新幹線車内の迷惑行為やマナー違反が問題になっている。特に、帰省客や旅行客で混雑する年末年始は注意が必要だ。
乗客たちはどんな行為にイライラさせられているのか。鉄道ジャーナリストの東香名子さんが取材した――。
■ついに結論!新幹線で多いクレーム7つ
コロナ禍を経て、新幹線の利用水準が復活。2025年は、年末年始の新幹線などの予約数が過去最多を更新した。JR東海によると、東海道・山陽新幹線の指定席の予約は前年比で約1.04倍。JR東日本によれば、新幹線や在来線の指定席の予約は、前年の約1.03倍だという。
そんな中、乗客を悩ませているのが新幹線でのマナー問題だ。筆者が所長を勤める調査サイト「鉄道トレンド総研」によれば、「新幹線や特急でイラッとしたことがある」と回答した人は49.7%。実にほぼ半数の人がイラついた経験があるという、見過ごせない結果となった。
現場では一体何が起きているのか。リアルな現状を確かめるべく、JR東海の広報部への取材をおこなった。今回は、新幹線内の車掌をはじめとする乗務員への意見や、同社サービス相談室への問い合わせ、および鉄道トレンド総研に寄せられた声をもとに、「新幹線で本当に多いクレーム」ワースト7を選定した。

■特に最近増えている、最悪の車内トラブル
多発クレーム1:「荷物の置き場所」問題
たくさん届く意見の内容として、JR東海は真っ先に「荷物に関するもの」を挙げた。「座席に荷物を置かれた」「通路に荷物が置かれ、通れない時があった」など、鉄道トレンド総研にもイライラの声やクレームが最も多く集まる。
特に多く聞かれるのが、インバウンド客の大きな荷物の扱いだ。長期滞在をするなら荷物が大きくなるのは仕方のないことだが、巨大なスーツケースを複数持っていると、列車の狭い通路を塞がれることがある。
JR東海は「トラブルが起きれば車掌に相談を」と話す。新幹線には、車掌は基本的に2人が乗務しており、他にパーサー2人と、巡回の警備員が常駐している。東海道新幹線は8号車に乗務員室がある。車掌に相談することが、解決へ近道になるとのことだ。
ちなみに新幹線のルールでは、特大荷物は事前予約を必要としている(特大荷物=3辺合計160cm超250cm以内)。ただ、周知がしっかり行き届いていないのが現状で、予約が必要なスペースに他人の荷物が置かれており、トラブルになるケースもあるのだ。
■「車内で食べてもOKな飲食物」の線引き
多発クレーム2:「食べ物のニオイが臭い」
次は、迷惑の線引きが最も難しく、乗客を悩ませている「ニオイ問題」。ファストフードや豚まん、アルコールなど、ニオイの強い飲食物の持ち込みについては、SNSでの論争やクレームも絶えない。

実際にJR東海への意見も多く届いているようだ。しかし、「ニオイの感じ方は人によって全く異なるため、OKとNGのラインが引けない。ルールの策定ではなく、お客様の良心に委ねる部分が大きい」という苦しい胸の内を明かした。
より具体的な解決のヒントはないか聞くと、目安は「駅弁」になるという。「駅弁は車内で食べることを想定して作られているため、駅弁が許容できるニオイの一つの目安になる」という見解が示された。ぜひ参考にしてほしい。
鉄道トレンド総研には、飲食物のほかに「隣に乗っていた人の体臭がきつくて辛い」「後ろの人が靴を脱いで、自分の肘置きに臭い足を乗せてきて最悪」などの声もあった。他の人に迷惑がかからないよう、体臭についても、ある程度は気をつけておいた方がよさそうだ。
■「席をどいて」が通じない時の絶望感
多発クレーム3:指定席に「知らない人」
予約した指定席に行ってみると、他の乗客が座っていた……。これも車掌へのクレームが多いトラブルの一つだ。「指定席のチケットを持ってないオジサンが私の席に座っていてイラっとした」「3回に1度の割合で、自分の席に知らない人が座っている」という声が鉄道トレンド総研にも届く。
言葉の壁がある外国人とのトラブルも少なくない。
単なる勘違いで済めばいいものの、「グリーン車の自分の席に、アジア系と思しき観光客が座っており『席をどいて』と言っても頑なに無視された。車掌さんと一緒に5分ほど説得して、やっと車両を移動してくれたが、10分後に戻ってきた」というトンデモな事態も筆者の耳に入っている。
これについても、自分たちの方から「ここは私の席です」を声をかけるのが基本だろう。同社も「トラブルになった場合は、遠慮なく車掌や巡回中の警備員に相談を」とやはり呼びかけている。
■「席ガチャ」に外れたら車掌に相談を
多発クレーム4:「うるさい!」騒音問題
長時間移動であればあるほど、静かに穏やかに過ごしたいのが乗客の本音だ。しかし、残念ながら「騒音」についての意見もJR東海には多く届いている。走行中、車掌に「隣の人がうるさい」などのクレームが来るのはあるあるで、直接注意を促すようにしているようだ。
鉄道トレンド総研にも「とにかく電話や会話がうるさい」「YouTube等のSNSを、イヤホンなどをつけずに外部へ音を出しながら視聴している」など、イライラした利用客の声が聞かれる。ただ「大声で話している外国人に、初老の男性が英語でたしなめていた」という声もあり、一部の乗客は自らコミュニケーションをとってトラブルを解決しているようだ。
楽しくてテンションが上がれば、つい大声になってしまうのは人間のサガ。トラブルが起こらないように、自分の声のボリュームには気をつけつつ、同行者のテンションが上がっている場合、都度注意しながら乗りたいものだ
■足元のコンセントを黙って他人が…
多発クレーム5:「コンセント」は誰のモノ?
東海道新幹線の普通車にはコンセントが設置されている。最新のN700S系には全席に設置されているが、N700A系以前の車両では、窓側(A・E席)と最前列・最後列の壁側に設置されている。
「このコンセントは誰のものなのか」という問い合わせもJR東海には届いているようだ。
鉄道トレンド総研にも「通路側の人が、窓際の自分の足下にあるコンセントを、無言で使ってきてイラっとした。使ってもいいけど、一言欲しかった」と言う声も届いている。
JR東海は「コンセントは誰の物、というルールはない」としており、「譲り合ってお使いください」というのが基本的な考え方だ。モバイル機器の充電ニーズが高まるなか、最新車両には全席にコンセントが設置された。時代に合わせて進化している車両には感謝しておきたいところだ。
■車内で起きている「もう一つの争奪戦」
多発クレーム6:「フック」は誰のモノ?
コンセント問題と同様に「荷物フック」を巡る争いも、JR東海への問い合わせとして寄せられているという。新幹線の窓側の座席上部の壁には、コートや軽い荷物をかけられるフックが備え付けられている。「自分が窓側なのに、通路側の人がフックを占領している」という具合に、密かな争奪戦が起きていると言うのだ。
これについても、同社の見解はコンセントと同様「フックは誰の物、というルールはない」として、「譲り合って利用してほしい」と回答する。そもそも、これらの「誰のもの論争」は、今に始まった事ではないという。
たしかに振り返れば、昔から「肘掛けは誰のもの」などの論争は絶えない。
座席テーブルと違い、このように境界線が曖昧なものは、譲り合って利用するのが大人のマナーだ。乗客同士が一言声を掛け合って、お互いが快適に利用できるようにしたいものだ。
■「倒していいですか」はいる? いらない?
多発クレーム7:「リクライニング」の声かけ
座席のリクライニングを倒す際、後ろの乗客に声をかけるべきか否かというマナー論争。この種の問い合わせも、JR東海に届いているのだという。同社は明確なルールを設けておらず「声をかけるかどうかは、お客様の良心に委ねる部分」だとした。
昔は乗客同士で「どうぞ」「ありがとうございます」と解決していた問題が、今は「急に倒された」「声をかけなかった」とクレームにつながることもあるようだ。
実際に鉄道トレンド総研でも「リクライニングを倒すとき、声をかけてほしいか」という調査を行うと、「声をかけてほしい」と思う人は52.3%でほぼ半数。「頭をぶつけるかもしれないから、一言ほしい」という人もいれば、「知らない人に話しかけられたくない」という人まで、まさに「人による」というのが現状だ。
■新幹線ならではのイライラ解決法
JR東海にさまざま寄せられる意見や問い合わせの数々。同社は「こうしたトラブルは昔からあった」とした上で、「最近のSNSの影響でより顕在化している可能性がある」とも分析する。
確かに、マナー問題の裏には「日本人の心の変化」というのがあるのかもしれない。かつての新幹線は、騒音問題や、座席リクライニングなど、乗客同士が声を掛け合い現場で解決する「ゆとり」があった。
しかし現代は、他者との対話を避け、あらゆる不満を車掌に丸投げする傾向が強まっていると筆者は感じる。
このギスギス感を助長しているのがSNSの存在だ。誤った情報や極端なマナー違反が可視化されることで、乗客は疑心暗鬼に陥り、他人の些細な振る舞いも許容できなくなってしまう。
新幹線は、多様な人々が乗り合わせる公共の場だ。他人に気を配るのはもちろん、ストレスを感じた場合は、心の中でイライラを増殖させる前に、まずは一言コミュニケーションをとってみるべきだ。
最後に、新幹線でイラっとした時、心にゆとりを取り戻す方法はあるか。たとえば「車窓から富士山を見て癒される」のはどうだろう。同社によれば「東京からの下り列車ならば、三島駅を通過後、進行方向右側にきれいな富士山が見えます」とのこと。雄大な景色に目を向け、まずは自分自身のゆとりを取り戻してみるのもいい。

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東 香名子(あずま・かなこ)

コラムニスト

鉄道コラムニスト。鉄道トレンド総研所長。メディアコンサルタント。外資系企業、編集プロダクション、女性サイト編集長を経て現在フリー。メディア出演多数。著書に『超タイトル大全 文章のポイントを短く、わかりやすく伝える「要約力」が身につく』ほか。

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(コラムニスト 東 香名子)
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