高市早苗首相が衆議院の解散を決断したと報道された。政局を仕掛けるようだが、その首相の姿勢において“経済最優先”という事実上の公約との整合性を問う声が野党から強まっている。
一方、英国に目を転じると、最大野党の保守党から、ナイジェル・ファラージ氏が率いる右派政党である改革党に鞍替えする政治家が目立っている。1月12日には、かつて主要閣僚を歴任したナディム・ザハウィ元財務相が、保守党から改革党に移籍した。この元財務相は、かつて脱税疑惑を理由に保守党の幹事長の職を追われた人物でもある。
英国放送協会(BBC)が伝えたところよると、ザハウィ元財務相は、英国の現状が“暗く危険”(dark and dangerous)であると評したようだ。長引く経済低迷や難民問題を理由にした発言だと考えられる。その是正のためには“輝かしい革命”(glorious revolution)が必要だとして、保守党から改革党に移籍することとしたようだ。
保守党からは、他にリー・アンダーソン元党副議長やダニー・クルーガー元影の労働・年金相などの離党も相次いでいる。英政治を長年に渡りけん引してきた名門政党である保守党の支持率は低迷しており、次回の総選挙では苦戦が予想される。ゆえに、保守党から離反した政治家たちは、支持率で首位をひた走る改革党に移籍している。
■物価高の原因を作ったのは誰か
確かに改革党の支持率は高いが、だからといって2029年までに予定されている総選挙で圧勝するかは定かではない。
保守党の支持者の中には、改革党への支持に乗り換えた人も少なくないようだ。一方で、そうした支持者は、ボリス・ジョンソン元首相に代表されるような保守党の最右派を支持していた層と重なる。そうした層が、改革党を率いるファラージ氏らとともに、英国を欧州連合(EU)から離脱させる推進力になったことは、紛れもない事実である。
英国の有権者の不満の一つが、長引く経済低迷だ。景気は足踏みする一方で、物価高が止まない典型的なスタグフレーションが続いている。英国と大陸(ユーロ圏)の消費者物価の水準を比較すると、2022年頃から英国の上昇ピッチが加速している(図表1)。
英国も大陸も、コロナショックとロシア発のエネルギーショックを立て続けに受けたため、物価が急上昇した。加えて英国の場合、これにEU離脱に伴う供給ショックも生じている。輸出入の半分を占めるEUとの貿易がEU離脱とともに、関税を始めとして様々なコストが嵩むようになったのだから、それが英国のインフレを大陸に比べて押し上げるのは、至極、当然の帰結だった。
■EU離脱の影響は大きい
英国は超過需要、輸入超過の国である。
このうち大陸(ユーロ圏)からの輸入規模は、名目GDPの10%程度から9%程度と、双方で可能な限りショックの緩和に努めても1割縮小した。こうした輸入を通じた供給の弱さが、深刻な物価高の要因の一つとみていい。そうした輸入の弱さを考えるうえで、保守党の最右派や改革党のファラージ氏らが主導したEU離脱の影響は大きい。
■日本と類似した構図
スタグフレーションを改善するためには、歳出をカットし、規制を緩和して供給を刺激する“小さな政府”路線が望ましい。しかし政権を率いる労働党は、歳出を増やし、規制を強化する“大きな政府”路線を歩んでいる。そのためスタグフレーションが軽減されないどころか、むしろ定着する事態となり、労働党の不人気につながっている。
一方、労働党政権はEUとの関係改善にも取り組んでいる。例えば2025年12月、英国の学生が2027年から留学交流プログラムである「エラスムス・プラス」に復帰することや、電力市場の統合に向けた交渉を開始することなどで英国とEUと合意した。関税同盟には復帰せず、可能な限り単一市場と協調し、輸入の安定化を目指すようだ。
こうした労働党の取り組みは、将来的な供給の安定に資するだろう。
改革党や保守党の最右派は、英国社会に漂っていた閉塞感を、EU離脱で打破できると主張した。しかし現実が相容れなかったわけで、ゆえにその“揺り戻し”が生じているわけだが、それを受け入れず、さらに過激な方向に英国を誘導し、自らの権力基盤を築こうと躍起になっている。こうした構図は、どこか日本にもつながるところがある。
■通貨安・金利高…市場の警告を無視していいのか
英国では、長引く物価高であり景気の低迷に、国民は疲れ果てている。目指すべきは供給の刺激であり、需要の刺激ではない。物価高は需給バランスが崩れ、需要が超過したときに生じる。デマンドプルだろうとコストプッシュだろうと、需要を抑制するか供給を刺激するか、あるいはその両方をバランスよく進めるかしか、解決の術はない。
繰り返しとなるが、スタグフレーションを緩和するためには供給を刺激する以外に妙薬がない。一方、改革党のファラージ氏は、そうした議論を避けて、移民対策の厳格化を叫び、EUとの関係の改善を模索する労働党を批判することに終始する。
話を日本に戻そう。高市首相の経済アドバイザーたちは、財政を拡張すれば物事は全て解決するといった持論を展開する。その危うさを金融市場は通貨安と金利高で警告しているわけだが、そうした現実を受け止めず、むしろ現実の方が間違っているといった主張のようだ。こうした危うい運営の延長線上に、今回の政局の騒動が加わった。
総理の高い支持率を持ってすれば単独で与党に復帰できると踏んでいるようだが、総理の支持率と自民党の支持率がどこまで連動するかは未知数だ。いずれにせよ、予算を成立させるべきタイミングでの解散総選挙など、総理が掲げる“経済最優先”の公約と矛盾する。日本も英国も、結局は政治が経済を軽視する、深刻な病理の渦中にある。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)
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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。
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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 主任研究員 土田 陽介)

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