■再稼働に同意する知事は“汚れ役”
【日野】今回の花角知事の表明をどう感じましたか? 新潟県が国や東電と水面下で続けてきた非公開協議の議事録を読むと、2018年の就任後、着々と布石を打ってきてここにたどり着いた印象です。いわば既定路線であって、「苦渋の決断」でも何でもない。
【泉田】「苦渋の決断」だったかもしれませんよ。もっと早く表明しても実態は何も変わらないのに、遅くなってしまったという意味で。県民の生命、安全、財産、健康を守るという知事の職務や使命ではなく、時間をかけることによって自らの地位を守ったということでしょう。
【日野】原発の再稼働は法律では規制委が安全審査で可否を判断することになっているのに、実質的には法律に基づかない安全協定によって知事が判断しています。いわば知事に“汚れ役”を押し付けている。これは国の責任回避のシステムです。
【泉田】住民を守るための制度改正をお願いしても国は対応してくれませんでした。それで、再稼働の圧力だけがくるのですから、知事は批判の“弾避け”にされていると感じました。
■中越沖地震で実感した国と東電のウソ
【日野】泉田さんと花角さんは何が違うのでしょうか?
【泉田】私は知事時代に世界初の原発震災を体験しています。それと、原発事故後の福島への支援経験もあって、万が一の時の現行制度の不備を身体が憶えています。
【日野】2007年7月16日の中越沖地震ですね。やはりあれが東電と原発行政への不信感のきっかけになったわけですね。
【泉田】出火の一報を聞いて柏崎刈羽原発とのホットライン電話を架けたけど通じませんでした。地震で建物のドアが歪んで部屋に入れなかったそうです。当時の首相(安倍晋三氏)がヘリで視察に来ましたが、原発敷地内のヘリポートが使えず、柏崎市内の臨時ヘリポートに降りて、そこから車で原発に向かいました。
いざ事故が起きると、東電や国の担当者たちが日ごろ言っていることはあてにならず、ちぐはぐなことが山ほど起きる経験をしています。花角知事は危機的な状況を体験していないから、住民を守るという意識が湧かないのでしょう。
■避難バスを運転してくれる人はいるのか?
【日野】今年11月21日、臨時記者会見で再稼働への容認を表明した花角知事の発表文には、原発避難計画で国がついてきた嘘が丸写しされています。例えば、原発事故が起きた場合に避難者を搬送するためのバスについて、「県バス協会が協定に基づき可能な限り協力すると伺っている」とあります。
しかし新潟県が2020年にバス協会と締結した協定書を読むと、「一般公衆の被ばく線量限度である1ミリシーベルトを超える恐れがある場合は協力を要請しない」とあります。
【泉田】知事時代、バスの運転手に「原発事故時に避難者の搬送に行くか」を尋ねるアンケートをしたことがあります。6割以上が「行かない」と答えました。「行く」と答えた人も多くは危険手当や補償の条件付きでした。
■現場の人たちを放置する国の指針改定
【日野】原子力規制委員会は2022年、バス運転手が50ミリ、100ミリまで被ばくできるよう原子力災害対策指針を改定しました。ただし法的義務はなく、バス会社の責任で被ばくさせるという酷い話ですが、確かにこれが実現すれば避難計画の実効性は向上します。
実現のためには、指針改定をバス会社に周知し、「1ミリシーベルト限度」を明記している協定を変更させる必要があります。しかし、規制委は協定の変更はおろか指針改定の周知さえ自治体に指示してません。そんなことをすれば反発を受けて虚構が露わになってしまうからです。
再び原発事故が起きたら、汚染地に大勢の住民が取り残されるでしょう。規制委は「避難計画の実効性を高めていく」とアピールしていますが、まったくの嘘っぱちです。
■避難計画は再稼働するための“インチキ”
【泉田】UPZ(原発から半径5~30キロ圏)の屋内退避や安定ヨウ素剤の緊急時配布も同じですね。事故が起きたら被ばくを避けるため屋内退避しろと規制委は言いますが、それなら誰が避難道路の除雪や地震で壊れた道路の修理をするのでしょうか? 誰が屋内退避中の住民に食料や水、安定ヨウ素剤を配るのでしょうか?
難題の存在を隠して、できるふりをしているだけです。これで再び事故が起きたら、福島と同じ対応になりますよね。
【日野】花角知事の発表文には「基準を上回る被ばくを避けることができると見込まれる」とありますが、これも厳密に言えば嘘です。原発避難計画には法令に基づく基準が存在しないからです。
もし設けるとすれば、「住民の被ばくを1ミリシーベルト以内に収める」以外にあり得ませんが、それは実現が不可能で、再稼働の妨げになるからでしょう。避難計画は再稼働を進めるために国民を騙すインチキです。
【泉田】1ミリ以内に収められない、住民に100ミリまでの被ばくを許容するというなら、それでもいいのか県民に問うべきですね。それをやらないなら住民を踏み台にして保身を図った「卑怯者」と言うほかありません。
■官僚の吐露「やりたくてもできないんです」
【日野】泉田さんは知事時代、安定ヨウ素剤の緊急時配布の見直しやSPEEDI(被ばく予測システム)の活用、災害法制の明確化など本質的な要望を規制委に繰り返しました。それから10年が経ちますが、規制委はまったく反映していません。応じるふりをしただけで黙殺しています。
【泉田】要望してもなかなか反映してくれないのは、規制委にやる気がないとかそういう問題ではないと思います。衆議院議員の時に、内閣府原子力防災(※自治体の避難計画策定を支援する組織)の担当者から「われわれもやりたくてもできないんです」と言われたことがあります。
私は、住民を守るため必要なことを言ってきただけなのですが。原発行政はガラス細工のようにギリギリのところで積み上がっているので、あちこちに無理があって変えられないのでしょう。
■「正直者」が「変人」になる原発行政
【日野】泉田さんの主導で、全国知事会が2015年に自衛隊など実働組織による避難支援の具体化を国に要望したことがあります。これを受けて政府は自衛隊なども交えて検討する方針を示しました。しかし結果は形式的な会議でお茶を濁しただけで何も変わりませんでした。
原発避難計画そして原発行政自体が、矛盾の上に矛盾を、嘘の上に嘘を積み重ねてかろうじて成り立っています。だから少し手が触れただけで崩れかねません。国の担当者たちはそれを分かっているので、泉田さんの手を払いのけるしかない。
【泉田】私は、「反原発運動」ではなくて「是正活動」をしようとしてきました。
【日野】泉田さんのスタンスは一貫しています。知事の使命に沿って法令と原理原則を守れ、と真っ正直に訴えている。ところが使命に忠実に仕事をしていると、原発行政と相容れなくなる。原発行政の方が歪んでいるのです。
【泉田】私は変人と言われることがあります。私は経産省出身ですが、彼らのブラックリストに載っているかもしれません。
■戦争を経ても日本は何も変わっていない
【日野】私は、原発避難計画がいかに虚構であるかを『原発避難計画の虚構 公文書が暴く冷酷な国家の真意』(朝日新聞出版)にまとめました。
【泉田】よく調べていますね。この本は原発行政の核心に迫っています。
【日野】原発行政は日本の地方自治の暗部が表れています。泉田さんや福島県双葉町の井戸川克隆前町長(※福島第一原発事故後、国の賠償指針や中間貯蔵施設の受け入れを拒否して辞職)のように首長の使命を果たそうとする人が邪魔になる。
国が言うことに逆らわない「共犯者」の首長しか存在せず、インチキな上意下達が末端まで行き渡るという前提で成り立っています。
【泉田】そう思います。集団無責任で突入した太平洋戦争と同じです。原発行政の無責任ぶりを見ていると、日本は国家総動員体制が確立した昭和16年から何も変わっていないのではないかと思います。
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泉田 裕彦(いずみだ・ひろひこ)
元新潟県知事、前衆議院議員
1962年生まれ。新潟県加茂市出身。京都大学法学部卒業。1987年に通商産業省(現経済産業省)に入省。2004年に新潟県知事に初当選し、3期12年を務めた。2017年に衆議院議員に初当選。
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日野 行介(ひの・こうすけ)
調査報道記者
1975年生まれ。元毎日新聞記者。社会部や特別報道部で福島第一原発事故の被災者政策や、原発再稼働をめぐる安全規制や避難計画の実相を暴く調査報道に従事。著書に『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』(岩波新書)、『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』『原発再稼働 葬り去られた過酷事故の教訓』(集英社新書)など。(近影撮影=加藤栄)
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(元新潟県知事、前衆議院議員 泉田 裕彦、調査報道記者 日野 行介)

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