衆院解散を検討しているという高市早苗首相。経営コンサルタントの小宮一慶さんは「解散しても現状の経済政策が続けば、国民の経済格差はますます広がることは間違いない。
デフレ期も格差拡大したが、インフレ時のそれはより厳しいものになる」という――。
■二極分化は明白…「中間層」が減少
高市早苗首相は14日、自民党幹部に23日召集の通常国会の冒頭で衆院を解散する意向を伝えると報じられました。その衆院選の結果がどうなるかはわかりませんが、現状の経済政策が続くと経済格差がますます広がることは間違いないでしょう。
図表1は、2015年と2023年の保有階層別の純金融資産です(野村総合研究所の資料に基づき作成)。純金融資産とは、金融資産から負債を差し引いたものです。
① 超富裕層(純金融資産5億円以上)

② 富裕層(1億円以上5億円未満)

③ 準富裕層(5000万円以上1億円未満)

④ アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満)

⑤ マス層(3000万円未満)
表には5つの階層の保有資産を表しています。
それを見ると、2015年からの2023年の間に、①超富裕層、②富裕層は世帯比率が合計で2.3%から3%に増え、かれらが保有する純金融資産の全体に占める割合も19.4%から26.1%に増えています。
③準富裕層まで含めると、2015年に世帯数で合計8.3%の世帯が純金融資産の36.9%を保有していたのが、2023年では10.3%の世帯が、44.7%の純金融資産を保有しています。
①超富裕層と②富裕層、③準富裕層と言われる比較的裕福な層の比率が増えながら、その保有資産もさらに増加しているのです。
■富める者はさらに富む流れ
逆に、純金融資産3000万円未満の比較的純金融資産を保有しない層である⑤マス層は世帯全体の中での比率は増えているのに、その金融資産の比率は減少しています。
2015年の世帯数は78.9%だったのが、2023年には79.4%に増加したものの、純金融資産の比率は3.4%減少しています。
⑥のマス層に、その上の④アッパーマス層(3000万円以上5000万円未満)を加えてみると、2015年に世帯数合計では全体の91.8%、保有する純金融資産では63.1%だったものが、2023年には順に89.7%、55.3%と、世帯数は微減でしたが、純金融資産は約8%も低下しています。

結局、純金融資産が①②③へ移っていることが顕著になっているのです。純金融資産3000万円から5000万円未満の④アッパーマス層の世帯比率が、2015年には世帯比率では12.9%あったのが2023年には10.3%に減少し、それが比較的裕福な③準富裕層、②富裕層、①超富裕層と、そうでないマス層に分化してそれぞれの層の比率を増加させているのです。つまり、中間層が減少して、上位層と下位層に分かれているという二極分化が鮮明となっているのです。
■今ではもっと格差が広がっている
ここでは統計を得ることが可能な2023年の数字を使いましたが、もし、2025年の数字があれば、上位層の純金融資産の保有比率はさらに上がっているものと推測できます。
なぜなら、一般的に金融資産を多く持つ人ほど、株式などのリスク資産への投資割合が多いからです。①超富裕層では金融資産のうち7割以上がリスク資産という推計もあります。
2023年12月末の日経平均株価は3万3464円、上場株式時価総額は833兆円でしたが、昨年12月末ではそれぞれ、5万339円と1150兆円でした。日経平均では50%、時価総額で38%の上昇です。したがって、超富裕層、富裕層、準富裕層の資産は2023年に比べて増加していると推測できます。
①超富裕層で2023年の時点で5億円の金融資産の7割(3.5億円)を株式で保有しているとすると、単純計算では1億3000万円ほどの金融資産が増加したことになります。
一方、⑤マス層のリスク資産投資比率は新NISAなどへの投資も増加しているとは思いますが、金融資産に占めるリスク資産の割合を考えても上位層ほどの増加はないと考えられます。
したがって、2023年以降も、二極分化はさらに広がっていると考えて間違いないでしょう。

■2026年はさらに格差が広がる
今年はさらに格差が広がるでしょう。ひとつは金利です。昨年12月に日銀は政策金利を0.25%引き上げ、0.75%としました。これにともない多くの銀行では2月に普通預金金利も0.2%から0.3%に引き上げられます。定期預金金利も上がります。1000万円以上の大口定期では、交渉次第では高い金利が得られます。
先日、ある会社の社長と話していたら、10億円を6カ月定期にするのに年利で0.9%の金利だと話していました。単純計算(単利)で、個人であれば、半年後の満期受取額は税引後の利息を含めて10億3585万8250円。ほぼノーリスクのほったらかしで、3500万円儲かります。まとまった大きな額を扱える企業や富裕層はますます裕福になるのです。
一方、日本では変動金利で住宅ローンを組んでいる人も多いですが、今後、金利上昇が直撃します。毎月の返済額が急激に増えない仕組みが適用されても返済総額は増えます。

さらには、長期金利も今年に入り一時2.1%を超えました。今は少し落ち着いていますが、衆院解散が現実味を帯びると、バラマキ懸念から長期金利がさらに上がることも十分にありえます。こちらも、資金が潤沢な個人や企業には有利ですが、これから住宅を買おうとするような層にとっては固定金利が上がり、逆風です。
住宅ローンの負債を持つ人は、変動金利のベースが以前より0.5%程度は上昇していますから、仮に3000万円のローンを抱えていれば年間15万円程度の負担増となります。さらに金利は今後も上昇が予想されます。一番低い時よりは1%程度の上昇が予想され、それでは年間30万円の負担増となります。
■配当総額は20兆円
さきほど裕福な層ほどリスク資産が多いと述べました。
保有資産に占める比率も高いですが、当然その額も多いのです。高市早苗首相が解散をほのめかしたことで、株価は一時それを好感して高騰しました。これも当然、株式を多く持つ層に有利です。
さらに、株式に関しては、2026年3月期にその配当がはじめて20兆円を超えるという報道がありました(日本経済新聞1月5日朝刊)。
個人の株式保有比率は全体の17%なので、20兆円のうちの約3兆5000億円が家計に分配されることとなりますが、その大部分は裕福な層の懐に入ります。
彼らはますます豊かになるという構図。
先に、合計で10.3%の①超富裕層、②富裕層、③準富裕層で44.7%の純金融資産を保有すると説明しましたが、彼らのリスク資産を保有する比率が高いことを考えると、3兆5000億円のかなりの部分は豊かな層に分配されるということになります。
そしてもうひとつ、注意しておかなければならないことがあります。それは、今年に入り配当利回りが長期金利を下回っているということです。
背景にあるのは株価上昇ですが、株価に対する予想配当の利回りは2.1%を切る水準で、先ほども述べた長期金利を下回る水準となっています。
これで株式投資がすぐに減るということはありませんが、機関投資家、とくに長期での運用成績を重視する投資家からは、株式から債券などへのポートフォリオの変更を検討される可能性が高い。それを防ぐために、企業はさらなる配当の増加や、自社株の買入れ償却を増やす必要に迫られます。
■給与は上がるか
こうした機関投資家への「対処」は、その企業に勤める社員の給与に極めて大きく関係します。企業が長期金利を意識して配当を増加させるということになれば、その配当原資を確保しなければなりません。場合によってはコスト削減も行われます。多くの企業で、費用の多くを占めるのは人件費です。
もちろん、人手不足が続く中、賃金の引き上げを考えているところも少なくありませんが、トータルでの人件費を抑えることも当然、多くの企業は考えています。

AIのさらなる活用などで、ひとり当たりの人件費は上げながらも、人数の削減などでトータル人件費は抑制しようとするのです。また、昨年は、黒字企業での人員削減も話題になりましたが、その傾向は続くでしょう。
厳しい言い方ですが、生き残る人の給与はある程度は上がりますが、そうでない人は職を失うリスクもあるのです。
そして、企業間の格差も考えなければなりません。大企業では、5%程度の賃上げが予想されていますが、中小ではなかなか難しいのが現状です。
さらに考慮に入れなければならないのはインフレです。物価高騰は少なくとも今年中は継続すると考えられます。これも比較的所得の低い層の家計をダイレクトに悪化させます。
そして現状、名目賃金からインフレ率を引いた実質賃金はマイナスの状態が長く続いています。金融資産を多く持つ層(主に前出①~③)では、金利や配当が実質賃金のマイナスをある程度補填し、資産の土台は揺るがないでしょう。しかし、そうでない層(主に④⑤)はそれも難しく、実質賃金のマイナスが生活をより苦しくするのです。
「経済格差」は30年続いたデフレ社会でも指摘されていました。

例えば、デフレ下で企業がコスト削減を最優先した結果、正社員の採用を絞り、非正規雇用(パート、派遣など)への置き換えが進みました。
またデフレ期は、現金の価値が相対的に上がるため、もともと資産を持っている富裕層は有利になります。そのため、資産保有の有無:株や不動産などの資産を持つ層は、金融緩和などの政策的恩恵を受けやすい一方で、資産を持たない低所得層は賃金停滞もあり、庶民の財布を直撃しました。
こうしたデフレ時の「格差」に苦しめられてきた国民ですが、インフレ時での格差拡大でより残酷な結果を生み出す可能性が高いと言わざるを得ません。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)

小宮コンサルタンツ会長CEO

京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)
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