家の「寒さ対策」として有効な方法は何か。住まいるサポートの高橋彰社長は「もちろん、高断熱・高気密の住宅を建てるに越したことはないが、いまから新築やフルリノベーションを進めるのは現実的ではない人もいるだろう。
こうした中で、最も費用対効果が高いのは“窓”の対策だ」という――。
※本稿は、高橋彰『結露ゼロの家に住む! 健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本』(セルバ出版)の一部を抜粋・再編集したものです。
■日本は「寒さ」による死亡率が高い
家の気密・断熱性能の低さからか、日本では寒さに起因する死亡率が他の国より高く、なんと約10%にも上るそうです。
2023年の日本の年間死亡者数は約158万人でしたから、単純計算で、約16万人もの人が寒さのせいで死亡していることになります。
これは、英国の権威ある医学雑誌『The LANCET(ランセット)』に2015年に掲載された論文で指摘されていることです。
論文では、世界の13カ国(オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、イタリア、日本、韓国、スペイン、スウェーデン、台湾、タイ、英国、米国)の7,400万人強の死亡データを分析して、「適切ではない暑さ・寒さに起因する死亡が全体に占める割合」を算出しています。
日本の暑さ・寒さに起因する死亡率は、10.12%。その内訳は、暑さによる死亡率0.32%に対して寒さによる死亡率は9.81%となっており、圧倒的に暑さよりも寒さの方が健康リスクが高いことがわかります。
では、日本よりも寒い国ではどうなのか。
カナダは4.46%、韓国は6.93%、スウェーデンは3.69%、英国は8.48%で、いずれも日本に比べてそのリスクは低いと言えます。
日本よりも寒さに起因する死亡率が高いのは、調査対象国の中では、中国の10.36%だけなのです。
これは、前回お話した、入浴中の心肺停止状態発生(ヒートショック)が、高気密・高断熱住宅の普及が進んでいる北海道や東北などの寒い地域よりも、温暖な地域の方が高いことと同様の現象だと思われます。

■「ヒートショック」は寒さ問題の一部に過ぎない
冬の家の寒さによる健康リスクは、ヒートショックだけではありません。
この論文によると、寒さによる死亡というのは、主に心血管系と呼吸器系に悪影響が及ぶことで引き起こされるそうです。
寒さは血圧や血管収縮、血液粘度、炎症反応などに影響し、心血管系はストレスにさらされます。同時に気管支収縮を誘発し、粘膜繊毛防御やその他の免疫反応を抑制し、局所的な炎症を引き起こし、呼吸器感染症のリスクを高めるということです。
そして、これらの体にとってネガティブな生理学的反応は、暑さによるものは短期間で収まるのに対し、寒さによるものの影響は、3~4週間も持続するそうです。
つまり寒さは、ヒートショック以外にも高血圧・動脈硬化・循環器疾患、呼吸器疾患等を招き、死亡リスクを高めます。
つまり、交通事故死者数の7倍以上にも上る19,000人/年というヒートショックによる死亡者数は、およそ16万人もいる「寒さに起因する死亡者数」のごく一部にしか過ぎないということです。
寒さで命を落とすことがいかに多いかがわかります。
■寒い家は、骨折・ねんざも多い
さらに、交通事故死者数は減少傾向が続いているのに対して、住宅などの居住施設内での不慮の事故死は増加傾向が続いています。
家庭における不慮の事故死は、窒息・溺死に続いて、転落・転倒によるものが多くなっており、増加傾向が続いています。
実は、年間3万人以上もの人が、住宅等の居住場所での転倒・転落により救急搬送されています。
また、高齢者が「要介護」になった原因においても、認知症、脳血管疾患(脳卒中)、高齢による衰弱に続き、「骨折・転倒」が第4位となっていて、それは全体の13%を占めています。

家の中での骨折やねんざは、暖かい家に暮らす人に比べて、寒い家に暮らす人の方が、明らかに発生確率が高くなっています。
だから、寒さには気を付けなくてはなりません。
寒いとケガをしやすくなると、聞いたことはありませんか?
多くの方が感覚的になんとなく理解しているのだと思いますが、事実としてそうなのです。
寒さで筋肉が冷えることで血流が悪くなるのですが、そうすると筋肉自体が酸欠状態になり、硬くなって柔軟性が低下。体の自由が効きにくくなります。また靱帯も冷えて固くなっているので、転倒した際に損傷するリスクが高くなるようです。
家の中での不慮の事故を防ぐためにも、住まいを暖かく保つことが大切です。
■睡眠の質も向上する
一年中室内の温度が安定し、寒さに悩むことのない家では、睡眠の質も向上します。
なぜなら、まず眠る時の環境がいいからです。普通なら冬は厚手の重たい布団や毛布をかぶって重苦しいところ、肌掛けやタオルケットなどの軽い寝具で十分に寝られるようになります。そして夏も暑くないので、寝苦しさもありません。
また、断熱リフォームをすると夜間頻尿(過活動膀胱)が減るという国土交通省による調査の結果があります。
これは、前回記事でも紹介した伊香賀名誉教授らによる調査によって明らかにされたものです。
夜中にトイレに行きたくて起きてしまうという悩みは、年齢を重ねた人に多いので若い人にとってはあまり関係ないかもしれませんが、睡眠の質が向上することの証と言えると思います。
「眠る環境」という点で、睡眠の質の向上以外にもおまけがあります。
高気密・高断熱住宅は、冬用の分厚い布団や室内着がいらないので、その分の収納スペースが不要です。だいたいですが、普通の性能の家に比べると、押し入れ2間分くらい少なくても大丈夫なようです。
土地や住宅の価格が上がっており、コストダウンのために、家を建てる際に床面積を減らすことを考えている方も少なくないと思います。
予算が限られた住まいづくりにおいて、高気密・高断熱化は冷暖房光熱費の削減だけでなく、スペースの有効活用という意外なメリットがあります。
■目指すべきは「断熱等級6以上」と高気密化
さて、「高気密・高断熱住宅にすべき」というのは簡単ですが、いったい、どのような断熱・気密性能を確保するべきなのでしょうか。
具体的には、普通の暮らし方をしていれば結露は生じず、エアコン1台で家じゅうが快適になるのは、断熱等級6以上の断熱性能です。
また、気密性能に関する取り組みは、日本は非常に遅れているので、すきま風のない家にするためには、気密測定の実施が必須です。
詳しくは、「住宅がこれほど資産にならないのは日本だけ…人生最大の買い物を"負の遺産"に変えた住宅政策の失敗」に目を通してください。
■真っ先に手を付けるべき場所
とはいえ、いまさら家の新築や建て替え、断熱フルリノベーションは難しいという方も多いと思います。

そのような方も、命を守り、健康寿命を延ばすために、せめて窓の断熱リノベはぜひとも行っていただきたいと思います。
窓の断熱リノベは、いくつかの工法がありますが、最も手軽で費用対効果が高いのは、内窓を設置して、2重窓にすることです。
これは図のように、既存の窓の内側になるスペースに内窓をはめ込むもので、工事は、1窓あたり1時間くらいで完了します。
既存住宅のほとんどは、窓が最大の弱点なので、窓の性能を高めるだけでもかなり居住環境は改善されます。現在の住まいの窓が1枚ガラスの方はぜひ、内窓設置を検討してください。
なお国は、先進的窓リノベ事業というかなり手厚い窓リノベに対する補助事業を実施しています。条件にもよりますが、概ね6割程度の補助が得られる制度なので、かなり軽い負担で、快適な住まいに生まれ変わらせることができます。
なお、2025年度は12月31日が申請の締め切りですが、2026年度も補助事業の継続が決まっています。関心のある方は、お正月に実家に帰省した際に、ご家族で話し合ってみるのもいいかもしれません。

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高橋 彰(たかはし・あきら)

住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事

東京大学修士課程修了。リクルートビル事業部、UG都市建築、三和総合研究所、日本ERIなどで都市計画コンサルティングや省エネ住宅に関する制度設計等に携わった後、2018年に高気密・高断熱住宅の工務店を無料で紹介する「高性能な住まいの相談室」を運営する住まいるサポートを創業。著書に、『元気で賢い子どもが育つ! 病気にならない家』(クローバー出版)、『人生の質を向上させるデザイン性×高性能の住まい:建築家と創る高気密・高断熱住宅』(ゴマブックス)、『結露ゼロの家に住む! ~健康・快適・省エネ そしてお財布にもやさしい高性能住宅を叶える本~』などがある。


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(住まいるサポート社長/日本エネルギーパス協会広報室長/一般財団法人 ひと・住文化研究所理事 高橋 彰)
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