※本稿は、藤田太郎『イントロの教科書』(DU BOOKS)の一部を再編集したものです。
■米津玄師のLemonは「イントロ0秒」
私は、2018年からBillboard JAPANが発表する年間JAPAN Charts TOP100にランクインした曲のイントロ秒数を調査しています。
きっかけは2018年に、私がイントロクイズの出題をしていることを取材していただいた際に、「最近の曲って、イントロ短い曲が多いですよね」と言われ、「そうなのか?」と疑問に思い調べたところ、たしかに2018年の年間1位が、イントロ0秒の米津玄師「Lemon」だと気づいたことがはじまりでした。
年間JAPAN Charts TOP100とは、アメリカのBillboard Hot100のノウハウを活かし、ストリーミングやダウンロード、CD売上枚数、YouTubeの再生回数、ラジオでのオンエア数などのデータを集計した、その年の人気曲トップ100をランキング化した総合ソングチャートです。
■2020、2021年で一気にイントロが短くなる現象
イントロ平均秒数の調査結果はこちらです。
注目すべき点は、2020年、2021年の2年で一気に平均秒数が短くなったことです。2019年から2020年で1.7秒短くなった平均秒数が、2021年にはさらに2.4秒下がり、それ以降2024年まで、その差は0.8秒以内と横ばいの傾向が続いています。
この理由は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、不要不急の外出自粛が余儀なくされたことが大きく影響しています。
家の中で音楽を楽しむ需要が増えたことで、サブスクリプション(聴き放題)サービスへの入会者が拡大し、サービス内で曲を見つけてもらい、次の曲へと飛ばされない戦略として、イントロを無くし、すぐに歌声が登場する構成の楽曲が増えていったのです。
年間JAPAN Charts TOP100にランクインした曲から、イントロ0秒の数を年度別に一覧にしました。2021年以降の年間JAPAN Charts TOP100は、約3割の曲がイントロ0秒曲で占められていました。
■ミセスの「ライラック」イントロは25秒
この結果を観ると、2025年もイントロが無い曲のヒットが続いていくだろうと読み取ることができますが、私の見解は少し違います。
Mrs. GREEN APPLE 「ライラック」のイントロは、25秒。高校の野球部を舞台にしたアニメ『忘却バッテリー』のオープニングテーマ曲に起用され、2024年4月12日の配信のリリースから10週でストリーミング再生回数が1億回を突破したMrs. GREEN APPLEの「ライラック」は、アニメの放送終了後も高い人気をキープし続け、年間JAPAN Charts TOP100で5位にランクイン。
第66回『輝く!日本レコード大賞』で、昨年の「ケセラセラ」に続き、2年連続で大賞を受賞しました。「ライラック」のサウンドを一言で表現するならば“青春ギターロック”。雲一つない青空と高校球児の汗と涙を想像させてくれる、甘酸っぱさ全開のギターリフ(リフとは、短いフレーズを繰り返すこと)が響くイントロの秒数は25秒。
25秒は、2024年にリリースされたヒットソングの中で、群を抜いて長いです。サブスクリプション(聴き放題)サービスで音楽を聴くのが当たり前になった時代に「ライラック」のギターイントロは、新時代を明るく照らす、初々しさと活力を感じます。
■イントロ20秒以上のヒット曲はこんなにある
イントロが無い曲のヒットがフォーカスされる時代でも、しっかりと素晴らしいイントロを聴かせてくれる曲のヒットが無くなったわけではありません。
「ライラック」以外に、2018~24年にリリースされ、年間JAPAN Charts TOP100にランクインした、イントロが20秒以上ある曲をピックアップしてみると
*菅田将暉「さよならエレジー」(2018年・25秒)
*Official 髭男dism「Pretender」(2019年・31秒)
*King Gnu「飛行艇」(2019年・26秒)
*back number「水平線」(2021年・29秒)
*Aimer「残響散歌」(2022年・20秒)
*10-FEET「第ゼロ感」(2022年・24秒)
*スピッツ「美しい鰭」(2022年・20秒)
*藤井風「満ちてゆく」(2024年・26秒)
ほぼ毎年、イントロが20秒以上ある曲もヒットし、根強い人気をキープし続けています。
■紅白披露曲に見る“イントロ”ヒット予測
「ライラック」をはじめ、イントロ20秒以上の曲も年間チャートの上位にランクインしている状況を踏まえ、未来の“イントロ”傾向を予測します。
下記は、2024年の年間JAPAN Charts TOP100にランクインし、2024年12月31日放送の第75回NHK紅白歌合戦に出場したアーティストの歌唱曲を、イントロ秒数の短い順に並べたデータです。
*Omoinotake「幾億光年」(0秒)
*ILLIT「Magnetic」(0秒)
*aiko「相思相愛」(0秒)
*Da-iCE「I wonder」(0秒)
*Creepy Nuts「Bling-Bang-Bang-Born」(2秒)
*米津玄師「さよーならまたいつか!」(6秒)
*こっちのけんと「はいよろこんで」(7秒)
*tuki.「晩餐歌」(9秒)
*Number_i「GOAT」(10秒)
*Mrs.GREEN APPLE「ライラック」(25秒)
*藤井風「満ちてゆく」(26秒)
イントロ20秒以上が2組、イントロ0秒は4組、2~10秒の“ちょい短”イントロ曲がそれを上回る5組という結果でした。私はこの結果と同様に、2025年以降も2~10秒の“ちょい短”イントロ曲のヒットが増えていくのではないかと予想しています。
■日本のライブ・エンタメ市場はV字回復
“ちょい短”イントロ曲のヒットが増えていくという予想の理由は、日本のライブ・エンターテイメントの市場規模の拡大です。
日本のライブ・エンターテイメントの市場規模は、コロナ禍前の2019年を上回るⅤ字回復を遂げ、2024年4月、神奈川県横浜市に約5000人収容の「横浜BUNTAI」、5月には千葉県船橋市に約1万人収容の「LaLa arena TOKYO-BAY(ららアリーナ東京ベイ)」、2025年10月3日に、東京・お台場に同じく約1万人収容の「トヨタアリーナ東京」が開業と、東京近郊で大規模なライブ会場がオープンし、その状況をさらに後押ししています。
アーティストのライブは、短くても1時間台、長いと3時間以上で披露されることが多いものです。参加するオーディエンスの中には、絶対に聴きたい曲が数曲、もしくは1曲だけあるからライブに参加しようと、チケットを購入する方も少なくないでしょう。
アーティストは、聴きたい曲を待っているオーディエンスにも、ライブのスタートからラストまで、全てを楽しんでもらうため、次は私が待っているあの曲が来るかもしれない! と感じさせてくれるパフォーマンスをライブで演出します。
■会場のボルテージを上げるのに不可欠
その手法の一つとしてよく行われるのが、イントロのフレーズを繰り返し響かせ、会場のボルテージを上げるパフォーマンスです。イントロ0秒の曲は、ライブ1曲目に披露する場合は効果的ですが、ライブの途中で披露するとなると、良い感じで作り上げてきた一体感を、断ち切ってしまうリスクがあるのです。
そこを切らずに繋いでいく演出として非常に効果的なのが“ちょい短”イントロ。前の曲が終わってからの2~10秒の間で流れる“ちょい短”イントロで、オーディエンスは、ついにこの曲が来た!という準備に入ることができ、一体感を下げるどころか、さらに上げる効果を発揮し、結果として、長時間のライブでもオーディエンスを飽きさせることなく、満足度を最大限に高めることができるのです。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により、不要不急の外出自粛が余儀なくされた時期にリリースされた曲を生で聴いてみたい! という需要は、これからも増えていくでしょう。
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藤田 太郎(ふじた・たろう)
イントロマエストロ、ラジオDJ
イントロをメインに曲を紹介する音楽評論家。大学時代にイントロクイズの全国大会で優勝。3万曲のイントロを最短0.1秒で答える男として『マツコの知らない世界』や『ヒルナンデス!』など、数多くのテレビ番組に出演。そのパフォーマンスをメディアで披露しながら、BAYFM『9の音粋(おんいき)』ではラジオDJ、TOKYO FM『ももいろクローバーZのハッピー・クローバー!TOP10』では構成作家、日本初のクイズ専門店『ソーダライト』ではイントロクイズプレゼンター(出題者)として活動中。
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(イントロマエストロ、ラジオDJ 藤田 太郎)

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