■朝帰りでも「不倫なんてあり得ない」と信じたワケ
「今晩は遅くなる。もしかすると泊まり込みになるかもしれない」
千葉県に住む日下部理恵さん(仮名、42歳)は、夫の日下部光一(仮名、48歳)さんからそう告げられても、おかしいとは思わなかったそうです。
「夫は中学校の教諭をしていました。学校の先生といえば、人手不足のせいでいまや激務の代名詞ともいえる仕事。『定額働かせ放題』と揶揄されることもあるくらいです。しかも夫はその春から学年主任も務めていてずっと忙しそうでした。心配こそすれ、疑ってはいませんでした」
学期末を迎え、テストの採点や進路指導、部活動の世話などで目の回るような忙しさだと理恵さんに説明すると、夫の光一さんは仕事に出かけました。
その夜、夫は帰ってきませんでした。
「事前に聞いていたとはいえ、夫が朝帰りしたわけですから、さすがに少しは不倫の可能性を考えました」と理恵さんは言います。
ただ、同時にこうも思っていたそうです。
「夫は中年だしそんなにモテるとも思えません。
「まじめな職場だから大丈夫」と理恵さんは思いこんでいましたが、それは間違った先入観だったかもしれません。一般にまじめとされる職業でも、蓋を開けてみると実は不倫が多かった、という調査結果があるのです。
イギリスで3800人を対象に行った調査によると、不倫の多い職業の第2位は「教師」で、13.7%が不倫を経験していました。
ちなみに第3位は「医療関係者」で、不倫経験率は12.5%と高い水準でした。医療も社会的に重要な「まじめな仕事」の一つですので、少々意外な結果かもしれません。
■中学教師の夫には「環境」が整っていた
Ashley Madisonという不倫を目的とした出会い系サイトが、2018年に1000人以上のユーザーを対象に行った調査によると、サイトを利用する人の職業として最も多かったのは「医療関係」で、実に約23%にも上っていたそうです。
医療は人の生命を預かる責任重大な仕事ですが、その分ストレスも多く激務になりがちです。また患者を含め多くの異性と接触する機会があるほか、学会発表などで出張も多かったりと、時間の都合をつけやすいことも医療関係者の不倫が多い理由でしょう。
理恵さんの夫、光一さんも学年主任の重責を担い、人手不足によって激務を強いられていました。学校には異性の同僚も多く、保護者のほかいろんな業者さんも出入りしています。理恵さんが知らないうちに、不倫に走りやすい環境が整っていたわけです。
「それから夫はちょくちょく朝帰りするようになりました。
■病院令嬢なのに、なぜ普通のオジサンと…
理恵さんは夫のカバンを調べたり、ワイシャツの匂いを嗅いでみたりしましたが、不倫の証拠らしいものはこれといって見つかりませんでした。
「後で分かったことですが、夫は帰宅前にあえてジョギングして一汗かき匂いをごまかしてから帰宅するなど、かなり周到に対策していたようです」(理恵さん)
思いあまった理恵さんは夫の行動を監視するようになりました。
「あまりにも怪しいので、夫の中学校の前で待ち伏せしてみました。校門の近くで見張っていると、18時ごろに夫の車が出てきました。金曜日は遅くまで仕事していると聞いていたのはウソだったわけです。ショックでした」
探偵を雇い夫の素行調査を依頼したところ、驚くべきことがわかりました。
「仕事といいながら、夫は毎週のようにある女性の家に泊まっていました」
不倫相手は、同僚の女性教師でした。年齢は38歳で独身、その地域では有名なある病院の理事長の令嬢だったそうです。
「ご本人の収入こそ世間並ではありましたが、実家は資産家で容姿も悪くない方です。なのにどうして夫のようなオジサンと不倫したのか、不思議でたまりませんでした」
■妻が知らなかった「裏の顔」
ただ、離婚カウンセラーとしての経験から言いますと、こういうケースはそれほど特別ではありません。容姿も悪くなく、家柄もいい女性が、相手を選り好みしているうちに婚期を逃してしまうことがあります。そうした女性がアラフォーくらいになってから急に焦り出して不倫に走る、というケースはけっこうあるのです。
また理恵さんはそれまで知らなかったのですが、実は夫の光一さんはかなりモテる人だったようです。
「見た目こそ年相応に『オジサン』でしたが、話を聞くのが非常にうまくて、女性からの評判は悪くなかったらしいのです。後輩の女性教師の相談を親身になって聞いているうちに、関係を持ってしまう、ということも度々あったとか」(理恵さん)
ただ以前であれば一度関係を持っても長続きしなかったので、理恵さんが夫の不倫に気付くことはなかったのですが、今回の不倫は違いました。
後で分かったことですが、病院令嬢は光一さんが既婚者であると知りながら、不倫関係にすっかりはまってしまい、「略奪婚」を考えはじめていたのです。光一さんのほうも、理恵さんと別れ、病院令嬢と再婚して人生をやり直したいと考えるようになっていました。
■夫に「やり直すチャンス」を与えたが…
こうして夫は病院令嬢との不倫にますますのめり込んで行きました。
毎週のように朝帰りする夫にたまりかねて、理恵さんは離婚カウンセラーである私のもとを訪れました。私は「離婚するのか、それとも関係を修復するのか、最初にそれを決めましょう」と言いました。
理恵さんは「小学生の娘もいるし、離婚は避けたい」と考えていたので、まずは夫の不倫をやめさせる方向で働きかけていったのです。
夫に対しては不倫の証拠をつきつけた上で、「不倫相手と別れてくれるなら、もう一度やり直すチャンスを与える」という意思を伝えました。
夫は不倫相手と別れると約束したので、夫婦関係改善プログラムを実行してもらいました。
「それで一旦は元の鞘に収まったのですが、夫は不倫相手のことが忘れられなかったらしく、半年ほど経つとまた怪しい外出を繰り返すようになったのです」(理恵さん)
不倫はパートナーの心を傷つけ、消耗させていきます。
夫に二度も裏切られた理恵さんは落胆し、だんだん憔悴していきました。思いあまった理恵さんは、どうにかして夫の不倫をやめさせたい一心で、おかしな行動を取るようになっていきました。
「不倫をやめさせる方法をインターネットで調べているうちに、とある方法に行きついたのです」
■妻が密かに実行していた「復讐」
理恵さんはインターネット上である情報を見かけて、その方法を密かに実践していたそうです。
「とある掲示板サイトで、『食事からこっそり塩分を抜くと、夫は元気がなくなり浮気しなくなる』という説を見つけて、こっそり実行していたのです」(理恵さん)
夫が激務のため、どうしても家事は理恵さんの担当になりがちで、夫の浮気が判明してからも、理恵さんが夫の食事を用意していたので、「塩抜き作戦」は簡単に実行できたとか。
「唐揚げだったら下味をほとんどつけず素揚げに近いものを出すとか、魚の干物なら少し水につけて塩抜きしてから焼くとか、そういったひと手間を加えるようにしていました」
ただ、当然といえば当然ですが、浮気防止の効果はなかったとか。
「減塩食にしたくらいで浮気しなくなるなんて、冷静に考えればそんなわけがありません。あとから醤油などをかけてしまえばおしまいですし、そもそも、夫が外で味の濃い食事をとってしまう可能性だってあります。こんな方法にすがろうとするくらい頭がどうかしていました」
■不倫相手と再婚した男の末路
理恵さんは常識のある落ち着いた女性でしたが、相当精神的に追い詰められていたのだと思います。
結局、理恵さんのケースでは、夫が不倫を繰り返していることを理由に、関係改善をあきらめ、離婚を目指して介入していくことになりました。
夫のほうも、理恵さんを捨てて不倫相手の病院令嬢と再婚したいと思っていたので、あとは離婚までスムーズに進みました。
理恵さんは当初落ち込んでいましたが、その後一念発起して始めた事業が当たって、いまでは小規模ながら女性社長として活躍されています。
一方、元夫のほうは、結局、病院令嬢と再婚したものの結婚生活は長続きせず、再び離婚、学校にも居づらくなって教師も辞めてしまい、不安定な生活を送っているとか。
結果から考えれば、関係回復より離婚を選択して良かったケースだと思います。
■離婚を迷う人に「カウンセラーが勧めること」
離婚したほうがいいのか、それとも、不満はあれども結婚を継続したほうがいいのか、その判断はとても難しいもの。私のカウンセリングでは、離婚するかどうか決断するために、以下のような思考実験をやってもらうことがあります。
目の前で夫/妻が事故にあい、瀕死の状態だったとします。
この時あなたはどう感じますか?
「ざまあみろ」と思って会心の笑みを浮かべますか?
それとも、夫/妻のことを大事に思って泣いてしまうでしょうか?
この思考実験で「ざまあみろ」と思うくらい、相手への憎しみが深い場合は、もはや離婚したほうがいいと思います。
今回のケースのように、パートナーの不倫が判明した場合はどうすべきでしょうか。離婚を考えるべきでしょうか。それとも割り切って結婚生活を続けるべきでしょうか。
結婚生活においてパートナーの不倫は大問題です。パートナーの心を傷つけ、関係にひびを入れてしまいます。
ただ、結婚とは経済的な関係でもあります。特にお子さんのことを考えると離婚しないほうがいい、という場合も多いでしょう。
ただ、不倫がバレた後も関係を継続していたり、何度も不倫を繰り返すようなケースは、「悪質なケース」として、離婚を考えたほうがいいと私は思います。
離婚と結婚継続、どちらが本当に幸せな選択肢なのか。
1度きりの人生ですから、後悔のないようしっかり考えてから行動を起こすことが大事です。
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岡野 あつこ(おかの・あつこ)
夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー・公認心理士
NPO日本家族問題相談連盟理事長。立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚相談所を設立。離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立する。これまでに35年間、4万件以上の相談を受け、2200人以上の離婚カウンセラーを創出。著書に『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など多数。近著は夫婦の修復のヒントとなる『夫婦がベストパートナーに変わる77の魔法』(サンマーク出版)。
離婚救急隊
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(夫婦問題研究家・パートナーシップアドバイザー・公認心理士 岡野 あつこ)

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