ゲオホールディングスが運営するゲオモバイルでは、スマホの買い取りのほか、未使用のiPhoneも販売している。『セカストの奇跡 逆襲のゲオ』(プレジデント社)を出したノンフィクション作家の野地秩嘉さんが、スマホを高額で売るコツを「ゲオモバイル365Plus1アキバ店」の店長に聞いた――。

■スマホのリユース市場は年々拡大している
ゲオモバイルはグループの中で、モバイル、タブレットなどを主に扱っている屋号である。ゲオ福江店の店長、山本健太郎は「パソコンの方が買い取りには手間がかかります」と言った。それはキーボードのすべてのキーが動作するかどうか確かめなくてはならないからだ。
一方、スマホであれば画面を触ればすぐにわかる。動作確認に時間がかからない。また、後述するが、スマホの買い取りで重要な点はバッテリー残量だ。これもまたiPhoneであれば一瞬でわかる。買い取りの時間がかからないのがスマホとタブレットだ。キーボードがあるパソコンは動作確認で時間を取られてしまうのである。
現在、ゲオモバイルは単独店と併設店を合わせて全国に800店舗ある。だが、オンライン販売もやっている。なお、推定ではあるが、スマホ・携帯のリユース市場の規模は865億円だ。
出典はリユース経済新聞「リユース市場データブック2024」(リフォーム産業新聞社)である。同データブックによればセカンドストリートが主に取り扱っている衣料・服飾雑貨が5913億円、ブランド品が3656億円、書籍が948億円、パソコンが1048億円といったところだ。ただ、今後の展望ではスマホ・携帯の市場がもっとも伸びるとされている。
■どうすれば中古スマホは高く売れるのか?
スマホの電話機能は短い時間しか使われていない。今やスマホは電話をかける機器ではなくなった。動画を見る受像機であり、動画を撮影するカメラだ。ゲーム機としても使われているし、SNSに投稿するための機器でもある。世界の人々は誰もがスマホを使い日常を送る。食事中でも仕事をしていても時々、チェックする。そういう時代になった。
そして、時代はさらに変化している。人々は新型のスマホでなくともいいと思うようになった。
これまで新型が出るとすぐに携帯ショップに走っていた人たちの買い物行動が変わってきたのである。
ゲオモバイル365Plus1アキバ店の店長、氷見木綿子が言うように「新型だからといって機能はそれほど変わらない」からだ。中古スマホはiPhone、アンドロイドを問わず、ユーザーに支持されている。なかには中古から中古に乗り換える人もいる。決して少ない人数ではない。
ゲオモバイルのアキバ店は同チェーンの中でも売上が大きい。上位3店舗に入っている。客のうち9割はインバウンドだという。そして同店が人気なのはスマホのことならなんでも知っている氷見店長がいるからだ。わたしが彼女に尋ねたのは、ひとりの客としてだった。それは読者が知りたい情報でもある。
どうやったら中古スマホを高く売ることができるのか、逆に信頼できる中古スマホを安く手に入れるにはどうすればいいか。
店舗とオンライン販売でスマホの値段は違うのか。スマホに関する質問は尽きなかった。
■ゲーム好きはアンドロイドを選ぶべし
氷見は44歳。気さくな人だ。ゲオに入社して10年。モバイルひと筋で彼女は「ゲームが好きです。好き。ゲームが今のところの人生です」と言い切った。
「アキバ店の建物は元々はゲーム店でした。私はそこのスタッフだったんですよ。ゲオが中古スマホに力を入れるというので、そのまま入社しました。以来、ずーっとスマホです。
最初はSIMカードの意味も知らなかったけれど、今はなんでも、と言っていいくらいよく知っています。
私が今、メインで使っているのはシャオミ(小米)って中国のゲーミング用スマホです。ゲーム好きな人にはおすすめ。ゲームはiPhoneよりアンドロイドがいいです。私のはゲームに特化しているから処理能力が早いのと、ゲームしやすいようなデザインになっています。持った時にコードとか本体に付けた充電器が邪魔にならない。ゲームのコントローラーとして使えるボタンも付いています。
大切なのは、イヤホンのジャックが付いていること。今、イヤホンジャックはスマホからなくなりつつあるんです。ワイヤレスイヤホンが主流でしょう。でも、この機種はいまだに付けてある。ワイヤレスって音の遅延があるんですよ。
ゲームするうえで音の遅延は困ります。ですから、ゲーム好きはこのご時世でもイヤホンジャックが必要。つまり、使う人のことをよく考えたものです。スマホを買うなら、流行ではなく、自分が何に使うかを考えて選ぶのがいい」
■「未使用の最新iPhone」がある謎
中古モバイル店には未使用の最新iPhoneが置いてあったりする。いったい、どうして、未使用最新のスマホが並ぶのか。どういったいきさつなのか。
氷見は教えてくれた。
「あるキャリアで契約している人がお得なサービスを使うと20万円するiPhoneを15万円で買えたりします。ゲオだけでなく中古スマホショップは最新iPhoneを9割近くで買い取りするので、ゲオが18万円で買い取りしたとすると、お得サービスで買って、それを売りに来た人は3万円儲かる。それが未使用の最新iPhoneがある理由です。うちでは18万円で買った最新iPhoneには薄々の利益を乗せるだけ。
中古スマホ店で得なのは新品の未使用品を買うことでしょう。
ゲオとしてはほぼ儲からないけれど、店のイメージのために必要なんです。あと、訪日外国人のお客さまとかは新品を買います。『ブランニューはないか』って聞いてきます。うちではアンドロイドの新品未使用もたくさん置いています。
店のポリシーは新品未使用から昔のものまで幅広く置くことに尽きます。一般の携帯ショップよりも品数、種類は絶対に多い。ドコモモデルだけでなく、各キャリアのモデルもあります。相談されたら、その豊富な在庫の中からおすすめの数台を用意して、『はい、選んでください』と言えます。お客さまにとっては中古スマホ店の方が選択肢が広いんです。だから、人気なんですよ。ドコモに行ったら、ドコモモデルの中からしか選べないのですから」
■販売だけでなく、SIM契約も請け負っている
「中古が嫌という人はバッテリーが心配なんだと思います。ただ、iPhoneであれば今は簡単に交換できます。提携しているショップへ行けばスピーディーに替えてくれるそうです。
ゲオモバイルのサービスは在庫量と格安SIMです。在庫量は店で買い取りしたスマホだけでなく、全国から持ってきますし、オンラインで買い取ったものも置いてあります。どこよりも豊富です。当社で扱っている格安SIMで契約すると最大2万円、安くなります。契約に20分くらいかかりますけれど、それでも2万円、安くなるんです。それもあって、ゲオモバイルは今、中古スマホの取り扱いではトップシェアで、中古スマホマーケットの3割は超えています。ですから、うちで出している中古のスマホ価格が業界標準になりつつあるんです」
アキバ店は細長いペンシルビルに入っている。ゲオモバイルは1階と2階だ。買い取りは1階でやっている。2階には豊富なスマホの在庫とタブレット、パソコンがある。店で売れるのはスマホ。次にタブレットがきて、3番目がスマートウォッチ。最後がパソコンだ。
■中古スマホは「2、3年前のモデル」がお得
アキバ店の主流はインバウンド客だ。氷見はこう言った。
「9割は外国人のお客さまで、日本人は1割です。ほとんどの方が『安くして』と言うのですが、『ごめんなさい』って言うしかないです。『きりのいい数字まで下げて』とも言われるのですけれど、それも『ごめんなさい』です。こういうものは一円も下げないで売るしかないんです。日本人のお客さまとまったく同じ条件です。買い取りは現金でお支払いして、購入される場合はクレジットカードももちろん使えます。お客さまがいちばんメリットある方法でいいんです」
では、いつも新品のスマホばかり買ってきた一般のユーザーはゲオモバイルのような中古スマホを扱う店舗とどうやってつきあっていけばいいのか。つまり、中古スマホを買う場合、どこに気をつければいいのか。古いものを買おうとするならば、どのくらい前のモデルを選べばいいのか。3年前のものなのか、それとも5年前のものなのか。氷見は「それは2、3年前のモデルがお得です」と言った。
■なぜ携帯ショップではなく、ゲオに行くのか
「お客さまには2、3年前のモデルをおすすめしています。特にアンドロイドはシステムのバージョンが古いと、現行のアプリが使えない場合があります。その点、iPhoneはOSを最新にできるから5年前のモデルでも大丈夫です。ですから、予算が少ない方はiPhoneの昔のモデルを買えばお得です。
お客さまからよく言われるのは『コピーしてもらえますか?』です。ぜんぜんやります。安心スマホ設定サービスで1項目当たり1500円。自分でやればタダですけれど、古いものを売りに来た方が新品をその場で買っていく時は便利です。SIMロック解除のサービスもゲオモバイルは安い。そういったいろいろスマホについてわからないことを教えますし、たいていのことはやれます。
新品の携帯ショップって、いろいろできないことがあるんですよ。それに比べると中古スマホを扱っているところは自由が利くというか。たとえば、スマホの保険って、なんとなく入っちゃいますけれど、あれ、毎月、払ったうえで、壊れて交換する時もタダじゃないんです。壊れて交換したらいくらかかるのか、ちゃんと値段を聞いてから入った方がいいです。
これ、言い過ぎになっちゃうかもしれませんけれど、『スマホがさっき壊れたから、買いに来ました』ってお客さま、多いんですよ。その人たちは『新品ショップへ行くと、在庫の中から選ばなきゃいけないから嫌だ』って言います。その点、うちならモデルでも色でもたくさんの在庫量がありますから、好きなものを選べます。もちろん、新品未使用品もあります」
■契約キャリア、機種、希望のOSまで丁寧に聞く
「壊れたばかりの人にはお客さまの使用環境を聞くんです。ご契約のキャリアとか、何に使ってらっしゃるか。これがいちばんです。それからiPhoneがいいのかアンドロイドがいいのかを全部聞きます。そこからしぼっていって、3台くらいの候補を出して、どれにするかを決めてもらう。
iPhoneの人気は根強いです。でも、毎年、新しいのを出してくるんですけど、それほど機能が変わっているわけではありません。体感ではそれほど変わらないです。ふたつくらい空くと『動作が速い』とは感じますけど。あとはレンズが違うから超広角が撮れるとか。そういうのを使わない人は昔のモデルで十分だと思います。今、スマホは高くなっていますから、私は何が何でも新品でなくていいと思うんですよ」
ゲオモバイルでなく、ゲオの店舗ではかつて新品のiPhone、iPadを売っていたことがあった。しかし、やめた。それは儲かるわけではないこと、また、新品iPhoneの販売に関しては専門ショップと家電専門店が強いからだ。それがここにきて、家電専門店も中古スマホの取り扱いに力を入れるようになった。一般ユーザーが高価になった新品より中古のスマホを求めるようになったことの証左だ。今後も中古スマホ、中古タブレットの人気は高まるだろう。わたし自身、もうスマホは新品未使用のリユース品でいいと思っている。
■「バッテリー容量70%」を切る前に売ったほうがいい
氷見が言ったように、iPhoneの機能があまり進化していないとするならば、何を基準にして買えばいいのか。彼女は「バッテリーです」と言った。
「iPhoneだとバッテリーのコンディションを見ることができますから、それを見ればいい。うちの中古iPhoneにはバッテリーの残量表示を手書きしてあります。BT(99)ってあると、それは最大容量です。設定画面の「バッテリー」から見ていったら、最大容量が見られるので、70パーセント台にならないうちに売るといいです。できれば80パーセントになる前、83パーセントくらいで売りに来るのがいいのではないかと思います。
あと、高く売るには掃除してから。ティッシュで表面を拭くだけで買取価格はぜんぜん、変わってきます。スマホの側面の小さなボタンがあるでしょう。マナーボタンです。消音のオンオフができる。ここに埃が入っちゃって、固まっちゃって、動かないのがあるんですよ。ここはつまようじなどで掃除しておいてください。
逆にうちでスマホを買う時はオンラインより、やっぱり現品を確認した方がいいです。中古品って細かい傷があるんです。バッテリーの最大容量はiPhoneではすぐにわかるのですが、アンドロイドは見ることができないんです。なので、アンドロイドは年式の新し目から選んでもらうしかないです」
■朝7時から夜中の2時までゲーム三昧
氷見の話は尽きない。確かに、スマホのことなら何でも知っている。
彼女は「仕事は楽しいです。でも、今のところはゲームの方が楽しい」ときっぱり言う。
「うちに帰ってから毎日、2、3時間はゲームをやっています。ひょっとしたら今がピークかもしれないくらいやっています。休みの日はほとんどゲームをしています。長い時は朝7時から夜中の2時とかまでやります。基本、自炊ですから、朝、たくさん作って、食べながらやる。あとはペットで飼っている犬の散歩。ペットとゲームとスマホの人生ですね。ゲームソフトはゲオで買っています。パッケージもありますし、ダウンロード販売もありますが、私はもう断然パッケージ派です。
やらなくなったソフトは売ればいいんです。行くのが面倒くさい人はダウンロードで買えばいいんですけれど、これがもう便利過ぎるからよくないような気がして……。ゲオで働いているからパッケージにしておきます。今のところは」
■オタク気質な店員がゲオの成長を支えている
氷見さんは人生を謳歌している。ほんと楽しそうだ。わたしはこういう人から中古スマホを買いたい。親身になって相談に乗ってくれるからだ。そして、リユースのビジネスではここがもっとも重要だ。中古品を買おうと思っている人たちは、どこかで商品を疑っている。
「傷物ではないか」

「バッテリーの残量は大丈夫なのか」

「ちゃんと動くのか」
そういう不安を持っている。
だが、氷見さんのような専門家でなおかつ、オタク的で、そして、性格がいい人が接客してくれたら、不安は吹き飛んでしまう。ゲオのグループにいる従業員はいずれも氷見さんのような人だ。商品に詳しく、そして、オタク的傾向の人たち……。この人たちがゲオ、セカンドストリートを支えている。

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野地 秩嘉(のじ・つねよし)

ノンフィクション作家

1957年東京都生まれ。早稲田大学商学部卒業後、出版社勤務を経てノンフィクション作家に。人物ルポルタージュをはじめ、食や美術、海外文化などの分野で活躍中。著書は『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)、『高倉健インタヴューズ』『日本一のまかないレシピ』『キャンティ物語』『サービスの達人たち』『一流たちの修業時代』『ヨーロッパ美食旅行』『京味物語』『ビートルズを呼んだ男』『トヨタ物語』(千住博解説、新潮文庫)、『名門再生 太平洋クラブ物語』(プレジデント社)、『伊藤忠 財閥系を超えた最強商人』(ダイヤモンド社)など著書多数。『TOKYOオリンピック物語』でミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。ビジネスインサイダーにて「一生に一度は見たい東京美術案内」を連載中。

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(ノンフィクション作家 野地 秩嘉)
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