※本稿は、和田秀樹『体力がない人の仕事の戦略』(クロスメディア・パブリッシング)の一部を再編集したものです。
■苦手な仕事は「60点くらい取れば十分」と割り切る
体力に自信がないビジネスパーソンが、ムリなく仕事をするためには、効率のいい進め方に着目して、仕事との向き合い方を見直すことが大切です。
自分の日常の行動や考え方を冷静に観察して、可能な範囲で改善点を修正していくことが、なるべく体力を使わずに働くための第一歩となります。
【効率化の戦略①】
「苦手な仕事」に体力を使わない
体力のないビジネスパーソンが、仕事で「完全」や「完璧」を目指してしまうと、結果的に自分を追い込むことになります。
「与えられた仕事はパーフェクトに仕上げたい」と思う気持ちは誰にでもありますが、それが苦手なタスクである場合には、準備や事前リサーチに膨大なエネルギーを注ぎ込むことになって、多くの時間と体力を消費することになります。
これを繰り返していると、自分の得意な仕事に取り組む「余力」が少なくなって、成果が出にくい状況を作ってしまうのです。
不得意な仕事や、苦手な仕事に体力を使っていると、自分で気づかないうちに、周囲の人から、「仕事ができないヤツ」というレッテルを貼られることになります。
周囲の人たちから、「あの人は仕事ができる」と思われている人は、すべての仕事で成果を出しているわけではなく、自分の得意な仕事できちんと結果を出しているケースがほとんどです。
野球に例えるならば、四番打者というのは、コツコツと当てるタイプの平均打率が高いアベレージヒッターではありません。
たとえ三振が連続しても、いいタイミングでヒットを放ったり、ここ一番の場面で特大のホームランが打てるから、四番打者なのです。
体力に自信がないビジネスパーソンであれば、すべての仕事でパーフェクトをめざすことは、時間的にもエネルギー的にもムリがあります。
余計なプレッシャーを抱え込むことで、体調を崩す原因にもなります。
自分の得意な仕事に全集中して成果を出すためには、苦手な仕事で体力を消耗する事態は避ける必要があります。
すべての仕事でパーフェクトをめざすのではなく、苦手な仕事はできるだけ避けて、仮に引き受ける場合でも、「60点くらい取れば十分」と割り切って考えることが大切です。
苦手な仕事が合格ラインのギリギリであっても、得意な仕事でキチンと結果を出していれば、どこからも文句が出ることはありません。
本当に心配しなければいけないのは、不得意な仕事に注力しすぎて、得意な仕事で結果が出せなくなることなのです。
■ムリや我慢をせず、短い時間で成果を出す
【効率化の戦略②】
「勝ち負け思考」をやめる
日本のビジネスパーソンには、物ごとを勝ち負けで判断する人がたくさんいます。
「自分のスキルは人よりも勝っている」とか、「人の意見を受け入れたら負け」など、どんなことでも、周囲との比較で考える傾向が強く見られるのです。
こうした考え方を、私は 「勝ち負け思考」 と呼んでいます。
勝ち負け思考には、仕事に対するモチベーションが高まるという効果もありますが、ほとんどの場合はマイナスに作用します。
体力のないビジネスパーソンの課題は、ムリや我慢をせず、短い時間で成果を出すことですから、必要以上に勝ち負けにこだわってしまうと、方向性を見失うだけでなく、メンタルにも悪影響が出ます。
勝ち負け思考は、体力がないビジネスパーソンを窮地に追い込む可能性がありますから、意識して自分の頭から追い出す必要があります。
勝ち負け思考を続けてしまうと、次のような精神的なトラブルを抱え込むリスクが高まります。
①精神的ストレスの蓄積
絶えず勝ち負けを意識していると、負けることへの恐怖や、つねに勝たねばならないというプレッシャーから、精神的なストレスが蓄積しやすくなります。
②自己肯定感の低下
勝ち負けにこだわる背景には、劣等感や自己肯定感の低さがあり、それを補うために「勝ち」を求める傾向が見られます。
自分が勝っても、それが自己肯定感につながるとは限らず、負けを認めると自己肯定感が下がる……という皮肉な結末を迎えることになります。
③精神疾患のリスク
勝ち負けにこだわり続けていると、本人に自覚がないまま自分を追い込むことになって、うつ病などの精神疾患を発症する危険性が高まります。
■「計画性がない」はこれで武器になる
勝ち負け思考を続けていると、自分のメンタルにダメージを与えるだけでなく、周囲の人たちとの優劣をつねに意識することによって、職場の人間関係にも影響が出る可能性もあります。
勝ち負け思考を手放すためには、自分自身を客観的に見つめて、劣等感と感じる部分を長所に置き換えて考える……というアプローチを試みることが役立ちます。
こうして得られる心理的作用を「フレーミング効果」といいます。
フレーミング効果とは、同じ情報でも、その表現(フレーム)によって、受け取り方が大きく変わる心理現象を指します。
例えば、自分が抱いている劣等感を、次のように置換して考えてみるのです。
・「周囲に流されやすい」→「適応力がある」
・「チャレンジできない」→「堅実」
・「思い切った行動ができない」→「謙虚」
・「一人で抱え込む」→「責任感が強い」
・「計画性がない」→「臨機応変」
自分の劣等感を肯定的な視点で見つめ直すことによって、思考の「枠組み」を変えることができます。
自分のウィークポイントをポジティブに見ることができれば、自然と勝ち負け思考から抜け出しやすくなります。
■「少しでもラクな方法を探す」
【効率化の戦略③】
「自分のやり方」に執着しない
人間には、自分のやり方が正しくて、人のやり方は間違っている……と思い込んでしまう傾向があります。
体力に自信がないビジネスパーソンであれば、 「自分のやり方は変えない」と意固地になることは、デメリットしかないと考える必要があります。
「自分のやり方は正しい」と思い込んで意地を張ると、柔軟な対応が取れなくなって、上手くいかないことが多くなります。
「自分はこんなに努力をしているのに、なぜ成果が出ないんだ?」と不満ばかりが募ることになって、メンタルをやられたり、体調を崩す原因になるのです。
自分のやり方に固執してしまうと、次のような状況に自分を追い込むリスクが高まります。
①新たな変化に対応できない
②周囲の信頼を得られない
③仕事の効率が低下する
④ストレスが溜まる
⑤成長の機会を失う
体力に自信がないと思うならば、「自分のやり方」を押し通すのではなく、「あれがダメだったら、こっちがある」とか、「こちらがダメだったら、別の方法を探してみる」など、自分の考え方を柔軟にすることを優先する必要があります。
その原点にあるのが「少しでもラクな方法を探す」という視点を持つことです。
自分のやり方に執着することは、少しでもラクな方法を探す……というアプローチの妨げになるのです。
■ポジティブな気持ちで失敗と向き合う
【効率化の戦略④】
失敗したら「別の方法」を考える
仕事で何か失敗をすると、 「次もまた失敗するのではないか?」 という予感がして、不安になることがあります。
こうした経験は誰にでもあると思いますが、その予感はほぼ的中します。
失敗した人の多くが、失敗した時と同じやり方を繰り返して、新しいアプローチを工夫していないからです。
「失敗学」を提唱した東大名誉教授の畑村洋太郎先生は、「失敗は成功の元ではない。きちんと失敗と向き合わないと、同じ失敗を繰り返してしまうものだ」と説いていますが、まったく同感です。
同じ方法論を繰り返していたのでは、失敗ばかりが続いて、貴重な時間と自分のエネルギーをムダに消耗することになります。
松下幸之助は、「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる」という言葉を残していますが、体力に自信のないビジネスパーソンが、仕事を効率的に進めるためには、失敗から改善点を探し出すという視点を持って、素早く別のやり方を見つけ出す必要があるのです。
「失敗したら別の方法を試す」という考え方は、失敗を成長の機会と捉え、諦めずに次の行動につなげることを意味します。
別の方法でやっても、また失敗する可能性はありますが、失敗した方法を繰り返すよりも、失敗の確率は確実に下がります。
体力のないビジネスパーソンにとっては、「ポジティブな気持ちで失敗と向き合う」というアプローチを実践することが、自分のエネルギーとメンタルの平静を維持するための重要なステップとなるのです。
■大勢で食事することを強要されるとイライラソワソワ
【効率化の戦略⑤】
人は人! 自分に合うやり方でやる
人間には、それぞれ「特性」というものがあります。
特性とは、生まれ持った気質や性格、生涯を通じて培ってきた行動パターンや思考様式、能力などを指します。
ビジネスパーソンでいえば、早朝から仕事をした方が効率がいい「朝型」の人もいれば、夜になると調子が上がる「夜型」の人もいます。
現在はフレックスタイム制を導入している会社も増えていますから、自分の特性を見極めて、それに合わせて仕事をすることが即効性のある戦略となります。
逆の視点から見れば、自分の特性に合わないことをやり続けているから、体がしんどくなったり、メンタルをやられたりするのです。
これは仕事に限らず、ライフスタイルでも同じことがいえます。
人と食事をしながら、ワイワイやるのが好きな人もいれば、一人で静かに食事をすることを好む人もいます。
一人の時間が好きな人が、大勢で食事することを強要されると、落ち着かない気分になってリラックスできません。
それが何日も続くと、次第にストレスが溜まってきて、イライラしたり、ソワソワするような精神状態になります。
会社で決められた時間に出社して、決められた時間に仕事をするというのは、自分をそうした状況に置いていることを意味します。
それが毎日のことであれば、体力の有無に関わらず、誰もが体調を崩したり、ストレスを蓄積させることになるのです。
■確実にヒットを打つことをめざす
大事なポイントは、自分の特性を見極めて、それに合わせた働き方を心がけることですが、これは働く時間に限ったことではありません。
日常の仕事に目を向けて、自分の特性と照らし合わせて客観的に考えてみる必要があります。
自分の特性に合っている仕事ならば、その取り組み方を工夫するだけで、ムリなく仕事をすることができますが、上司から与えられた仕事が、自分の能力やスキルを超えていたり、特性に合わない場合には、知恵と勇気を総動員して、その仕事を引き受けない状況を作ることが大切です。
自分にムリをして特性に合わない仕事をやり続けても、パフォーマンスが落ちるだけで、ムリをすればするほど、結果が出ないことが多くなるのです。
自分の特性に合わない仕事をスルーする際には、上司や職場の人から「自分勝手」と思われないために、具体的なアクションを起こす必要があります。
仕事を断る代わりに、得意な分野の仕事を積極的に引き受けて、確実にヒットを打つことをめざすのです。
■「身勝手なヤツ」を回避する2つのポイント
得意な仕事で成果を出せば、上司から与えられた仕事を断っても、会社や上司は貴重な「戦力」と認めてくれます。
「アイツはよく休むけど、たまにヒットを出すよね」と認識されるようになれば、体力がなくても、仕事をサボっていても、戦力として認められている証拠です。
周囲の人からの「身勝手なヤツ」という避難を回避するためには、この二つを「セット」で考える必要があるのです。
思うようなヒットが打てなくても、簡単にクビになることはありませんから、自分にムリをしてまで、特性に合わない仕事をする必要はありません。
この先、出世が遅くなったとしても、誰にでも等しく定年はやってきます。
「自分の特性に合わない」と感じるならば、体を壊してまで我慢する理由は、どこにも見当たらないものです。
----------
和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。幸齢党党首。立命館大学生命科学部特任教授、一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)、『60歳を過ぎたらやめるが勝ち 年をとるほどに幸せになる「しなくていい」暮らし』(主婦と生活社)など著書多数。
----------
(精神科医 和田 秀樹)

![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 昼夜兼用立体 ハーブ&ユーカリの香り 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Q-T7qhTGL._SL500_.jpg)
![[のどぬ~るぬれマスク] 【Amazon.co.jp限定】 【まとめ買い】 就寝立体タイプ 無香料 3セット×4個(おまけ付き)](https://m.media-amazon.com/images/I/51pV-1+GeGL._SL500_.jpg)







![NHKラジオ ラジオビジネス英語 2024年 9月号 [雑誌] (NHKテキスト)](https://m.media-amazon.com/images/I/51Ku32P5LhL._SL500_.jpg)
