■株価が6倍になった日本企業の「武器」
2025年の東証最終取引日、キオクシア(旧東芝メモリ)の株価は1万435円で引けた。2024年末の1640円から株価は6.4倍も上昇した。
同社の株価上昇率は、世界の主要先進国株式の動向を示すMSCIワールドの中でもダントツでトップだった。
株価上昇の背景は、同社が持つAI関連製品の一つである最新のSSD(ソリッド・ステート・ドライブ)への期待だ。米国や中国でのAIモデル開発競争は、秒進分歩の勢いで激化している。もはや、それは「戦争」との指摘まである。競争激化に伴って明らかになったのが、AIの学習や推論データを保存するメモリ半導体の不足だ。
広帯域メモリ(HBM)、NAND型フラッシュメモリを集積したSSDの需給は逼迫した。SSDの価格にも上昇圧力がかかり、キオクシアの業績拡大期待は高まった。それまで割安に放置されていた株価は急ピッチで上昇した。
■潜在力の高い製品と経営者の素質が必要
株式投資家にとって重要なポイントは、次のキオクシアを見つけ出すことだろう。恐らく今後も、第二のキオクシアが現れることが想定される。そうした銘柄を発掘することは、投資効率を高める最も有効な手法になるはずだ。
重要な視点は、何といっても、潜在力の高い製品を有する企業を見つけることだ。
そして、当該企業への注目度がそれほど高まっていない時点で、株式を仕込むことが必要だ。つまり、安値で放置されている間に、先回りして買ってみることである。
そこで大切になるのは、経営者の姿勢や戦略にも注目することだ。経営資源(ヒト、モノ、カネ)を成長分野に配分し、積極的に他社との提携戦略を拡充することも必要だろう。
また、常に事業運営体制を見直し、次の戦略製品の開発に向けた設備投資を積み増していることがポイントになるだろう。これらの点は、比較的報道などで確認できることが多いので、重要な見どころになるはずだ。
■9月、キオクシア株が高騰した背景
2024年12月18日、キオクシアは東京証券取引所プライム市場に上場した。上場当日の終値は1601円だった。2025年初以降もしばらくは株価に大きな動きは見られなかった。8月まで、おおむね上場時の株価水準から2500円程度の圏内でもみ合う展開が続いた。
ところが、2025年9月5日、キオクシアの株価は3000円台に急上昇した。キオクシアのメモリ半導体需要が、急速に増加するとの見方が増えたためだ。

きっかけは、米国政府の対中半導体関連規制の強化だった。それにより、NAND型フラッシュメモリ最大手の韓国サムスン電子、第2位SKハイニックスの中国工場からの供給が減少するとの観測が出た。
中国で、サムスン電子はNAND型フラッシュメモリ供給の4割、SKハイニックスは2割程度を生産しているとみられる。世界トップツーの韓国2社の供給が減少する分、他のメモリ半導体メーカーに需要は流れる。
しかも、2025年の年初以降、世界全体でAIデータセンターなどに使うメモリ半導体の不足は深刻化した。米マイクロソフトやアマゾン、グーグルなどが、こぞってストレージ能力の拡張を急ぐタイミングで、トランプ政権が規制強化したインパクトは大きかった。
■AI時代に需要が増えるSSDに先行投資
キオクシア、米サンディスク(ウエスタンデジタルから分社化したNAND型フラッシュメモリメーカー)、シーゲイト・テクノロジーに需要が急激に流れ込み業績は拡大するとの期待は高まった。秋口以降、各社の株価は急速に上昇した。
その中でも、キオクシアの株価上昇は鮮明だった。要因の一つに、同社がデータセンター向けのSSD供給量を増やしたことがある。特に、キオクシアはAI学習などに使う画像処理半導体(GPU)と組み合わせて使う、処理速度の高いSSDの開発を重視してきた。
AI開発競争の激化に伴い、推論用のデータを保存するデバイス(ストレージ)の需要は拡大傾向にある。
データ転送速度の速いHBMに加え電力消費性能の高いSSDを使い、AI開発を加速させようとする企業は増加している。
こうした変化を背景に、キオクシアの成長期待は高まり、2025年通年で同社の株価は主要先進国企業の中でトップクラスの上昇を記録した。
■大手投資家たちも成長性を見逃していた
2018年6月、キオクシアは東芝からスピンオフした。それ以降のキオクシアの事業展開を見ると、次のキオクシアが出現する可能性は十分にあるだろう。
成長企業の必須条件は、まず、競争力のある技術、事業を保有し、しかも株価に割安感があることだ。
キオクシアは、世界第3位のNAND型フラッシュメモリメーカーである。東芝の不適切会計問題の影響は大きかったが、メモリ半導体の製造技術は世界的に高い。また、上場直後の時点で、キオクシアのPBR(株価純資産倍率)は1.4倍程度、SKハイニックスの1.9倍、米マイクロン・テクノロジーの2.7倍程度を下回る。競争他社比、株価に割安感はあった。
見方を変えれば、2025年の9月ごろまで、大手の投資家はキオクシアの成長性をあまり評価していなかった。その理由の一つに、収益基盤が不安定な状況が続いたことがあるだろう。
■2027年には次世代SSDの製品化を計画
2023年、挽回を目指してキオクシアは、人員削減をはじめとする大規模なリストラを敢行した。
当時、キオクシアは、民生機や車載用メモリ在庫の積み上がりに直面した。HBM製造に必要なDRAM生産ラインを持たない(NAND型フラッシュメモリ専業である)ため、初期のAI関連需要も取りこぼした。長江存儲科技(YMTC)など中国のメモリ半導体メーカーの追い上げも急ピッチに進んだ。
キオクシアの経営トップは構造改革を断行し、経営資源をAIデータセンター向けの需要拡大が期待される先端のSSD開発に配分した。特に、需要が飽和傾向にあるスマホ用のメモリ生産を削減し、データセンターなどエンタープライズ向けのストレージ事業に集中的にヒト、モノ、カネを再配分した。
リストラに加え、キオクシアはAI関連企業との協業体制も増強した。その一つとして、キオクシアは、米エヌビディアと動作速度を既存機種の100倍程度に引き上げたSSDを開発している。次世代SSDは2027年に製品化を目指している。
上場で調達した資金などを活用し、2022年以降のメモリ半導体市況の悪化で凍結した設備投資も再開した。2029年までに三重県にある四日市工場に、提携する米ウエスタンデジタルと共同で計7300億円余りを投じることを明らかにした。投資額のうち、最大2430億円は経済産業省が補助を行う。
■「次のキオクシア株」を見つけ出すには
足元、AIを搭載したロボット開発は急速に増えている。
中長期的なAI関連分野の成長期待は高い。キオクシアは、しっかりとAI関連分野の需要を取り込む事業基盤を整備し、2025年の株価上昇につながった。株価高騰銘柄の発掘には、その企業のセグメント=事業領域が成長期待の高い分野であるか否かを確認する必要がある。
その上で必要なのは、新しいモノやサービス(需要)の創出だ。この点でも、キオクシアは布石を打った。注目の一つは、コンピュート・エクスプレス・リンク=CXLと呼ばれる次世代のデータ転送デバイス開発である。
CXLは演算装置〔GPUやCPU(中央演算装置)〕とDRAMやSSDなどメモリデバイスを接続するインターフェイス装置をいう。CXLを使うと、データセンターのメモリ増設が容易になるといわれている。
2024年3月にキオクシアが発表した研究報告によると、CXLメモリ(CXLで外付けのDRAMをAIサーバーに接続したメモリ装置)は、サーバーに当初から搭載されたメモリ(ホストDRAMとよぶ)と同等の性能を発揮した。2030年には、実用化を目指すCXLをメモリ半導体とあわせて使うことで、AI関連ビジネスの収益性は高まるだろう。
■TSMCとサムスン電子の明暗を分けたもの
成長期待の高い次世代技術を競合他社に先駆けて実用化するには、特定の分野に集中したほうがよい。キオクシアが、NAND型フラッシュメモリ専業のビジネスモデルに磨きをかけることは、中長期的な成長期待を高めるために必要だろう。
異なる事業を複数保有する韓国サムスン電子と、半導体の受託製造専業である台湾積体電路製造(TSMC)のシェア格差が拡大傾向であることからも確認できる。
今後、重要なのは、キオクシアが先端分野での設備投資を積み増し、競争優位性に磨きをかけることができるか否かだ。1986年の第一次日米半導体協定、1990年年初のわが国の資産バブル崩壊による景気の長期停滞、グローバルな水平分業の加速などにより、キオクシアをはじめわが国の半導体関連企業は設備投資を増やすことが難しくなった。
経営陣が常に成長期待の高まる分野を見定め、設備投資を先んじて実行することは、企業の高い成長と株価上昇に重要だ。こうした観点から企業の業績、事業戦略などを分析することは、キオクシアに次ぐ株価高騰銘柄を探す主な要件になるだろう。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)

多摩大学特別招聘教授

1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)
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