家電量販店のノジマが、一定の基準を満たした2026年度新卒社員の初任給を最高で40万円に引き上げると発表した。その他にも、小売り、ソフトウエアなど、広い分野で初任給を引き上げる動きが目立っている。
初任給を引き上げて優秀な新卒を確保することは当然なのだが、その初任給が少し前までは考えられないレベルにまで上昇している。それだけ、新卒の需要は多いということだろう。ただ、初任給の急上昇による弊害も出てくるはずだ。初任給が上がる一方、中堅やシニア層の給与はあまり上がっていない。そこに不満が蓄積する懸念もある。
不満が溜まると、転職を考える人が増えることも考えられる。問題は、転職した場合、好待遇を勝ち取れるかどうかだ。つまり、何か特別な技術や能力を持っていると、恐らく期待するような機会を探すことは可能だろう。逆に、それがないと転職は難しく、現在の企業にしがみつくことになるかもしれない。
■転職する人が少数派から多数派へ
わが国の労働市場の慣行=新卒一括採用・終身雇用・年功序列型賃金は変化しつつある。初任給の上昇は、そうした変化を物語る特徴的な現象といえる。少し長い目で見ると、日本でも転職が一般的な海外並みの労働市場へと向かうだろう。
政府はそうした展開を念頭に制度設計を急ぐ必要がありそうだ。年金の企業間移行の簡易化(ポータビリティの向上)や、職業訓練・学びなおしといったリカレント教育制度の拡充など行うことは多い。個々人が能動的に、持続的に学び、より高い成果の実現を目指す環境整備は待ったなしだ。
■「初任給バブル」の裏にある危機感
近年、わが国の初任給は年を経るごとに上昇してきた。厚生労働省の調査などによると、2000年ごろからコロナ禍が発生する前まで、わが国の大学卒業者の初任給は概ね月20万円前後で推移した。現在の初任給の推計では、23万円程度に達したとみられる。業種や就業地域による影響もあるが、初任給の上昇は顕著だ。
その主な要因として、企業の新卒需要の高まりがある。若手社員を多く確保して、中長期的な事業体制を整備する企業は増えている。ある程度の専門知識を持つ若手社員に活躍の場を与えて、業績の拡大につなげる意図もある。
初任給の対応が遅れると、競合他社などに人材が移る恐れは高まった。人手不足倒産に陥る企業もある。
企業を取り巻く事業環境も変化した。成長期待の高い分野での収益力向上に、実績あるプロ人材の確保は必要だ。プログラミングなどの知見を持つ新卒学生を確保するため、初任給を引き上げる必要性も高まった。買収、マーケティングなどの専門人材の確保に、高い給与水準を提示して中途採用を増やす企業も多い。
■新卒で「年収1000万円」が現実になっている
ノジマは、そうした事例の一つだ。2026年度の初任給を2万7000円引き上げ、34万4000円にする。2021年度の初任給(24万5000円)に比べ40%近い引き上げだ。そのほかにも、初任給の引き上げを表明する企業は多い。
昨年末、アパレル大手のファーストリテイリングは、2026年3月以降入社の新卒社員の初任給を37万円に引き上げた。引き上げ幅は4万円だった。大手の生命保険などの金融機関でも、初任給を35万円に引き上げるケースが目立つ。
一方、大手の総合電機メーカーの中には、新卒一括採用をやめる企業もある。通年で、新卒と中途を同じように採用し、専門性を持つ新卒では年収1000万円に達する場合もある。国内金融機関では、高度な金融知識を持つ大学院修了者などに、50万円の初任給を提示するケースもあるという。
■取り残された40~50代の「就職氷河期」
初任給の引き上げの一方で、中堅やシニア層の従業員の賃金がなかなか上がらない。専門家の一部からは、1993年~2004年ごろの“就職氷河期”に入社した世代では、業績拡大にもかかわらずなかなか賃金が上昇しないと不満が高まっているとの指摘もある。
これまで、新卒を一括で採用する企業は多かった。入社直後の賃金水準は低く、就業年数を重ねると基本的に横並びで昇進、昇給した。いわゆる年功序列型賃金だ。
その中から、管理職、役員に登用される人が出る。基本的に就職した企業で定年まで働く。わが国の企業は、こうした新卒一括採用、年功序列、終身雇用を重視した。今なお、そうした制度を守っている企業はある。
ただ、そうした雇用慣行は変化している。変化せざるを得ないのだ。従来のやり方では、世界市場の競争に対応し、長期的に従業員の意欲を維持し、企業を成長させることは難しい。多くの経営者は、それに気づいたのである。
■若いAI人材と戦わなければいけない
AI関連分野の急速な成長は、そうした危機感を高めるきっかけになった。社内にAI=人工知能の利用に習熟した人がいるとは限らない。必要に応じて、労働市場からプロ人材を登用する必要性は高まる。
中には、学生時代からプログラミングなどの知識をつけ、新卒者でもプロ並みの技能を持つ人もいる。成長期待の高い分野で、専門性の高い人材は引く手あまただ。需要が増えるに伴い、労働力の供給価格は上昇する。つまり、賃金は上昇する。こうした市場原理(競争原理)が、わが国の企業、労働市場で働き始めた。
その結果、従来の雇用の考え方・制度では成長は難しいことが明確になりつつある。ここ数年、毎年のように初任給の引き上げが発表されているのはそのためだ。
若手社員に比べて賃金が上がりづらい、シニア層の中には自ら外資系企業に転職する人もいる。彼らの経験(暗黙知)を必要とする企業も多い。わが国の雇用慣行の変化は加速するだろう。
■労働市場の変化で「喜ぶ人」と「苦しむ人」
賃金上昇、満足感の高い就業環境の実現などの動機で、わが国労働市場の流動性はさらに高まるだろう。業績がよくても、実力ある人を増やすために希望退職や早期退職を募る企業もある。中長期的に、わが国の労働市場が欧米のような状況に向かう可能性は高い。
経済が成長するには、有限な資源を有効に活用することが大切だ。ある意味、わが国の雇用慣行は、有限な労働力を特定の分野に塩漬けにしてきたといえる。個々人の実力の発揮、新しい発想の実現に向けて人材が流動化することは経済の成長に必要だ。
ただ、すべての人が、労働市場の競争原理に対応できるわけではない。
転職した際に、確定拠出年金の移管を確実に実行しやすい制度設計は重要だ。転職者の増加に伴い、企業型確定拠出年金(DC)の移し忘れは増加した。一定期間に手続きをしないと、資産は国民年金基金連合会に自動で移管される。その場合、資産運用はストップする。制度の改良は急務だ。
■日本の潜在成長率を高めるチャンス
また、学びなおしの制度を拡充し、人々の就業意欲を高める政策の必要性も高い。企業のグローバル戦略が加速すると、必要になる専門能力は増え高度化する。対象になる専門性は、マーケティング、財務、プロジェクトの運営や管理、買収戦略の実行、多様な人材の管理など拡大している。
政府は、先端の技術などに習熟し、それを発揮できる環境の整備を考える必要がある。そうした取り組みが増えると、成長期待の高い分野、企業での就業を志す個人が増えるきっかけになる。
新しい取り組みに自発的に取り組む人が増えれば、わが国の課題といわれる起業は増えるだろう。それは、潜在成長率(経済の実力)の向上に必要な要素だ。総選挙を経て自民党が安定した政権基盤を手に入れた中、高市政権は中長期の視点でそうした取り組みを実施することが望まれる。
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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。
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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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