老後のお金の不安はどうすれば解消できるか。立命館アジア太平洋大学前学長・名誉教授の出口治明さんは「仮に年金がほとんどもらえないような事態になったとしても、老後のお金の不安はそんなに心配する必要はない。
明日の食い扶持は、今日稼げばいい」という――。
※本稿は、出口治明『誰も行ったことのない場所へ行こう。そして誰もやらなかったことをやろう。』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■お金の不安を考える
物価は高くなるのに、給料はなかなか上がらず、子育てにお金を使えるのか、将来のお金はどうなるのか……お金にまつわる不安は尽きません。
お金の不安を払拭するためには、お金の知識が必要です。
今回はお金の基本のお話です。

学生と社会人の違いというと、誰でも真っ先に「仕事」のことを思い浮かべます。でも前にお話ししたとおり、仕事は人生の3割以下を占めるにすぎません。7割以上を占める生活のほうが、はるかに大事です。
しかし、日々の生活は「お金」がなければ成り立ちません。社会人になると、基本的にはそれを自分で稼ぐことになります。
大学を卒業するまでは親に面倒をみてもらっていた人も、そこからは自力で生活を支えなければいけません。
もちろん、学生時代からそうだった人もいるでしょう。しかし社会人としての長い人生には、これまでとは違うレベルのお金がかかります。
お金は人生の大問題。
あなたも、その重みを感じて不安を抱いている一人かもしれません。
それまでは当たり前のように親から学費を出してもらっていたけれど、いずれ自分が親になったときに同じことができるのだろうか――そう思った途端に、親への感謝の気持ちが深まった人もいるでしょう。
■一番効率のよい投資は「働くこと」
僕が社会人になった時代の日本は高度経済成長期だったこともあって、若い人が経済的な不安を抱くことはほとんどありませんでした。
ふつうに会社で働いていれば、誰でも自分の家を持ち、子どもを大学に行かせ、老後は年金をもらって悠々自適の暮らしができると信じていた時代です。給料はどんどん上がりましたし、銀行に預けておけば、けっこうな利子がつきました。
でも、いまは違います。そもそも安い給料はなかなか上がらず、将来の年金もどれだけもらえるのかよくわかりません。
また、銀行預金の金利は無いに等しいほど低いので、お金を増やしたければ、リスクを負って投資をするのが当たり前とされるようにもなりました。

お金のことを、それこそ「自己責任」で考えなければいけない――あなたも、そんなプレッシャーを感じているのではないでしょうか。
そこで僕から、いちばん確実で効率がよく、しかも簡単な投資法をお教えしましょう。株式や債券や不動産を買うわけではありません。それは「働くこと」です。
株式投資や不動産投資は、自分の貯めたお金が減るリスクを負って出資しなければいけません。でも、労働は違います。提供するのは、自分の時間と身体と頭だけ。それによって、ほぼ間違いなく収入が得られます。
会社が倒産でもすれば給料が不払いになることもあるでしょうが、それでも貯金が減るわけではありません。次の仕事を見つければ、また収入を得られます。じつにローリスクでハイリターンな投資です。
■明日の食い扶持は、今日稼げばいい
仮に年金がほとんどもらえないような事態になったとしても、働いてさえいれば生活は成り立ちます。

「お金の不安」は、突き詰めれば大部分が「老後の不安」だと思いますが、死ぬまで働くつもりでいれば、そんなに心配することはありません。明日の食い扶持は、今日稼げばいいのです。
会社には昔から定年制度があるので、年を取ったら仕事はやめるものだという固定観念を持っている人も多いでしょう。でも農家のみなさんのことを考えれば誰でもわかるとおり、定年制度が関係ない職業はいくらでもあります。
そもそも、動物に定年なんかありません。みんな、死ぬまで今日の食べ物を得るために一所懸命に働いています。人間も動物なのですから、そうやって生きていくことに何の不思議もありません。
しかも日本という国は、世界の中でもいちばん労働環境に恵まれています。少子高齢化が進んだため、高齢者が仕事をやめてしまうと、労働力が足りません。定年制度を廃止するぐらいにしないと、社会そのものがもたないのです。
とくに地方の人手不足はきわめて深刻です。僕はAPUの学長だったとき大分県の別府市で暮らしていたので、それがよくわかりました。
地元の財界人などは、みなさん「どんな人でもいいから働きに来てほしい」といいます。
東京をはじめとする都市部は若年層の求人がほとんどかもしれませんが、地方には働き手の年齢層を選んでいる余裕などありません。頭と体が動けば、何歳になっても仕事はあるのです。
■日本は「働く意思があればみんな職に就ける状態」
実際、ここ数年間の日本の完全失業率は2.5パーセント前後で推移してきました。この数字が3パーセントを切ると「完全雇用状態」、すなわち「働く意思があればみんな職に就ける状態」とされます。
もちろん、誰もが望んだ職に就けるわけではありません。求人は若年層のほうが多いので、高齢者は仕事を選びにくい立場ではあるでしょう。でも働く意思さえあれば、収入を得る道はあるのです。そう思うと、若い人の「お金の不安」はかなり和らぐのではないでしょうか。
「貯金がなくても働けば生きていける」と気楽に構えていればいいのです。
定年までがんばって働いたら、老後はのんびりと趣味や旅行を楽しみたい──そんなイメージを抱く人も多いのですが、これも固定観念にすぎません。
定年など待たずに、株式投資などで大金を稼いでさっさとリタイヤする生き方に憧れる若い人もいるようですが、たぶん、働かずに何十年も過ごすのは苦痛でしかないでしょう。

僕の大学時代の同級生を見ていると、「人間は働かずにはいられない動物なんだな」と思います。
みんな、定年退職したときはゴルフや囲碁など好きなことに没頭できるのを楽しみにしていましたが、1年ぐらい経つと、家庭裁判所の調停委員になったり、マンションの自治会で理事を務めるなど、何らかの職を得て仕事をしていました。収入の有無は別にして、働いていないと退屈で仕方がないのだと思います。
■公的年金保険そのものが破綻することはない
あなたの会社にも、定年制度があるでしょう。でも、そこが仕事の終着点だと思う必要はありません。ずっと働き続ければ生活はできますし、そのほうが人生も充実するのです。
とはいえ、年を取れば体力も落ちるし、若いときと同じようには稼げないかもしれません。病気で働けなくなることもあるでしょう。
ですから、やはり年金をアテにしたくなる気持ちもわかります。その年金がどうなるかわからないから、あなたも将来のお金のことが心配になるんですよね?
しかし、よほどのことがないかぎり、公的年金保険そのものが破綻することはありません。それは、その仕組みを考えれば当然のことです。
日本の公的年金保険は、国民が支払う保険料、国庫負担、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が運用する積立金などでまかなわれています。
家計になぞらえていえば、保険料は会社からもらう給料、国庫負担はパートやアルバイトなどの副業収入、積立金は資産のようなものだと思えばいいでしょう。
国庫負担は僕たちが払う税金ですから、出どころは保険料と変わりません。どちらも国民のお金です。したがって公的年金保険とは、単に国が国民から集めたお金を分配するだけのもの。国と国民が存在するかぎり、この仕組み自体が破綻することはありません。
■経済成長が不安を解消する道に
ただ、出費が増えれば家計が苦しくなるのと同じで、公的年金保険も少子高齢化などの理由で苦しくなることはあります。やりくりのためには、国民から集める保険料を上げたり、逆に受給額を減らしたりしなければならないこともあるでしょう。
家計の場合、出費の増加をカバーするには、出世して給料を上げる、給料の高い会社に転職する、副業を増やすといったことが考えられます。では、公的年金保険の受給額を減らさずにやりくりするには、どうすればいいでしょう。
これは「経済成長」しかありません。日本経済がダメになれば、受給額を下げたり、受給開始年齢を遅らせたりすることになるでしょう。あなたが仕事で「儲ける」という目的を達成することが、いまの不安を解消する道なのです。

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出口 治明(でぐち・はるあき)

立命館アジア太平洋大学(APU)前学長

1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立し、社長に就任。2012年に上場。2018年よりAPU学長。読んだ本は1万冊超。主な著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史』(上・下、新潮文庫)、『一気読み世界史』(日経BP)、『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『人類5000年史』(I~IV、ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文春文庫)、『日本の伸びしろ』(文春新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『復活への底力』(講談社現代新書)、『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など多数。

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(立命館アジア太平洋大学(APU)前学長 出口 治明)
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