お金を増やすには、何を意識すればいいのか。元国税専門官の小林義崇さんは「重要なのはお金が減る節税と残す節税を把握することだ」という――。
(第4回)
※本稿は、小林義崇『相続税調査でわかった 富裕層が大事にしている「お金の基本」』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■多くの人が陥る「節税の罠」
節税に関する情報は、インターネット上に溢れています。しかし、その情報を鵜吞みにすると、必ずしもお金が増える結果にならないことに注意が必要です。
その典型例が、「控除や経費を増やして節税をする」というやり方です。
たとえば生命保険料を支払うと生命保険料控除を使って節税することができます。そのため、保険の営業の人は、「保険を増やすと税金が少なくなる」とすすめてくることがあります。しかし、この言葉を鵜吞みにしていると、お金はどんどんなくなっていきます。
具体的な数字で考えてみましょう。たとえば年間8万円の生命保険料を払って控除を申請したとします。生命保険料控除には上限があるため、この場合の控除額は4万円です。この控除による節税効果は、所得税と住民税を合わせた税率が20%の人なら、8000円ほどになります。
このときに「8000円得した!」と考えてしまうのが、お金が減る人の思考法です。
もう少し冷静になって、お金の流れを見てみましょう。
保険料として8万円を支払う

年末調整で約8000円の節税効果が発生

差し引きで約7万2000円を自己負担している

そうです。「8000円の得」ではなく、「最終的に7万2000円の負担になる」のです。
■「税金を払いたくない」が招く3つの代償
このように最終結果まで考えるのが、税金とうまく付き合える人の考え方です。その上で、この負担に見合う価値(リターン)がその保険にあるのかを判断します。保険に入ることで必要な保障が手に入ると思うなら良いのですが、そうでなければ立ち止まらなくてはなりません。
この思考ができずに、「節税のための出費」を繰り返していると、手元のお金は面白いように消えていきます。支出の判断基準が「本当に必要か」「投資に見合う価値があるか」ではなく、「控除や経費になるかどうか」にすり替わってしまい、あなたの財布をじわじわと圧迫していくのです。
実は、「税金を減らしたい」という意識を持つこと自体が、お金を失う原因になり得ます。
個人の所得税や、会社の法人税は、「利益」に対して課される税金です。利益が大きければ税金は増え、赤字なら税金がかかりません。ということは、「とにかく税金を下げよう」と考えると、必然的に「利益を下げる」方向に行動することになります。

売上を得るのを翌期に先延ばしにしたり、不要な交際費を増やしたりと、利益を追求する本来の目的とは真逆の行為に走ってしまうのです。
本当に成功している経営者は考え方が違います。彼らは、「払わなくてもいい税金は一円も払わない」と考える一方で、「払うべき税金はきっちり払う」という明確な姿勢を持っています。
■“やりすぎ”はかえってお金を減らしてしまう
その根底には、「税金を減らす」ことではなく、あくまで「会社と個人にお金を残す」ことを最終目的にしている、という意識があるのです。「税金を減らせば利益も減る」という大原則を知っているからこそ、彼ら富裕層は安易な支出を避け、後述する「お金が残るタイプの節税」を賢く選択しています。
これは給与所得者にとっても同じことで、最終目的は税金を減らすことではなく、家計の資産を増やすことにあります。節税のためにお金を払うとしても、そのお金が消費として消えるのではなく、自分の資産として積み上がっていく形が理想的です。そのための具体的な方法を次にご紹介します。
お金が残る節税を実践し、誤った節税でかえってお金を失わないためには、世の中の節税方法を大きく2つのタイプに分けて理解するのがコツです。
タイプ1:支出を伴う節税(やりすぎ厳禁)
一つ目は、「経済的な負担をカバーするための節税」です。これらは必ず支出を伴うという特徴があります。
・必要経費の計上:事業で使用したコストに応じて減税

・医療費控除:支払った医療費に応じて減税

・雑損控除:災害などによる損失に応じて減税

・生命保険料控除:支払った生命保険料に応じて減税

・地震保険料控除:支払った地震保険料に応じて減税

■「資産を積み上げていく」タイプの節税
このタイプの節税方法は、あくまで「かかってしまったコスト」の一部を税金で補塡してもらう制度です。
節税目的で積極的に利用しようとすると、かえって手元のお金が減ってしまいます。
さすがに医療費控除を使うために病院に通い詰める人はいないと思いますが、不必要なものを買って必要経費を増やしたり、必要以上の保険に入ったりする人は後を絶ちません。これは典型的な「お金が減る節税」です。
タイプ2:国策に沿った節税(積極的に活用すべき)
もう一つのタイプは、「政府が特定の行動を推奨するために、インセンティブとして設けている節税」です。つまり、政府が目指す方針に沿った行動を取れば、その「ご褒美」として減税措置を受けられるのです。

たとえば以下の制度が代表例ですが、それぞれ政策目的を持って設計されているため、利用する側にとって節税効果が高く、かつ損をしにくい仕組みになっています。
・iDeCo:積み立てた掛金に応じて減税&投資の運用益が非課税

・NISA:投資の運用益が非課税

・住宅借入金等特別控除(住宅ローン減税):年末時点の住宅ローン残高に応じて減税

それぞれの仕組みと政策意図について説明しましょう。
■2つの制度を最大限活用すべき理由
日本政府は、「貯蓄から投資へ」というスローガンのもと、国民の自助努力による資産形成を促しています。そのための強力なご褒美が、iDeCoとNISAです。
このどちらも有利な制度ですが、とくに節税効果が高いのがiDeCo(個人型確定拠出年金)です。この制度を利用すると、自分の老後資金として積み立てた掛金が、なんと全額所得控除になります。つまり、将来のための貯蓄をしながら、同時に現在の所得税・住民税も減らせるという、まさに一石二鳥の制度なのです。

たとえば、月々2万3000円(年間約27万6000円)を拠出すれば、所得税と住民税を合わせた税率が30%の人の場合、年間約8万円もの節税になります。さらに運用中の利益が非課税となり、将来受け取るときも、一括受け取りなら退職金扱いで「退職所得控除」が、分割受け取りなら公的年金扱いとなり「公的年金等控除」が適用され、税負担が軽減されるメリットも用意されています。
iDeCoによる投資先は、大きく2つのタイプ「元本確保型(定期預金など)」「元本変動型(投資信託など)」から選択することができます。これらを組み合わせることもでき、たとえば月々の掛金の半分を定期預金、半分を投資信託といった形や、投資信託の中身を、「国内株式型を30%、海外株式型を70%」といった形でアレンジすることも可能です。
■税金を減らして資産を残す
このように投資先を柔軟に決められることもiDeCoの魅力ですが、私は元本確保型ではなく元本変動型を選択したほうが良いと考えます。なぜなら、元本確保型が保証するのは、あくまで円建ての「金額」でしかないからです。
これではインフレに伴う物価上昇による円の価値の目減りに対処することができません。本当に守るべきは、「金額」ではなく、お金でものが買える力、つまり「購買力」ですから、そのためには元本変動型を選択する必要があるのです。
またiDeCoには、「原則として60歳まで資金を引き出せない」というルールがあります。これは一見するとデメリットに見えますが、「数十年という長期投資を強制する」という意味で、投資において大きなメリットがあります。この時間を複利効果に活かせば資産形成が加速しますから、その意味でも、元本確保型よりも元本変動型を選ぶのが合理的です。
NISAについてはすでにお伝えしたように、2024年から制度が拡充され、非課税で投資できる期間が無期限になりました。
NISA口座で資産運用し続ける限り、そこで得た配当や売却益には、本来かかる約20%の税金が一切かかりません。ただし、iDeCoと違って投資額が所得控除になるわけではない点に注意してください。
■富裕層が「NISAをおすすめしない」理由
富裕層の中には「NISAはおすすめしない」と言う人もいますが、理由の一つが、iDeCoのように掛金が所得控除にならない点にあります。NISAで得をするのは、投資で利益を得たときに限られます。その点、iDeCoであれば投資をした時点で控除による節税効果を得られますし、とくに高所得で税率が高い富裕層の場合、メリットはより大きくなります。
とはいえNISAの運用益が永続的に非課税になるメリットは絶大であり、60歳以降でなければ換金できないiDeCoと比べて、柔軟に利用できる利点もあります。
また、iDeCoの説明ではよく「運用益が非課税」と書かれているのですが、少し注意が必要です。というのも、たしかに運用中は税金がかかることはないのですが、将来的に年金や一時金として受け取るとき、課税される可能性はゼロではありません。
前述のとおり、退職所得控除または公的年金等控除が適用されるとしても、この控除を使い切ってしまうと税金がかかってしまうのです。また、実際にあなたがお金を受け取るときに、退職所得控除や公的年金等控除が今より縮小されていれば、予想したよりも税負担が増えることも考えられます。NISAの場合、iDeCoと違って元本と運用益を確実に非課税で受け取れるため、このような心配はありません。
■住宅ローン減税を「資産形成」に組み込む
それに、繰り返しますが、iDeCoは投資をすると60歳になるまで受け取れないという注意点もあります。
結婚や子育てなど、お金のかかるライフイベントが控える若い世代はとくに、iDeCoにお金を投じすぎると、いざというときに困るリスクがあります。この意味でも、まずはNISAのつみたて投資枠を使って資産形成を行い、投資に慣れたらiDeCoも取り入れるのがおすすめです。
次に住宅ローン減税ですが、これは住宅購入を促進し、経済を活性化させるための制度として設けられました。具体的な減税効果は自宅のタイプや入居年によって変動しますが、たとえば2025年中に長期優良住宅を建てたなら、13年間にわたって住宅ローンの年末残高の0.7%が減税され、累計で最大409万5000円もの税負担を下げることができます。
住宅ローン減税の歴史は古く、1972年に「住宅取得控除制度」として導入された制度がルーツです。この制度は住宅の床面積に応じて税金を軽減するというもので、不動産市場の活性化や日本の住宅面積を広げる狙いがありました。
その後、1986年には住宅ローンの年末残高に応じて所得税から控除をする現在の形となりました。そしてすでにお伝えしたように、近年は住宅の省エネ化を推進する目的から、住宅性能によって節税メリットが高まる形になっています。

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小林 義崇(こばやし・よしたか)

フリーライター

1981年福岡県生まれ。西南学院大学商学部卒業。2004年に東京国税局の国税専門官として採用され、以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務等に従事。2017年7月、東京国税局を退職し、フリーライターに転身。書籍や雑誌、ウェブメディアを中心とする精力的な執筆活動に加え、お金に関するセミナーを行っている。『すみません、金利ってなんですか?』『僕らを守るお金の教室』(ともにサンマーク出版)、『元国税専門官がこっそり教える あなたの隣の億万長者』(ダイヤモンド社)、『2050年のインド経済 急成長する巨大市場の現在地と未来図』(NEXTRAVELER BOOKS)ほか著書多数。

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(フリーライター 小林 義崇)
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