※本稿は、南井健治『鉄道車両デザインの教科書』(イカロス出版)の一部を再編集したものです。
■電車は座り心地が重要だ
昔の国鉄では、固定している座席のことを「腰掛」といい、それ以外のものを「椅子」といっていた。背刷りを転換させることで前後方向を変えられるものを「転換腰掛」、回転して方向転換するものを「回転腰掛」、そしてリクライニングシートのことを「自在腰掛」と呼んでいた。
昔は生活の中に椅子は少なく、椅子に対する関心はそれほど高くなかったが、最近はほとんどの家庭にはソファやダイニング用の椅子、勉強用の椅子があり、鉄道車両としての特殊性よりも椅子全般の機能性から検討すべき、と考えるものであり、ここでは「座席」という言い方をする。
座席は利用者が最も直接接するものであり、インテリアの評価も座席に負うところが極めて大きい。
飛行機のようにシートベルトを備えていて、ずっと縛り付けられるということはないが、乗車中はほとんどが座席で過ごすことになり、座席のデザインやすわり心地で疲労度も変わる。しかしこれほど重要なものであっても、これがベストだ、というものが言えないのも事実である。
人間工学やエルゴノミクスに十分な配慮をしていても、座られる利用者の体格や体重はさまざまであり、すべての人に満点の座席を作ることは不可能ともいえる。
■サンダーバードのグリーン車の秘密
681系サンダーバードのグリーン車は、金沢‐大阪を往復される自家用車移動の方を電車に取り込もうというコンセプトで、包み込まれる雰囲気とすることで個人客のプライバシー性を重視した、少し大きな座席が採用されている。
ある時、見ると体の小さいお年を召した女性が実に座りにくそうにされている。想定よりも小さな体格なので座席に体が埋まってしまっているのである。
ドイツの椅子はよくできているという話をよく耳にする。ベンツのシートは長時間運転しても疲れない、ICEの座席は硬めだが座り心地がいいといった具合に。たしかに、ドイツの自動車も鉄道車両も皆座席は硬い。だから硬いものがいい、という神話にまでつながっているのであろう。
対して隣のフランスは柔らかい座席が多い。座面も背刷りも柔らかくてホールド性やクッション性が高いのである。ドイツとフランスの椅子メーカーと仕事をする機会があったので、その辺の話をすると、彼らは座姿勢やホールド感についていかに自分たちがお金をかけて研究しているか、という話をとうとうとする。
お互いにこれがベストであるというのである。そこでふと気がついたのが、それぞれの国の平均体重であった。ドイツ人の方が体が大きい=重いのである。
■ドイツの座席は硬くフランスは柔らかい理由
広島電鉄の5100系では運転士用の座席にドイツ製のものを採用したが、疲労軽減のために体重調節機能を持ったダンパー付きとしている。
このダンパーは運転士の体重に合わせて目盛を調節し、それにあった機能を発揮するというものであるのだが、なんと目盛が60kgから始まり、最高は130kgまで刻んである。
日本人ではそこまで重い人はごく少数であり、通常は一番軽い目盛で十分という。実はドイツのクッションは硬いというのは、重い人を対象としているからであろう。フランス人は日本人と体格が近く、その体重にあわせているので柔らかく感じる。
ただし、座姿勢や体重分散については、よく検討がなされているのは事実で、いったん決めたラインはまず絶対に崩さない。それぞれの事業者向けにカスタマイズするときも、モジュール構成にして組み合わせで作り上げるが座面や背面には手をつけることはない。
■第2次大戦後にリクライニングシートが登場
話がそれたが、鉄道車両の座席においてはさまざまな体格や体重の人を考慮する必要があり、デザインの幅もなるべく広げなければならない。よい座席を提供することは永遠の課題であるといえよう。
鉄道車両の座席は、古くは木製であり、現在でもヨーロッパの路面電車に見られる。座布団はともかく、背刷りまでクッションの入ったものとなったのは、1933(昭和8)年度のスハ32形からであったという。
この時代は向かい合い固定の座席がほとんどで、優等車でも向かい合い寸法を広げた固定座席であるか、転換タイプ、またはロングシートのように横向きに座るものであった。
第2次世界大戦後、特別2等車としてアメリカンスタイルのリクライニングシートが登場した。
こうしてその後年月が経ち、座席は進化して新幹線でも最初は転換タイプであったのが、2人がけは回転式になり、3人がけは集団離反型といわれる固定座席になり、そしてついに100系からはすべて回転するものとなっていった。
■日本式のリクライニングに足りない点
特急用車両では回転式が必須で、後ろ向きに座るのを嫌がる利用者が多い。面白いことに、これは隣国の韓国でも同じだそうで、フランス方式を採用した韓国の新幹線では固定された後ろ向き座席の指定をすると、特急料金が割引されると聞いた。
日本の鉄道車両用の座席は、戦後の進駐軍との関係からか、アメリカの影響を強く受けているようである。そのためリクライニングも必須であり、背刷りが大きく傾くものが好まれている。
ヨーロッパではもともとがコンパートメントのレイアウトであったせいか、いまだに固定座席が主流であり、回転式はスペインのAVEくらいしか知らない。
ヨーロッパの固定式ではシート配置に向かい合いあり、片方に向いたものが並んでいる部分ありと、かなりランダムなアレンジがされている。また、リクライニングはないものもあり、あっても背刷りが後ろに倒れる日本式ではなく、背刷りの下部が座面と連動して前に出るタイプがほとんどである。
ドイツの鉄道車両用座席メーカーの人たちに言わせると、日本式のリクライニングは一見楽そうだが、背刷りが倒れるだけでは骨盤と背骨の関係が変動し、正しい座姿勢をとることができないものである、という。
■“リクライニング声掛け論争“に終止符
近鉄のアーバンライナーネクストでは、この解消を図ってゆりかごシートを開発しているから、この意見も正しいかもしれない。しかし、長時間を過ごす座席は、常に同じ姿勢を保てるものではない。姿勢の変化を許容するゆとりのある座席が望ましいと考える。
リクライニングシートは後ろのお客に倒れ込むように作用するので、倒す際には声をかけることがエチケットとされているが気を使うこともある。
そこで「ひのとり」ではシェルタイプの座席として解決している。椅子が大きくなるのと背ずりの上部に隙間ができるのが難点であるが、優等列車では一つの解決法であろう。
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南井 健治(みない・けんじ)
鉄道車両デザイナー
1957年、京都市生まれ。1979年、京都市立芸術大学卒業後に近畿車輌株式会社に入社。以後30年にわたって鉄道車両のデザインに従事。JR西日本、東京メトロ、大阪市交通局などの車両のほか、叡山電鉄の観光列車や広島電鉄のLRVなど、多彩な車両を手がけ、アメリカや香港、ドバイなど、海外案件にも多くの実績を残す。2015年より役員となり、取締役常務執行役員を2024年に退任。現在はフリーの立場で、雑誌などに多数寄稿し、鉄道車両のデザインの裾野を広げるべく精力的に活動している。日本インダストリアルデザイン協会会員。近著に『鉄道車両デザインの教科書』(イカロス出版・2024)、『車輌の外部色』(機芸出版・2024)。
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(鉄道車両デザイナー 南井 健治)

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