住宅ローン金利が上昇傾向にある。元国税専門官の小林義崇さんは「金利上昇を理由に家の購入を先送りするのは、必ずしも合理的とは言えない。
むしろ今こそ不動産を買うべきだ」という――。(第2回)
※本稿は、小林義崇『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■金利上昇でも不動産を購入すべきか
私は仕事柄、不動産会社の方やアナリストにインタビューをする機会が多くありますが、彼らの意見を総合的に見て、今は不動産を買う好機だと考えています。
その最大の理由は、日本の住宅ローンが依然として低金利であることです。アメリカやイギリスでは住宅ローンが5%を超えることも珍しくない中、2025年7月現在、日本では変動金利なら1%未満、固定金利ですら2%未満で借りられるローンが多くあります。
不動産価格が上昇していくインフレの局面で、これほど有利な条件でまとまったお金を借りられるのは、現代の日本人にとって大きな武器と言えます。
オーストラリアで不動産会社を営んでいる方に聞いた話ですが、日本人なら当たり前に利用できる低金利の住宅ローンは、海外投資家から見ると非常に魅力的な条件なのだそうです。日本の富裕層の中には、所有不動産を担保に日本の銀行から低金利で融資を受け、成長性の高い海外不動産で資産を増やしている人が少なくありません。
ただし、日本の低金利について一抹の不安がよぎるのもたしかです。2024年に日銀がマイナス金利政策を解除し、日本もいよいよ金利上昇時代へと舵を切り始めました。物価上昇が続きインフレになると、物価の過熱を抑えるために利上げを行うのは金融政策のセオリーです。
■「固定金利が良かった」とはならないワケ
そのため、これから家を買う人の中には、「これから金利が上がるなら、変動金利よりも固定金利がいいのでは?」と思われる人も多いでしょう。
こればかりは自分の価値観と家計の状況に応じて最適解を見つけるしかありませんが、単純にパーセンテージで比べるのではなく、返済額を計算して検討することが大切です。
たとえば、3500万円を35年で借りた場合を比較してみましょう。変動金利(0.5%)を選択した場合、月々の返済額は約9万1000円、総返済額は約3816万円となります。一方、固定金利(1.5%)を選択すると、月々の返済額は約10万7000円、総返済額は約4501万円となります。
35年間の返済期間で比較すると、総返済額の差は約685万円。月々の返済額を比較すると、変動金利と固定金利の間に約1万6000円の差があります。このように数字で比較をすると、「固定金利を選ぶ」と安易に判断するのも躊躇してしまうのではないでしょうか。
変動金利を選んだ場合、金利が上昇するリスクは避けられませんが、「最初から固定金利を選んでいた方が得だった」となる可能性は高くありません。
というのも、住宅ローンは、お金を借りた当初に金利が多く発生するので、返済期間の後半になって金利が上昇しても、大きな影響を受けないからです。たとえば元利均等払いで返済期間35年の住宅ローンを組んだ場合、最初の10年に支払う金利が、金利総額の半分ほどを占めます。
■「固定と変動」選ぶ基準とは
そして、変動金利は日銀の金融政策を受けて動きますが、金利の変動は日本経済のさまざまなところに影響がおよぶため、一気に数パーセントも上がることはありません。基本的には0.2%前後の変動にとどまり、変動金利の返済額におよぶ影響は限定的です。

さらに付け加えるならば、インフレは永遠に続くものではなく、デフレとのサイクルを繰り返すため、利上げによって物価上昇が抑制されると、次は利下げに転ずる可能性も十分に考えられます。
私が以前インタビューさせていただいた住宅ローンアナリストの塩澤崇氏は、こうした金利のメカニズムに基づくシミュレーションを行い、「『8.5%の高金利が住宅ローン返済中に3回も来る』といった極端な状況になって初めて変動金利が固定金利を上回る」「住宅ローン返済中にバブル並みの好景気がやってくると思うなら固定金利にしてください。そうでなければ変動金利が有利です」と話していました。
ちなみに固定金利を選択する場合、「借りるタイミング」については変動金利よりも気をつけなくてはいけません。
というのも、固定金利は長期金利をベースにして決まるのですが、この長期金利自体が景気の状況や海外の金利動向などによって大きく動くからです。変動金利は日銀のコントロール下にあり極端に上下しない一方で、固定金利はその名前とは裏腹に頻繁に動きます。
■金利上昇を見据えたローンの選び方
そのため、「これから変動金利が上がりそうだから」と考えて固定金利を選んだら、ローン契約時点で予想以上に固定金利が高くなっていた、ということが起こりがちなのです。すると、借り換えをしない限りはその高い固定金利を35年間支払い続けることになり、家計への負担も大きくなってしまいます(図1)。
かといって、低金利の変動金利で借りられるだけ借りればいいのかといえば、それも危険です。前に書いたようにめいっぱい住宅ローンを組んで家を買うのは、不動産に集中投資をしているのと同じですし、何より金利が上昇すれば家計が回らなくなるおそれがあるからです。
この簡単には割り切れない問題に対し、私が提案したいのが、リスクを管理しながらリターンの最大化を狙う安全策です。具体的には次の手順で、「利上げがあっても困らない金額を変動金利で借りる」のです。

1.固定金利で借りた場合の返済額を調べる

2.その返済額が無理なく支払えるか検証する

3.実際は変動金利を選択し、固定金利との差額を安全性の高い投資に回す
■余力を残すことで生まれる2つのメリット
仮にあなたが購入したい自宅が3500万円のローンで買えるとして、まずは固定金利なら月々いくらの返済になるかを調べてください。先ほどのシミュレーションでは、毎月約10万7000円の返済が必要でした。
その結果、「この返済額だと厳しいから、変動金利を選んで返済額を減らそう」と思ったなら、それは赤信号です。その物件はあなたの身の丈に合っておらず、いずれ金利が上昇した際に、家計が破綻する危険性が高いと言わざるを得ません。
このストレステストをクリアし、固定金利でも無理なく返済できることを確認できた場合にのみ、次のステップに進みます。「固定金利の月々約10万7000円でも何とか返済できそう、でも変動金利なら月々約9万1000円の返済で済む」という状態を想像してみてください。こうした状況で変動金利のローンを組めば、少なくとも毎月約1万6000円の余剰資金が生まれます。
このように余剰資金が出せることを確認できたら、金利が低い変動金利で住宅ローンを組みつつ、余ったお金は、NISAなどを活用して、全世界株式のインデックスファンドなどに毎月積立投資をします。
この戦略には2つのメリットがあります。第1に、金利上昇に対する「備え」ができます。変動金利が上がっても、あらかじめ余裕をもった返済額にしておくことで、返済額増加の緩衝材(バッファー)になってくれます。
■どんなシナリオにも対応できるよう備えておく
第2に、インフレ局面では、資産運用のチャンスも生まれます。
一般的に、緩やかなインフレ下では企業収益が伸び、それに伴って株価も上昇しやすい傾向があるからです。
したがって、「住宅ローン返済額が増えるかもしれない」というデメリットを、「投資している金融資産が増えるかもしれない」というメリットで補うことで、インフレを家計にとって有利な方向に変えられる可能性があります。
ただし注意点もあります。急激なインフレや、インフレと景気後退が同時に進む「スタグフレーション」の状況下では、株価が下落する可能性も十分に考えられます。また物価上昇や、それに伴う利上げが業績に与える影響は、業態によっても違うので、必ずしも「インフレ=株価上昇」とならないことは認識しておく必要があります。
とはいえインフレによって値上がりする個別株を選ぶのは簡単なことではありません。現実的な方法としては、やはり投資信託を使って、一つの株式ではなく複数の株式、国内株だけでなく海外株もポートフォリオに加えることが推奨されます。そして積立投資によって投資をする時期を分散することで、リスクを抑えながら投資を続けていきましょう。
富裕層が実践する「低利で借り、高利で運用する」というレバレッジの考え方を、一般の家庭でも安全に応用するためには、どんなシナリオになっても対応できる構えを取ることが何より大事です。

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小林 義崇(こばやし・よしたか)

フリーライター

1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。
2017年7月、東京国税局を退職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『すみません、金利ってなんですか?』『僕らを守るお金の教室』(ともにサンマーク出版)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)、『2050年のインド経済 急成長する巨大市場の現在地と未来図』(NEXTRAVELER BOOKS)ほか著書多数。

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(フリーライター 小林 義崇)
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