■勝因はインバウンドでも鉄道ファンでもない
大阪~京都間を結ぶ「京阪電気鉄道(以下:京阪)」の快速急行などに併結された有料座席列車「プレミアムカー」が、平均で9割以上も座席が埋まるほどに好調をキープしているという。
長距離を走る新幹線・特急の指定席と比べれば、400~500円という運賃は「ワンコインで安い!」と思われがち。だが、大阪~京都間の運賃は490円(淀屋橋~三条間の場合)、時間にして1時間弱。2019年の運行開始当初は「少々ケチな関西人が、運賃込みで倍になるようなプレミアムカーに、お金を払う訳がない!」とも言われていた。
実際にサービス開始後は、乗車率50%程度をさまよっていたというが、今では年間10億円近くの利益を稼ぎ出し、増結による座席の大幅増が実施されたばかり。「プレミアムカー」はなぜ、ここまで乗客の支持を得ることができたのか。そのカギは、インバウンド観光客? 鉄道ファン? ……いや実は、もっと地味で堅実なところにあるようだ。
また、大阪~京都間では阪急電鉄(PRiVACE)・JR(Aシート)も同様の座席を設定している。パッと見からして「あの会社らしいわぁ!」と言わざるを得ない3社の座席、なぜ明暗が分かれたのかも、後ほど探っていこう。
■500円でWi-Fi、充電、リクライニング
人口40万人弱を擁する大阪府枚方市で、市域内を走る鉄道は、京阪のみ。
2025年10月に一部編成を2両化したにもかかわらず、到着する便はことごとく満席、ネット予約もホームでの販売も見事に売り切れ。駅ホームで淀屋橋行きのプレミアムカーを見ていても、40人定員の車両がこの駅で、パズルを完成させるようにきっちり満席となる。
このプレミアムカー、なぜ人気なのか? 実際に乗車したところ、500円を払うだけの価値を十分に感じられた。
まず、座席のヘッドレストがしっかりと頭を包み込み、リクライニングを倒しても首が不安定な状態にならない。座席下のカーペットのおかげで足裏の感触が心地良い。広い窓と間接・直接をミックスした独自の照明のせいか、車内は程よい明るさと開放感がある。もちろんWi-Fi・コンセントも装備されており、この座席で仕事をするも良し、スマホを充電しながら寝るもよし。
そして、金色基調の市松模様のドアや、至る所にプリントされた京阪特急のシンボル・鳩マーク、黒字に金色の「PREMIUM CAR」ロゴなど、乗り込む前の「特別な列車に乗り込むワクワク感」の演出も良い。ホームにも発券機・他の号車からの案内表示などがしっかりなされている。
駅構内の案内も至る所にあり、「プレミアムカー=特別な車両」と理解させるような演出も巧みなもの。ふだん押し合い・へし合いの通勤電車に乗っている人々が、「たまにプレミアムカーに乗りたい!」と思うのは、必然だろう。
■「痛勤」客の需要を捉えた
そんなプレミアムカーは、なぜ商業的に成功を収めたのか? 要因は「インバウンド観光客の増加」と思われがちだが、もうひとつ「枚方市駅など、途中駅からの乗車の多さ」にもある。
枚方市駅からは、大阪・淀屋橋まで21.8Km、京都・三条駅まで27.5Km。どちらにも30分程度で通勤が可能な「2WAYアクセスの街」だが、大阪市内に向かう特急・快速列車は京都・出町柳駅発、逆方向は大阪・淀屋橋駅発が多く、到着した電車は軒並みぎゅうぎゅう。枚方市駅から座って通勤するには、7時台だと1本ある枚方市駅始発の快速急行に並ぶか、普通列車の始発・萱島駅から1時間かけて乗り通すしかない。
「大阪・京都の2WAYアクセス」という誘い文句につられて枚方市にマンションを買ったものの、毎朝ごとの“痛勤”を余儀なくされている。そんな京阪ユーザーにとって、「立って通勤」の時間を、ワンコインで「座って快適に通勤」に変換できるプレミアムカーの価値は、計り知れない。だからこそ、大阪・京都に通勤する人々は、枚方市駅からたった30分程度でも、プレミアムカーに乗りたがるのだ。
■低コストで利益を生む仕組み
かつ、加盟店の少なさから使いどころがないまま、通勤定期の購入ごとにたまる一方だった「おけいはんポイント」(京阪グループ共通のポイント)も、プレミアムカーのポイントに交換できる。枚方市民の京阪ユーザーに聞くと、「使いどころに悩んでいた『おけいはんポイント』消化も兼ねて利用したところ、ハマって『痛勤』に戻れなくなった」そうだ。
プレミアムカーの存在は、乗客だけでなく、京阪をも潤している。直近ではプレミアムカーの年間収益が年間10億円近くにものぼる(2025年10月26日・日本経済新聞)といい、直近では2025年10月に、1日173本のプレミアムカー導入車両のうち、4割程度を1両から2両に増結。専用車両を作って併結してしまえば、低コストでほとんど利益になる売り上げを落としてくれるのだ。
プレミアムカーの成功要因は、確かに「大阪~京都を快適に移動したい人々」の需要を読み取ったことにもある。さらに「中間駅から座って移動したい」需要に応え、鉄道会社としてまっとうな商売で利益を得たという、地に足がついた事実も見逃せない。
■阪急電鉄は「高級感」で対抗
京阪がプレミアムカーで成功を収めたのなら、大阪~京都間の他路線も、黙ってはいない。近年では、2024年から阪急電鉄(以下:阪急)が、京都線(大阪梅田駅~京都河原町駅)で、京阪と同様にリクライニングシート・コンセント付きの有料座席「PRiVACE(プライベース)」の運行を開始した。
こちらも、運行開始から1年ほどで利用率8割程度まで到達、2025年8月には運転本数を1.5倍に増加させるほどの好調ぶり。京阪と同様の「500円」で乗車できるPRiVACEに、それだけの価値はあるのか? 実際に乗車したところ、プレミアムカーとはまた違う満足感を味わえた。比較しながら乗車してみよう。
PRiVACEがプレミアムカーより優れている点としては、やはり「高級感・非日常感」だろう。車内は「座席の下だけ」の京阪と違って全面カーペット敷きで、リクライニングシートはスライドしながら倒れる方式のため、後ろの人に気を遣わずに背もたれを倒せる。
座席は、プレミアムカーのようなしっかりしたヘッドレストはないものの、パーテーションのような仕切りで、寝顔をある程度見られない構造になっている。窓も座席ごとにコンパクトに設置されており、京阪のような「解放感」ではなく、独特の「プライベート感」があるのが特徴だ。
車内は阪急伝統の「マルーン色」(濃い赤茶色。
■7年越しの参入、京阪の成功に焦りか
阪急はもともと有料座席の設定には消極的であり、2017年に京阪がプレミアムカーを導入した際も静観していた。阪急が7年もたった2024年に有料座席を設定し、大阪~京都間で「めっちゃええ座席需要・争奪戦」に割り込んできたのは、京阪がプレミアムカーで成功を収めたことによる焦りもあったのではないだろうか。
のちにPRiVACEが設定された阪急・京都本線は、JR・阪神電鉄や複数の地下鉄が集積する大阪梅田駅から、「洛中」(京都の心臓部)である烏丸・河原町を、50分弱で結ぶ。ところが、プレミアムカーに乗れる京阪本線は、地下鉄は1路線(御堂筋線)のみで、ビジネス街以外の何物でもない淀屋橋や飲み屋街・京橋から、京都の「洛東」「洛外」エリアである七条・四条・三条を、約1時間で結ぶ。
分かりやすく言えば「阪急は速くてド真ん中、京阪は遅くてヘリ」だったはずが、快適すぎるプレミアムカーのイメージで、「大阪~京都なら、京阪もアリ」といったイメージが、よりによって京阪に上書きされてしまったのだ。
■阪急ブランドの沽券をかけた成長投資
さらに、折しものインバウンド観光客激増で、歴史的背景から「洛東・洛外のヘリ」にある清水寺・鴨川・三室戸寺などの近くを通る京阪でしか獲れない移動需要が発生した。一方で、阪急京都線は洛中(京都の中心部)に行けるものの、郊外の主要観光地は、バス乗り換えを要する。
いかに阪急のブランド力が絶大で、関西の鉄道会社として「顧客満足度調査・17年連続1位」(日本生産性本部調べ)であったとしても、インバウンド観光客にとって知ったことではない。こうして、関西人なら「どの面でも阪急の方が格上」と認識するであろう対:京阪で、イメージ戦略でも商売の面でも、プレミアムカーに先を越されてしまった。阪急の経営陣が、焦らないわけがないだろう。
ここでタイミング良く、阪急の親会社である「阪神阪急ホールディングス」全体の経営戦略に「2900億円程度の成長投資(22年発表中期経営計画)が盛り込まれ、有料座席導入への名目が立った。京阪よりかなり遅れてのPRiVACE導入は、いわば「阪急ブランドの沽券をかけた、プレミアムカー対抗のための成長投資」と見てよさそうだ。
■快適な京阪、ラグジュアリーな阪急
しかし、SNSなどでは、京阪の「プレミアムカー」を推す声が多く、PRiVACEは若干評価が分かれているようだ。よく聞かれる意見としては「PRiVACEの方は座席が少しだけ硬い」「直管照明がチープ」「収納テーブルや窓枠のサッシが狭く、スマホや食べ物を置きづらい」といったところか。
また車外でも、駅ホームにはプレミアムカーのような発券機はなく(ホームページで事前購入か、車内でアテンダントが発券)、案内表示も柱や売店跡地などの「アリモノ活用」がまざまざと見えるなど、有料座席への「付け焼き刃」的な要素も散見される。高槻市駅などではPRiVACEの高架ホーム乗り場との最短経路が階段しかない(エスカレーターは極端に遠い)など、車外の演出がいまひとつ。率直に言うと、阪急のプロジェクトにしては、詰めが甘い。
これに関しては、仕方がない。車内のコンセプトや作り方でいえば、京阪は「便利さ・解放感」、PRiVACEは「車内の高級感・プライベート感」と、元々のコンセプトや乗客の感じ方が分かれているからだ。阪急のラグジュアリー感を車内で楽しむ方はPRiVACE、座席としての快適さを求める方はプレミアムカー、といったところか。
■プレミアムカー・PRiVACE・Aシート、どれを選ぶ?
大阪~京都間を走る有料座席列車は、京阪・阪急の2社。ほかにもJR西日本が、新快速に「Aシート」を設定している。
JRの「Aシート」は、ヘッドレストやカーペットなどはないものの、リクライニングも可能で、大阪近郊なら「はまかぜ」「ラクラクはりま」など特急列車のシートとさして変わらない「列車の指定席」感がある。
ただ、新快速併結のAシートは、網干駅(兵庫県)から大阪府・京都府を通過し、野洲駅(滋賀県)まで100km以上に到達するため、別に大阪~京都間の顧客だけを相手にしているわけではない。かつ、料金は「1乗車あたりチケットレス600円、現金840円」と長距離に有利な設定になっており、あまり京阪・阪急の相手ではなさそうだ。
■京阪が巻き起こした「関西・有料座席旋風」
ほか最近では、コロナ禍のさなかに有料座席「らくやんシート」を設定していた阪神電鉄が、「近鉄・山陽電鉄などとの乗り入れによる有料座席列車の導入」見込みを、突如として表明した。
2025年12月1日に日本経済新聞が報じたところによると、久須勇介社長から「新型の急行車両3000系と現行の8000系を順次入れ替えし、6両編成の1両を有料座席指定用とする」とのこと。ただし、「ラグジュアリーから日常使いまで様々あるなかで、阪神らしい最適なサービスを検討したい」という、いかようにも解釈できるコメントを残しているため、今後の動きに要注目。おそらく「姫路駅~三宮駅~近鉄奈良駅」あたりの設定が有力なのだろう。
京阪が社内での反対を押し切って開発した「プレミアムシート」は、関西に「有料座席列車」旋風を巻き起こした。これからは各社の増結並びに、JR西日本が既に発表済みの、大阪環状線などでの「Aシート」「うれシート」導入もある。個性あふれる各社の座席が、どのように支持を広げていくか、今後に期待したい。
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宮武 和多哉(みやたけ・わたや)
フリーライター
大阪・横浜・四国の3拠点で活動するライター。執筆範囲は外食・流通企業から交通問題まで、元・中小企業の会社役員の目線で掘り下げていく。各種インタビュー記事も多数執筆。プライベートでは8人家族で介護・育児問題などと対峙中。
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(フリーライター 宮武 和多哉)

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