自由民主党の歴史的な大勝利で終わった解散総選挙でありましたが、解散報道から投開票日までのちょうど30日間、大変なドタバタでありました。
本稿では、この選挙戦を通じて時系列にどのような報道があったか、それと併せてネットやRDD(Random Digit Dialing)を使ったサンプリング調査、パネル調査と、一部の注目選挙区でどのような出口調査結果であったかも踏まえまして、この選挙戦がどのような経緯をたどったのかを、許される範囲で振り返ってまいります。
なお、本稿で用いるデータ群は学術的に厳密なものではなく、完全な代表性を持つものではありません。あくまで得票や獲得予測議席を把握するための参考としての傾向値です。データについては所属する情報法制研究所(JILIS)に帰属し、分析・見解については山本一郎個人のものです。
■背景に野党分裂・候補者乱立
まず、今回の選挙では確かに小選挙区において自由民主党が有権者からの大いなる請託を受け大勝したのは事実ですが、得票率だけを見ると、同じく自民党に勝利をもたらした2021年岸田文雄政権での衆院選とほとんど変わりません。比例獲得議席も大差なく、ここまでの議席数を確保するに至った根本的な理由は、紛れもなく非自民各党の候補者の乱立と結論付けられます。
つまり、中道改革連合だけでなく、国民民主党、日本維新の会に加えて参政党やチームみらい、日本共産党ほか各党が比例ブロックでの議席獲得を目指して、特に激戦となる選挙区で勝つ見込みのない候補者を擁立したために、反自民・政権批判票が割れ、結果的に地滑り的な自民党大勝に至ったと言えます。
そして、今回のMVP候補は2人おられると思っています。自民党の歴史的大勝利に最も貢献した立役者は、創価学会副会長の佐藤浩さんと、れいわ新選組共同代表の大石あきこさんです。
■公明党を自民党から引き離した男
佐藤浩さんは、公明党を自民党との連立から引き離し、立憲民主党と合流させて「中道改革連合」という壮大な自爆装置を組み立ててくださいました。結果は、中道改革連合は167議席から49議席へと壊滅的な敗北を喫し、その分の議席がまるごと自民党に流れ込んだわけであります。私としては引き続き夫婦(めおと)の関係でずっと自公連立が国民有権者のためになると思っていたわけなんですが、自民党にとっては“ぬるま湯”に過ぎなかったと気づかされました。
また、テレビ討論会であまり発言の冴えなかった高市早苗さんを、ダイレクトに罵倒するなどしてうまくフォローし、視聴する有権者のヘイトを一身に背負ってくださった、れいわ新選組の大石あきこさんもMVPにノミネートしたいぐらいの活躍をされました。高市さんに限らず、政治家がメディアで無用な発言をして言葉尻を採られて批判され支持率が急落することは避けなければならないのですが、大石さんがまず先に大騒ぎしたため、高市さんは失言することなく鬼門であったテレビでの党首討論を乗り切ることができました。
つまり、無党派有権者の皆さんの「口汚く高市批判をして見苦しい野党」と「体調の悪い中、がんばっているのにいじめられる高市さんかわいそう」という思いが大きなブームとして選挙期間中に波を起こし、れいわ新選組だけでなく中道改革連合をも押し流して有力者やベテランの大量完全落選につながったわけです。
■「連立離脱」は事前に伝わっていた
結論からいうと野党の候補乱立と中道による壮大な自爆劇が今回の選挙の見所ですが、中道改革連合がなければ立憲民主党や公明党が議席を維持できたのかといわれると……という感じなので、それは永遠の歴史の「if」となるでしょう。
まあ今になったから書けることですが、10月10日の会談で公明党代表・斉藤鉄夫さんから一方的に伝えられた連立離脱の方針については、自民党の事務方には10月7日の段階で公明党関係者の皆さんから「自民党との連立解消は避けられない情勢」で「本当にすみませんが、党と支援団体・創価学会の方針として決まったことなので」とお詫びされていました。
「連立離脱を公明党は本腰で考えてますよ」という話は党に報告されていましたし、公明党幹事長の西田実仁さんからも電話があったそうなんですけれども、何で自民党シン執行部に伝わらなかったんですかね。
その後、公明党からも旧立憲民主党からも、2026年6月のサミット後にあるかもしれない解散総選挙に向けて、公明党・立憲間で選挙協力の枠組みについての話し合いを始めている旨は伺っていました。ですが、まさか中道改革連合みたいな統一名簿を作って衆議院のところだけ合流するなんて、そこまで踏み込んだことをするとは思ってもいませんでした。
■なぜ創価学会は高市首相に怒っているのか
でも、あれは公明党からすれば虎の子で本丸である地方組織・地方議員の皆さんが立憲候補を小選挙区で応援することを意味します。同時に、いままで立憲候補を文字通り地盤として支えてきた労働組合の皆さんと創価学会員が肩を並べて同じ候補の青いビラを配ることになるわけでして、本当にそんなことができるのか? っていうのは外部から見ていて非常にクエスチョンでした。
公明党、旧立憲の関係者によりますと、この話を進めたのは創価学会副会長の佐藤浩さんと、「ホットライン」のある馬淵澄夫さん、旧立憲内で推進したのは安住淳さんとのことです。一部報道にもあった通り、佐藤浩さんとしては、自民党と気脈を通じる菅義偉さんの後見のもと幕僚に木原誠二さんがいる小泉進次郎陣営が総裁選で勝っていれば連立離脱はしなかったことは確実と言えます。
また、創価学会としては過去に奈良一区で派手に不義理をされ、さらに奈良県知事選で前任知事を降ろす調整なく手駒の総務大臣秘書官だった平木省さんを勝手に擁立した高市早苗さんに対して怒っていて関係が悪いというのは公然の事実でありました。責任の9割は派手に不義理かました高市早苗さん側にあり、怒る筋論としては創価学会が全く正しい。ですが、選挙では常に勝ったほうが正義になってしまうので、歴史は民意を得られた高市さんのほうが正しいということになってしまうのでしょうか。
ただ、その創価学会の実力者・佐藤浩さんが立憲民主党と組んで高市自民党の電撃解散を迎え撃つという話だったので、自民党側はビビっておりました。そのまま創価学会票が立憲候補に乗ることになったら自民党側は実績がある候補者でも大変な苦戦が予想されます。正直これヤベェんじゃねという感じで各陣営各候補引き締まったのは事実です。しかしながら、結果はご覧の通りでございますので、自民大勝の裏MVPはやっぱり佐藤浩さんでお願いいたします。
■突然の解散報道と「大物官僚」の影
1月8日~11日:突然の解散報道と調査開始
1月8日、突然読売新聞が「高市早苗電撃解散」の観測記事をぶち上げまして、何だそれとなりました。
その前段として、25年10月22日に古き良き安倍晋三官邸を支えた「バッドボーイ」今井尚哉さんが内閣参与への起用が報じられ、早期解散論をブチまくっていたので嫌な予感はしておりました。ただ、今井さんは26年年始の解散を進言していたものを、高市さんが通常国会召集を1月23日としたため、26年度予算の年度内成立が怪しいタイミングで本当に解散するつもりなのかということで騒ぎになったわけです。
また、年が明けてから総理は危機存立事態関係で今井さんのことが大変嫌いになったようで、与党内では、総理の心模様は山の天気みたいに急変するんだなあとみんなで話し合われておりました。そんなわけで、今回の読売新聞でのビッグな観測記事は広報官が同じく安倍官邸を支えた佐伯耕三さんだったため、解散を仕掛けたのは佐伯さんじゃないのかという風聞まで立ちました。
■最初の調査結果は「自民単独237議席」
で、その後、三連休だったのですが、肝心の高市総理に連絡がつかないという事態が発生。いきなり天岩戸(あまのいわと)におんな大将が籠城してしまい、周辺大混乱であります。秘書官の飯田祐二さんや香山弘文さんにも総理に解散の意向があることすらきちんと降りてきておらず、ごく少数の「高市さん周辺」で解散に向けた決断が仕込まれたのではないかと見られますが、肝心の高市さんが何をおっしゃっているのかよくわからないため、これは歴史が証明していくことでしょう。天岩戸にはネットがつながってたぞみたいな。
さらに官房長官の木原稔さんが報道を受けて党に説明に来られた際「総理が解散を決断される可能性は五分五分」とかいう話が出まして、なんだそれということで、「有志」で解散総選挙に向けた調査開始となります。
で、二種類の調査が走りまして、11日に出た結論が「自民党単独で237議席」。何それ。過半数が233議席ですから、すでに報道されていた「党調査で260議席獲得の見込み」というのより20議席以上少ない数字が出てきたわけです。別の調査でも230議席相当という報告が出ていたことから、自民党は言われているほど楽勝でもないんじゃねという悲観論が出始めていました。
■「史上最短クラス」の選挙日程
ただまあ本当に解散するのであれば、選挙実務を担う地方自治体の皆さんの負担は大きいので、総務省から選管通知が飛び交い、諸事準備が始まります。解散しないことが決まって「やっぱやめ」であれば対応できますが、解散が確定していないので準備開始させないと本当に解散だったら選挙できませんので、この総務省自治の判断は正解だったと思います。
このとき、私のところには「2月2日(3日)公示、2月15日投開票」というスケジュールだけが降りてきておりまして、これだけでも選挙日程として大変なうえに、26年度予算の年度内成立が絶望的になる日程でした。これはもう、ちょっとぐらいの勝ちでも高市政権は倒れるんじゃないかと。
にもかかわらず、最終的に「1月27日公示、2月8日投開票」と、さらに1週間も早く公示・投開票が早まるという話が出てきまして、椅子からみんな落ちました。これは大変だと。
■背景に「政治とカネ」からの脱却
1月13日~14日:解散意向伝達と「統一名簿」の衝撃
1月13日、さらに解散観測が強まるも確定ではないため、どう準備するのかとしゃべっているところに、韓国大統領の李在明さんがドラムを叩いている動画が流れてきまして、いや李在明さん工場負傷で腕が動かないのにそんなことさせて大丈夫かとザワザワしている間に、翌14日、党に解散意向が伝達されました。
解散宣言、公示から投開票日までに複数の外交日程が入っていて、常識的には御大将が前線に出ない期間がある時点でそれはどうなんだと現場の士気(モラール)が下がるところですが、裏を返すと「その期間、総理は表に出ないので失言する恐れがない」ということでプラスに働きました。塞翁が馬とはよく言ったもんでございます。
同14日、公明党と立憲との間で突然「統一名簿」が交渉されているというびっくりなニュースが到来。なんだそれ。翌15日には立憲・野田佳彦さんと公明・斉藤鉄夫さんの両代表とで新党結成に合意がなされ、16日には「中道改革連合」の結党記者会見が勃発いたします。
同時期、自民党東京6区(世田谷区)の公認候補に「山尾志桜里さんはどうか」とかいう、現在の人類には早すぎる声が上がって党内は大騒動となりました。おいおいおいおい。
一方、各地では野党から「裏金議員」や「ネトウヨ候補」批判が出るであろう人物が次々に自民党公認を勝ち取る事態となり、ディフェンスを固めたい官邸サイドとおもしろ候補を次々と興味本位で擁立する都県連との間で綱引きがあったようです。これも別の意味で言えば「政治とカネの問題」という綺麗事からの脱却を図りたいおんな大将の強い意志が働いたものとも言えます。
1月17日~19日:予測議席の底と「未来投資解散」
この翌日17日が調査日で、ネットパネルやRDDでの調査結果では自民党単独の獲得議席が217議席と、さらに20議席ほど下落。うーん、この。本当に解散するのか、実際には解散を取りやめてTACO市早苗になるんじゃないかという話になったわけであります。
これに呼応する形で、高市早苗さんが「自由民主党と与党・日本維新の会との合計で過半数」というめちゃくちゃ低いハードルの勝利条件を提示されます。いや、まあ当時の情勢調査を考えれば、そんなに楽観視できなかったのは事実ですが、本当にこれが勝敗ラインだと解散する意味があるのかという議論になってしまいます。正直、2月1日ぐらいまではどうなるかはわかりませんでしたし。
■高市自民は維新を見捨てた?
一方、自民党党本部からは「自民党単独で過半数」というちょっぴり野心的な目標が掲げられました。後述しますが、背景には、与党でご一緒している維新と大阪選挙区での選挙協力はおろか候補者調整すらも行われず、そもそも維新からそのような要望も出なかったので「党としては自民党単独での選挙しか責任が取れない」という正論が出たことが背景にあります。これ本当に解散していいのか、勝てると思ってるのかと思いながら、まだ残っている党公認候補の策定を早急に行うよう各都道府県連に命令が下りました。
19日、高市早苗さんが解散を正式表明する記者会見。名付けて「未来投資解散」。この名称はまったく浸透しませんでした。この直後の自民獲得予想議席は220議席前後と見られ、単独過半数が危うい。みんな真っ青になるわけですが、ここから2月8日までに100議席も積んだのって、すごくないですか。
このタイミングでなぜか日本維新の会から突然「大阪府知事選&大阪市長選やりまぁす」という謎のムーブが飛び出します。なんですかそれ。しかもこの時点の調査で大阪維新の会は大阪以外の小選挙区では全滅し、現有勢力の維持程度にとどまる見通しとなりました。
維新の話で言えば、全国的な得票はうっすら伸びているものの、大阪以外はブロック比例でしか勝てない状況でした(実際にそのようになりました)。当時は自民とバッティングするのもだるいから自民大阪ブロック比例で稼ぐためにも、維新の牙城である大阪府にも自民党はがんばって候補者を立てて応援する方向になりました。
■副首都構想は「どうでもいい政策」
一部で「高市自民は維新を見捨てた」という批判がありましたが、私の知る限り、維新との連立政権(という名の閣外協力)以降、一度として解散時点での候補者調整や選挙協力についての話し合いをしていなかったと思います。信頼関係は両党間にあるけど選挙ではご一緒しないってのは、26年間の自公政権の経験からするとさすがにどうなのと思いますが、維新から特にクレームもなく、遠藤敬さんも藤田文武さんも淡々としてるので「あ、これでいいんすかね」って感じでした。
なお、維新が与党なのに伸び悩んでいたのは、政権のアクセル役云々よりも、議員定数削減や副首都構想など有権者にとって「どうでもいい政策」を前面に立てているからです。都市部選挙区で本来強い維新の支持層を考えれば本来ならもう少し新自由主義的な主張を軸に党勢を維持していればもう少し違ったかもしれませんが……。
ちなみに普通に「議員定数削減は賛成ですか」と聞くと6割ぐらいの有権者が賛成と答えるので民意なのかと思われがちですが、実際には有権者にとってはどうでもいい政策なので、カネを使わないほうにシフトしているだけです。「投票の際に重視する政策は?」と聞くとベストテン圏外に消えてしまいます。むしろ維新の伸び悩みの根本原因は国保逃れじゃないかと推察しております。
■公示日直前の「自民劣勢」予測
1月22日~23日:中道結党大会と冒頭解散
22日、中道改革連合の結党大会が開かれまして、165人が参加。いま思えばタイタニック号沈没前夜みたいな状態ですが、このころは割と勝てると思っていた時期が俺にもありました。ここまでは、私ですら、中道は本当に中道になれるのかという半信半疑の状態だったので、調査でも「中道」と入れずに「立憲」「公明」でやっておりました。
23日、議場にて高らかに衆議院解散。ばんざーい。「中道」と入れての初の調査初日の速報で予測中央値が自民単独216議席……。しかも、その後24日の土曜日、25日の日曜日は外交日程などがあり、総理総裁・高市早苗さんの街頭演説などはなし。
1月27日:公示日――秋葉原の第一声
27日、公示当日。安倍晋三さんが「自民必勝の聖地」(本人談)とした秋葉原で、高市早苗さんが公示後第一声の街頭演説を維新・吉村洋文さんらと行いました。この時点では、自民と維新の合計で過半数ギリギリいくかいかないかぐらいで予測していたところも多かったのであります。
この前後、中道改革連合に入れてもらえなかった日本共産党やれいわ新選組が選挙実務をめぐって、それぞれ内部で紛争を起こしているらしいという情報がありました。まあ、降って湧いた選挙戦で派手に劣勢で、今まで特に何も手を打ってこなかったので大幅に議席を失いそうだ、となれば人間なかなか正気ではいられないものです。同情しかありませんが、特に内紛があるとは聞こえてこなかった、どっこいどっこい社民党のように達観していたらそれはそれで幸せだったのかもしれません。
1月28日~30日:期日前投票開始と姫路ハイタッチ事件
翌28日から期日前投票が開始され、29日・30日が期日前出口調査の一発目。ここで姫路ハイタッチ会にて、天下分け目の高市さん手引っ張り動画が大拡散されます。リウマチを持病とする高市さんの手腕の痛みとこわばりが酷くなったとされ、実際、本当に激しく痛かったようです。
このあたり、ネットだけでなく有権者からの反応でも「あれは仮病ではないのか」という話がたくさん出るに至りますが、一部マスコミの序盤情勢調査では拮抗している選挙区で中道改革連合の浸透が遅れ、有権者からの支持が伸び悩んでいる傾向が見え始めます。
■転機は「NHK日曜討論」だった
1月31日:「円安ほくほく」発言と経済論争
31日、高市早苗さんが「円安ほくほく」発言をブチかまして騒動が起きます。主に財界や経済マスコミ、その総本山である日経新聞がそのあとで立て続けに高市早苗経済政策が問題であるという大正論をかまし始め、都市部勤労層で自民党支持者がなぜかチームみらいに投票先をシフトする動きが見え始めました。
まあこの辺はビビるわけですが、ただ、いままで中道改革連合が主張していた経済政策が「ジャパンファンド」だったため、高市経済政策批判のためのフックはあっても実弾がこんにゃくでした。やれやれ。
2月1日:運命のNHK日曜討論欠席騒動
そして、2月1日より今回の選挙で自民維新圧勝を決定づけた「NHK日曜討論欠席騒動」が発生いたします。
これは本当に高市政権圧勝の転換点であったと、いまになっては思います。
逆にこれがなかったら自民単独過半数ぐらいでとどまった恐れもあるんじゃないか、と思っています。
ここで野党陣営や一部マスコミが一斉に「高市さんは党首討論から『逃げた』のだ」と批判を強めていきました。この野党批判、当初はSNSを一気に拡大し、れいわ・大石あきこさんも暴れ、中道・野田佳彦さんもメディア顔出しで声高に批判して、実測では3000万人ぐらいの有権者にリーチしたんじゃないか、と思います。SNSで拡大したところからちょうど6時間後ぐらいからTikTokやYouTubeショートでも逃走高市批判の動画が万バズし、12時間ぐらい、逃げた高市批判一色となっていきます。
しかし、どういうわけか、私のよく知らない皆さんが「高市早苗さん、持病があるのに叩かれてかわいそう」という擁護のSNSの書き込みやTikTok、YouTube動画を大拡散されました。このあたりを境に、特に30代以下の男女で一気に高市支持率が上がっていきます。ネット世論が一気にひっくり返され、病気を理由に討論を休んだ高市さんのほうが正しいという空気が、特に30代以下勤労層の有権者に広く浸透していったのです。
ここから出口調査の自民党支持が劇的に改善し始め、特に無党派層からの熱い支持が自民に流れ込みます。おそらく本来この辺は、国民民主党や参政党が取っていた層です。ここで自民に流れない無党派票が、チームみらいに流れ始め、非自民投票先としてチームみらいがバブルを起こし始めます。
■「中道支持者の3割」が自民に投票
2月2日:みずほレポートと「円安ほくほく」批判の波紋
ほぼ時を同じくして、みずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔さんがレポートを公表。「高市発言の現状認識は危険」として、円安で企業が国内回帰するという高市さんの見解を「アベノミクスで実証済みの失敗」と断じ、為替特会の運用益を「ほくほく」と表現したことを「通貨防衛能力を毀損するタブー」と批判しました。現職総理の経済認識を民間銀行が選挙期間中に名指しで批判するという異例の事態で、SNSで急速に拡散されます。
その前に、みずほFG(フィナンシャルグループ)では、高市政権の金融政策を支持するコメントが経営者によって出されておりましたが、案の定、高市批判をしたいマスコミからは、この「エコノミストの」平常運転の批判記事が「みずほが高市政権を批判」とすり替わってしまいました。つか、選挙期間中は「みずほ」のように国民が権威に思うブランドを持つ会社は選挙に影響される情報流通に利用されることが多いわけですし、統制しとけやと思うわけです。
その結果、見える限りではそもそも消費税減税の財源問題を理解している40代以上都市部在住の有権者が自民党への投票をやめるか、チームみらいに投票先をさらに移す行動が顕著になります。
2月1日~5日:創価学会票と中道の限界
ほぼ時を同じくして、中道に支援団体・創価学会からの票が入り始めます。ピークは2月4日・5日であろうかと思います。ただし、ここでの得票は選挙区ごとにグラデーションがありまして、おそらく佐藤浩さんや地元創価学会との関係が深い武田良太さんや木原誠二さんらの選挙区では今までの関係を重視して、立憲さん納得のもと自民党候補に投票。それ以外は、形だけでも数字を作らないとヤバイと思った地域は中道候補に入れています。
この段階で「創価学会から安住淳さんに『武田良太さんを応援します』という仁義切りが入った」という情報が駆けめぐりましたが、そもそも武田良太さんの福岡11区には中道改革連合として辻智之さんというアリバイ候補が擁立され、前回勝利した維新・村上智信さんの票を喰う目的であったことは公然の事実と見られておりました。
地元の交友関係や選挙区ごとの大人の事情もあったのだろうとは思います。ただ、この辺の出口で特徴的なのは、中道改革連合自体の有権者への浸透はネットパネルやRDDでは17%程度と進んできているのに、投票箱に来ている中道支持層(調査によっては「立憲」も)は低いところで5%、多いところで11%程度までしか投票に来ていないということです。さらに、多いところで中道支持者の3割程度は自民党に投票し始めていまして、このあたりの数字を見て「これは与党の負けはないのではないか」と思いました。
■選挙期間に「高市支持」が増えた本当の理由
2月5日~7日:雪崩を打つ自民票
2月2日を超えると終盤情勢調査で自民党圧勝という数字が朝日新聞ほかから出るようになりました。創価学会のがんばりによる出口増の得票ブーストが切れますと、2月5日から投票態度を保留していた無党派層ほかが一気に自民党に投票するようになります。全選挙区では調査していないのですが、注目選挙区の数字だけで言うと高市早苗さんを強く支持する35.5%、やや支持するが33.4%に上昇しました。つまり、一般的な世論調査よりも投票箱までやってきた有権者は一層高市政権に未来を感じて支持するという構造で、おそらく全国的に「選挙戦を通じて、消極的な高市さん支持層が増えていった」と見られます。
自民党が当初心配していたのは「日を追うごとに高市政権の支持率が下がり、それに連動する形で得票予測も出口調査結果も落ちていく」ことだったのですが、NHK党首討論ドタキャン以降、高市同情票が大きく集まり、野党側は無党派層に支持をもらえる理由が見つからないまま終盤で一気に有権者が態度を決めていった、という形です。調査最終まで一気に野党各党を(維新ごと)突き放す形で自由民主党に雪崩を打って票が入り、歴史的大勝利へとつながっていきました。
もちろん、冒頭にも書きましたとおり自民党への投票率そのものは2021年岸田文雄政権下での衆議院選挙と大差なく、小選挙区での圧勝となったのは激戦区での野党分裂・候補者乱立が原因であることは強調しておきたいと思います。
■自民新人が「旧立憲幹部」に逆転勝ちのワケ
個別の選挙区に触れるのも字数の関係からむつかしいのですが、大物との直接対決で競り勝った事案として、東京27区で黒崎祐一さんが自称ミスター年金・長妻昭さんを小選挙区で破ったジャイアントキリングは特筆に値します。
文字通り2月2日までは自民・黒崎さんに勝てる要素が皆無だったところ、NHK党首討論欠席での「高市いじめ」報道で無党派層が関心を持ったタイミングで、東中野駅に勤労層からの声望が特に高い経産大臣・赤澤亮正さんが応援演説に入り、マスコミやネットで大きく取り上げられました。これにより2月5日、6日、7日と出口調査で一気に支持を広げて長妻昭さんをまくり、投開票日では自民党支持(36%)の8割以上が、無党派層(33%)の4割弱が黒崎さんに投票。中道支持(6%)の6割、無党派層の4割しか得票できなかった長妻昭さんを下したという流れになりました。
常識的には、中盤情勢までで12%以上の差をつけられた劣勢候補が逆転勝ちを収めることはむつかしいのですが(過去に加藤紘一さんが政権交代を果たして大勝した2012年、序盤20%近いリードをしながら自民分裂後、阿部寿一さんが逆転勝利した例はある)、ほぼ倍の得票を誇った長妻昭さんは期日前最後の3日間で一気にまくられ小選挙区で敗北してしまいました。これは長妻陣営が緩んでいたというよりは、無党派に投票する理由ができたことで一気に得票を失う選挙の怖さそのものと思います。
■「実力はあるが見栄えのしないおじさん」2人
結果的に東京や神奈川などでは擁立候補者全勝を果たしてしまい、ブロック比例名簿が足りずに獲得議席を他党に譲る結果となったのは特徴的な出来事と言えます。いや、自民党からすると、そんな勝てると最初はまーーったく思ってなかったというのは前述の通りです。
まあ要するに、突然高市さんが解散するぞといって爆裂させたあとで、なんか思ったほど勝てなくねと思っていたら、あれよあれよという間に316議席まで、当初予測から100議席以上積み上げてしまったというのが現状であります。これはもう圧倒的サナエ旋風が野党を制圧した、ある意味でマドンナ旋風(1989年・参議院選挙)や郵政解散(2005年)にも似た大博打に勝ったとも言えます。
他方で、やられた野党側はあからさまに自滅を繰り返すものでありました。確かにそのまま選挙になったら勢力維持は難しいという危機感はあったものの、打った手が「野田佳彦さんという実力はあるが見栄えのしないおじさんと、斉藤鉄夫さんという実力はあるが見栄えのしないおじさんとが合体して、中道改革連合という最高に見栄えのしない政党ができあがってしまった結果、支持基盤の主力であった労働組合(連合)の皆さんがぐっすりお休みになり、イメージ選挙に打って出る高市早苗さんに有効な対抗策を最後まで打ち出すことができず、投開票日の最後の3日間で一気に差を広げられて大敗した」という形になります。
■れいわ・大石あきこ氏の“アシスト”
特に、中道への立憲支持層の冷め方は尋常ではなく、ただでさえ浸透が進まない中道や旧立憲支持者の6割しか投票しないのでは中道候補が小選挙区で勝てる見込みはほとんどありません。そのトリガーが、党首討論ドタキャンをめぐる国民感情であったことは特筆に値するものです。
その「がんばってる高市さん」が持病を理由に討論会を休むことに猛烈な批判をしたれいわ新選組の大石あきこさんは、すばらしいアシストを披露されました。
それに加えて、経済政策が弱点の高市早苗政権を攻撃するのに中道が持ち出してきたのがなぜか年金積立金・外為特会など「博打を打つのに使っちゃいけないカネに手を付ける」ジャパンファンド構想だったため、政治に関心のない層には何を言っているのかわからず、政治関心層やマーケットをわかっている人からは「クソみたいな代案を出してくるんじゃねえよ」という話になりまして、選挙中盤から中道は街頭演説でも誰ひとりジャパンファンドには触れなくなったのが印象的でした。
■「病気で大変なのに口汚く罵る野党って何なの」
かつて、勝つ見込みのない共産党テンプレ候補が乱立することで反自民票が割れ、左派勢力が不利になる「地形効果」が問題になりましたが、今回は結果的にチームみらいが反自民票の受け皿として既存政党忌避の無党派層の票を集めてしまったため、そこで得票したい中道や国民民主党、参政党にとっては非常に不利な状況となったのです。
こちらもいきなり選挙になったので、調査対象として自民、中道と参政党に絞って数字を拾っていたのですが、各党がポピュリズムに走り消費税減税に向かっていくなか、単独で消費税減税反対の立場を取ったチームみらいさんが目立って、中道、国民民主党、参政党、れいわ新選組の各党から得票を奪っていきました。
また、今回「日本人ファースト」など外国人政策も争点になりませんでした。もっとも、台湾危機存立事態に関する総理高市の国会答弁をめぐり中国総領事が「汚い首斬ってやる」とSNSで書いたことで、非常にセンシティブな問題となりました。特に地方選挙区では、外国人なしに経済が立ち行かない地域が多いことで外国人受け入れに対する理解が一定広がったこともあって、結果的に外国人問題が高市さん有利に転ずるため参政党なども封印するほかなかった面はあるでしょう。
転機は、やはり2月1日のNHK党首討論ぶっち事件でありました。いや、まあ慎みある大人なら党首討論ぐらい出ろよと言いたくなるのは人情です。しかし、そこで病気を理由に休むことを批判した野党の言動が浸透した結果「高市さんかわいそう、病気で大変なのに口汚く罵る野党って何なの」というナラティブが空前の「サナ活」ブームとなったのは間違いありません。とんでもねえ反撃を仕掛けたやつがいたんですかね。もちろん自民党の各候補者もがんばっておりましたけれども、ここで潮目が変わって一気に追い風が吹き、街頭演説でも人が集まるようになりました。
■情勢は「最後の一週間」で劇的に変わった
当初予測で237議席、最低時には216議席まで落ち込んだ自民党の獲得予想議席が、この2月1日を境に急反転し、最終的には316議席という戦後最多の大勝利に至ったのであります。薄氷の上を歩いているようだった30日間が、最後の1週間で劇的に変わった。これが2026年2月8日総選挙の全貌です。
そんなわけで「何か知らんけど高市早苗ブームが来たから楽勝で終わった」のではありません。自民党にとって、当初はそこまで勝てないのでどこの議席をどう守りに行くかとか考えていたら、早苗ブームと野党の自滅で圧勝してしまったという……これ次どうすんのという感じの戦いになった次第です。
そして、今後は圧勝した高市政権が、年度内での予算成立や憲法改正の悲願を目指して中央突破をする特別国会を迎えます。議員定数削減とかいろいろ言ってましたが、ぶっちゃけいまの日本の国会運営は法令に基づかない因習・慣習ばかりですし、熟議といっても参議院にそれほどの価値があるのかという話はどうしても出てきてしまいます。高市早苗さんは総理として目的達成のために中央突破をしようとするでしょうし、過去の国会での前例を盾に、野党だけでなく自民党内でも批判が出てくることでしょう。
ただ、今回の自民党の圧勝は、自民党が支持されたというよりも高市早苗さんに有権者が未来を託した面があり、文字通り白紙委任状を渡したに等しい状態ですから、このあたりは周辺がどう頭を悩ませようとも高市さんのやりたいようにどこまでやらせられるのかが焦点になっていくのではないかと思っています。
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山本 一郎(やまもと・いちろう)
情報法制研究所 事務局次長・上席研究員
1973年、東京都生まれ。96年慶應義塾大学法学部政治学科卒業。東京大学政策ビジョン研究センター(現・未来ビジョン研究センター)客員研究員を経て、一般財団法人情報法制研究所 事務局次長・上席研究員。著書に『読書で賢く生きる。』(ベスト新書、共著)、『ニッポンの個人情報』(翔泳社、共著)などがある。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わる一方、高齢社会研究や時事問題の状況調査も。
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(情報法制研究所 事務局次長・上席研究員 山本 一郎)

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