投資詐欺や営業マンの勧誘に騙されないために気を付けるべきことはなにか。ファイナンシャルプランナーの藤原久敏さんは「詐欺師が相手の警戒心を解くために使う定番の話題がある。
これが始まったら身構えたほうがいい」という――。
■人生初の入院・手術で……
私事ではありますが、昨年、大きな病気を患い、人生初の入院・手術をしました。
そして、自身が体験したことは、(それがどんなことであっても)広くお伝えしたいという性格ゆえ、仕事・プライベート問わず、入院・手術したことについては方々でお話しており、また、SNSでも発信もしていました。
すると、「実は、私も昨年に入院していて……」「実は、私も同じ病気で……」などなど、実に多くの人たちから、私と同じく、大きな病をしている(していた)ことを打ち明けられたのでした。
そしてそれは、親しい友人からだけでなく、仕事上の(プレイベートではまったく絡まない)関係の人からも、中には、何年も連絡を取っていないような人からも、突然のメールがくるのでした。
さほど交友関係の広い私ではありませんが、それでも、10人近くもの人たち(多くは同世代)から、そのような反応があったのでした。
■大病の報告で、得られたプラス効果
まず驚いたのは、こんなにも多くの同世代の人達が、(私と同じくらい大きな)病気をしているのか、ということでした。もっとも、私はもう50歳手前ですから、冷静に考えれば、そこは決して驚くことではないのかもしれません。
もっと驚いたのは、私が大きな病気をしたことを聞いて(もしくはSNSなどで見て)、こんなにも多くの人たちが、自分も大きな病気をしている(していた)ことを報告してきたことでした。私の大病を聞いたから(SNSなどで見たから)といって、自分の病気のことまで、私に報告してくれる必要など、まったくないですからね。
ただ、そのような報告から、お互いの大病を知ったことをきっかけに、大病という共通項ができ、より親しくなった友人もいます。また、それまで疎遠だったのが、お互いの大病をきっかけに、交流が復活した人もいます。

さらには、仕事関係の人とは、お互いの大病をきっかけにプライベートでも連絡を取り合うようになり、そこから仕事につながったりすることもありました。
そういった効果を狙って、自身の病気について広くお伝えしてきたわけではありませんが、結果的に、自身の病気について広くお伝えしたことで、それら大きなプラス効果を得ることができ、そこは良かったのかな、とは思っています。
■相手が話してくれれば、こちらも……
今回、前述のような大きなプラス効果を得られたのは、私の報告をきっかけに、皆さんが、自身の状況を報告してくれたからこそ。それによって、お互いの状況をさらけ出すことで、一気に距離が近くなったことが大きな要因です。
とはいえ、私のように、自身の病気のことをアチコチで話すような人間は少数派だと思います。
実際、私に(自身の病気について)報告してくれた人に聞けば、その多くは、自身の病気については、身内やごく親しい人にしか打ち明けていないようでした。しかし、彼らは大きな不安を抱え、同じ状況の人の話を聞きたいし、自身の話も聞いてほしいとも思っているのでした。
なるほど、だからこそ、知り合いが(同じような)病気であることを知れば、心を許して、自身の状況をさらけ出してくる人も多いわけですね。
■自己啓発本でもよく見る、定番テクニック
さて、今回のことをきっかけに、若いころに読み漁っていたビジネス書・自己啓発本の類でよく目にした一節を思い出しました。それは、「自身の弱みをさらけ出せば、相手の警戒心を解きほぐせる、相手の本音を引き出すことができる」といった内容でした。
たしかに、自身の弱みを見せることで、相手の警戒心を解きほぐし、そして相手の本音を聞き出せれば、ビジネスでは有利に交渉ができるし、プレイベートでは親しくなれますからね。
そして、自身が見せた弱みと、相手も同じような弱み(≒不安)を持っていれば、それは効果絶大でしょう。
今回、私が病気をさらけ出したことは、まさにそのケースだったわけです。
もっとも今回は、「同じく大病している人たちと親しくなろう」などと思っていたわけではなく、冒頭のとおり、ただただ、自身が体験したことは広くお伝えしたいという性格ゆえのことでしたが、その大きな反響に、あらためて、過去に読んだ本のことを思い出し、そして、その効果を実感した次第です。
ただ、今回のことをきっかけに、よくよく考えてみると、この「弱みを見せる」というテクニック(?)は、私は仕事において、存分に活用しているではないか、と気づくのでした。
■失敗談は相談やセミナーで効果絶大
それは、投資相談の現場にて。
とくに、初めてFPに相談する人などは、それなりに緊張されている人も多く、中には、あやしい投資商品を売りつけられはしないかと、露骨に警戒している人も少なくありません。
そこで私は、そのときの相談内容に合わせた失敗談をお話しするように心がけています。
たとえば株式相談では、株主優待や配当金に目がくらみ、業績を軽視して(業績低迷企業に投資して)失敗した話を。FX相談では、あまりの高金利に調子に乗って資金をつぎ込み、強制決済を喰らって失敗した話など、幸い(?)にもさまざまな失敗をしているので、ネタには事欠くことはありません。
そのような失敗談を聞くことで緊張がほぐれ(警戒心が溶け)、一気に親近感・安心感を持っていただけることは少なくありません。また、私の失敗談を聞いて、「実は、私も……」と、その方の失敗談を聞き出せることも多く、相談者の投資遍歴や投資スタンスなどを聞き出すことにも一役買っています。
また、投資セミナーでも、極力、失敗談を披露するように心がけています。
講師の実体験は、(とくに小難しい内容の講演・セミナーにおいては)良いアクセントになり、受講者からの評判も良いです。
たまに成功談も披露しますが、間違いなく、失敗談の方がウケは良いです。
そして、ウケた後は、私と受講者との(心理的な)距離感が縮まって、非常に話しやすくなるものです。
とくに、私の地元である大阪(関西)圏では失敗談はウケますし、なんなら、失敗談を期待されている感もあるくらいです。
いずれにせよ、失敗談を語る(=弱みを見せる)効果は抜群で、私自身、このように仕事上で、その効果は身をもって感じております。
■投資詐欺で、使ってくることも
ただ、それだけ効果が大きいということで、この「弱みを見せる」というテクニックは、投資案件の勧誘、中には、投資詐欺でも使ってくることもあり、要注意です。
実際、私もかつて、これは「弱みを見せる」テクニックを使っているな、と感じるような、あやしい投資セールスを受けたことがあります。
あれは数年前のこと、電話口にて、「私は昔、株で300万円損したことがありましてね、投資って難しいですよね~。ところで、今回ご提案する投資商材なのですが……」といったことを、営業マンが言っていた記憶があります。
ただ、その失敗の具体的な内容(投資銘柄や売買金額など)は一切なし。
また、その失敗談の披露のタイミングがあまりにも唐突で(会話の流れ無視)、そしてあまりにもわざとらしく、「お前、本当は、そんな失敗はしていないだろう」と、心の中で突っ込んでおりました。
おそらく、その会社には(失敗談を披露して、相手の警戒心を解きほぐせといった)マニュアルがあって、そのマニュアル通りに、経験の浅い営業マンが、ただただ棒読みのように話していたのだと思われます。
■人間心理を的確に突いた、効果的なテクニック
さて、そのときに私が受けた投資セールス(失敗談の披露)はあまりにも稚拙で、私はすぐに「その失敗談はウソだろ」と見抜くことができたわけですが、それがベテラン営業マンであって、こちらの反応を見ながら、適切に、臨機応変に、自身の失敗談を会話の中に差し込まれたなら、なかなか手強かったかもしれません。

しかも、(ウソの失敗談ではなく)その人が本当に経験した失敗談をベースに話してこられたら、それがテクニックであることを見抜けたかというと、自信はありません。
というのは、この「弱みを見せて、警戒感を解きほぐす」テクニックそのものは、人間心理を的確に突いた、実に効果的なものだからです。
その人間心理とは、返報性の原理。
返報性の原理とは、人から何かをしてもらったら、そのお返しをしなければ、といった気持ち(習性)のこと。すなわち、弱みを見せてもらったら、こちらも弱みを見せたり、本音を話すなどして、それなりのお返しをしなければと思ってしまうことです。スーパーの試食などは、この原理を上手く突いたサービスと言えますね(試食したら、買わないと悪いと思ってしまう)。
あと、これは少し穿った見方かもしれませんが、あえてこちらの失敗を見せることで、「それは大変だね、可哀そうだね(少し、応援してやるか)」といった気持ちにさせて、相手を、こちらの思い通りに誘導しやすくなるという効果も無視できません。
ちなみに、投資詐欺の類のセールスでは、「こんなに儲けました」といった成功談をアピールすることが多いがゆえに、成功談にばかり警戒していると、そんな失敗談の披露に足元をすくわれかねませんね。
■自ら使わずとも、自己防衛のために……
ただ、「弱みを見せる」ことは、自身の失敗をさらけ出すことでもあり、人によっては(というか、多くの人は)、大きな抵抗があるはずです。
ですので、大きな効果があると分かってはいても、できない(やらない)人は多いと思われます。
実際、弱みを見せることで得られる効果よりも、弱みを見せることで被るであろうストレスの方が大きいようであれば、無理にやる必要はないでしょう。
しかし、(私のように)自身の体験を披露することに、さほど抵抗感のない人間もいるわけです。

そして、その中には、自己の利益のみのために、戦略的に、「弱みを見せる」というテクニックを駆使する人間もいるかもしれませんし、そのような人間が、投資詐欺の類のセールスに活用してくるかもしれないわけです。
ですので、「弱みを見せる」というテクニックを自身が使わない(使えない)にしても、一つの戦略として、意図的に使ってくる人がいるかもしれないことは、自己防衛のためにも、ぜひ知っておきたいものです。
すなわち、相手が弱みを見せてきたときは(失敗談をこれみよがしにアピールしてきたときは)、少し用心した方がよいかもしれませんね。

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藤原 久敏(ふじわら・ひさとし)

ファイナンシャルプランナー

1977年大阪府大阪狭山市生まれ。大阪市立大学文学部哲学科卒業後、尼崎信用金庫を経て、2001年に藤原ファイナンシャルプランナー事務所開設。現在は、主に資産運用に関する講演・執筆等を精力的にこなす。また、大阪経済法科大学経済学部非常勤講師としてファイナンシャルプランニング講座を担当する。著書に『株、投資信託、FX、仮想通貨… ファイナンシャルプランナーが20年投資を続けてみたらこうなった』(彩図社)など。

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(ファイナンシャルプランナー 藤原 久敏)
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