※本稿は、出口治明『誰も行ったことのない場所へ行こう。そして誰もやらなかったことをやろう。』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■人生はトレードオフ
この選択は正しかったのだろうか――。もっといい選択はあったのではないだろうか――。
そんな後悔や迷い、悩みを抱えてしまったら、どうしたらいいのでしょう。
どんなふうに、考え方を整理したらいいのでしょう。
就職活動中の学生は、志望した会社に選んでもらうことで頭がいっぱいです。あなたも内定をもらったときは、「選ばれたこと」の喜びを味わったと思います。
しかし就職してしばらくすると、その会社にいることが当たり前に思えてくるので、「選ばれた」ことの喜びが徐々に薄まっていくでしょう。一方で、そこを「選んだ」自分の判断を振り返るようにもなります。
どんな会社も、就活中の学生には想像できない面がありますから、「思っていたのと違う」と後悔する人も少なくありません。とくに複数の会社から内定をもらって「どちらにすべきか」と悩んだ人は、自分の選択を問い直したくなるものです。
でも、「どちらを選ぶべきだろう」とか「こうしたほうがよかったのではないか」などと迷ったり悔やんだりすることに時間を費やすのは、僕には「もったいない」と思えてなりません。
社会に出たばかりのあなたは、これからの長い人生の中でも、さまざまな選択を迫られると思います。仕事上のことだけではありません。結婚、出産、育児、転職など、人生は選択の連続です。
でも、目の前の選択肢のうちどれが正解なのか、ほんとうのところはわかりません。
正解がわからないからこそ迷うわけですが、人生はトレードオフなので、同時に2つを選ぶことはできません。こちらを選べば、あちらは選べない。当たり前のことです。
■何かを選ぶということは、何かを捨てるということ
そういう状況では、「どちらかを選ぶ」ではなく、「どちらかを捨てる」と考えたほうがいいでしょう。たとえばクローゼットが満杯になると、新しい洋服を買えません。
つまり、何か新しいものを手に入れようと思ったら、先に何かを「捨てる」べきなのです。そして、捨てたものはもう取り戻せません。
あなたも、エントリーする会社を決めた時点で、それ以外の選択肢を捨てました。捨ててしまったのですから、いまさら「あちらのほうがよかったかも」と考えても仕方がありません。
ちなみに、ご存じかもしれませんが、僕はとても短気な性格です。昔は、会合の時間に遅れる人がいると、何度も何度も腕時計に目をやってイライラしていました。あるとき、「腕時計なんかしているから、時間を気にしてイライラしてしまうのだ」と気づいて、腕時計を捨ててしまったことがあるくらいです。
そんな性格ですから、選択を迫られたときも、たいがい即決です。迷ったり悩んだりする時間は、もったいない。さっさと決めて、次の行動に移りたいのです。
■リハビリ3カ月で理学療法士の先生が告げた言葉
たとえば脳出血で倒れた後には、こんな選択を迫られたこともありました。
僕の後遺症は、右半身麻痺と失語症。そのため、体の回復を目指す理学療法、日常生活に必要な動作を訓練する作業療法、そして言葉を訓練する言語聴覚療法という3種類のリハビリに取り組んでいました。
とくに一所懸命に取り組んでいたのは、歩行訓練です。APUの学長職に復帰するのが最大の目的でしたから、ひとりで自立した生活を送れるようにならなければいけません(学長時代、僕は大学の近くに単身赴任していました)。
しかし医療保険の対象となるリハビリ期間は最長で180日。長くても6カ月しかリハビリ病院には入院できません。その半分が過ぎたとき、理学療法士の先生が僕にこう告げました。
「自分の足で、外をひとりで歩くのはあきらめましょう」─―。
残酷な言葉だと思われるかもしれませんが、これはきわめて合理的な提案です。リハビリ期間にはかぎりがあるので、時間は有効に使わなければいけません。すべてのリハビリに時間を費やしていると、どれも中途半端に終わるおそれがあります。
このまま歩行訓練を続けても退院までに自力で外を歩けるようにはならないので、その時間を失語症のリハビリに使ったほうがいい──それが先生の判断でした。
■3秒で歩くことをあきらめた
つまり、「言葉を取り戻すために歩くことをあきらめましょう」という話です。かなり深刻な選択なので、僕も悩まなかったわけではありません。
でも、その時間はたった3秒でした。
ひとりで生活するには、歩くことより、着替えや食事などの日常動作ができることのほうが大事です。それに、学長職を続けるには周囲とのコミュニケーションが不可欠ですから、失語症も回復させなければいけません。自力で歩けなくても、電動車いすの操作さえ覚えれば、移動は何とかなるでしょう。だから3秒だけ考えて、先生の提案に同意したのです。
もっと前にも、重大な選択を即決したことがありました。60歳で起業して、ライフネット生命という新しい生命保険会社をつくったときです。
あれは自分からいい出したわけではなく、ある人からの誘いを受けて始めた仕事でした。とはいえ、何度も口説かれて決めたわけではありません。
この決断は、さっきお話ししたリハビリの選択とはちょっと違います。
■生成AIのような脳の直感を信じる
歩行訓練をやめる決断が3秒でできたのは、「ファクトとロジック」があったからです。リハビリのプロが「残された時間で歩けるようにはならない」というファクトを示してくれたのですから、それを受け入れてロジカルに考えるしかありません。
そして、ファクトに基づいてロジカルに考えれば、すぐ「正解」が出ます。さっきも書いたとおり、「正解」のある問題に迷う余地はありません。だから「3秒」しかかからなかったのです。
一方、新しいスタイルの生命保険会社を立ち上げるべきかどうかという問題に、「正解」はありません。その誘いに乗らなくても、僕にはほかにいくらでも生きていく道がありました。だから、迷う余地はあったわけです。
それでもすぐに決めたのは、自分の「直感」によるものでした。会って話をしてみて、この人の話だったら乗ってみよう、と思った。
直感というと、デタラメな「その場の思いつき」みたいなものだと思うかもしれませんね。でも、直感とはそういうものではありません。自分の脳がフル回転して自分の知識や経験を検索し、それを総合的に計算して出した最適解──それが直感です。
生成AIがユーザーの質問に瞬時に答えるような作業を、自分の脳がやっているのだと思ってもらえばいいでしょう。
■自分で決めたことを信じて前進する
物事を考えるときは、数字・ファクト・ロジックが大切。でも、そもそも「正解」のない問題をそれで解決しようとすると、ただひたすら「迷っている状態」にしかならないことも少なくありません。これは時間の無駄です。
あなたも就職先を選ぶときは、どこかで自分の「直感」にしたがったにちがいありません。ならば、自分の脳の計算結果を信じて、後ろを振り返ることなく、前に進めばいいでしょう。
「正解」のない選択が続く人生では、グズグズと迷うより、自分で決めたことを信じて早く前進するほうが良い結果につながります。
前進していれば、知識や経験も増えるでしょう。それが脳にどんどん蓄積されれば、あなたの「直感」の精度もどんどん高まり、より良い選択ができるようになるのです。
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出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)前学長
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立し、社長に就任。2012年に上場。2018年よりAPU学長。読んだ本は1万冊超。主な著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史』(上・下、新潮文庫)、『一気読み世界史』(日経BP)、『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『人類5000年史』(I~IV、ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文春文庫)、『日本の伸びしろ』(文春新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『復活への底力』(講談社現代新書)、『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など多数。
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(立命館アジア太平洋大学(APU)前学長 出口 治明)

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