■性能は「粗悪」でもプリウスにあった唯一無二の強み
1999年、トヨタとホンダは、ハイブリッドカーをわずか数カ月の差で矢継ぎ早にアメリカ市場に投入した。それは、史上初めて量産化された、待望のハイブリッドカーだった。両社は序盤こそ競い合っていたが、わずか数年後にはトヨタが市場を制し、プリウスは記録的なヒット作になった。ホンダのハイブリッドカーは惨敗した。
トヨタは、どのようにしてこれほど多くの顧客にハイブリッドカーを購入させることに成功したのだろうか? なぜ、ホンダはそのことに失敗したのだろうか?
初期のハイブリッドカーは、燃費以外のあらゆる点で普通の車に劣っていた。同等の価格のガソリン車よりも、速度や加速、快適性、安全性などの面ですべて劣っていた。このような粗悪な車を売り出していたら、トヨタは顧客を獲得できなかったはずだと思うかもしれない。
たしかに、これらの欠点は課題をもたらした。しかし、それはチャンスでもあった。なぜなら、客観的に見て「粗悪」であるにもかかわらず、環境に優しい車を購入することは、ドライバーの環境意識の高さを示す強いシグナルになったからである。
■購入することで得るインセンティブ
初期の頃にハイブリッドカーを購入することを選んだ消費者は、自分が環境に配慮しており、環境への貢献のためにはお金を多めに払うことを厭わない人間であるということを周りにはっきりと示せた。そうでないなら、なぜ快適さや安全性を犠牲にしてまでハイブリッドカーを買うのだろうか。教育への投資と同様、ハイブリッドカーのコストはその価値に対して高かった。一方で、その主なメリットは環境への貢献だった。
プリウスの購入を選択することで、消費者は自分が環境のためにお金や快適性を犠牲にしても構わない人間であることを自分自身と世界に表明できた。初期のハイブリッドカーを購入するインセンティブを、図表1のゲーム木に示す。
現在では、プリウスを買うことがこの種のシグナルを発信することはない。少なくとも、それは初期のハイブリッドカーを買ったときのような強いシグナルではなくなった。
プリウスは現在、非ハイブリッドカー市場でも競争力のある車種になっており、特に環境志向ではない顧客にとっても望ましいとみなされるほどの総合的なメリットを提供している。
■「性能の劣る車」を喜んで買う市場
たとえば、Uberのドライバーは、プリウスは燃料費を節約できるだけではなく、快適性や信頼性も高いと考えるだろう。そのため、今日の消費者は、環境をそれほど気にしていなくても、プリウスを購入するかもしれない。
今では、プリウスを購入する際に安全性と快適性を犠牲にする必要がなくなった。
この話が腑に落ちないというのなら、テスラの車を買うことによって発信されるシグナルについて考えてみればいい。消費者は、環境のためにテスラ車を買っているだろうか?
このように、初期のハイブリッドカーは品質が劣っていたにもかかわらず、消費者にとっては、自らの環境問題への姿勢を信頼できる形で周囲に示すことができたため、強い購入動機が生まれた。そして、この主張をするためだけにこの性能の劣る車を喜んで買おうとする人がたくさんいたため、それに便乗し、活用する市場が生まれたのである。
前述のように、プリウスはハイブリッドカー市場で長年にわたってトヨタを優位に立たせた。トヨタがやってホンダがやらなかったことは何なのだろうか?
■ホンダがとった戦略
まずは両社の販売台数を簡単に見てみよう。図表2は、2000年から2010年までのトヨタとホンダのハイブリッドカーのアメリカでの販売台数(世界での販売台数にもほぼ同じ傾向が見られるのを示している(1)。
ご覧の通り、両社とも販売台数が一定以上に達するまでには時間がかかっている。ホンダの最初のハイブリッドカーは「インサイト」という小型の2シーター車だったが、これは最後までさっぱり売れなかった。その後、ホンダはハイブリッドカーの購買層は2シーター車を好まないと判断し、ベストセラーのホンダ・シビックをベースにした新しいハイブリッドカーを発表した。
この決断は主に直感的なものであり、またこの設計上の決定はエンジニアたちにとって確実なメリットがあった。新たにモデルを開発するより、既存のモデルをベースにしてそれをハイブリッドカーに仕立てるほうが、サプライチェーン全体への負担ははるかに少なくて済むからだ。
■プリウスの独特の外観
一方、トヨタは異なる戦略を選び、それが同社に大きな違いをもたらした。1997年から2003年にかけて生産された初代プリウスは、トヨタのベストセラー車種の1つであるカローラをベースに設計された。第2世代のプリウスは様々な面で改良されていたが、トヨタを成功に導いた重要な変更が1つあった。
プリウスは、今では誰もが知るようになった、独特の外観を持つ車に再設計されたのだ。それは、ハイブリッドカーであることを示す小さなプレートを背面に取り付けただけのセダンのような外観ではなかった。この新型のプリウスを運転して職場の駐車場に入れば、あなたがハイブリッドカーを所有していることは一目瞭然になる。
車の購入者が自分は環境に配慮しているというシグナルを周囲に送るためには、この外観の特徴は極めて重要だった。
他人に気づいてもらえなければ、シグナルを送ることに何の価値があるのだろう? ハイブリッドカーであることを示す小さなプレートだけでは、他人に気づいてもらない。それは、シグナルとしてはあまり役に立たないのだ。モデルチェンジをして外観を一新しても、誰からも気づいてもらえなければ意味がない。
プリウスの所有者は、自分たちのしていることを自覚していないはずだと思うのなら、図表3を見てほしい。これは、私が家の外で見かけたプリウスに貼ってあったステッカーだ。
■意外過ぎる購入動機
プリウスのオーナーは、自分の車がユニークで、周りから「カッコいい」と思われるような外観ではないことを気に入っている。プリウスの外観を見た人は、こんな車を買うのは本当に環境意識の高い人だけだろうと思うはずだ。
図表2が示すように、販売台数を伸ばしたのは2003年に発売されたこの第2世代のプリウスである。たしかに初代プリウスよりも良くはなったが、ホンダのシビックもインサイトより優れていた。しかし、ハイブリッドカーの購入者のうち、ホンダのシビックを選んだのはごく一部にすぎない。購入者は、個性的な外観のプリウスを好んだのだった。なぜなら、注目されたかったからだ。
この考えは、2007年にニューヨーク・タイムズ紙がオレゴン州バンドンにあるCNWマーケティングリサーチの調査結果を引用した際にも裏付けられた。
この調査によれば、トヨタ・プリウスの購入者の57%が「この車に乗ることで自己主張ができる」ことを購入理由として答えていた。「燃費の良さ」を理由に購入したと答えたのは36%にすぎず、「排ガス量が少ない」は25%とさらに少なかった。
■「私が伝えたいメッセージを発信できる」
この記事のタイトルは「ハイブリッドと言えばプリウス」という、核心を突いたものだった。執筆者のミシュリーヌ・メイナードはこの記事の冒頭で、「他のハイブリッドカーが軒並み買い手を見つけるのに苦労している中で、トヨタのプリウスはなぜこれほどの成功を収めているのだろうか?」と読者に問いかける。
彼女の答えは、購入者が自分がハイブリッドカーに乗っていることを周りに知ってほしいと思っているから、というものだった(2)。メイナードはこの推論を裏付けるために、プリウスを選んだ理由について購入者にインタビューを行った。その結果、次のような答えが多く返ってきたという。
「私は、自分が環境を大切にしていることをぜひ周りの人たちに知ってほしい」――ジョイ・フィーズリー、ペンシルベニア州フィラデルフィア在住
「カムリハイブリッド(トヨタの中型乗用車)は、私が伝えたいメッセージを発信するには微妙だった。私はできる限り大きなインパクトを与えたかった。プリウスのほうが、はっきりとしたメッセージを伝えてくれる」――メアリー・ガッチ、サウスカロライナ州チャールストン在住
■「公害を減らすため」ではない
このように感じていたのは、一般人だけではなかった。
「プリウスは、所有することで自分が環境に配慮した人間であると主張できる史上初めての車だ」――ダン・ベッカー、カリフォルニア州サンディエゴにある環境保護団体シエラクラブにおける地球温暖化プログラムの責任者
2017年、ワシントン・ポスト紙のロバート・サミュエルソンは、この現象を「プリウス・ポリティクス」(プリウスを巡る社会的な駆け引き)と見事に表現し、人々がプリウスを購入したのは公害を減らすためというよりも、この車に乗っていることを周囲に見せびらかすためだったと主張した(3)。
同じ年、ホンダのCEOは「ガソリン車のシビックと見た目の差別化がほとんどないシビック・ハイブリッドを発売したのは間違いだった」と認めた。そして、それによってトヨタはハイブリッドカー競争に勝利したのである。
1.Alternative Fuels Data Center, “U.S. HEV Sales by Model,” accessed December 2, 2020, https://www.afdc.energy.gov/data/10301.
2.Micheline Maynard, “Say ‘Hybrid’ and Many People Will Hear ‘Prius,’” New York Times, July 4, 2007, https://www.nytimes.com/2007/07/04/business/04hybrid.html.
3.Robert J. Samuelson, “Prius Politics,” Washington Post, July 25, 2007, https://www.washingtonpost.com/wp-dyn/content/article/2007/07/24/AR2007072401855.html.
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ウリ・ニーズィー
行動経済学者
カリフォルニア大学サンディエゴ校レディ経営大学院経済学・戦略学教授および行動経済学におけるエプスタイン/アトキンソン記念寄付講座教授。著書に『その問題、経済学で解決できます。』(ジョン・A・リストとの共著)がある。
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(行動経済学者 ウリ・ニーズィー)

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