※本稿は、野地秩嘉『セカストの奇跡 逆襲のゲオ』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■香港、シンガポール、アメリカにも出店
セカンドストリートは海外にも進出している。わたしは台湾、タイでセカンドストリートの店を訪れた。アメリカ、マレーシア、香港、シンガポールにもあると聞いたけれど、そこへは行っていない。
海外の店舗を見ると、品揃えにはふたつのパターンがある。アメリカ、台湾、タイ、香港、シンガポールでは現地で買い取ったものを販売している。日本からリユース品を送っているわけではない。ただし、新規出店のペースが速いこともあって、不足する分は日本から各国の店へ送っている。
一方、マレーシアへは日本から余剰のリユース品、いわゆる「ユーズド・イン・ジャパン」の商品を送っている。台湾にはセカンドストリートの店舗が39店舗ある。店舗のオープン時に際してだけ日本から商品を送る。
けれど、それ以上はほぼ送ることはない。その後は台湾の中で中古品を買い取り、買ったものを店舗に出して売っている。
■「ベティの赤ワンピ」店員がオシャレすぎる
台湾は二度、取材した。4つの店舗を見て、従業員とユーザーに会って話を聞いた。
気づいたのは、働いている人たちがおしゃれなことだ。むろん、アパレル店だから、おしゃれに気を遣う人たちが就職しているのだろうが、それにしてもセカンドストリートの従業員はそれぞれが独自の着こなしを楽しみながら働いていた。
高雄にあるSKMというアウトレット内の店舗では店長と従業員の男子がキャップをかぶった上からスカーフをして、首の下で結んでいた。キャップ・アンド・スカーフと呼ばれる韓流スターの装いである。初めて見た時、帽子の上からの頬かぶりに見えた。わたしが真似をしたら、江戸時代の盗賊のように見えるに違いない。
高雄地区のエリアマネージャーをやっている女子、ベティさんもまた独特の装いを楽しんでいた。彼女は必ずベティ・ブープのイラストが入った服を着る。
台湾のセカストユーザーは店で働く従業員が最新のファッションに通暁していることに安心感を覚えるのだろう。ひいてはセカンドストリートのリユース品に対する信頼に結びついているようだ。
■オープン日は入場制限、日本よりも売り上げる
台湾の社長、総経理の廣畑三之丞は「うちの従業員はみんなほんと、おしゃれです。私だってまったくかないません」と言った。ちなみに「三之丞」は本名だ。廣畑は名前を気に入られて、歌舞伎役者の付き人をやっていたこともある。それはそうとして、台湾のセカンドストリートで働く人たちはファッションといい、経歴といい、とにかくクールだ。
廣畑の話に戻る。彼はこう言った。
「台湾の店舗にある商品の9割は台湾で買い取ったものです。それでも少数はまだ日本の商品が必要で、それはお客さまの楽しみになっています。たとえば、イッセイミヤケの服はこちらに店舗が少ないから、人気商品になっています。
まだまだ店舗を増やしていくつもりですから、そういった点でも日本の商品は必要です。オープンの日ですが、繁盛店でも日本のセカンドストリートでは入場制限をしたことはありません。ですが、台湾であればオープン日は場合によっては入場制限をかけないと、店舗内が混乱してしまう。売上もオープン当日は台湾の方が多い。日本で初日の売上が100万円とすると、台湾では300万、400万はいきます。台湾の方が売れる背景としてはフリマアプリが普及していないところがあると思います」
■スーパーの生鮮売り場のような品ぞろえ
「私は日本でも台湾でもセカストの店長をやりました。セカストではお客さまが店内にいる時間が長い。他のアパレル店舗よりも長いです。お客さまは時間をかけて一点一点を見ながら、『自分だけが好きな商品』を探しているんです。
日本でも台湾でもひとりのお客さまが買う商品の数は10点くらいになるでしょう。ただし、一度ではなく、ひと月に3回くらい来て、その都度、3点は買っていく。そして、次に来た時に、3点くらい売りに来て、また3点を買っていく。一カ月に10点は買います。
クレームでいちばん多いのは買取価格が安いことでしょうか。販売している商品についてのクレームはほぼないです。売る時に、自分の思った金額でないと、憤慨するというか……。低い金額を提示されたことが不満だとおっしゃいます。
ベティに限らず、従業員のモチベーションはものすごく高いです。
■思い出のデート服や家族の愛用品まで
従業員がおしゃれなことだけでなく、わたしが気づいたのは洋服や雑貨を売りに来る人たちが長い時間をかけて従業員と会話をしていることだ。いったい、何を話しているのだろうと不思議に思い、ベティさんに尋ねてみたら、「お客さまは売りに来る品物についての思い出を話すのです」と言った。
ある老婦人はこう言った。
「この服は結婚する前、夫と初めてデートする時に着ていたんです。形は古いけれど、思い出がある服だから恋人とデートする若い人に着てもらえたら幸せです」
また、ある主婦はこう言った。
「このオーバーは私の父親が愛用していた服です。大切に着ていたから傷んでいません。大切にしてくれる人に買ってもらいたいです」
従業員はそういった客の話を聞いて、ちゃんと覚えている。セカンドストリートでモノを買う人たちは物品そのものだけでなく、物品にまつわる物語も一緒に買っている。そして、愛用しているうちにまた物語が増えていく。
■社長が単身、ユニクロや無印良品を見に行く
そんな彼らと話していて、わたしは大きなことに気づいた。セカンドストリートにある商品はいずれも誰かが一度は買ったものだ。一度は誰かが「価値がある」と判断したものだ。そうした商品は「一度も売れなかった新品」よりも価値がある。そう信じて買いに来る人たちがいる。そういう客と従業員は意気投合して話をしている。商品は「新品だけが価値」なのではない。
「ある人が長く深く愛した品物には新品よりも大きな価値がある」。わたしはセカンドストリートでそのことに気づいた。
「私たちの仕事は売る前に買うことです」
わたしが台湾にいた時、セカンドストリートを傘下に持つゲオホールディングスのトップ、遠藤結蔵が来ていた。会社のトップが海外拠点に来る場合、たいていは会議と打ち合わせと対外交渉だ。そして、現地従業員との交流だろう。
遠藤が他の企業経営者の海外出張と違っていたのは、まず秘書を連れないことだ。彼はひとりでどこでも行く。秘書に頼らない。そして、飛行機は深夜便を好む。ホテル代と時間の節約になるからだ。決してホテルに前泊はしない。早朝に着くと、すぐに仕事にとりかかる。さらに、国内でも海外でも、ひたすら店舗を回る。
セカンドストリートの現地店舗だけではない。ライバルとされる現地のリユース店も見に行く。ハイブランドの店、ユニクロや無印良品の店舗も見に行く。遠藤は店舗回りをしながら何を見ているのかが気になって、わたしは彼の後をついて回った。すると、彼の視線の先には客がいた。商品や陳列ではなく、客を観察していた。
■「1円でも高く買って」は意外と少なめ
わたしは尋ねた。
「セカストに売りに来るお客さんってどういう人たちなのですか?」。遠藤は間髪をいれず答えた。
「商品を持ってきて、これを1円でも高く買ってくださいという人は多くはありません。そういう方は他の店、たとえばフリマアプリも使うでしょう。セカストに売りに来る人はお金目当てだけではないのです。ただ、それが全員とも言いません。いろいろな人がいらっしゃるのです。
私は経営ではサステナビリティを追求しています。それは『未来永劫、買います、売ります』をやっていかないと会社が立ち行かなくなるからです。ええ、すごく怖い。正直に怖いです。会社をつぶしてはいけない。その気持ちが大きい。
どこの国であれ、私たちは仕入れをします。それはお客さまから買い続けること。我々の仕事は売る前にまず買うことなんです。普通の会社でしたら生産計画、調達計画があります。ですが、私たちはそれができない」
■父が遺した「世界に一つだけのシステム」
「あれはコロナの時でした。私はとても悔しかった。あの時、東京都や一部の県知事から『リユース店、リサイクル店は営業しなくていい。不要不急の仕事である』と言われたのです。一般小売店は営業しているのに、我々の店は開けられなかった。それはおかしなことです。何よりも『リサイクルショップは不要不急の商売だ』と行政が思っているという事実に向き合った時、情けない思いでした。
今、2035年度には売上高1兆円を目標に掲げています。それはリユースの業界から1兆円規模の企業が生まれないと、業界そのものが世間から認めてもらえないだろうと思ったからです。コロナ禍の時に、不要不急の商売とレッテルを貼られた悔しさが私の原動力になっています。
私は営業する店舗数を減らしたり、店舗によってはネット販売だけにして営業を続けました。すると、コロナ禍でもお客さまはちゃんと店に足を運んでくださったのです。
リユースの仕事は、私が始めたのではありません。父親です。ゲオはビデオレンタルを始めたのとほぼ同時に中古のファミコンソフトや中古CDの買い取りと販売をやりました。その時、開発したのが弊社の基幹システムです。世の中にひとつだけのもので、1台のレジでレンタル、買い取り、販売ができます。
そのシステムを内製したのは父親の時代でした。私自身は父親の仕事を継いだだけです。ただ、父親がビデオレンタルを始めた頃から、いつまでも続くわけではないとわかっていました。そこで、セカンドストリートを完全子会社にした2010年代以後、集中投資したのです」
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野地 秩嘉(のじ・つねよし)
ノンフィクション作家
1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。ビジネスインサイダーにて「一生に一度は見たい東京美術案内」を連載中。
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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)

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