■中国で話題を集めた異例の「ロシア崩壊」記事
「やがて訪れるロシアの大混乱は中国にとって絶好の機会であり、700万平方キロメートルの極東を失ってはならない」
2025年12月15日、中国で人気のある情報プラットホーム、「NetEase」に、ロシア崩壊に備えて中国が極東の奪還に動くよう訴える奇妙な記事が掲載された。
上海を拠点に活動するアナリスト、「劉森森」署名の寄稿は、「ロシア極東は人口が希薄で寒冷。インフラは貧弱で、ロシアは効果的に管理できていない」「2022年に始まったウクライナ戦争は長期化し、ロシア軍の主力は欧州部に配置され、極東の部隊は5万人未満だ」「この地域はますます荒廃していく」などと述べ、「ロシアが崩壊した場合、極東が分断される可能性は高い。中国は事前に準備しておくべきだ」と指摘した。
記事は、武力による制圧は良くないとし、「より賢明な戦略はソフトパワーだ。投資や経済協力、長期契約、移民の進出などを進め、地元の親中的な勢力を支援することだ」としている。
この論評には多くの書き込みがなされ、ウクライナのメディアが紹介するなど話題を呼んだ。現時点でロシアが崩壊したり、極東が分裂したりする可能性は全くないが、検閲の徹底した中国でこの種の論調が登場するのは異例だ。
■もはや「広東省以下」
記事はまた、ロシアで内部分裂が生じた場合は極東が危険にさらされ、米国や日本、欧州も干渉すると警告。「極東を『故郷』に戻す準備をすべきだ」と訴えている。
緊密化する中露関係は事実上の同盟に近づいているが、経済格差の拡大で中国側にロシアを蔑視する傾向があることも事実だ。
ロシア極東に対する中国の領土的な「野望」は、中国の自然資源部(省に匹敵)の標準地図が毎年、中露国境画定条約を無視し、アムール川の川中島である大ウスリー島全体を中国領と明記することにもうかがえる。
中露両国は04年、国境交渉で最後に残ったアムール川の大ウスリー島(中国名・黒瞎子島)とタラバロフ島の領有権問題を面積折半の原則で決着させることで合意した。これに伴い、島の全域を支配していたロシアは08年、島の半分を中国に引き渡した。
しかし、中国の公式地図は両国の合意を無視し、全島を中国領と表記し続けている。この件についてロシア外務省は、「中露間の国境問題は決着済み」とし、問題視していない。ロシアはしばしば、日本での国際会議などで北方4島を日本領とした地図に抗議するが、「兄貴分」の中国には怖くて抗議できないようだ。
■清朝時代の遺恨
大ウスリー島は面積374平方キロメートルという巨大な川中島で、中国側は返還された島の西部にホテルや公園、少数民族村、グリーンエネルギー施設、橋などを整備し、「中国最東端の地」として年間60万人が訪れる観光地に仕立てた。これに対し、島の東側のロシア領は廃墟と化した軍施設などがあるだけで、荒廃している。
両国は24年、国境検問所の設置で合意したが、ロシア側の整備は進んでおらず、ロシアにとって極東開発は確かに「負担」のようだ。
中国が19世紀の不平等条約で帝政ロシアに約150万平方キロメートルの領土を不当に奪われたことは、中国の歴史教科書にも明記されている。
2004年の国境条約で両国国境は画定したものの、中国は極東やシベリアの森林や農地を長期間レンタルすることで、「実効支配」を拡大している。
■静かな「シベリア侵略」の実態
中国東北農民のロシア進出は1991年のソ連邦崩壊後に始まり、2015年の中露農業投資協力協定を経て、黒竜江省の企業が極東やシベリアの農地を借り上げて大規模経営をするようになった。
水不足の中国東北部は干ばつ被害が多いが、地球温暖化でシベリア南部や極東の耕作面積が拡大した。一方で、ロシア極東の農民人口は減少し、休耕地が拡大。中国企業が賄賂を使ってロシアの自治体を買収し、農地をリースする構図だ。
英BBC放送は19年の調査報道で、中国は極東の耕作面積の16%に当たる35万ヘクタールをロシアから借り受けたと伝えた。BBCは「中国人農民は大規模農業で大豆やトウモロコシを栽培し、本国の5倍の収入を得る」「中国人は種まき時に来て、収穫が終わると帰国し、寒い冬は本国で過ごす」と報じた。
22年にアムール川両岸の黒河とブラゴベシチェンスクを結ぶ初の道路橋が開通し、中国農民の進出がさらに拡大した模様だ。中国企業が管理し、ロシア人農民を雇用する農場もあるが、「ロシアの農民は給与を貰うと酔いつぶれ、中国人経営者を困らせる」(BBC)という。
ロシアの独立系情報チャンネル、「シピオン(スパイ)」が1月11日付で報じたところによると、ロシア連邦保安庁(FSB)は中国の工作員や仲介業者らがこの数か月、ブラゴベシチェンスクなどで活動を強化し、「中国の方が暮らしやすい」「極東の将来は中国との協力にかかっている」といった言説を広めていると警告した。
中国の工作活動はプーチン大統領にも報告されたという。
■ロシアで環境破壊
中国企業はレンタルしている極東・シベリアの森林についても、今年の森林伐採量を大幅に増加させる方針をロシア側に通告した。
バイカル湖周辺の森林大量伐採と中国への輸送を可能にする法案が25年12月、ロシア下院で審議され、賛成323、反対71で承認された。
ロシアのSNS、テレグラムで発信する独立系情報チャンネル「偵察者」(25年12月10日)によれば、中国企業はバイカル湖周辺の森林地帯の伐採と搬出を従来の4.4倍に増やす方針をロシアに通告。環境保護派の議員らは「生態系の破壊や砂漠化につながる」として反対した。しかし、表決ではプーチン政権与党・統一ロシアが賛成に回り、反対票は全体の4分の1にとどまったという。
「偵察者」は、中国の意を受けてロビー活動を行った与党議員3人を名指しで批判した。中国は環境保護のために国内での伐採を避け、ロシアで大量伐採する方針のようだ。
■中国人男性がロシアに熱視線を送るワケ
中露両国は25年9月、30日以内の短期滞在ビザを相互に免除する協定に調印したが、これに伴う負の影響もありそうだ。協定は中国側が両国間の人的交流を拡大するためにビザ免除制度の導入を求め、プーチン政権が同意したことで成立した。
「偵察者」(25年12月2日)によれば、ロシアのトルトネフ副首相兼極東連邦管区大統領特別代表はビザ免除により、大量の中国人がロシアに流入し、不法滞在する恐れがあるとし、「深刻な社会問題を起こしかねない」と反対した。「偵察者」は、ビザ免除の結果、政府の予想をはるかに超える中国人の波が既にロシアに押し寄せていると伝えた。
ロシア側の懸念の一つは、中国の業者がロシアでお見合いツアーを企画していることだ。元スピードスケートのオリンピック金メダリストで、ロシア下院国際問題委員会の第一副委員長を務めているスベトラーナ・ジュロワ氏は「中国の若い男性がロシアの花嫁を漁りに大量にやってくる」と警告した。
一人っ子政策を続けた中国は男性人口が女性より10%以上多く、結婚できない適齢期の男性は3500万人に上るという。これに対し、ロシアの女性人口は男性より10%多いうえに、ウクライナ戦争の死傷者は114万人(英国防省25年11月14日)と推定される。数十万の若い男性が徴兵を恐れて出国しており、若い女性が余っている。
プーチン大統領は出生増を最重要課題に据えるが、中露ビザなし交流は、ロシア人花嫁の大量出国につながりかねない。
こうして、中国は移民の流入や定住、民族間結婚などで、現地に親中派勢力を増やそうとしている。ロシアが無謀なウクライナ戦争に没頭する間、中国は着々と極東・シベリアで「失地回復」を画策しているかにみえる。中露間ではやはり、中国の方が一枚上手のようだ。
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名越 健郎(なごし・けんろう)
拓殖大学客員教授
1953年、岡山県生まれ。東京外国語大学ロシア語科卒。時事通信社に入社。バンコク、モスクワ、ワシントン各支局、外信部長、仙台支社長などを経て退社。2012年から拓殖大学海外事情研究所教授。
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(拓殖大学客員教授 名越 健郎)

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