※本稿は、出口治明『誰も行ったことのない場所へ行こう。そして誰もやらなかったことをやろう。』(祥伝社)の一部を再編集したものです。
■「自分」へのこだわりが強い人が多い
「自分らしい働き方」「自己実現」「自己肯定感」「自己成長感」などについて、よく相談を受けます。意欲を持つのは素晴らしいのですが、果たして、「自分らしさ」「自分のやりたいこと」というのは、そんなに簡単にわかるものなのでしょうか。今回は、「適性」について、僕の考えをお伝えしてみたいと思います。
社会人として働き始めた当初はひたすら緊張していた人も、しばらくして少し気持ちに余裕が出てくると、「この会社は自分に合っているんだろうか?」という疑問を抱くことがあるのではないでしょうか。
与えられる課題の難しさ、上司や同僚との人間関係、あるいは忙しくて自分の時間が持てない……など、社会人の日々にはいろいろなストレスがあります。
そのために居心地が悪くなり、「この職場は自分に向いていないかもしれない」と感じる面もあるかもしれません。「自分の適性に合った仕事をしたい」「自分らしい働き方をしたい」といった気持ちが強い人も多いでしょう。
若い人ほど自己責任論の影響を受けているように思います。
「自分」へのこだわりが強い人が多いように僕には見えます。だから、職場で強いストレスを感じると、「自分」のやりたいことができていないように思えてくるのではないでしょうか。
でも、自分の思いどおりになることなど、僕たちの人生にはほとんどありません。人生のスタートからしてそうです。「自分はこの時代のこの国に生まれるのが向いているはずだ」などと選んで生まれてきた人はひとりもいません。
僕もあなたも、たまたま20世紀から21世紀にかけた時代の日本で人生を始めました。その段階から、人間が生きる環境は運と偶然で決まるのです。
■生命保険会社に就職したのは「何かの縁」
もちろん、生まれる時代や場所と違って、「どこで働くか」は自分で選ぶことができます。とはいえ、選んだ会社に入れるかどうかは相手次第。必ずしも自分の思いどおりにはなりません。
たとえ運よく第一希望の会社に入れたとしても、配属先や上司は選べないでしょう。
僕が新卒で生命保険会社に就職したのも、ほぼ偶然のようでした。前にも書きましたが、当時は司法試験を目指していたこともあって、民間企業のことなど何も知りません。
たまたま友人がそこを受けるというので、生命保険のことなどまったく知らないのに、ついていって一緒に受けました。
結局、司法試験には落ち、内定をもらったのはその会社だけでした。それで「これも何かの縁だろう」と思って入社したのです。ほかに行くところもないので、そうでも考えなければ仕方ありません。
ですから、その会社で何か「やりたいこと」があったわけではありませんし、自分に向いているかどうかなんて考えもしませんでした。
■「どこで働こうが大差ない」理由
もちろん、仕事が楽しくなるよう、自分でもいろいろなことを試みました。設定した時間内に目の前の仕事を終わらせられるか、自分と時計の針で競争してみたり。コピー取りを頼まれたらコピーする書類に目を通してみたり。
とくに「やりたいこと」があって入ったわけではなくても、その環境の中で、「効率的に働く」という明確な目的のためにチャレンジできることはいくらでもあります。その目的はどの会社でも同じなので、「どこで働こうが大差ない」のです。
結果的に、僕は会社を辞めてから、その知識や経験を活かしてライフネット生命を立ち上げることになりました。自分の「やりたいこと」や適性など考えずに始めた仕事でもそんなことになるのですから、人生はどう展開するかわからないものです。
もしかすると、他人の目には僕が「自己実現」を果たしたように見えるかもしれませんが、これは運と偶然の織りなす流れに身を任せた結果にすぎません。
■20代の若さで自己実現などできるわけがない
あなたの人生も、これからどんなふうに展開するかは誰にもわかりません。いまは「自分にはこれが向いている」「自分はこれをやりたい」といえるものがあったとしても、それ自体が次第に変わっていくでしょう。
そもそも20代前半ぐらいの年齢で、自分が人生の中で成し遂げたいことがわかっている人など、めったにいません。
スポーツ選手の場合は10代のときから「オリンピックで金メダルを取りたい」などの具体的な目標があるでしょうが、たとえそれを達成したとしても、人生は現役引退後も続きます。実現すべき「自己」は、そうやって常に変化していくわけです。
そう考えると、20代の若さで自己実現などできるわけがありませんし、それを目指す意味もありません。日本ではいつのころからか、親や学校の先生が子どもたちに「自分のやりたいことを見つけなさい」というようになりました。
その影響で、人とは違う自分ならではの「やりたいこと」を持たない人生は物足りない――という価値観を植えつけられている人もいるでしょう。
でも僕は、「やりたいこと」なんて自分が死ぬまでわからないと思っています。もしかしたら死ぬ間際には、「いろいろあったけど、自分はまあまあ、やりたいことをやってきたな」と思えるかもしれません。
そうなったら、幸せな人生だったといえるでしょう。あれこれ試行錯誤した末に、結果的には「自己実現」ができたことになるような気もします。
■縁あって入ったいまの場所に「適応」させる
ですから、就職して間もない段階で、自分の「やりたいこと」をやらせてもらえなかったとしても、まったく問題ありません。自分の適性に合う会社や仕事など、よほど運がよくなければ出合えないのです。
「自己実現」を追いかけて、自分の適性に合う場所を探し始めたら、たぶんキリがありません。どこに行っても、何かしら「自分」とのズレを感じることになります。
そうやって自分の「適性」に合う場所を求めてさまようより、たまたま縁あって入ったいまの場所に自分を「適応」させることを考えたほうがいいでしょう。
そこでの仕事を楽しいものにできるかどうかは「自分」次第ですし、仕事が楽しくなればそこが好きになっていくのではないでしょうか。
とはいえ、「いったん入った会社を辞めてはいけない」とはいいません。
たとえ仕事のテーマや内容は自分の「やりたいこと」と一致していたとしても、そんな環境に人は適応できません。
■世界経営計画のサブシステムを生きる
十数年前に、『置かれた場所で咲きなさい』という本がベストセラーになったことがあります。でも僕は、この言葉にあまり賛同できませんでした。
たしかに、縁あってそこに置かれたなら、咲けるように努力や工夫をしてみればいいと思います。でも環境に適応できなければ、何をどう頑張っても花は咲きません。それがわかったら、咲けそうな場所に移ったほうがいいに決まっています。
極端な話、パワハラやセクハラなどが横行し、みんながそれを見て見ぬフリをしているような会社だってあるでしょう。コンプライアンスがめちゃくちゃなブラック企業もあります。そんなところで無理に適応してはいけません。
いまは人手不足ですから、あなたのような若い人たちは引く手あまたです。運がよければ、自分が適応できる場所に出合えるでしょう。
「やりたいこと探し」はキリがありませんが、いっぽうで、人には「生きがい」が必要です。
でも「生きがい」という言葉はあまりに抽象的です。よくわからない。そこで僕は、「生きがい」という意味を「世界経営計画のサブシステムを生きる」と呼ぶことにしました。
僕も、そしてあなたも、身のまわりの世界を良くしたいと思っているはずですよね。たとえば、通信手段がさらに便利になればいいのにとか、みんなで美味しいものを食べられるようになりたいとか、仕事の環境をもっとみんなが働きやすい場にしたいとか。
それを「自分が周囲の世界を経営してもっと良くしたい」という意味で「世界経営計画」と呼んでいます。それが生きがいだと僕は思うのです。
■努力は世界のあり方にも確実に影響を与える
なぜ、「メインシステム」でなく「サブシステム」かといえば、「世界経営計画」のメインシステムは神様しか担えないからです(人間ができるのは、せいぜい世界経営計画のサブシステムを担うことです)。
世界経営計画のサブシステムを担うためには、世界を正しく理解することが前提です。
ところが、人間は、人生観や常識、自分の価値観といった「色眼鏡」で世界を見るので、周囲を正しく理解することが難しい。だからこそ、物事を「数学・ファクト・ロジック」と「タテ・ヨコ」の視点で捉えることが大切です。
その前提で、「世界経営計画のサブシステムを担う」と考えてみてください。あなたの努力はあなたの人生だけでなく、この世界のあり方にも確実に影響を与えている。
そういう意識でまわりをながめてみてください。僕たち一人ひとりが周辺の世界をもっと意識しながら行動することによって、変えていけることがまだあるのではないだろうか、と。
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出口 治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)前学長
1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業後、日本生命保険に入社。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006年退職。同年、ネットライフ企画(現・ライフネット生命)を設立し、社長に就任。2012年に上場。2018年よりAPU学長。読んだ本は1万冊超。主な著書に『生命保険入門 新版』(岩波書店)、『全世界史』(上・下、新潮文庫)、『一気読み世界史』(日経BP)、『自分の頭で考える日本の論点』(幻冬舎新書)、『教養は児童書で学べ』(光文社新書)、『人類5000年史』(I~IV、ちくま新書)、『0から学ぶ「日本史」講義』シリーズ(文春文庫)、『日本の伸びしろ』(文春新書)、『哲学と宗教全史』(ダイヤモンド社)、『復活への底力』(講談社現代新書)、『「捨てる」思考法』(毎日新聞出版)など多数。
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(立命館アジア太平洋大学(APU)前学長 出口 治明)

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