なぜスマホ・SNSがやめられないのか。ニューヨーク大学のジョナサン・ハイト教授は「テック企業は行動主義心理学の技術を駆使し、ユーザーを故意にやみつきにしているからだ」という――。

※本稿は、ジョナサン・ハイト『不安の世代』(草思社)の第5章「人間関係の希薄化・睡眠不足・注意の断片化・依存」の一部を再編集したものです。
■アプリがユーザーをスマホ中毒にする仕組み
ソーシャルメディアやゲームの行動中毒における神経基盤は、コカインや鎮痛剤などの薬物中毒とまったく同じではないが(*1)、これらにはすべて、ドーパミン、強い欲求、衝動、そして私の娘が表現した気持ち――自分が自覚している望みを実行できないことへの無力感――が関係している。むしろ、そういう設計になっているのだ。
アプリ開発者は心理学者の道具箱にあるすべての技を駆使し、スロットマシンがギャンブル狂をとりこにするようにユーザーを深みにはまらせようとしている(*2)。
はっきり言っておくが、インスタグラムや「フォートナイト」のゲームをしている青年期の若者の大多数は依存状態にはなっていない。だがそれでも、彼ら彼女らの欲求は乗っ取られ、行動は操作されている。
もちろん、広告主というのは昔からずっとこういうことを画策してきたわけだが、タッチパネルやインターネット接続によって、行動主義心理学の技術(刺激と反応による条件づけによって行動を形成するもの)を利用するための広大な可能性が新たに開かれたのだ。
この技術は、行動と報酬のサイクルが高速で循環するときに最も効果を発揮する。
■インスタ創業者が学んだ「人を動かす技術」
この可能性を探求したスタンフォード大学のB・J・フォッグ教授は、2002年に著書『実験心理学者が教える人を動かすテクノロジ』を発表している。
フォッグは「説得的技術」という授業を担当し、動物の訓練に用いられる行動主義心理学の技術を人間に応用する方法を教授した。彼の学生の多くはその後、ソーシャルメディア企業の創業者や従業員となっていて、インスタグラムの共同創業者マイク・クリーガーもその1人だ。
習慣形成型の製品はどうやって青年期の若者をとりこにするのか?
自宅の勉強机に座り、翌日に予定されている科学のテストに向けて光合成のしくみを理解しようとしている12歳の女子の場合で考えてみよう。
インスタグラムがどんなふうに彼女を引き付け、1時間も勉強が手につかない状態にさせるのか?
アプリ設計者がよく用いるのが、図表1にある、自己永続的なループをつくり出す4段階の手順に基づくフック・モデルだ。
このフック・モデルでは、ユーザーに強力な習慣を確立させたいならループをつくり出す必要があると説く。
イヤールは「操作の倫理性」の節で、当該モデルを乱用することの倫理的影響について警告して いる。(*3)
■「いつも報酬があるとは限らない」がミソ
ループは外的トリガーによって始まる。自分の投稿にだれかからコメントがついたときの通知などだ。これが寄り道への誘惑となり、それまでにいた道を離れるよう女子を誘惑する(手順1)。
その通知が彼女のスマートフォンに表示されるやいなや、通知をタッチしてインスタグラムを立ち上げるという行動への欲求を自動的に引き起こす。というのも、以前にもその行動によって報酬を得たことがあるからだ(手順2)。
そしてその行動は心地よい出来事をもたらすが、それは毎回とはかぎらない、結果の不確定な報酬である(手順3)。
彼女が目にするのは、だれかからのうれしい誉め言葉かもしれないが、そうではないかもしれないということだ。
これは、行動主義心理学の重要な発見の1つである。つまり、動物があなたの望むように行動したとしても毎回は報酬を与えない方がよいということだ。

変動比率スケジュール(たとえば、平均すると10回に1回だが、それより少ないときも多いときもあるようにランダムに変動する)で報酬を与えることで、最も強力かつ最も持続的な行動がもたらされる。
■こうしてどんどんスマホにのめり込む
ラットをケージに入れ、レバーを押せば餌がもらえることを学習させるとラットは報酬を期待してドーパミンが急増し、レバーに駆け寄り、押し始める。最初の数回で報酬が得られなくても、ラットは決して熱意を失わない。それどころかレバーを押し続け、いつかもらえるはずの報酬を期待してドーパミン量はさらに高まる。
ついに報酬が得られるとよい気分になるが、急増したドーパミンのせいでラットは次なる報酬を期待してレバーを押し続ける……何度も何度も押し続ける。これと同じく、アプリに表示されるフィードは底なしで、停止信号も寄り道も存在しない。
これら最初の3段階の手順は古典的行動主義心理学に基づき、1940年代にB・F・スキナーが考案したオペラント条件づけ(自発的行動が報酬や罰によって強化・弱化される学習プロセス)を応用したものだ。
フック・モデルでは、第4の手順であるインベストメント(投資)が追加されているが、これは対人間用の手順であり、ラットの実験には適用できない。人間の場合は、自己の情報の一部をアプリの中へと投入するよう促せるので、彼らはそのアプリをいっそう重要だと感じるようになる。
■プッシュ通知なしでも行動するように
たとえば、先述の女子はすでに自分のプロフィールを書き込み、自身の写真もたくさん投稿し、友人全員に加えて数百人のインスタグラムユーザーともつながっている(隣の部屋で試験勉強をしている彼女の兄もすでに、「フォートナイト」や「コールオブデューティ」(アクティビジョン社のオンラインシューティングゲーム)などのゲームに数百時間を費やし、デジタルバッジをため、「スキン」(ゲーム内のキャラクターやアイテムの外観を変えるもの)を購入するなどの投資をしている。
この時点、つまりインベストメントの段階以降、次の行動サイクルを引き起こすのは内的トリガーとなる。件の女子をインスタグラムに呼び寄せるのに、もはやプッシュ通知は必要ない。

教科書の難しい内容を読み返しながらも、「20分前の投稿写真に、だれかからいいね!がついてないかな?」という考えが浮かび、意識の中に魅力的な寄り道が出現する(手順1)。
誘惑に負けないで勉強を続けようとするが、報酬をもらえるかもしれないと考えるだけで少量のドーパミンが放出され、今すぐインスタグラムを開きたくなる。強い欲求を感じて手順2に進んでみるものの、だれからも「いいね!」もコメントもついていなくてがっかりする。
フェイスブックが作った“恐ろしい講演内容”
だが、ドーパミンが大量に放出されている脳はなおも報酬を欲するため、自分の過去の投稿やダイレクトメッセージ、またはだれかからのリアクション、あるいはちょっとした気晴らしになるものを探し始める(手順3)。
フィードをさまよいながら、友人の投稿にコメントを残す。すると案の定、その中の1人が自分の最新投稿に「いいね!」をしてくれる。1時間ほど経過し、ようやく光合成の勉強に戻るが、心のエネルギーを使い果たし、なかなか集中できない。
いったんユーザーが自身の思い1つで変動型報酬につながる行動を起こすようになったなら、そのユーザーは「とりこ(hooked)」になっているといえよう。
フェイスブックが行動主義心理学の技術を駆使し、10代の若者を故意にやみつきにさせてきたことは、フェイスブック・ファイル――2021年に内部告発者のフランシス・ホーゲンによって持ち出された大量の内部資料、ならびにプレゼン資料の画像――によって判明している。
3人のフェイスブック従業員が「アイデンティティの力:10代や若者がインスタグラムを選ぶ理由」という題で行った講演には恐るべき内容が含まれていたのだ。
■未発達な前頭葉をハックする
プレゼンの目的は、「若者ユーザーを取り込むための幅広い製品戦略でフェイスブック社をサポートする」ことで、「10代の若者の基礎知識」というセクションでは神経科学に踏み込み、思春期の若者の脳はゆるやかな成熟過程にあり、前頭皮質が発達し切るのは20歳以降であることが説明されている。脳のMRI画像には、次のような説明がつけられている。

10代の若者の脳はおよそ80%が成熟しているが、残りの未発達な20%は前頭皮質の領域にある……この段階では、情動、記憶、学習、および報酬系を司る側頭葉が、若者を支配している。
それに続くスライドでは、フェイスブックの設計者がユーザーの中につくろうとしているループの図があり、脆弱性について解説している(図表2を参照)。
他の多くのスライドを見ても、彼らの目的は、図の中央の若い女性を過剰使用や依存状態から守ろうとするのではないことがわかる。むしろ報酬、新奇性、情動を活用して、より長い「エンゲージメント」を獲得する方法について、フェイスブックの従業員に助言することが狙いのようである。
具体的な提案として、「10代の若者に複数のアカウントを作成させやすくする」「ユーザーの興味と関連するコンテンツへの誘導を強化する」などが挙げられている。
説明文には「10代の若者は情動や新奇性への関心および報酬によって突き動かされて物事を判断し、行動を取る。これらは前向きなことに思えるが、行き過ぎると若者の脆弱性を著しく高めてしまう。特に、良くない習慣に耽らないよう律する前頭皮質が成熟し切っていない状況ではなおさらである」とある。(出典:フェイスブック・ファイル、セクション42/15、P.53)(*4)

*1. 行動と薬物中毒の分類、類似性、差異に関する議論は、Alavi et al. (2012) & Grant et al. (2010)を参照。

*2. たとえば、以下を参照:Braun, A. (2018, November 13). Compulsion loops and dopamine hits:How games are designed to be addictive. Make Tech Easier. www.maketecheasier.com/why-gamesare-designed-addictive.

*3. この図の転載を許可してくれたニール・イヤールに感謝する。イヤールは2019年の著書『最強の集中力 本当にやりたいことに没頭する技術』の中で、デバイス関連の悪しき習慣を打破する戦略を解説している。

*4. Spence et al. v. Meta Platforms Inc., No. 3:22-cv-03294, N.D. Cal. (San Francisco, 2022), Document 1,pp. 24–25, para. 32. socialmediavictims.org/wp-content/uploads/2022/06/Spence-Complaint-6_6_22.pdf.

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ジョナサン・ハイト
ニューヨーク大学教授

ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスの倫理リーダーシップ教授。

1992年ペンシルベニア大学にて社会心理学の博士号を取得後、16年間にわたりバージニア大学で教鞭をとった。道徳や政治心理学を専門とし、著書『社会はなぜ左と右にわかれるのか:対立を超えるための道徳心理学』(邦訳は紀伊國屋書店刊)を執筆。グレッグ・ルキアノフとの共著『傷つきやすいアメリカの大学生たち:大学と若者をダメにする「善意」と「誤った信念」の正体』(邦訳は草思社刊)で探求したテーマをさらに深めて執筆したのが、『不安の世代』(草思社)である。

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(ニューヨーク大学教授 ジョナサン・ハイト)
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