仕事ができる人とできない人は何が違うのか。大手外資系企業を中心に年間1000件以上の面談を行っている産業医の武神健之さんは「仕事ができる人たちは、自分をラクにして助けるような言葉を使う。
一方、できない人たちは、無意識に自分を追い詰める言葉を使っている」という――。
■1425件の産業医面談で得た確信
こんにちは。産業医の武神です。2025年は1425件の産業医面談を行いました。そのほとんどは日々、外資系企業特有のタフでハードな職場環境で働く人たちです。そんな私が、面談を通じて確信したことがあります。それは、仕事ができる人とできない人では、日常的に使っている言葉が違うということです。
結論から言うと、仕事ができる人たちの言葉は、多くが自分をラクにし助けるようなものです。一方、できない人たちは、無意識に自分を追い詰める言葉を使っています。
そこで今回は3人との面談事例から、私が感じる「仕事ができる人」と「できない人」の言葉の違いについてお伝えさえていただきます。
■一見「私(I)」が主語に見える発言だが…
30代女性のAさんは、適応障害で休職して3カ月になります。本来、適応障害の症状の多くは、原因となる環境から離れれば時間と共に回復するはずですが、彼女の症状(不眠、動悸、イライラ等)は一向に改善しませんでした。

休職3カ月目になっても、産業医面談で彼女が開口一番、語ったのは、上司への強い不満と自分自身の正当性でした。「私はハイパフォーマーだったのに、異動先の上司のせいで台無しにされた」「上司が急に変わったせいで、私は藻掻(もが)かなければならなかった」「上司の指示が曖昧で、私は適切な指導を受けられなかった」等々でした。私は同じ話を毎月聞いていました。
彼女の話す内容は、一見「私(I)」が主語に見えますが、その実態は「上司(の振る舞い)という原因によって、結果として被害を受けた私(I)」でした。彼女の中では、職場環境(上司)がすべての主導権を握っており、その結果としての私があり、職場の状況、上司や同僚たちの考えていることなどを思考に含める余地はありませんでした。言い換えると、私以外(他人)や状況(職場環境)が全体の主語であり、私(Aさん)はその結果、被害などの影響を受けた人なのです。彼女自身は環境に翻弄されるだけの存在になっていたのです。
■仕事ができる人は自分を「操縦席」においている
Aさんのように「環境の被害者」という主語を使い続ける限り、脳は「自分ではどうにもできない」と判断し、ストレスは受け入れるものと判断し、結果、心身のストレス反応は続きます。
一方、同じ職場でも上手に働いている(つまりできる)人は、“私(I)”を別の意味で使っていることが多いと感じます。その人たちは、“私は”という主語を、自分の判断、責任、行動根拠として使います。他人(私以外)や状況(職場環境)はあくまでその前提条件にすぎず、原因ではありません。自分は常に影響を受け続ける存在ではなく、あくまでその状況の中で“私が”主体的に判断しているという趣旨の話し方をします。
つまり、仕事ができる人は自分を人生の操縦席におく主語の使い方をしています。
■「面倒」「どうせ」「無理」による“自己暗示”
別の会社に定期的に産業医面談に来る40代男性Bさんがいます。彼はすでにメンタルクリニックに通院しています。そして、ストレス症状はいくらかあるものの、休職するほどではありません。彼は口を開けば「面倒」「どうせ」「無理」というネガティブな言葉がこぼれます。「上司は面倒な仕事ばかり自分に振ってくる」「どうせ会社は社員を駒としか見ていない」「人が減っているのに仕事は増えるなんて、もう無理だ」等々。
Bさんは産業医と話すことで一時的なスッキリ感を得ているようなので、私は基本的に共感の精神を持って傾聴に努めています。Bさんが少しでもスッキリして今後の仕事に向き合えればなとは思います。しかし、彼の発するその言葉自体が、彼の潜在意識に「ここは絶望的な場所だ」という自己暗示をかけてしまっている気がしてなりません。
言葉は潜在意識を形成します。「無理」と言った瞬間に、脳は解決策を探すことを止めてしまいます。Bさんも同じような状況を違う言葉で表現することができると、もう少し楽になるだろうと感じます。
仕事ができる人は、同じような状況をこう表現します。
■「事実」をどう定義し認識するか
「結局この仕事を任せられるのは私だけ」「会社は会社、自分は自分(自分のチーム)にだけ集中します」「自分なりにサステイナブルなところで区切らないと」。
これは単なるポジティブシンキングではありません。現状(事実)をどう定義し認識し直すかという技術なのです。仕事ができる人は、自らが使う言葉でその状況をよりラクに捉えると同時に、解決策を探し始めるのです。もちろん、言葉を変えただけで現状が変わるわけではありません。しかし、人の思考はその人の言葉で作られているのも事実です。
私は、Bさんが元気で機嫌が良さそうな時は、言葉の言い換えの話を振りますが、産業医の言葉はなかなか彼には響いてはいないようです。
■責任感が強く、真面目な20代男性の言葉
仕事ができる人とできない人の口癖でもう1つ、私が気づいたのは、人の話す言葉には、その人の頭の中の整理具合が表れるということです。
他のクライエントで働く20代男性のCさんは、強い不安感と不眠を訴えて産業医面談に来られました。彼は非常に責任感が強く、真面目な性格ですが、話し方は典型的な「できない(あるいは、できなくなっている)人の口癖」に陥っていました。
Cさんは言いました。
「チームの雰囲気が最悪なのです。昨日も会議で先輩が私の提案に不満そうな顔をしていました。きっと彼女は私ができない奴って思っています。このままではプロジェクトは失敗するだろうし、私は上司から無能の烙印を押されるに違いありません。もう、どうしていいかわかりません」。
おそらく現在、Cさんの頭は、事実と解釈(憶測)、そして感情と不安が大きな一つの塊となっているのでしょう。彼の中では「先輩が不満そうな顔をした(と自分が感じた)」という主観的な入り口から、「上司は自分を無能と評価する」という破滅的な結論までが、ノンストップの急行列車のように繋がっていたのです。
■できる人の頭の中は「電子カルテ」のよう
一方、同じような状況でも成果を出し続ける「できる人」の頭の中は、まるで電子カルテの「SOAP」のように整理されています。SOAPとは電子カルテの記録方法で、「Subject data(主観的データ)」「Object data(客観的データ)」「Assessment(評価)」「Plan(計画)」によるものです(日本医師会)。「できる人」は口に出す前に、あるいは口に出しながら、無意識に情報を塊にならないように分けています。
1.事実:「昨日の会議で、先輩は私の提案に対し、特に発言をしなかった」

2.解釈:「先輩は私の意見に懐疑的なのかもしれないし、単に疲れていたのかもしれない(先輩の気持ちは私にはわからない)」

3.感情:「何も言われず、私は不安になり、少し悔しいと感じた」

4.行動:「まずは、手元の業務を完遂し、明日改めて先輩に意見を求めてみよう」
この仕分けができると、感情は「不安、悔しい」という一時的な反応として処理され、エネルギーは次の「行動」という解決策へ向けることができます。
仕事ができる人は、無意識のうちに、このように、「事実・解釈・感情・行動」を別々に捉えているのです。
事実に感情という「尾ひれ」をつけないため、そこで自分のメンタルをすり減らすことなく、仕事に集中できるのでしょう。
■言葉の使い方が変われば行動が変わる
ときに、言葉は思考を縛り、心身の症状を引き起こしかねません。職場は私たちから自信を奪うこともあります。だからこそ、自分が発する言葉だけは、自分の味方であるべきです。
産業医として多くの働く人たちと面談を重ねてきた結論として、タフでハードな仕事環境で、パフォーマンスとメンタルヘルスを両立させるための鍵は、地頭やスキルの高さだけではなく、使う言葉にあると思います。
言葉の使い方が変われば行動が変わります。結果として心身の健康状態も改善します。言葉は、自分にとっての最強の武器でもあり癒やしにもなるのです。主語を自分にする(主体性をもった“私は”を使う)、ポジティブに言い換える、事実と感情を分ける。今日から、この3つを意識してみてください。あなたの発する一言が、明日のあなたを強く、健やかに変えていくはずです。
今回のお話もあなたのお役に立てば光栄です。


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武神 健之(たけがみ・けんじ)

医師

医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、バンク・オブ・アメリカ、BNPパリバ、ムーディーズ、フォルクスワーゲングループ、BMWグループ、エリクソンジャパン、テンプル大学日本校、アドビージャパン、テスラ、S&Pといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。働く人のココロとカラダをサポートする無料AIチャット相談サービス「産業医DrT」を運営。

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(医師 武神 健之)
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