ほめ上手になるにはどうすればいいか。明治大学文学部教授の齋藤孝さんは「YouTubeやテレビはほめ言葉の宝庫。
人が何かをほめている言葉を大量に浴びて学習すると、ほめる際の目のつけどころがわかってくる」という――。
※本稿は、齋藤 孝『ほめるは人のためならず』(辰巳出版)の一部を再編集したものです。
■グルメ番組の食リポからほめ言葉を学ぶ
ほめ方にもいろいろありますが、語彙力がないと決まりきった言葉しか出てきません。
やばい。超うまい。超おいしい。スーパーおいしい。もちろん、これだけでも気持ちは伝わりますが、語彙力がないとグレードの違いでしか表現できなくなります。
語彙を増やし、語彙力を高めていく。そうすることで、ほめ言葉も増やすことができるようになります。
そのためにはテレビやラジオといったメディアだけでなく、YouTubeや公的に発信されているSNSは言葉遣いが上手な人がやっていることが多いので勉強になります。
そういう人たちの言葉をストックしていきましょう。

たとえば、料理番組です。古くはフジテレビ系で放送されていた『料理の鉄人』。もちろん視聴者には味はわかりません。しかし、番組の内容上、どうおいしいのかを伝える必要があります。「隠し味的に○○がそこはかとなく香っています」と香りについて述べ、さらに食感やそれぞれの食材がもたらす効果についてほめる言葉を出す必要があります。
それらの料理を表現する言葉を自分なりにアレンジして使うのもひとつの方法です。
■「○○ベスト」系動画もほめ言葉の宝庫
テレビやWeb番組には、食べ物、場所、人物を紹介する場面がたくさんあります。紹介する時には高確率でほめ言葉が入っています。人に何かを紹介するコーナーを見た時に、どういうふうに言葉を尽くして、説明しているかに注目してください。
ファッションをほめるなら、ファッションサイトやYouTubeです。ファッションを扱っている人ならではの角度でほめポイントがあるということを学べます。
また、YouTubeではいろいろなものをいろいろな人があらゆる領域で紹介しています。
「本年のまとめ」形式の今年のドラマベスト、おすすめ小説ベスト、ミステリー小説ベスト等さまざまな紹介動画がYouTubeにはあります。
ベスト的なものを選ぶとほめ言葉が見つけやすい。なぜそれが上位なのかということを説得力のある形で言わないといけないので、ランキングものは、ほめ言葉を学ぶには格好の教材になります。
■シチュエーション別にラインナップを作る
ほめることに慣れていない人は手帳やスマホのメモ帳にラインナップを5、6個作っておくと使えるようになります。たとえば、食事、職場、生活、遊びなど、状況ごとにラインナップを作るといった具合です。
食べた時に何とも言いようがない時もありますが、そういった場合に私は香りをほめることにしています。香りのコメントをいくつかメモしていれば何とかなる。メモしておくことで、頭の中に言葉が出てきます。もちろん、メモしている言葉をそのまま言わなくても視点を覚えているのでコメントができます。香りの次は舌触りです。
「食べた後の後味がさっぱりしていますね」はよく言いますが、「○○の余韻が残る」。そんな言い方でもいいでしょう。

メモした記憶があれば何か出てきます。食べる前、食べている途中、食べた後で、それぞれ言うことがわかってくると、落ちついてほめコメントができるようになってきます。ですので、手書きでもスマホのメモ帳でもいいので「これ、面白いな」と思ったら残しておくようにします。
私は何かほめているコメントがあったら、それをコピーして自分のメモ帳に貼りつけるということをよくやっています。
■ネットで見かけた言葉も逃さずメモする
「こんなに上手に人をほめるというのはすごい」「うまいほめ方するな」と感心した場合には、それをメモ帳の方に移動させます。というのは、ネットで見た言葉というものは、もう海の中で泳いでいる魚みたいなもの。1度見てもすぐに消えていってしまうものです。
ですから、上手なポジティブコメントだなと思ったらすぐにメモします。
また、時にはほめたコメントをまたほめるコメントというのすらあります。コメントのコメントでしょうかね? そんなコメントをよく思いつくなと思います。
私は他人のコメントをほめる人はいい人だなと思っています。コメントの中には本当に絶対に思いつかない表現がありますので、そういうものを少し学ぶためにコピーしてメモ帳に残しておく。
YouTubeやYahoo!でコメント自体をコピーしてメモ欄に残している人はあまり多くないと思いますが、コメント力向上にはおすすめです。
■『ノノガ』ちゃんみなのコメントに感心した理由
ほめ言葉を学ぶには、オーディション番組がおすすめです。
私がYouTubeでよく見ていたのは『No No Girls』です。歌とダンスが中心で、出演者はスタイルやルックスで他人から言われた「No」をはね返してポジティブパワーに変えるというオーディション番組です。
「身長、体重、年齢はいりません。ただ、あなたの声と人生を見せてください」
という、容姿は一切問わないというガールズグループの作り方は珍しいですよね。
この番組での、ちゃんみなさんのコメントが素晴らしい。
「ここがあなたの強み」

「あなたは声に独特な力がある」

「その動き、教えて欲しい」

「自分を出していく力がある」……
そういうほめ言葉がたくさん出てきます。
ただ、オーディションですから落とさなくてはいけない場面が来るわけです。落としていく人に対しての言葉がこれまた優しいのです。
「私はずっと見守っているよ」
「ここはね、絶対に生かせると思う」と。
次に進む人に対しては、ある程度厳しいことを言ってもいいんですよね。
でも、そこで落としてしまう人に対しての言葉が具体的で優しいのです。
だから、本人も納得できる。中には自信がない人も結構いますから、審査した人の言葉がすっと入っていかない。むしろ自信がなさ過ぎて入らな過ぎるということもあり、審査した人はいろいろな方法を使って具体的に言うのです。
まず歌ってもらう。その後に細かく指示する。
「ここは自信持った方がいい」

「自分をごまかしちゃダメ」

「ここのところ強めにこういうふうに歌ってみたら?」
そうして、よくなったら「それでいい」とほめる。
指示はビフォー。アフターでほめる。
漠然とではなく、具体的に自信が持てるように言うということです。
■YouTubeのコメント欄で目のつけどころを学ぶ
YouTubeのコメント欄にはほめ言葉がずらーっと並んでいます。みんな無報酬で人をほめているのですね。

みんなほめたくてたまらない。そんな幸せな空間があるのです。「なんて素敵で平和なんだ」というコメントもあるぐらいです。
SNSが誹謗中傷の場だと思っている方がいらっしゃるかもしれませんが、私はSNSのコメント欄は「ほめ方の道場」みたいだと思っています。
たとえば公式で発表されているミュージックビデオですが、ほとんどはファンが書き込んでいるので、ほめています。その「ほめ方」が実に細やかで具体的で説得力があるのです。
説得力のある「ほめ方」を目指すなら、まずは数をこなして「ほめる」習慣をつけていく。そして徐々に具体的かつ本質的、そして説得力のある「ほめるコメント」を磨いていく。しかし、そのためには「眼力」が必要となります。
見るポイント。
この見るポイントが鋭いとほめやすくなります。
ほめるには目のつけどころが重要です。
だから目のつけどころを学ぶという意味では、人のほめ方を大量に浴びる。
大量に見ることで、「目のつけどころ」を学ぶわけです。
上手にほめている人を私はリスペクトしています。

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齋藤 孝(さいとう・たかし)

明治大学文学部教授

1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業後、同大大学院教育学研究科博士課程等を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラー作家、文化人として多くのメディアに登場。著書に『孤独を生きる』(PHP新書)、『50歳からの孤独入門』(朝日新書)、『孤独のチカラ』(新潮文庫)、『友だちってひつようなの?』(PHP研究所)、『友だちって何だろう?』(誠文堂新光社)、『リア王症候群にならない 脱!不機嫌オヤジ』(徳間書店)等がある。著書発行部数は1000万部を超える。NHK Eテレ「にほんごであそぼ」総合指導を務める。

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(明治大学文学部教授 齋藤 孝)
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