■元阪神監督・岡田氏の「5年は帰ってくるな」
今オフも村上宗隆、岡本和真、今井達也と日本を代表するスター選手がMLBとメジャー契約を結んだ。
いわゆるレジェンドと呼ばれる野球解説者などを中心に「これでは日本のプロ野球は、メジャーリーグのマイナーになってしまう」など憂慮する声が上がっている。
例えは、阪神前監督の岡田彰布氏は、以下のように発言している。
「ポスティングだけで何でもいけると思っとったら。大変なことになる。野球なんか終わってしまうよ。日本の野球なんか」
「(ポスティング移籍は)ルール作れって言うたけどな。5年は絶対帰ってこられへんとかな。いろんなルール作りを変えんと」
日刊スポーツ1月22日配信「【阪神】岡田顧問がポスティング制度に苦言「終わってしまうよ。日本の野球」“岡田節”で危機感」
レジェンドたちの声を集約すると、
「日本の野球で育った選手たちが、育ててもらったチームや指導者の恩を軽く見て、早々にメジャーリーグに行くのはけしからん。後足で砂をかけてチームを出ていったからには、1年、2年でおめおめと帰ってくるなど言語道断。
■「プロ野球選手=サラリーマン」だった
昭和の時代、プロ野球のファンの多くは「サラリーマン」だった。当時は終身雇用が当たり前で、定年まで会社にいるのが良いサラリーマンだと言われた。同様に、プロ野球も「入団したチームでキャリアを全うする=フランチャイズプレイヤー」が良い選手だと言われた。巨人一筋17年の長嶋茂雄、20年の王貞治の「ONコンビ」はその代表格だった。
トレードされるのは「チームの不満分子」だったり「問題児」だといわれ、トレードが決まった選手が泣き崩れることもあった。まさにプロ野球はサラリーマン社会の縮図だったのだ。
平成時代に入って、スター選手がFAを利用し高額年俸で他球団に移籍するようになる。しかしそれは「特別のスター選手」だけの話だった。
1993年に、近鉄の野茂英雄がMLBに挑戦した時は、球団と揉めに揉めて、結局、野茂は「任意引退(復帰するときは元居た球団にしか戻れない)」でメジャーに挑戦する。野茂の引退時には、近鉄は消滅していたが、野茂は「NPBには戻れない」という覚悟を持っていたのだ。
■「上沢問題」で露呈したポスティングの弊害
1998年に、日本の海外FA年限(通算9年)未満の選手がNPB球団の承諾があればMLBに移籍できるポスティングシステムが導入された。
2000年のイチロー以降、多くの選手がこのシステムを使って海を渡るようになった。ポスティングシステムを使ってメジャー契約を結ぶことができれば、NPBでは手にすることができない巨額の年俸が得られる。その上、所属していたNPB球団にも巨額のポスティングフィー(譲渡金)が支払われるので、NPB球団も移籍に理解を示すようになった。
しかしこのシステムの導入によって、NPB選手のMLBへの移籍までの期間は短縮された。
海外FAで移籍した松井秀喜は10年、黒田博樹は11年かかったのに対し、ポスティングで移籍したダルビッシュ有は7年、大谷翔平に至っては5年(規定によりマイナー契約)という短さだった。
それでもMLBで長く実績を残せばいいが、活躍できなくて早々に日本に復帰する例も続出した。
復帰した選手は国内FA権を取得していない。本来なら所属していた球団に復帰すべきだが、このあたりのルールが曖昧なために、他の球団に入団するケースが相次いだ。
特に、日本ハムの上沢直之は2023年、ポスティングでMLBレイズ、レッドソックスに移籍するもわずか1年でNPBに復帰、古巣の日本ハムではなくソフトバンクに入団したことで、大きな批判を浴びた。
■三冠王・村上でも「2割5分」との予想
MLB移籍に関して、プロ野球OBが目くじらを立てるのは、最近の選手があまりにもドライすぎるように映るからだろう。
ただ、投手に関しては、MLB移籍のルートが確立している。上沢や有原航平などの「打たせて取るタイプ」はMLBで通用するのは難しいが、奪三振の多い「パワーピッチャータイプ」が通用するのは、ダルビッシュ有、田中将大から大谷翔平、山本由伸まで多くの投手が証明している。
投手は、NPBとMLBには一定の「交換レート」ができていると言えよう。
しかし、打者は違う。イチロー、松井秀喜、大谷翔平、辛うじて鈴木誠也を除いて、MLBで日本と同レベルの活躍をした選手はいない。
NPB時代に大活躍した選手は、MLBではほぼ確実に成績が下がる。今オフにホワイトソックスにポスティングで移籍が決まった村上宗隆は、ヤクルト時代の2022年に日本人最多の56本塁打を打ち、三冠王もとっている。が、MLBでの成績予想では本塁打は20~30本、打率はよくて.250という予想だ。いわば「並のメジャーリーガー」と言ってよい。
それでも彼らがMLBに行くのは、ありていに言えば圧倒的な「経済的利得」ということになる。
■MLB移籍は富裕層への入り口
吉田正尚のオリックス・バファローズでの最高年俸は、22年の4億円だった。しかし移籍したレッドソックスとは5年総額9000万ドル(約119億円)の契約を結んだ。
MLB移籍後の吉田は、高い打撃力の一端を見せてはいるものの、故障も多く、期待に応えているとは言えない。残り2年の契約を残して、MLB公式サイトの今季デプスチャート(スタメン予想)では、DHと左翼手の3番手にいるが、常時出場は難しいとの評価になっている。
2027年の契約最終年は、7月のトレード期限で放出される可能性が高いだろうし、そのオフにはNPB復帰も噂されている。
しかし、それでも吉田が「勝ち組」なのは間違いない。NPBにいては絶対に手にすることがない巨額の年俸を得たのだから。
イチロー、松井秀喜、上原浩治、松坂大輔などの元メジャーリーガーは、アメリカに居を構えて、ときおり日本のテレビにゲスト出演するくらいで、決まった職に就いていないように見える。
イチローはマリナーズ、松井はヤンキースの肩書を持っているが、球団専属というわけでもない。悠々自適という印象だ。彼らは、メジャーでの現役時代に、仕事を探して汲々としなくても良いだけの資産を築いたのだ。専属のファイナンシャルプランナーがいて、資産運用について相談をしている。要するに富裕層になったのだ。
■大投手が缶チューハイ万引きで逮捕
昨年、衝撃的な事件があった。日本では歴代2位の350勝を挙げた大投手、米田哲也(87)が缶チューハイ2本(303円相当)を万引きして逮捕されたのだ。
しかし、今の選手はメジャー契約さえ結んで、散財、浪費をしなければ、それで勝ち組になれるのだ。
だから、昨今は、端から見れば難しそうな選手でもMLBを目指そうとする。日米の経済格差が、NPB選手のMLB志向に拍車をかけているのだ。
これに対してプロ野球のOBたちは「このままでは日本のプロ野球から人材がいなくなってしまう」と憂慮の声を上げ、「一度MLBに挑戦した選手が簡単に戻ってこれないようにすべきだ」と言っている。
しかし、プロ野球選手は「個人事業主」であり、より条件の良い仕事場を目指して移籍するのは当然のことだ。昭和の時代、選手の異動が少なかったのは「どの球団でも似たような年俸だった」こともある。
今いる球団よりも数倍の年俸が手にできるとなれば、選手が移籍を目指すのは、プロとしてまったく当然のことだ。
■「鎖国」が招く事態悪化
昭和の野球人たちも、自分たちが同じ境遇であれば、迷うことなく移籍を選んだはずだ。
今の選手の「メジャー志向」は、「強欲」でも「狡猾」でもない。NPB選手がそうした動きに出るのは、日米の経済格差が極端に大きくなったからだ。
2025年のMLBの1試合当たりの観客動員は2万9387人、NPBは3万1536人と、NPBの方が多い。だが、NPB球団の支配下選手の年俸総額は355.6億円で、1球団当たり30億円弱。これに対しMLBのメジャーリーガー年俸総額は、47.1億ドル(約7071億円)、1球団当たり244億円弱になる。年俸差は8倍強。円安の影響があるにしても、あまりにも大きい。
これはMLBが、放映権料、スポンサー料、ライセンス料など多くのビジネスで莫大な収益を上げているからだ。このあたりの「稼ぐ力」「ビジネスを開拓する力」では、日米で絶望的な差が開いている。
この格差を解消する努力をすることなく、あたかも「鎖国」のように「一度出ていった選手は簡単に帰ってこられなくする」ような措置をとれば、中にはMLB傘下のマイナーリーグでキャリアを終える選手も出てくるだろう。
■やっぱり「移籍の自由化」が必要
すでに日本の大学に行かずアメリカの大学に進んで、メジャーリーガーを目指す有望選手が出てきている。大谷翔平の母校、花巻東高の佐々木洋監督の息子、佐々木麟太郎が有名だ。彼の他にもそうした選手は多数いる。そうした「野球留学」をあっせんする業者も出てきている。また大卒でも、慶応義塾大学の常松広太郎のように、シカゴ・カブスとマイナー契約を結ぶ選手も出た。
今は、トップクラスの高校、大学の選手はドラフトでNPB球団に進んでいるが「NPBに入ったらMLBに移籍するときにいろいろと面倒なことが起きる」となれば、メジャー志向の選手は増えていくだろう。
日本プロ野球選手会は「国内FA権取得までの期間短縮、海外FA権取得条件の緩和、ポスティングシステムの改善」などをNPBに訴えかけている。
サッカーのように海外への移籍が自由になることで、選手の活躍の舞台がさらに広がり、プロ野球が活性化するとの考えからだ。
筆者も同感だ。MLBに挑戦したい選手には、どんどん機会を与え、復帰の障壁も低くすることで、選手たちのモチベーションも上がるだろうし、野球そのもののレベルもアップするだろう。「移籍の自由化」こそが、NPBの発展には不可欠だと思う。
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広尾 晃(ひろお・こう)
スポーツライター
1959年、大阪府生まれ。広告制作会社、旅行雑誌編集長などを経てフリーライターに。著書に『巨人軍の巨人 馬場正平』、『野球崩壊 深刻化する「野球離れ」を食い止めろ!』(共にイースト・プレス)などがある。
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(スポーツライター 広尾 晃)

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