■中道が惨敗した「3つの理由」
歴史的大惨敗である。旧立憲民主党と公明党が組んだ「中道改革連合」は公示前167議席を大きく減らし、わずか49議席に沈んだ。共同代表を務めた野田佳彦氏は「時代遅れ感あるコンビだったかも」「万死に値する」と漏らし、同じく共同代表の斎藤鉄夫氏ともども辞任したが、その責任はきわめて重い。
これは単なる中道の敗北ではない。国会に緊張感を失わせ、自民党では実現可能性が低く――そして少なくない有権者が望んでいる――リベラルな社会政策を実現する野党がまた遠のいたことを意味する。しかし、敗北もまた希望だろう。彼らの敗北理由はそのまま、次世代のリベラル野党の目指す方向性を指し示すのだから。
あらかじめ私なりに敗北の理由を示しておこう。第一に目玉政策の欠如、第二にノスタルジックな平和主義を訴え、第三に批判ばかり(と受け止められる)ダブルスタンダード(ダブスタ)体質である。
ファクトから整理しておくと衆院選の比例で自民党の比例票は約2100万票であり、得票率は約37%と決して高い数字ではない。
昨夏の参院選で立憲はおよそ740万票、公明は520万票だが、自民から公明に流れた比例票を考えれば結党の効果はあるにはあったと見ることもできる。だが、ジリ貧の党勢で単独で戦うのと比べてという話であり、野田氏が目標に掲げた「比較第一党」にもおよそ不十分すぎる。
創価学会員に中道結党後の選挙運動について取材した記事によれば、公明の支持母体である創価学会では従来のような選挙戦にはなっていなかったし、旧立憲のなかに一定の忌避層もいたのだろう。
そうした個別事情は追って検証されてほしいが、いずれにせよ小選挙区で自民党候補には遠く及ばなかったという現実を受け止める他ないだろう。その上で検証に入りたい。
■目玉政策の消費減税や「新しい財源」も不発
中道が目玉政策として打ち出したのは「恒久的な食料品の消費税ゼロ」だった。しかし、これは選挙戦早々に高市政権が2年という時限付きではあるが「食料品の消費税ゼロ」という方針を出して、争点潰しにかかった。
高市早苗氏が掲げた時限付きはかなり巧妙な仕立てで、必要な財源は1年で約5兆円×2年=10兆円と今の財政状況ならば実現不可能ではない数字であり、しかも旧立憲が意欲的だった給付付き税額控除を実現させるまでのつなぎという位置付けだ。中道は現実的な政策にお株を奪われる形になった。
争点潰しという声に対して、中道支持者は「いやいや、私たちは恒久的に財源を生み出す現実的な政策としてジャパン・ファンドを提案したのだ」という声が上がってくるだろう。彼らがいうジャパン・ファンドとは、公的年金積立金や外為特会などを活用して資産運用をしながら、財源を充てるというものだ。
このいささか荒唐無稽な提案については、早々に「年金積立金の流用では?」といった批判が飛び出し、まったく浸透しなかった。この点は年金問題のエキスパートである中田大吾氏が丁寧に検証を重ねている。
党の存在意義を賭けたはずの訴えや財源論だったはずだが、最終的には主要な訴えからも外れた。これ以外の目玉政策が出せない中道が頼ってしまったのはノスタルジックな平和論だった。
■「現実路線」を台無しにした“ハッシュタグ”
投開票日前日の2月7日――池袋駅前である。各社の終盤情勢で共通して劣勢が伝えられ、追い詰められた斎藤氏が唐突に訴えはじめたのはXで広がった「#ママ戦争止めてくるわ」への賛同だった。そして野田氏もまたそれを引き継ぐように右傾化への警戒感を語るのだった。
賛同する合いの手はそれなりに派手に上がっていたが、口調は明らかにコアな支持層のそれであり、通りすがりの人々を惹きつけることすらできなかった。斎藤氏は「ママ戦争を~」など「平和問題を語ると聴衆の反応が良かった」と語っていたが、それは固定の支持層しか聴衆にいないことを意味する。
旧立憲がこだわってきた安保法への賛成、原発再稼働の容認は公明党にあわせる形での現実主義的な路線変更だった。これ自体、私は評価したいと思う。左派的なイメージが強くついて回った立憲が、本当に自民党から政権を奪うためにはごく一般的な有権者の不安に応えないといけない。
しかし、最後に彼らが選んだのはあまりにも旧来的な左派・リベラル的な平和主義だった。「平和な日本」に住みたいことは誰もが賛同するだろう。しかし、高市政権が継続すれば日本は戦争に突き進み、中道を選べば戦争を抑止できるのだろうか。そうだとして、根拠は何か?
■政策の方針転換で支持層が離れてしまった
「憲法9条を改正したい政治家に政権を任せると戦争になる」という物語は急速にリアリティを失いつつあり、いまや極論の一つと言っていい。
現実に即して考えてみよう。仮に改正するとして具体的な条文はどうなるのか。衆議院だけでなく、参議院でも3分の2以上の賛同を形成して、かつ国民投票で過半数以上を得るには相当なハードルがある上に時間もかかるものなのだ。
そして肝心なのは今の国際情勢のなかで中道はどのような外交・安全保障政策を実行に移すのか、である。有権者が聞きたいのはその点だろう。具体的なビジョンなき平和主義ではコア層しかついてこない上に、せっかく現実主義に寄せた安全保障政策がとたんに説得力を失う。
いわゆる安保法への反対を支持するような旧立憲の支持層からみれば、ノスタルジックな平和論や護憲論に頼るなら共産党と組んだほうがはるかに明快だっただろう。
■旧統一教会問題で目立った“ダブスタ”
第三のダブスタ体質も深刻だ。本格的に選挙戦が始まる直前に野田氏にスキャンダルが飛び出した。旧統一教会系の政治団体が野田氏の後援会を作り、支援していたというものだ。
私の立場は宗教団体が政治家を支援するのは自由だが、かねて高額献金問題などを抱える統一教会系の支援を受けるのは不適切であるというものだ。問われるのは支援の見返りに金銭の授受があったとか、旧統一教会を優遇するような特定の政策を実現するとか、利益誘導があったか否かだ。
野田氏はこの点を明確に否定し、今のところ教団に対して便宜を図ったという具体的な証拠も出てきていない。私も野田氏について取材をしたが、小選挙区で勝ち上がるためにあらゆる支援を求め、その一つに件の政治団体があったくらいだろうと判断している。これならば道義的責任しかない。多くの自民党議員と同様に選挙区の住民が国会議員にふさわしいか判断すればいい。
問題は、野田氏が旧統一教会の支援を受けていた自民党議員を公然と批判してきたことがそのまま返ってきている点にある。
■誠実な対応をせず、批判材料を失った
それは他党もリベラル系メディアも同じだ。熱心に旧統一教会と自民党の関係を批判してきた社民党の福島瑞穂氏ですら、ニコニコ動画の開票特番で、私がこの件を質問した際に、野田氏の説明を追っていなかったと明確に証言した。
ここで野田氏が「私に非があった。自民党に追及してきたことと同じことをやったので代表の職を辞す」とでも言えば過去の言動と比べても筋が通っており、具体的な争点として高市政権や自民党議員にも波及したかもしれない。
しかし、私の取材に対して野田氏が語ったのは「(旧統一教会系が支援したという)報道は残念だった。選挙戦初動だったので非常に影響があったと思う。私は説明はするし、毎日ぶら下がりに応じることで説明責任を果たしてきた。(『週刊文春』に旧統一教会絡みのスキャンダルが報じられた)総理はぶら下がりもやらないので、説明責任を果たしてない」ということだった。
自民党議員もぶら下がり取材に応じる、あるいは公開の場でインタビューに応じればそれで責任を果たしたことにするという基準を示したことを意味する。
さて、この基準を中道に賛同した議員や支持者は認めるのだろうか。
中道は、野田氏の「統一教会疑惑」に誠実に対応しなかったことで、自民党に対する批判材料のひとつを確実に失ってしまった。
■「普通の人々」の支援が集まらなかった
7日の池袋駅東口は象徴的だった。野田、斎藤両氏のマイク納めは街頭で演説ができる20時まで15分を残して、19時45分に終わった。ぎりぎりまで時間を使わず、あっさりと囲み取材に移った。何か特別な事情があったとしても、必死さという意味では政権与党どころか他の野党の訴えと比べても見劣りした。
一方で、同じ日に私はJR阿佐ケ谷駅の南口で高市氏の街頭も取材した。そこに集まっていたのはまさに「普通の人々」で、報じられるような高市フィーバーとは程遠い空気だった。高市氏の政策的な論点を並べた演説を聞き、合いの手もさほど上がらない。冒頭に挙げた票の出方を見ても、有権者の熱狂というよりも冷静に見極めて、一度は任せてみようと判断したというほうが実態に近い。
政権交代可能なリベラル政党を生み出すためには、中道が犯した一連の失敗の逆をいくしかない。すなわち、これまでの3点を擁護する人々の声よりも、もっと広範に存在する普通の有権者の声に応えて、確たる軸をもった政策論で穴を埋めた政権担当能力ある野党として再起動することだ。
時々の政権を批判するだけの勢力は求められてはいない。批判の弱点は受け身でしかないことだ。時の政権がAと言えばBだといい、BをとればAだと言うだけの政党に政権を担うだけの存在価値はないだろう。
■有権者の期待を得られれば、次のチャンスはやってくる
数を減らしたとはいえ旧立憲、旧公明ともに政権を担った経験を持つ議員が一応は残っている。彼らが軸となり、現実的かつ穏健な安全保障政策、着実に経済成長できる経済政策+「X」を示せるかどうかにかかっている。
「X」にはたとえば自民党ではおよそ実現が望めそうもない選択的夫婦別姓や同性婚に代表されるリベラルな社会政策が入る。当たり前のことだが、批判には規律が必要だ。規律なき批判は、単なるご都合主義になってしまう。スキャンダルを利用した厳しい政権批判をするのならば、自分たちに同様のスキャンダルが起きた時にも厳しい対応が求められる。
敗北の理由は、先に挙げた「三つの欠点」を見事に兼ね備えた野田―斎藤ラインを軸にした中道と、圧倒的な支持率を誇る高市政権を比べてどちらを選ぶかと問われた有権者が、後者を選んだということに尽きる。繰り返しになるが有権者は高市政権に熱狂したのではなく、合理的に政権を任せていいかを比較をした。したがって高市政権も期待値を下回れば、有権者はあっさりと見切って次を探すだろう。
ここまで中道に対して厳しいことを記してきたが、日本の民主主義をさらに一歩前に進めるためにも政権交代可能なリベラル野党が必要であると私は考えている。再建に時間はかかるだろうが、希望も失ってはいけない。小泉政権下であった2005年の郵政選挙で旧民主党は歴史的大敗を喫したが、その4年後に政権を奪取している。
次世代のリーダーの成長を促し、批判ばかりではなく、ビジョンを説得的に示し、政権担当能力を訴える組織を作り上げること。そして、有権者を振り向かせたときに政権交代はようやく視野に入ってくる。
無論、政治家も支援者もそれだけの時間を許容し、こうした批判にも耳を傾けることができるのならば、だが。
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石戸 諭(いしど・さとる)
記者/ノンフィクションライター
1984年、東京都生まれ。立命館大学卒業後、毎日新聞社に入社。2016年、BuzzFeed Japanに移籍。2018年に独立し、フリーランスのノンフィクションライターとして雑誌・ウェブ媒体に寄稿。2020年、「ニューズウィーク日本版」の特集「百田尚樹現象」にて第26回「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」作品賞を受賞した。2021年、「『自粛警察』の正体」(「文藝春秋」)で、第1回PEP ジャーナリズム大賞を受賞。著書に『リスクと生きる、死者と生きる』(亜紀書房)、『ルポ 百田尚樹現象』(小学館)『ニュースの未来』(光文社)『視えない線を歩く』(講談社)『「嫌われ者」の正体 日本のトリックスター』(新潮新書)がある。
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(記者/ノンフィクションライター 石戸 諭)

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