東京地裁では毎日、刑事裁判が30~70件、民事裁判が200~700件ほど行われている。裁判傍聴ライターの阿曽山大噴火さんによる『バカ裁判傍聴記』(Hanada新書)より、想像を絶する事件の裁判傍聴記を紹介する――。
(第1回)
■裁判傍聴ライターが呆れかえった40歳男性の事件
今回は、呆れてしまう想像を絶する事件の裁判傍聴記です。
罪名 道路交通法違反

被告人 会社員の男性(40)
起訴されたのは、令和4年9月某日の午前1時過ぎ、被告人が無免許かつ酒気を帯びた状態で車を運転したという内容。どちらか片方だけでもダメなのに、無免許の飲酒運転ですよ。なかなかの事件です。でも実は、もっと凄いことが起きていた事件だったのです。
検察官の冒頭陳述によると、被告人は高校を卒業後に職を転々として、犯行当時は建築会社に勤めていたそうです。被告人はもともと車の免許を取得していましたが、5年前に道交法違反で逮捕されて免許取り消し処分に。その後、免許の再取得はしてなかったそうです。
そして、犯行当日。
被告人は仕事を終え、帰宅して一人でお酒を飲んでいた。すると、友人から飲みの誘いの連絡があり、友人の待つ居酒屋へ行き、一緒にお酒を飲むことになったそうです。被告人はそのお店でチューハイ6杯を飲んで泥酔。
そんなベロンベロンに酔っ払った被告人を心配した友人はタクシーを呼んで、運転手に被告人の住所を伝えてから被告人をタクシーに乗せたそうです。
■酔っ払った男性が盗んだまさかのモノ
十数分後、タクシーが被告人の自宅近くに到着。被告人は運賃を払わずにタクシーを降車したので、無賃乗車だと判断した運転手は細い路地に入った被告人を追跡です。すると、酔っ払った被告人は突然、運転手を殴ろうと襲いかかったそうです。
運転手は急いでその場から離れて、スマホで警察署に通報。無賃乗車の客が殴りかかってきたという状況を警察官に伝えていると、被告人が運転するタクシーが真横を通過したとのこと。そして、被告人の自宅から6キロ離れた工事現場。被告人が運転するタクシーが縁石に乗り上げて停車すると、運転席から酔っ払った被告人がフラフラ出てきて、歩道上であぐらをかいて眠り始めた。
その一部始終を見ていた交通整理の男性が110番して被告人が逮捕された、というのが検察官の冒頭陳述になります。
無免許と飲酒運転だけじゃなく、無賃乗車と暴行とタクシー泥棒もやっちゃってたという呆れる事件なのでした。タクシー会社と示談できたので、道路交通法だけで起訴されたようです。
一緒に居酒屋で飲んでた友人もビックリですよね。
良かれと思ってタクシーを呼んだのに、そのタクシーを使って事件を起こすとは。自宅近くまで乗せてもらったのに、そこからどこへ行こうとしたのか、ツッコミどころが多い事件ですね。
■弁護人が「これ、前代未聞ですよ!」
法廷には、被告人と同居している母親が情状証人として出廷です。「被告人が家で酒を飲む時はそんなに大量には飲まないので、酒癖が悪いとは思ってなかった」と証言。今後は酒を飲ませない、と約束していました。
そして、被告人質問。弁護人から。
弁護人「無免許運転、飲酒運転、無賃乗車、タクシー泥棒……これ、前代未聞ですよ! かなり異常な行動だけど、なぜやったんですか?」

被告人「全く覚えてないです」
アルコールの影響で、被告人は事件の記憶が無いのです。被告人の味方であるはずの弁護人でさえも、前代未聞の事件だと呆れているわけです。
弁護人「飲み過ぎると、こんな不合理なことするの?」

被告人「気が大きくなることはありますね」

弁護人「事件を振り返ってどうですか?」

被告人「ホンットにいろんな人に迷惑かけました」

弁護人「会社の方はこの事件を知ってるんですか?」

被告人「はい。社長が忙しいなか、面会に来てくれました」

弁護人「いまは保釈されてますけど、お酒のことで病院に通ってるんですね?」

被告人「はい、社長に言われましたので」
社長から「アルコール依存の治療をしないとクビにする」って言われたみたいで、現在は通院中だそうです。被告人としても、治療しなきゃと感じているそうです。

■記憶がないのにシートベルトは締めていた
続いては、検察官からの質問。
検察官「記憶が無いと。逆に言うと、どこまで覚えてるんですか?」

被告人「居酒屋に入って、チューハイ2杯までです」
居酒屋に行く前に自宅で缶ハイボールを2本飲んでたらしく、居酒屋に着いた時にはすでに酔っ払ってたと思われます。
検察官「酒を飲んでる途中まで。じゃあ、そのあとタクシーに乗ったことは?」

被告人「全くです」

検察官「タクシーに乗って料金を払わないで下車するとか、運転手に殴りかかるとか、タクシーを奪って乗り回すとか。全く覚えてないわけね?」

被告人「はい、全く……」

検察官「タクシー車内のドライブレコーダーの映像見るとね、タクシーを運転してる時にちゃんとシートベルト締めてるんだけどね?」

被告人「覚えてないっす」
記憶がないほど酔っ払いながら、無意識にシートベルトは忘れてなかったようです。それ以外は全て違法ですが。テレビドラマで殺人犯が盗難車で逃走する時にしっかりとシートベルトを締めてる描写が変だと言われますが、この裁判を見ると、ある意味、リアリティーある演出かもしれませんね。
■飲酒運転で捕まったのは今回で2回目
検察官「いままで、酒飲んでやらかしたことってありますか?」

被告人「いや~ないですけどね……強いて言うなら、路上で寝るくらいですね」
十分なやらかしでしょ。何が「強いて言うなら」なのやら。すると、この答えを聞いた検察官は急に怒り出して、
検察官「いやいや、あなたの前科二犯は飲酒運転でしょ!」

被告人「あ、そうでした」
お酒を飲んだのに自分のスクーターに乗ったという事件で有罪判決を受けていたらしく、それが酒でのやらかしに数えられてないのが驚きです。最後は裁判官から。

裁判官「普段、どれくらい飲むんですか? 量とか頻度とか」

被告人「家ではロング缶のハイボールを2本くらい。外で飲んだ時はどれくらいか分からないです。頻度としては毎日ですね」
記憶なくすだけあって、事件の日は普段の酒量より多かったようです。
裁判官「犯罪記録を見ると前科二犯って、どちらも飲酒運転なんですかね?」

被告人「酒飲んで自分の原付バイクに乗っちゃって……」

裁判官「前回の裁判の時に、もう酒やめようとは思わなかったですか?」

被告人「思いました! ……それが1年経ったら飲みたくなっちゃって。今回はやめようと思ってます!」
幸いにも物損・人身事故はなかった
裁判官「一、生、涯ね!!」
と、一言ずつ噛み締めるようにアドバイスです。被告人は飲んじゃダメなタイプと思ったんでしょう。事件の時と同じくらい飲んだら似たことが起こりそうですしね。酒は飲まないほうが良さそう。これで被告人質問は全て終了。
このあと、検察官からの求刑です。
検察官「被告人は過去に2度も飲酒運転で有罪判決を受けているのに、懲りずにまた同じことをしており反省がみられない。相当量のアルコールを摂取し、運転できないほどに泥酔し……」
と、論告を朗読していると、裁判官が割って入ってきて、
裁判官「ん? ちょっと待って下さい。
『運転できないほど泥酔』って言いますけど、被告人は6キロの距離を事故起こさずに運転してますよね? 運転できてますよ」
と、訂正すべきと忠告です。たしかに、被告人は相当な量のアルコールを飲んで記憶もなくしてたけど、シートベルトも装着して無事故なんですよね。不思議な被告人だ……。結局、検察官は論告を書き換えて懲役10月を求刑。
懲役10月

執行猶予4年
幸運にも事故が無かったから笑っていられる裁判なんですけど、物損事故、ましてや人身事故なんか起こしてたら大変な話ですよ。

----------

阿曽山 大噴火(あそざん・だいふんか)

裁判ウォッチャー

1974年生まれ、山形県出身。月曜日から金曜日の9~17時、東京地裁に通勤定期券で通う、裁判傍聴のプロ。1999年のオウム裁判傍聴以来1万件を超える裁判を傍聴。裁判ウォッチャーとして、テレビ、ラジオのレギュラー、雑誌、ウェブサイトでの連載を持つ。

----------

(裁判ウォッチャー 阿曽山 大噴火)
編集部おすすめ