仕事で成功する秘訣は何か。立命館アジア太平洋大学前学長・名誉教授の出口治明さんは「人類の長い歴史を振り返ると、やりたいことにチャレンジした100人のうち、99人は失敗している。
ただし、失敗する99パーセントのチャレンジは、いわば1パーセントの成功を支える土台のようなものだから、大きな価値がある」という――。
※本稿は、出口治明『誰も行ったことのない場所へ行こう。そして誰もやらなかったことをやろう。』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■万人に当てはまる「成功の法則」はない
「成功の法則」――ハウツー本のタイトルにありそうですね。しかし、万人に当てはまる「成功の法則」はあり得ません。
なぜなら、人類の長い歴史をみれば、成功の事例はチャレンジした人のたった1パーセントにすぎないからです。残りの99パーセントは失敗。でも、ほとんどが失敗だからこそ、思い切ってチャレンジすることに意味がある。
今回は「成功」についてお話ししてみたいと思います。

いま、あなたの前には、小さなものから大きなものまで、チャレンジすべきさまざまなテーマがあることでしょう。日々、会社から与えられる課題もあれば、あなた自身が長い人生の中でやり遂げたい野心的な目標もあると思います。

どんなチャレンジもうまくいくとはかぎりません。失敗のリスクがあるからこそのチャレンジです。それを成功に近づけるためには、どうすればいいのでしょうか。
残念ながら、万人に当てはまる「成功の法則」みたいなものは、現実にはありません。「こんなプロセスをたどれば誰でも成功者になれる」などと書いてあるビジネス書もよくありますが、まずアテにはならないと僕は思っています。
たしかに、その方法で成功した人は存在するかもしれません。しかし、そこには多少なりとも運や偶然が入り込んでいます。ですから、同じような方法でチャレンジしても、運に恵まれず失敗に終わった人もいるはずです。
たとえばニュートンやアインシュタインが発見した物理法則は、あらゆる現象に同じように当てはまります。実験を何度やっても、同じように物体を動かせば同じ結果になるのです。それとは違って、同じようにやっても成功したり失敗したりするものを「法則」と呼ぶことはできません。
■99パーセントの人は思い通りにならない人生を送る
成功に向けた計画の立て方は、人によって違います。
それぞれ環境や得意分野などが違うのですから、それを達成するための方法が違うのは当然でしょう。
キャリアアップのために資格を取ろうとする人もいますが、「これを取得して成功した人がいるから」と真似をして取ったところで、きっと役には立ちません。まず自分自身の「目的」があって、そのために必要な資格があるのなら、勉強して取得すればいいのです。
とはいえ、自分なりの計画を立てて実行しても、必ず望んだような結果が出るとはかぎりません。むしろ、成功の確率は低いと思っていたほうがいいでしょう。
人類の長い歴史を振り返ると、やりたいことにチャレンジした100人のうち、99人は失敗しています。しかも大半は、本人が生きているあいだには結果が出ません。ずっと後の時代になって、成功か失敗かがわかるケースがほとんどです。
つまり僕たちの人生は、99パーセントが思いどおりにはならないということ。そんなに確率が低い現象に「成功の法則」なんてあり得ません。たとえ計画が失敗に終わったとしても、それは単に「よくあること」にすぎないのです。
■その失敗には、大きな価値がある
そういわれると、チャレンジする意欲が下がりますか? もしそうなら、こんなふうに考えてみてください。

長い歴史の中では100人のうち99人が失敗してきましたが、ひとりの成功のおかげで、世界は少しずつ変わってきました。成功率が1パーセントでも、チャレンジする人が多ければ、成功の絶対数は増えます。チャレンジする人が少なければ、世界は変わりません。
失敗する99パーセントのチャレンジは、いわば1パーセントの成功を支える土台のようなもの。その失敗には、大きな価値があるのです。
それに、仕事で失敗したとしても、命まで失うわけではありません。命どころか、人生の大部分は何のダメージも受けないでしょう。
世の中には、「仕事が人生のすべて」だと思い込んでいる人もいます。社会人1年生のあなたも、いまは仕事のことで頭がいっぱいかもしれません。
でも、ちょっと考えてみてください。あなたは昨日の夜、何時間ぐらい寝ましたか? まだ若いから6時間ぐらいかもしれませんが、人はだいたい7時間から8時間ぐらい寝ると思います。会社で過ごす時間と大差ないですよね?
それだけ考えても、人生が仕事だけでできているわけではないのはわかるでしょう。
会社で働くのは1日の3分の1ですし、1週間のうち2日は休みです。長い人生のうちで、仕事をしている時間は3割にもなりません。睡眠時間のほうが多いくらいです。
■仕事は大事だけれど、人生のすべてではない
それ以外の7割以上、僕たちは寝たり、食べたり、家族や仲間と過ごしたり、本を読んだり、映画や音楽を楽しんだり、ときには旅をしたりしています。この7割以上の生活と、3割以下の仕事と、どちらが大切でしょうか?
答えは自明ですよね。人生の大半を占める生活にくらべたら、仕事はほとんど「どうでもいいこと」だと僕は思います。
もちろん、これは「7割対3割」という比率の話ですから、仕事そのものに意味や価値がないといいたいわけではありません。重要なのは、仕事が人生のすべてではないということ。3割以下の仕事で99パーセントが失敗に終わったからといって、自分の人生が大きく損なわれるわけではないでしょう。
だからこそ、仕事では失敗を恐れず、思い切ってチャレンジすべきなのです。仕事以外の7割が充実していれば、失敗しても大したことはありません。せいぜい、睡眠時間がちょっと削られた程度のダメージです。

「ゆうべは3時間しか眠れなかったよ」とボヤくように、「あの仕事はうまくいかなかったな」と頭をかいて済ませばいいだけの話ではありませんか。
人間の幸福度を決めるのは「喜怒哀楽の総量」です。つまり、成功しようが失敗しようが、チャレンジの回数が多いほど人生は豊かになる。
打率は低くても、打席に立つ回数を増やせば、いつか成功するかもしれません。バットを振り続けなければ、何も成し遂げることはできないのです。

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出口 治明(でぐち・はるあき)

立命館アジア太平洋大学(APU)前学長

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立し、社長に就任。2012年に上場。2018年よりAPU学長。読んだ本は1万冊超。
主な著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史』(上・下、新潮文庫)、『一気読み世界史』(日経BP)、『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『人類5000年史』(I~IV、ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文春文庫)、『日本の伸びしろ』(文春新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『復活への底力』(講談社現代新書)、『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など多数。

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(立命館アジア太平洋大学(APU)前学長 出口 治明)
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