■川勝知事がいなくなった静岡県とJR東海の現在
「リニア中央新幹線はいつ開業するのですか」。筆者はしばしばこう質問される。「残念ながらわかりません」。これが筆者の答えだ。JR東海に尋ねても同様の答えが返って来るであろう。
開業時期というのは線路、トンネルや橋りょうといった構造物、駅舎などの施設の建設工事がどの程度進んだかで明らかにされるが、建設工事が一部の場所でまだ始まらず、その開始時期も未定だからだ。
改めて説明すると、リニア中央新幹線とは東京都の品川駅を起点とし、愛知県名古屋市の名古屋駅を通って大阪府大阪市を終点とする新幹線である。
このうち、品川駅と名古屋駅との間の285.6キロメートルは2014(平成26)年12月17日に着工となり、当初は2027(令和9)年の開業を目指していた。途中の駅はすべて仮称で、いまのところ設置が発表されているのは神奈川県駅、山梨県駅、長野県駅、岐阜県駅の4駅だ。建設工事は、東海道新幹線を保有し列車の運転を行うJR東海が担う。
ところが、静岡県内を通る長さ25.0キロの南アルプストンネル内の約10.7キロの区間は着工に至っていない。
環境破壊への懸念は一つではない。大井川の水が枯れるのではないかというもの、トンネルの建設工事に伴う南アルプスの生態系への影響、トンネルを掘った際に生じる土を県内の土置き場に運んだ場合に生じる問題と3つ挙げられる。
これらのうち、大井川の水が枯れるのではとの懸念は解決したのだが、残る2つは静岡県とJR東海とで完全な合意に至っていない。
■「2026年着工」はまだ確定ではない
静岡県によると、合意が必要な28の項目のうち、2025(令和7)年12月11日現在で合意に至ったのは13項目で、残る15項目は専門部会を通して協議中だという。
協議は1項目ずつではなく、並行して実施されるのであろうが、それでも残る15項目で合意に至るのはもう少々時間を要すると思われる。一部報道では残りの項目も合意の見通しがたち、静岡県がリニア中央新幹線の着工を2026(令和8)年内にも認めるとの記事も出されたが、この件について2026年2月6日現在で静岡県もJR東海も何の声明も発表していない。
JR東海は2024(令和6)年の時点で開業時期を2034(令和16)年以降と示していた。これは、仮に静岡県内の区間が2024年の時点でいますぐ着工となってもこの区間の完成まで少なくとも10年を要する点を見越しての発言だ。
仮に2026年に着工となると開業時期は2036(令和18)年以降と考えられる。しかし、いつ着工となるのかがわからないうえ、建設工事自体も10年で済むのかが不明な現状では、リニア中央新幹線の開業時期は引き続きわからないと言った方がよい。
■静岡を迂回することはできるのか
リニア中央新幹線の状況を説明すると次のような質問もよく筆者は受ける。
地図上で大まかに計測したところ、南アルプストンネルが静岡県を通らないように掘削するにはいまよりも約17キロ北側を通過するようにルートを変えなくてはならない。品川駅に近い山梨県側から見ると、線路を右、次いで左、さらに左、右と合わせて4回ほぼ直角に曲げて敷く必要が生じる。
時速500キロで走行するリニア中央新幹線に許された最も急なカーブの半径は8000メートルだ。この半径で直角に曲がった際の距離を求めるには8000メートル×2として直径を出し、円周率のπ(3.14)を乗じる。円周は360度なので、90度の場合は4で割ればよい。ということでこの半径で直角に曲がるには12.6キロ必要だということがわかる。
詳しい計算方法は省くが、半径8000メートルのカーブを4カ所に入れて長さ10.7キロ、幅17キロの道のりを迂回するには、53.9キロ必要となる。本来ならば32キロの道のりなので21.9キロの大回りだ。
リニア中央新幹線はもともと285.6キロで建設が予定されているところ、307.5キロと1.1倍も距離が延びる。
■駅間を徒歩で移動した路線
「未着工の静岡県内の区間だけ山あいを自動車などで連絡して、何とかリニア中央新幹線の列車に乗りたいのですが、何とかなりませんか」と筆者に尋ねた人もいらした。「残念ながら無理です」と答えるほかない。
理由としては、南アルプストンネルが通る周辺は山以外に何もなく、当然道路などないからだ。登山道を整備して徒歩で連絡という可能性もないとは言えないけれど、それなりの装備で臨む必要があるし、天候によっては遭難の危険もある。
日本の鉄道の歴史を見ると、山あいの区間で線路が途切れていたため、その間を徒歩で連絡していた区間が存在した。その一つが今日のJR東日本釜石線だ。
花巻駅と釜石駅との間の90.2キロを結ぶ釜石線は太平洋戦争中の1944(昭和19)年10月11日までに花巻駅と岩手県遠野市にあった仙人峠駅との間、それから同県釜石市にある陸中大橋駅と釜石駅との間が開業した。だが、仙人峠駅と陸中大橋駅との間の約5.5キロはあまりに山が急峻なために鉄道を敷設することができず、旅客は徒歩で、貨物はリフトに載せて移動しなくてはならなかったのだ。
徒歩での山越えには3時間を要したそうで、いくら何でも戦時中でもなければこのような輸送形態は許されなかったであろう。ましてや21世紀のいま、日本を代表するリニア中央新幹線の旅客に徒歩で山越えをとなると世界中から呆れられるはずだ。
なお、釜石線は晴れて1950(昭和25)年10月10日に全線開業を果たす。岩手県遠野市の足ケ瀬駅と陸中大橋駅との間が結ばれ、足ケ瀬駅―仙人峠駅間は廃止となった。
■10年間で約8キロしか掘れていないが
リニア中央新幹線の開業時期は定かではないものの、建設工事の進捗状況はJR東海によって明らかにされている。建設工事の鍵を握るのはトンネルの掘削工事と言って間違いない。何しろ品川駅―名古屋駅間286.5キロのうち、86%に当たる約246キロがトンネルだからだ。
JR東海は毎週月曜日に掘削工事の進捗状況を示している。そこでわかるのは、品川駅と神奈川県駅(仮称)との間にある長さ36.9キロの第一首都圏トンネル、そして岐阜県駅(仮称)と名古屋駅との間にある長さ34.2キロの第一中京圏トンネルの掘削工事の様子である。
どちらも地下トンネルとなる部分の進捗状況を、シールドマシンと言って円形の断面のトンネルを一気に掘る筒状の重機が進んだ距離によって示される仕組みだ。
2026年2月8日現在、第一首都圏トンネルでは計4基のシールドマシンが合わせて6.877キロを、第一中京圏トンネルでは2基のシールドマシンが合わせて1.075キロをそれぞれ掘り進めた。
着工は2014年末なので、10年以上経過してまだこの程度かと思うかもしれない。シールドマシンは地下に入れたり、掘削の調節をしたりと準備が大変なのだが、一度順調に事が運べばあとは完成を待つばかりなのでそう悲観的になる必要はない。
■見えてきたリニア停車駅の姿
毎週の報告を見ると、最も順調な区間では1週間で100メートルほど掘り進められている。このペースで1年休みなく続けてもらえれば約5キロはできあがる計算だ。
ほかにも細かく進捗状況が示されているが、10キロ単位の距離で完成したところはさすがにまだない。将来営業列車が走ることとなる山梨リニア実験線の長さ42.8キロが連続して完成した最も長い区間だ。
駅の建設工事も進められている。品川駅―名古屋駅間に合わせて7駅が建設されるなか、JR東海は2025年10月25日に神奈川県駅(仮称)を報道陣に公開した。
この駅はJR東日本横浜線、同相模線、京王電鉄相模原線の橋本駅にほど近い。先ほど紹介した第一首都圏トンネル、そして長さ3.6キロの第二首都圏トンネルにはさまれた場所に設置されていて、線路やホームは地下に建設される。
ホームは2面設けられ、その両側に線路が敷設されるので、線路は4線となる計算だ。東海道新幹線でいうと、品川駅や新横浜駅、名古屋駅、京都駅と同じつくりをもつ。
神奈川県駅は駅の部分の長さが約680メートル、幅が最大50メートルある。地上から深さ約30メートルの穴を掘り、この中にコンクリート製の箱状の駅を構築し、完成したら埋め戻すという、地下鉄の駅に見られる開削工法が採用された。
2025年10月の時点では地下に土台ができあがった程度で、まだ箱状の構造物も姿を見せていない。ただし、土台には線路や敷かれたり、ホームが置かれたりするであろう基礎部分が姿を見せていた。
■神奈川で行われたイベントの意味
JR東海は同時に第二首都圏トンネルの掘削を担うシールドマシンも公開している。筒型の重機の直径は約14メートルあり、前面に見える刃を回転させながら、第二首都圏トンネル3.6キロ分を掘り進めていくという。
神奈川県駅の報道公開で注目されたのは「さがみはらリニアフェスタ2025」というイベントと同時に開催されたという点だ。イベントには一般からも参加が可能で、リニア中央新幹線に関する展示はもちろん、オープニングセレモニーとして神奈川県立相模原弥生高校吹奏楽部による演奏、さらには駅地下の工事現場に設けられたステージで神奈川県民ホール主催の演奏会が催された。
この手のイベントなどとうの昔から行われていたと思われがちだ。しかし、リニア中央新幹線に関して言うと、2024(令和6)年ごろまでほとんど行われていない。恐らくは静岡県をはじめとする沿線の関係者にJR東海が遠慮したのであろう。
■リニア開業は次世代のため
「さがみはらリニアフェスタ2025」の場合、イベントの内容を見てもわかるとおり、神奈川県や相模原市の協力のもと行われたことがよくわかる。イベントでは黒岩祐治神奈川県知事、木村賢太郎相模原市長、JR東海の丹羽俊介社長の3者が仲良く会見に臨んだ。そして、神奈川県駅の存在を広く周知し、合わせてリニア中央新幹線の開業ムードを盛り上げていきたいとそれぞれが意気込みを語っている。
「神奈川県駅では今後もさまざまなイベントを予定しているのですか」との質問が報道陣から寄せられ、黒岩知事は「幸いにもまだ『時間』はあります。これからもいろいろな内容を企画しています」と思わず本音をあらわにしてしまう。
丹羽社長は少々苦笑いを浮かべていたが、そうは言ってもリニア中央新幹線の開業がまだ先であるのは間違いない。
リニア中央新幹線の存在、神奈川県駅の存在が忘れられないように努めようとする黒岩知事の姿勢は正しいと言える。この手のイベントは、リニア中央新幹線の利用者となる次世代の人たちの心をつかむものとなるべきであるからだ。
■青函トンネルに抱いた不安と同じ
結局のところ、リニア中央新幹線の開業時期はわからない。けれども着実に建設工事は進み、シールドマシンも前に進んでいる。長さ53.85キロの青函トンネルは調査のための建設工事が1964(昭和39)年1月26日に開始され、1988(昭和63)年3月13日の開業まで24年2カ月を要した。
大ざっぱに言うと、青函トンネルは1年に約2.2キロしか工事が進まなかった計算で、建設している間は「本当に開業するのだろうか」と不安を抱いたものだ。同じことがリニア中央新幹線にも言える。
これからもさまざまな問題が発生するであろうが、一つ一つ解決しながら開業し、現在の東海道新幹線のようにあって当たり前の存在になってほしいものだ。
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梅原 淳(うめはら・じゅん)
鉄道ジャーナリスト
三井銀行(現三井住友銀行)に入行後、雑誌編集の道に転じ、「鉄道ファン」編集部などで活躍。2000年からフリーに。
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(鉄道ジャーナリスト 梅原 淳)

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