■50代夫婦が老後を迎えるにあたっての最大の懸念
今回相談に来られたのは、働けないお子さん(26)を持つ母親(55)です。本人は発達障害と診断されており、障害年金を受給しています。就職できたのと比べれば、収入は少ないのですが、それでも定期的な収入が確保できています。
しかし母親は浮かない表情です。
「障害年金を受給できたのはよかったのですが、かえって金遣いが荒くなってしまったようなのです。このままで良いものかと心配で……」
私は詳しく状況を伺いました。
◆相談者の家族構成(名前は仮名)
相談者:母親 佐藤 圭子さん55歳(パート)
家族:父親 健司さん58歳(会社員)
長男 翔太さん26歳(無職)当事者
※兄弟姉妹はなし
◆資産
・貯蓄額:約1200万円
・自宅は持ち家(マンション)
◆収入
・父親の給与収入(手取り額):概算580万円/年
・母親の給与収入(手取り額):概算100万円/年
・本人の障害年金(手取り額):概算83万円/年
◆支出
・生活費:年額約220万円
・住居費:年額約160万円
話を聞くと、長男は子どもの頃から人づきあいが苦手で、周囲になじめない傾向がありました。高校からは休みがちになり、何とか卒業して大学に進学したものの、ほとんど通うこともなく退学してしまいました。
そのまま就職もせずに自宅で暮らしています。外出や買い物は問題なくできるのですが、集団生活が困難で、就職は難しい状況です。
■このままでは息子が70代半ばに貯蓄が底をつく
障害年金は本人の口座に入金されています。それ以来、お小遣いを渡さなくて済むようになったのは助かりましたが、どうやら受給している年金額のすべてを使ってしまっているようです。
「インターネットのゲームに使っているようで、お金があるだけ課金をしてしまうのです。今は私たちがいますから生活に支障はないのですが、将来私たちがいなくなったら、生活していけなくなるのではないかと心配です」
母親は気が気ではないといった様子です。「こんなことなら障害年金を申請しなければよかった」とまで言い出します。
「年金はご本人が受給していますので、ご本人のお金です。一人暮らしで自立した生活を送っているのならば、どのように使おうとも本人の自由です。しかし、息子さんの場合はご両親と同居していて、食費などの生活費も賄ってもらっている状況です。それならば、その分はご両親に渡す必要があるはずです」
私が当然のことを言ったつもりでしたが、母親の考えは違いました。
「今、お金がほしいというのではありません。もし、いくらかでも入れてくれるのであれば、それは本人のために貯蓄をしておきたいと考えています」
「それは良いですね。
障害年金の受給によって、本人は定期的な収入を得ることができました。「自分の収入」というものができ、自立できた気になってしまったのかもしれません。しかし、依然として衣食住は親抱えです。障害年金だけでは生活費として十分ではありませんので、今すぐに必要ない分は、将来に備えて貯めておきたいものです。
母親と話し合い、次回には本人にも来てもらうことにしました。その間に私は、将来の家計状況をシミュレーションして、本人に見てもらいます。
■85歳までを考えると、およそ1700万円不足
2週間後、母親とともに本人がやってきました。行けば何かしら生活態度について指摘されることが予想されますので、親から声をかけてもらっても、実際には来ないことが多いのですが、今回は違いました。
私は、作成しておいたシミュレーションを見せました。「今の状態が続いた場合の、将来の家計予想」です(図表1)。
<設定条件>
・ 現在の年齢の平均余命より、父親は84歳、母親は89歳で他界するものとし、本人85歳までシミュレーションを行う。
・ 父親の現在の給与手取り額は580万円。60歳時に退職金1500万円を受け取り、給与手取り額はそれまでの半額となる。65歳でリタイアする。
・ 母親の現在の給与手取り額は100万円で、65歳でリタイアする。
・ 本人の障害年金はすべて使ってしまっているので、収入として計上していない。母親が亡くなる34年後(本人59歳)より収入として計上する。
・ 年金手取り額は父親が250万円、母親は100万円で、ともに65歳から受給。
・ 現在の生活費は220万円。父親が亡くなった時点で3割減、母親が亡くなった時点で4割減としている。
・ 上昇率は、収入は年1.5%、生活費は年2.0%、住居費は年1.0%としている。貯蓄はすべて預貯金で、利率は考慮していない。
両親が存命中は、両親の年金もあり、貯蓄残高は維持できます。
「(26歳という現在の年齢からすれば)60、70代というと遠い先のように思えますが、今の生活が将来の状況にかかわってくるのです。今の状況が続くと、老後までに破綻してしまいます。そうなる前にも、相当切り詰めた生活をしなければならなくなります」
■お節介を承知で本人に提案したFPの“小言”
これではいけないと思い、私はついこんな提案を本人に直接してしまいました。
「いきなり、ゲームの課金をすべてやめて節約だけにするというのは難しいでしょう。まずは受け取っている年金の半分をお母様に渡してみるのはいかがでしょう。お母様は、預かったお金を将来のために貯蓄してくださるそうです」
親との同居で、生活費を出してもらっているのであれば、それに相応した金額を、年金の中から払うのは当然のことです。年金は本人のものであるとはいっても、すべてを自由に使ってよいわけではありません。
小言めいた発言でしたが、この時、「お金を自宅に入れるべき」という言葉は避けました。それよりも、将来の自分のメリットになることを訴えました。自分が楽になるのであれば、今少しは我慢しようという気持ちになるかもしれないと考えたからです。
そして、年金額の半分を貯蓄した場合のシミュレーションを見せました(図表2)。
<設定条件>
・ 1年目より、本人の障害年金の半分(42万円)を収入として計上している。
・ その他の条件は、最初のシミュレーションと同じ。
このケースでも、両親が亡くなると、貯蓄が減少していくことに変わりはありません。しかし、それまでの間に貯蓄を増やすことができていますので、本人が85歳になるまでは貯蓄が枯渇するのを避けられます。もちろん、これだけで老後の心配がなくなるとは断定できませんが、それでも状況はかなり改善されます。
すると、本人が口を開きました。
「自分でも、もらった年金をすべて使うつもりはなく、半分ぐらいは貯蓄しておこうと思っていたんです。でも、なかなかできなくて。先にお金を渡してしまったほうが、確実に貯蓄ができますね」
どうやら、本人も「このままではまずい。何とかしなければ」と思っていたようです。それだけに、意外とすんなりと、私の提案を受け入れてくれました。
「ゲームの課金は、お金がある範囲でやることにします。年金をもらう前に戻ったと思えば、できないことはありません」
本人から、力強い貯蓄宣言も出ました。
公的年金は、偶数月に2カ月分が支給されます。15日に年金が入ったら、すぐに半分を母親に渡すことにしました。さっそく次回の支給日から始めます。
■障害年金をすべて親が管理はダメ
もっともこれですべてが解決したわけではありません。毎月きちんと続けられるのか、小遣いが足りなくなって親にお金をせびらないか、心配は尽きません。その時にはまた改めて対策を考えるようにしましょう。まずは本人の心がけに期待したいと思います。
障害年金は受給できれば、それに越したことはありません。しかし、受給できたからといって、それで終わりではありません。定期的な収入ができることによって、気が大きくなってしまう人もいます。年金がもらえたとしても、その分支出が増えてしまっては元も子もありません。
親と同居しているのであれば、年金を貯蓄していくぐらいでないと、将来の生活設計は成り立ちません。だからといって、支給される障害年金をすべて親が管理してしまうのもどうかと思いますが、家族で話し合って、適切な使い方を考えたいものです。
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村井 英一(むらい・えいいち)
ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。
大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。
特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。
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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)

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