2月の衆院選で大勝した高市自民は、今後強く成長する組織になれるのか。経営組織論の専門家である舟津昌平氏は「組織論の代表的な言説に『ある期に成長を達成した組織は、その次の期の成長を減退させる』という『ペンローズ効果』がある。
高市自民がこの定説を覆すためにやるべきことはたったひとつだ」という――。
■「推し活選挙」ってどうなんだ
2月の衆議院選挙で高市自民党が大勝した。きわめてイレギュラーな時期での解散に始まり、高市首相の討論番組欠席騒動などがありながら、結果はあまりにも鮮烈だった。自民党の大勝というより最大野党であった中道改革連合の大敗ではないかという見方もある。
なぜこのような結果になったかの分析が多々行われるなか、勝ち負けの原因もさることながら、今後どうなっていくかを考えることもまた重要であろう。
今回の選挙で、過去にはあまり見られなかったフレーズが躍った。「推し活選挙」である。
「まだ投票がお済みでない全国のサナエファンのかたは、投票用紙に高市早苗と書きましょう。こういう呼びかけがあって思わず笑った。昨今の政治が『推し活』になっていることを象徴している。」
と田中優子氏(法政大学名誉教授)は某新聞の社説で書いている。筆者はこの「サナエファン」と呼称していた原典は見つけられなかったのだが、Xに「【公認】チームサナエが日本を変える」という名を冠したアカウントは発見した。フォロワー16万3000人となかなかの影響力だ。

カタカナ呼びは親しみやすさを喚起すると同時に、軽薄な人気取りのようにも確かに思える。
■異常な伸びを示したサナエのYouTube
似た文脈として、高市氏のYouTube動画も話題になった。自民党公式チャンネルから配信された「【高市総裁メッセージ】日本列島を、強く豊かに。」と題された動画は、公開当初から異常な再生数の伸びを発揮。2月24日時点で実に1億6000万回の再生数に至っている。
あるインフルエンサーは、このくらい動画を伸ばすためには広告費が2億~7億円は必要なはずだとも指摘する。大手広告代理店がサポートしているはずだ、とも。
筆者はこの元動画を確認するために自民党や高市氏の公式チャンネルを確認したのだが、動画の数が多いのに驚いた。「バズるためにはまず投稿数を増やせ」という鉄則を守っている。かつ各動画、1万程度は再生されている。いわゆるショート動画も多い。
「政治活動」が過去と非連続なフェーズに突入したことを実感した。
政治家が企業のマーケティング手法を応用し、インフルエンサーとなり、再生数を軸にバーチャルな支持を獲得するモデルにシフトするというフェーズである。
■選挙とは「自分に利する人」を選ぶ行為
推し活選挙の何が悪いの? という方もいらっしゃるだろう。
筆者の理解では、選挙とは国民の「代理人」、しかも「利害の代理人」を選ぶイベントである。自分の利害に関わることを変えてほしいけど、自分ではどうにもできないから、代わりになってくれる人を選ぶのだ。
子育て家庭の方が、育児環境の改善を願うから、それを公約にしている政治家を選ぶ。女性の社会進出を後押ししたいから、賃上げをしてほしいから、理由は個々で何でもいい。
自分は大富豪で、お金持ちに有利な政策を標榜している政治家がいい、と思うのも「自由」の範疇である。実際には特定の層のみを有利にしたり、誰かの権利を極端に侵害したりすることは様々な側面から制限されるだろうが、選挙とは「自分を利する人」を選ぶのが道理なのである。
で、ここで、「自分の好きな人」を選ぶのはどうなんだ、という話である。見た目がいいとか、演説がうまいとか。若年層が高市氏を支持する理由が「女性(活躍の象徴となってくれそう)だから」だという話もあるようだが、高市氏の公式ウェブサイトの「高市早苗の政策」欄をみると、箇条書きで19の公約が列挙されているなかに「女性」の文字は出てこない(出産支援について触れている箇所はある)。
公約欄のトップの見出しが「『危機管理投資』と『成長投資』で『強い経済』を実現!」なので、高市氏の主眼がどこにあるかはわかりやすい。
高市氏が女性活躍の象徴とは言えても、女性活躍の優先順位は低く、積極的に推進してくれそうではないことも推論できる。
■政治=推し活になるとどうなるのか
アイドルへの推し活なら、別に好きな人を盲目的に推したらいいだろうが、政治の場面で同じ理屈でやるのはどうなのだろう。「私はサナエを推していたら幸せなの」って、まぁいいけれど、もうちょっと社会制度とか自分の仕事とか家庭とかそういうことを主眼にした方が……というのは余計なお世話なのかもしれない。そうした国民の態度もまた、変節の時期にあるようにみえる。
なお、今回の選挙の投票率は(大雪の日だったとはいえ)、56.26%で前回24年から約4%増だった。岸田政権時から大きく増えたわけではない。自民党の得票率も、実は岸田政権と大差ない。票はさして変わらず、議席で大勝したというのが実際のところであり、やはり自民党の勝利というより野党の敗北なのである。
つまり推し活「だから」勝てたわけでなく、因果関係が認められるかは微妙である。ただ問題は、精緻にみて推し活選挙に効果があったか、ではない。与党が推し活っぽい活動を大幅に拡大させ、かつ大勝したという事実は、今後同様にふるまうことに正当性を与えた。効果のあるなしに関わらず、選挙が推し活化していく流れは避けられないように思える。

■組織の成長に関する「ペンローズ効果」
さて、圧勝した高市政権は、このまま快進撃を続けるだろうか。自民党が一強すぎることや、この圧勝が「独裁」を生むのではないかという懸念もありうるだろう。
筆者の専門は政治ではなく経営組織論であるので、組織の話をしたい。エディス・ペンローズ(1914~1996)という経済学者がいる。『企業成長の理論』(1959年初版)という書籍で有名で、本のタイトルの通り、企業組織の成長の研究をしていた学者だ。
彼女の著名な業績のひとつが「ペンローズ効果」で、「ある期に成長を達成した組織は、その次の期の成長を減退させる」という仮説である。要は、組織が成長し続けるのは難しい、という話だ。
ペンローズは、その主因を「経営者サービス」だとしている。耳慣れない言葉だろうが、ざっくり言えば経営者や経営陣の能力のことである。
例えば、3名で始めたスタートアップがあるとして、売り上げが伸びてきたので社員を10名に増やしたとしよう。
そのままガンガン成長し続けられるかというとそうではなく、規模が大きくなり経営者らが多忙になることで、成長機会の発見や、経営資源の配分、新たなメンバーへの教育訓練などの「マネジメント」がうまくいかなくなり、成長が減退するという理屈である。直感的には理解できる。

ペンローズ効果は大企業にも働くようで、近年では、トップ・マネジメント・チームがもつ経営者サービスがどう成長に影響しているか、といった観点から研究がなされていたりする。
■過去に大勝した小泉政権がぶつかった“壁”
さて、高市政権の話である。大勝した自民党は、急成長企業と同じ状況にあるといえよう。そして、歴史的にみても、過去に似たようなことは起きている。「小泉チルドレン」だ。
小泉純一郎政権下、郵政民営化を争点とした2005年9月の衆議院選挙において、自民党の新人議員が83名もの大量当選を果たし、その新人議員らは小泉チルドレンと呼ばれた。83名の当選になぞらえて「83会」とも自称していた。ちなみに今回の自民党の新人当選者は66名で、約2割を占める。
この小泉チルドレンらがぶつかった壁が「教育」だったと言われる。経験が浅い議員が多く、杉村太蔵氏を代表としてトラブルも頻発した。ここで機能したのが武部勤幹事長であったという。「偉大なるイエスマン」を自称し、新人議員の教育長を務めた「番頭」がいたのである。

小泉チルドレンには有力な「生存者」も少なくはない。現在閣僚を務める木原稔官房長官、赤沢亮正経産大臣、片山さつき財務大臣らは元「83会」である。
ただ小泉チルドレン全体の勢いは長続きしたとは言い難かった。2009年の選挙では73名が立候補し、再選は10名にとどまった。2012年には30名以上が議員復帰を果たすものの、勢いは一過性だったことは否めない。
■「人気者」から「カリスマ的リーダー」へ
推し活選挙の弱点というか注意点として、あくまで推している人たちは「外の人」でしかない、という点がある。サナエ推しの人々が、議員の教育や選挙後の党内マネジメントに寄与しうるわけがない。少なくとも直接は関与できない。その意味で、人気は無力である。
よってこれからの高市氏は、人気にとどまらないカリスマ性や、巨大化した組織をやりくりするリーダーシップが必須となる。
ペンローズ効果や企業組織からも学べるのは、組織のリーダーシップは単独で発揮する必要はないという点だ。シェアード(分有型)リーダーシップといって、リーダーシップを集団の機能としてみなすアイデアは、経営学では一般的なものとなっている。
やや古い例として、1999年より企業再建のために「日産リバイバルプラン」を実行したカルロス・ゴーン氏がいる。彼はカリスマ的なリーダーとしてメディアに露出しながらも、若手を抜擢して「クロス・ファンクショナル・チーム」と呼ばれる組織横断型のチームを編成していた。リーダーシップはチームで発揮できるものでもあるのだ。
■サナエが真っ先にやるべきこと
自民党にとっての成長が停滞しないためには、経営者サービスが減退しないようにするためには、いかにトップ・マネジメント・チームを作るかが肝要であろう。閣僚や行政との結節点のみならず、党組織をまとめあげ、育てる体制が必要である。ある個人が目立っているとき、その個人がどういうチームやネットワークを有しているかに着眼するのが、組織論の基本だからだ。
高市氏は2月20日に施政方針演説を行い、昨年話題になった自らのフレーズをもじって宣った。
「とにかく成長のスイッチを押して、押して、押して、押して、押しまくってまいります」
もしペンローズならば――奇しくも、時代背景としては珍しくペンローズも女性であった――忠言を授けるだろう。「成長を連続させることは、非常に難しいのであるよ」と。経済にせよ党組織であるにせよ、である。
成長、成長と息巻く前に、足元の組織を、「身内」をしっかりマネジメントせねばならないのだ。

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舟津 昌平(ふなつ・しょうへい)

経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師

1989年、奈良県生まれ。京都大学法学部卒業、京都大学大学院経営管理教育部修了、専門職修士(経営学)。2019年、京都大学大学院経済学研究科博士後期課程修了、博士(経済学)。京都産業大学経営学部准教授などを経て、2023年10月より現職。著書に『経営学の技法』(日経BP社)、『Z世代化する社会』(東洋経済新報社)、『制度複雑性のマネジメント』(白桃書房/2023年度日本ベンチャー学会清成忠男賞書籍部門、2024年度企業家研究フォーラム賞著書の部受賞)、『組織変革論』(中央経済社)、『若者恐怖症 職場のあらたな病理』(祥伝社)など。

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(経営学者、東京大学大学院経済学研究科講師 舟津 昌平)
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