「ゆるブラック企業」(別名パープル企業)を辞める若手社員が相次いでいるという。残業やストレスもなく、居心地は最高だが、会社が傾いたらリストラ対象になる。
そんな危機感を抱くのだ。ジャーナリストの溝上憲文さんは「そんな若い世代が注目している企業がある」という。働き甲斐のあるそうした企業を「色」に例えると何になるのか、そして企業の名前とは――。
■「ゆるブラック企業」から脱出する若者
若者の働くことに対する価値観が多様化し、就職・転職先選びにも影響を与えている。
10年前は、過酷な労働環境のブラック企業か、福利厚生も充実し、働きやすい環境が整備されているホワイト企業の2択だったが、数年前から「ゆるブラック企業」という言葉も生まれている。
「ゆるブラック企業」とは、残業やストレスのないホワイトな労働環境を与えられ、実力を養う経験やストレッチもなく、成長実感も持てずに茹でガエルにされてしまう企業のことだ。
ゆるブラック企業は「パープル企業」とも呼ばれている。もちろん若者のすべてがパープル企業を嫌うわけではない。
一方で今の会社で長く働きたいという“ほどほど”の安定志向の人も増えているという調査もある。
ただし、若い人に共通するのは将来への不安だ。今の会社は居心地がよくても、いずれ会社が不安定な状況に追い込まれ、自分がリストラの対象になるかもしれないという危機感もあわせ持っている。
会社に居続けるため、あるいは業績不振で自分の部門が再編された場合は、転職しなければいけないという覚悟も持っている。

リスクを回避するには、早く仕事の経験やスキルを身につけられる成長実感を得たいと考えても不思議ではない。自分を茹でガエルにするパープル企業への嫌悪感はそうした不安や危機感から生まれてくるのだろう。
実際に成長意欲を持つ若者は多い。ALL DIFFERENT(本社:千代田区)のラーニングイノベーション総合研究所が実施した2025年卒の「内定者意識調査」(2025年1月31日)は、何のために働きたいかという働く理由を尋ねている。
■若者は「変化・成長していきたい」
回答で最も多かったのは、「お金を稼ぐため」(70.5%)、次いで「自分自身を成長させるため」(54.6%)だった。
また、自分が成長することに対して、①「どちらかといえば自分の成長より楽しければよい」、②「楽しさと大変さが同じぐらい」、③「どちらかといえば大変なことがあっても変化・成長していきたい」――の3つで分析した。
その結果、①は6.7%、②は8.2%であり、85.1%の圧倒的多数が③を選択している。
しかも「大変なことがあっても変化・成長していきたい」という内定者が23.2%もいた。困難な課題に直面しても、自分の成長につながるのであればあえて挑戦したいという層だと言える。
苦労は買ってでもしたいという“昭和メンタル”ともいえるこの層にとっては、社内で難しい課題を与えられず、挑戦意欲に乏しい仕事しか与えられない場合、「パープル企業」と見なす可能性が高いだろう。
この層はすでに入社から約1年経つが、転職の準備をしてもおかしくないかもしれない。
■若者が目指すべき「レッド企業」とは何か
マイナビの「中途採用・転職活動の定点調査」では、転職志向のある会社員に「現在の会社や職場が『ゆるブラック』だと思うかを聞いている。

それによると20代では「そう思う」が29.7%、「どちらかというとそう思う」が37.9%。つまり、計67.6%が自社をパープル企業だと感じている。
この人たちが転職するとしたら、「若くてもストレッチの高い仕事を与えられるなど成長機会が多く、なおかつスキル修得など自ら成長実感を持てる企業」ということになるだろう。
そうした企業を、筆者は“レッド企業”と命名したい。ではレッド企業とは具体的にどんな企業なのか。もちろん、赤字を垂れ流す企業などではない。極めて挑戦意欲が高い、情熱・パッションがないと生き抜けない、タフだけど働き甲斐のある企業だ。
その前に、それとは対照的に、成長実感の持てないパープル企業の特徴とは何か簡単に整理したい。以下のような点が挙げられる。
① 年功的な賃金制度かつ昇進・昇格に年次制限がある
② 言われた仕事をやるだけの「指示命令型」の風土がある
③ 会社主導で転勤などの異動・配置を行っている
④ 兼業・副業を認めない
⑤ OJT(職場内教育)の指導役を入社2~3年目の社員が担当している
⑥ 人材投資(1人あたりの教育研修費)が少ない

■ゆるブラック=パープル企業の特徴
こうした企業はいわゆるJTC(Japanese Traditional Company)と呼ばれる日本の伝統的企業に共通した特徴ともいえる。
①については、どんなに仕事をがんばっても同期とたいして給与も変わらず、先輩よりも低いのではモチベーションも上がりにくい。加えて昇進・昇格は3~5年の年次制限があり、昇格しないと大きな仕事を任せてもらえない。

②のような風土では、会議で反対意見を言ったり、自発的にビジネス企画の提案をしても却下されることが多く、不満が高まる。
③は会社の人事権が非常に強く、自分がやりたい仕事や職務があっても希望が叶えられず、意に沿わない仕事や転勤を強いられることでモチベーションがダウンする。
④の兼業・副業は社外の経験やネットワークを通じて自らのキャリアを広げる効果もある。それができない場合、自らのスキルが社内だけしか通用しない特殊スキルになってしまい、池の中のカエル化し、転職でも不利になりやすい。
⑤については、そもそも一人前とはいえない若手社員に指導役を任せること自体、本人の成長にあまり期待していない証左でもある。日本企業のOJTの機能不全が言われて久しいが、OJTの不備が新入社員の仕事に対する失望感を生み、離職につながっているのは間違いない。
■「レッド企業」の具体的な指標と企業名
以上が成長実感を持てないパープル企業の特徴であるが、では筆者提唱の「レッド企業」とはどういう企業か。パープル企業と反対の企業ということになるが、具体的な指標は以下の5つだ。指標に登場する数字・基準などは、これまでの企業取材や専門家への取材で得た知見をベースにしたものである。
① 1人あたりの教育研修費が10万円を超え、e-ラーニングなどの自己学習の仕組みが充実している。
② 資格・スキル修得を奨励し、取得のための助成金、取得後の報奨金制度を設けている。
③ 人事異動に希望申告制度や社内公募制を活用し、全社の異動のうち希望申告や社内公募の割合が3割以上を占めている。

④ ペイフォージョブ、ペイフォーパフォーマンスに基づく報酬制度が徹底し、昇格・昇進の年次制限がなく、“飛び級”もあり、かつ人事評価しだいで降格もある。
⑤ 社内の等級ごとの定義が明確であり、求められる能力・スキルを明記し、かつ全社員に公開している。

1人あたりの教育研修費は企業平均で年間3万~4万円であるが、少なくとも「人材投資」を掲げている企業は10万円超はあってもよい(※)。また、e-ラーニングなどの自己学習のシステムを導入する企業も増えている。さらに資格取得奨励金制度や取得後に数万円の報奨金を設けている企業もある。(※:東洋経済新報社『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』「従業員1人あたり年間教育研修費用」参照)
■求める能力とスキルを社内に公開する企業
③の企業は「キャリアオーナーシップ」(※)や「キャリア自律推進」を掲げている企業に多い。ある中堅証券会社は「会社の人事権を社員に返していく」方針の下、社内公募の活性化に注力している。

富士通、エーザイ、NTTドコモ、マクニカ、小田急電鉄、SHIFT、三井住友海上、ニトリ、ヤフーなどが、1on1、副業、研修などの仕組みを通じて社員の主体的な成長を支援している。
④はいわゆるジョブ型企業に多い(※)。理論的には20代で管理職層の等級に上がることができ、報酬が上がるのはもちろん、大きな仕事を任せられ、経験の幅も広がる。ただし、評価が落ちると降格する可能性もあるが、挑戦意欲の強い人には最適だろう。
※ 富士通、リコー、カゴメ、ソフトバンクグループ、三井住友海上火災など
⑤求める能力とスキルを社内に公開する企業(※)は、近年増えている。

また、目指すのが管理職なのか、専門職(スペシャリスト)なのかを選択できるコースを設ける企業も増えている。

※ ベネッセホールディングス、ニトリ、日立製作所、富士通、カゴメなど。
以上の仕組みを持つ企業がレッド企業ということになるが、ただしキャリアを選ぶのは自分自身だ。
どういうスキルを身につけて、将来はどうありたいのかというキャリア像を明確に描くことが大前提となる。
そのためには今の自分の能力がどの程度なのかを知ることであり、その上で不足しているものがあれば、それを埋めるためにどういう方法があるのかを考えることだ。その上で会社が提供する資源を活用する。主体的に具体的なキャリアを描ける人こそレッド企業に向いているだろう。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)

人事ジャーナリスト

1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。



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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)
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