結局、投資する銘柄をどう決めるのが賢明なのか。個人資産24兆円のウォーレン・バフェット氏が80年以上にわたる投資人生で培ってきた「成功の原則」を氏が執筆した膨大な著作からジャーナリストの桑原晃弥さんが読み解いた――。

※本稿は、桑原晃弥『バフェットさんが伝えたい お金を増やすために大切な10のこと』(イースト・プレス)の一部を再編集したものです。
■家電を買うときぐらい、ちゃんと調べてみよう
「この間出席したパーティーで小耳にはさんだのでね、200株買ってみたんだ」という話をよく聞きますが、小口の投資はたいした理由もなく行われてしまう傾向があるように思います――『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』60頁
なぜ家は慎重に選ぶのに、株は数分で決めるのか
「株式投資」と聞いただけで「危ないんじゃないか」と腰が引ける人がいます。知り合いがかつて投資で大失敗したからという人もあれば、何となく怖そうでという人もいます。
たしかに投資にはリスクがあります。銀行預金のように元金が保証されることはありませんし、株価が急落すれば「自分のお金」がみるみる減っていきます。そんな経験をすれば「ああ、株なんかやるんじゃなかった」と後悔するのも無理はありません。
ここで考えてみたいのは、株式投資で失敗した人が「その企業についてどれだけ知っていたのか」「株式投資のリスクをどれだけ理解していたのか」ということです。すべてを理解したうえでの失敗なら仕方ありませんが、よく知らないまま失敗したのだとしたら、それは投資家自身の問題かもしれません。ピーター・リンチはこんな言葉を残しています。
「家を買うためには何カ月もかけるのに、えてして株式投資は数分間で決めてしまう。ほとんどの人は、株式投資より電子レンジを買うことのほうに、より多くの時間をかけるのである」
たとえば家を買うとき、不動産会社に勧められたからという理由だけで即決する人はいません。実際に現地に行き、日当たり、買い物の利便性、駅までの距離、学校のレベル、病院の有無など細かくチェックします。
複数を比較して、頭金やローンの返済についても慎重に検討します。これは家ほど高額でない家電製品でも同じですし、夜の食事の店や旅行先のホテル・交通手段を選ぶときにも、ある程度の時間をかけて調べます。理由は「失敗したくない」からであり、「いい選択をした」と満足したいからです。
では株式投資はどうでしょうか。本来なら「高価な買い物」であるにもかかわらず、十分に調査もしないで買ってしまう人が少なくありません。会社から送られてくる年次報告書をろくに読まず、そのままゴミ箱に捨ててしまう人もいるのです。
■リスクを減らすのは「よく知ること」
まさにバフェットさんの言う「この間出席したパーティーで小耳にはさんだのでね、200株買ってみた」です。今なら「ネットで誰かが勧めていたから」という人もいるかもしれません。
食事に行く店選びや旅先のホテル選びに時間をかけるのは、失敗したくないからです。少しでも安くて良い店やホテルを見つけたい。そのために人は事前に調べ納得いくまで比べます。
もちろん、それでも失敗がゼロになるわけではありませんが、リスクは確実に減ります。
株式投資も同じです。「有名人がネットで勧めていたから」「証券会社が強く勧めてきたから」で株を買うことはあっても、それがリスクを避ける理由にはなりません。
ある人がバフェットさんと食事をしたときのこと。毎回同じ店なので「この間行ったばかりですよ」と言うと、バフェットさんは笑って答えました。
「なぜわざわざ店を変えるようなリスクを冒すのですか。あの店なら、どんな料理が出てくるか確実にわかるでしょう」
会社の中身をよく知っていて、リスクが少なく、確実に勝てる企業に投資する。それがバフェットさんのやり方なのです。
■納得できないなら、それはまだ「買い時」じゃない
「なぜ自分は現在の価格でこの会社を買収するのか」という題で、一本の小論文を書けないようなら、100株を買うこともやめたほうがいいでしょう――『バフェットの株主総会』115頁
まねして買うより、理由をもって買おう
バフェットさんが投資に際して「自分がよく知り、理解できる分野」にこだわるのは、知ることがリスクを小さくしてくれるからです。知らない街を訪ねたり、知らないレストランに入るのはワクワクする一方で少し怖さもありますが、自分がよく知る街やレストランにはそんな怖さはありません。
投資にも同じことが言えます。投資には確固たる理由、それも自分の頭で考えた理由が必要だ、というのがバフェットさんの考え方です。
ところが現実には、多くの人が「値上がりしているから」「専門家が推奨しているから」といった単純な理由で買い、また逆の理由で売っています。
バフェットさん自身も、初めての株式投資は「父親が推奨しているから」という理由でしたし、学生時代もしばらくは「グレアムが買っているから」と師の動向を気にしていました。
しかし、やがて自分流の投資手法を身につけてからは、何より「自分の頭で考える」ことを重視するようになります。
バフェットさんは、これから投資を始めようとする人にこうアドバイスしています。
「『なぜ自分は現在の価格でこの会社を買収するのか』という題で一本の小論文を書けないようなら、100株を買うこともやめたほうがいいでしょう」
投資には確固たる理由が欠かせません。それは「○○が買ったから」「○○が推奨しているから」といった他人任せの理由ではなく、自分で調べ、自分で考えた理由でなければらないのです。
投資をするなら「どの銘柄を買い、なぜその銘柄を買うのか」と自分に問いかけてみることです。納得のいく答えがなければ、株に手を出すのはちょっと待った方がいいでしょう。反対に、確固たる理由さえあれば周囲の声など気にせず、自分で選んだ株に投資すればいいのです。
■探偵になったつもりで調べてみる
問題は「小論文を書けるくらい」とは、どのレベルのことなのでしょうか。
バフェットさんには、フィリップ・フィッシャーというもう一人の師匠がいます。フィッシャーが重視したのは「聞き込み」と呼ばれる調査でした。グレアムのように「数字重視」ではなく、経営陣や研究開発、営業体制、顧客といった「人」にも注目します。
できるだけ多くの人に会い、話を聞き、企業の将来性や成長可能性を探る。それがフィッシャー流でした。バフェットさんはこう話しています。
「会社が近くにある時は、まず例外なく経営陣に会いに行った」
またこんなこともしたそうです。1960年代、子会社の不祥事でアメリカン・エキスプレスの株価が急落したときのこと。バフェットさんはオマハのレストランなどで同社のクレジットカードが使われているかを調査しました。結果は「変わらず信用されている」。
そのうえで、同社に投資を決めています。そして、のちにバークシャー・ハサウェイにとって重要な存在となる保険会社のガイコについても、大学院生時代に訪問。何時間も担当者から話を聞き、その確信をもとに、自分の資金の大半を投じました。
経営陣に会うのは一般の投資家には難しいことです。けれども「できる範囲で調べる」「納得できたら投資する」という姿勢を守るだけでも、リスクは小さくなり、成功の確率はぐっと高まるのです。

■(参考文献)

ウォーレン・バフェット 華麗なる流儀:現代版「カサンドラ」の運命を変えた日』ジャネット・タバコリ/牧野洋 訳、東洋経済新報社、2010年。

『ウォーレン・バフェット 自分を信じるものが勝つ!』ジャネット・ロウ/平野誠一 訳、ダイヤモンド社、1999年。

『ウォーレン・バフェット成功の名語録』桑原晃弥 著、PHP研究所、2012年。

賢明なる投資家:割安株の見つけ方とバリュー投資を成功させる方法』ベンジャミン・グレアム/土光篤洋 監、増沢和美ほか 訳、パンローリング、2000年。

最高経営責任者バフェット:あなたも「世界最高のボス」になれる』ロバート・P・マイルズ/木村規子 訳、パンローリング、2003年。

スノーボール:ウォーレン・バフェット伝(上)』アリス・シュローダー/伏見威蕃 訳、日本経済新聞出版社、2009年。

スノーボール:ウォーレン・バフェット伝(下)』アリス・シュローダー/伏見威蕃 訳、日本経済新聞出版社、2009年。

世紀の相場師 ジェシー・リバモア』リチャード・スミッテン/藤本直 訳、角川書店、2001年。

『投資参謀マンガー:世界一の投資家バフェットを陰で支えた男』ジャネット・ロウ/増沢和美 訳、パンローリング、2001年。

『フィッシャーの「超」成長株投資:普通株で普通でない利益を得るために』フィリップ・A・フィッシャー/荒井拓也 監、フォレスト出版、2000年。

バフェット&ゲイツ 後輩と語る:学生からの21の質問』センゲージラーニング株式会社 編、同友館(発売)、2008年。

『バフェットからの手紙:世界一の投資家が見たこれから伸びる会社、滅びる会社』ローレンス・A・カニンガム 著/増沢浩一 監、パンローリング、2000年。



バフェットからの手紙(第4版):世界一の投資家が見たこれから伸びる会社、滅びる会社』ローレンス・A・カニンガム/長尾慎太郎 監、パンローリング、2014年。

バフェットからの手紙(第5版):世界一の投資家が見たこれから伸びる会社、滅びる会社』ローレンス・A・カニンガム/長岡半太郎 監、パンローリング、2021年。

バフェット合衆国:世界最強バークシャー・ハサウェイの舞台裏』ロナルド・W・チャン/船木麻里 訳、パンローリング、2011年。

バフェット 伝説の投資教室』ジェレミー・ミラー/渡部典子 訳、日本経済新聞出版社、2016年。

バフェットの株主総会』ジェフ・マシューズ/黒輪篤嗣 訳、エクスナレッジ、2009年。

バフェットの投資原則:世界No.1投資家は何を考え、いかに行動してきたか』ジャネット・ロウ/平野誠一 訳、ダイヤモンド社、2008年。

『ビジネスは人なり 投資は価値なり』ロジャー・ローウェンスタイン/ビジネスバンク 訳、総合法令出版、1998年。

ピーター・リンチの株で勝つ』ピーター・リンチ/ジョン・ロスチャイルド/三原淳雄・土屋安衛 訳、ダイヤモンド社、2001年。

『日経ヴェリタス』第194号、日本経済新聞社、2011年11月27日。

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桑原 晃弥(くわばら・てるや)

経済・経営ジャーナリスト

1956年、広島県生まれ。経済・経営ジャーナリスト。慶應義塾大学卒。業界紙記者などを経てフリージャーナリストとして独立。トヨタ式の普及で有名な若松義人氏の会社の顧問として、トヨタ式の実践現場や、大野耐一氏直系のトヨタマンを幅広く取材、トヨタ式の書籍やテキストなどの制作を主導した。著書に、『スティーブ・ジョブズ名語録』(PHP研究所)、『ウォーレン・バフェットの「仕事と人生を豊かにする8つの哲学」』『トヨタ式5W1H思考』(以上、KADOKAWA)などがある。

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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)
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