的思考と情報検証のスキルを教育課程に組み込む。QUAD(日米豪印)の枠組みで偽情報対策作業部会を設置する。
第2の柱:経済的多様化。
「サプライチェーン強靱化法」を制定し、重要物資の国内生産や友好国からの調達に補助金を提供する(推定予算:5年間で5兆円)。熊本県のTSMC工場は、日本が中国に依存しない半導体サプライチェーンを構築する具体例である。
第3の柱:同盟の近代化。
日米豪印の安全保障協力を強化し、サイバー防衛、宇宙、AI分野での協力を深める。日米韓三国協力を制度化する。日・フィリピン・豪、日・ベトナム・印などミニラテラル・パートナーシップを構築する。
第4の柱:法律戦。
尖閣諸島と沖縄の主権に関する包括的な法的・歴史的分析を、多言語で国際的な学術誌に発表する。デジタルガバナンスの国際規範を主導し、「デジタル民主主義憲章」を提案する。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定)を拡大・深化させる。
第5の柱:国内のレジリエンス。
構造改革を加速し、持続可能な経済成長を実現する(目標:実質GDP成長率2%以上)。
■即座に実施できる対中国の3つの施策
そして長期的な戦略と並行して、日本は直ちに実施できる3つの施策で「迅速な勝利」を追求すべきだろう。
まず、QUAD首脳による共同声明を100日以内に発表。台湾海峡の平和と安定が地域全体の繁栄に不可欠であることを明確にする。中国が日本を孤立させようとしても、オーストラリア、インド、米国と同じ立場を共有する。
次に、経済産業省の補助金を拡大し、半導体、レアアース、医薬品原料、電池材料を製造する企業に対する支援を即座に倍増させる。補正予算で3000億円を追加すれば、企業の国内回帰や友好国への生産移転を2~3年早く実現できるだろう。
最後に、外務省は「民主主義レジリエンス・タスクフォース」を設立し、リトアニア、チェコ、スウェーデンの外交官と定期的なビデオ会議を開始する。これらの国々はすでに中国の経済的強制に直面しており、貴重な経験を持っている。予算をほとんど必要とせず、既存の外交チャネルを通じて即座に実施できる。
竹には節目がある。それは成長の過程で直面した困難の痕跡だ。しかし節目があるからこそ、竹は強靭になる。嵐が来ても、竹はしなるが折れない。風が過ぎれば、竹は再び真っ直ぐに立つ。
日本は世界最強レベルの同盟ネットワークをもち、国民の大多数は民主主義と法を信じ、世界第4の経済大国、技術大国、そして文化大国である。同盟という深い根と、パートナーシップという広い枝を持つ竹のように、日本は嵐に耐え、より高く成長することができるだろう。強靭に、しなやかに、そして決して折れることなく。これが日本の進むべき道である。
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スティーブン・R・ナギ
国際基督教大学 政治学・国際関係学教授
東京の国際基督教大学(ICU)で政治・国際関係学教授を務め、日本国際問題研究所(JIIA)客員研究員を兼任。近刊予定の著書は『米中戦略的競争を乗り切る:適応型ミドルパワーとしての日本』(仮題)。
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(国際基督教大学 政治学・国際関係学教授 スティーブン・R・ナギ)

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