野村総合研究所のレポートによると、会社員でありながら純金融資産が1億円以上となった「いつの間にか富裕層」になる人が増えている。彼らはどのような選択をしているのか。
ファイナンシャルプランナーの内田英子さんは「“いつの間にか富裕層”になったかたからの相談も受けるが、多くはいわゆる普通の会社員だ。普段の暮らしはとても堅実で、それは車の選び方にも表れる」という――。
※本稿の事例は、実際の相談内容などを基に、個人が特定されないよう変更や修正を加えています。
■“資産1億円以上”の暮らしは「普通」
「普通の会社員でも、気づけば資産1億円に届く人が増えている」
野村総合研究所(NRI)のまとめたレポートによると、2023年時点で1億円以上の純金融資産額をもつ富裕層・超富裕層の世帯数と純金融資産額は過去最高水準となり、拡大幅も過去最高のものとなったといいます。
また同レポートでは近年の株式相場の上昇や円安を受け、普通の会社員や公務員でありながら、純金融資産が1億円以上となった「いつの間にか富裕層」という新しい潮流についても言及されています。
筆者は愛媛県を拠点にオンラインでも相談を受けていますが、日々さまざまなかたとご面談させていただく中で、地方在住でもそのような「いつの間にか富裕層」となった方々とお会いすることがあります。
彼らは特別な才能があって、一発逆転を遂げたわけではありません。同レポートでも言及されていますが、近年の株式市場の上昇などを背景に資産価値を増やしつつも、給与の範囲で堅実に暮らしている方々です。
いつの間にか富裕層となったかたの普段の暮らしは至って「普通」です。その違いが、分かりやすく表れるのが実は車の買い方です。
■“人気のランクル”を買ったAさんの例
高額な買い物をするとき、多くのかたは価格に注目し、「自分の満足や周囲からの評価」「豊かさの証明」を得ようとします。
例えば、先日、FPの職業柄耳に入ってきた事例ですが、大手企業に勤務する30代のAさん(仮名)が購入したのはランドクルーザーでした。
夫婦共働きでまとまった貯蓄があったことから、自分へのご褒美もかねて独断で購入しました。
購入の決め手は、「人気で高く売れる」ときいたこと。Aさんは「人気だから、すぐ売っても値段が落ちにくい。むしろ高く売れることもある」と聞いたそうです。確かに、中古車の比較サイトを見ると、1000万円前後で出されているものも散見され、需要の高さが推察されます。
Aさんが乗り換え前に乗っていたのは、アルファードでした。デザイン性の高いミニバンで、こちらも車の比較サイトなどの販売台数ランキングでは上位に入る人気の車種です。まさに「自分の好き」と「人からの価値判断」「豊かさの証明」が判断軸でした。
■リセールバリューを意識しすぎると“窮屈”に
Aさんはリセールバリューを意識されていましたが、確かに乗用車は、円安や特定モデルの人気を背景に、購入時より高値で売却できるケースがあります。例えば、前述のアルファードやランドクルーザーが挙げられます。様々なランキングをみると、そのほかにも、ランドローバーやレクサスなども比較的高いリセールバリュー(残価率)があるとされています。
(参考:ユーカーパック「リセールバリュー・残価率 ランキング」Gulliver「5年落ち リセールバリューランキング」
ただし、その多くは市場環境や需給に左右される不確実な要素が大きく、再現性のある収益とは言いにくい点には注意が必要です。

リセールバリューへの意識は使い方にも影響を与える可能性があります。実際、Aさんは購入後、リセールバリューを気にするあまり、妻や家族にも使い方を厳しく指定していました。
「少しでも汚したり、傷をつけたらリセール価格が下がって怒られる」
結果として、家族でお出かけする際も妻や子どもはAさんの顔色をうかがうように。奥さまは、安心して車に乗れなくなってしまったそうです。
もちろん、車そのものが好きで、家計に無理のない範囲で選んでいるのであれば、高級車が悪いわけではありません。重要なのは、車が「見栄」や「他者からの評価のための資産」になっていないかどうかです。
■“軽”に買い替えたBさんの例
一方、「いつの間にか富裕層」となるかたの思考は異なります。
実際の相談者の例を挙げると、まず、コスト意識が高いかたが多く、車についても日々のランニングコストを意識して検討されています。そのため、選ぶ車は中古車も含めて、燃費の良さを重視されるかたが多いです。
具体的にはヤリスやフィット、ノートなどのコンパクトカー、シエンタやプレマシーなどの小さめのミニバンや軽自動車などがあげられます。いずれも国産車です。
例えば、私のもとに相談にこられ、今年「いつの間にか富裕層」となった52歳の会社員のBさん(仮名)。
これまでは中古で買ったシエンタに乗っていましたが、最近購入したのは、軽自動車でした。子どもが大きくなり、送迎などが不要になったことがきっかけの買い替えです。
夫婦共働きで家計にもある程度のゆとりがありましたが、Bさんが選んだのは高級車でも外車でもありませんでした。
■「身の丈」に対してシビア
「いつの間にか富裕層」となるかたはコストだけではなく周囲とのつながりも大切にする傾向にあります。自分だけではなく家族の使いやすさもふまえて購入を検討します。
自分だけでなく、家族にとってもよい買い物かどうか。
彼らにとって車の価値は、「生活水準をあげられること」ではありません。あくまで、今の生活の満足度を維持できることにあります。
Bさんが、軽自動車やコンパクトタイプ、場合によっては中古車を選ぶ理由はいたってシンプルです。
「必要ないから。いいなとは思うけど、運転に自信があるわけではないし。普段使いもしづらいから」
彼らは「見栄を張らないから軽を選ぶ」というより、あくまで車を普段の生活や体験の延長線上にある道具と考えており、資産とは考えていません。
自分たちの「身の丈」に、ある意味シビアであるとも言えます。
■“高級車”は「税金・保険料・燃料費」が高い
選ぶ車種が変われば、家計にも違いが表れます。例えば、車であれば、以下のような維持費が必要となり、車種によって水準が変わるためです。
① 税金(購入時・毎年・車検時)

② 保険料(毎年)

③ 修繕費用(数年に一度)
車の税金には、持っている間毎年納める「種別割」というものがありますが、排気量が大きくなるほど高くなるしくみになっています。加えて、車検の際に納める「自動車重量税」は基本的に車体が大きく重いほど高くなるしくみとなっています。「エコカー減税」のように、燃費のいいものであれば優遇されるしくみもありますが、高級車はこういった要素が不利な方向に働きやすく負担が増えがちです。
また、一般的に高級車は自動車保険料も高くなる傾向にあります。盗難のターゲットとなりやすいうえに修理費用も高くなりやすく、リスク評価が高くなります。結果的に車両保険の保険料水準が高くなるのです。
さらに、燃料費も高くなります。車体が大きいうえ、快適性や走りを重視すると1回の燃焼量が多くなり、燃費は不利となります。さらにハイオク指定となるとガソリン単価も高くなります。

車の購入後にかかるコストはそのボリュームが大きいほど、知らないうちに家計の平均支出額を底上げし、お財布には大きな穴となるケースは珍しくありません。
■浮いたお金は「インデックス投資」へ
では、AさんとBさんで、具体的にどれくらいの差が生まれたのでしょうか。2人の維持費をまとめると、Aさんのケースでは、税金、保険料、燃料、車検代などを含めたランニングコストが年間約60万円程度に達しました。一方Bさんのケースでは、約20万円でした。
その差は年間約40万円です。もちろん使い方により生まれる差もありますが、もし仮に3年程度で売却をするとしてもランニングコストの差は約120万円にのぼります。例え、「特に贅沢はしていない」という認識であっても、日々生活の中で使う支出(生活費)が静かに底上げされているのです。
一方、「いつの間にか富裕層」になったかたは、生活費の底上げを安易に行わず、投資にまとまった金額を定期的に拠出しているかたが多いです。
例えばBさんの場合は、維持費負担が軽い車種を選びながら、2011年頃から約15年間、月5万円から始まり、毎月一定額を淡々と投資に回してきたそうです。つみたて投資にまわすお金を減らす年もあったものの、家計にゆとりがあれば、投資に回すお金を増やし、直近では月10万円を投資にまわしていました。
具体的にはBさんの場合は、日本株式インデックスファンドと全世界株式インデックスファンド(オルカン)を長年保有していました。
■“生き残り戦略”としての「軽自動車」
車は税金面では家と同様に資産として扱われ、中古市場もあります。
しかし、10年もたたないうちにリセールバリューはゼロに近づくというのが一般的な認識でしょう。一部には購入時より高値で売却できるケースもありますが、その多くは市場環境や需給に左右され、リセールバリューには大きなばらつきがあります。
結局のところ、AさんとBさんは資産形成においては真逆の行動をとっていたとも言えます。
Bさんは収益を生みづらいもの、不確実性の高いものへの費用は最小限にとどめ、収益をより生みやすいものへの割り当てを効率的に増やしていました。“いつもの生活”を続けることを重視し、ハイランクの車をあえて持たないことで家計収支にゆとりを生み、結果として、安定した資産形成を下支えしていました。
会社員は昇給のペースや金額を自分でコントロールすることはできません。しかし、ある程度収入の水準を見通すことができる点が強みです。コストをある程度コントロールできれば、家計の持続性を高め、長期の資産形成の実践へとつながります。これは、不透明な時代において“負けにくさ”を重視した一つの生き残り戦略とも言えます。
NISAやiDeCoなど資産形成の環境が広く整えられている今、Bさんが通ってきたような「いつの間にか富裕層」への道が開かれる可能性もあります。
まずはシンプルに「自動車は道具」ととらえ、ご自身の人生の青写真(ライフプラン)から逆算し、ちょうどいい自動車像をイメージするところからはじめてはいかがでしょうか。

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内田 英子(うちだ・えいこ)

FPオフィスツクル代表、ファイナンシャルアドバイザー、CFP

愛媛県在住。証券会社・保険ショップ勤務などを経て、現在、FPオフィスツクル代表。完全フィーベースの独立系FPとして、全国からオンライン相談に応じる。教育費・住宅・老後の資金計画まで、人生の節目に寄り添うサポートを行う。税制や公的医療保険、公的年金、企業年金などの制度を活かし、コストを抑えながら「資産を長持ちさせる家計づくり」を提案。住宅ローンや保険、投資など“生活に関わる金融制度やサービス”を使いこなし、仕組みと制度を味方につける“家計整理の知恵”を発信している。

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(FPオフィスツクル代表、ファイナンシャルアドバイザー、CFP 内田 英子)
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