ホルムズ海峡の封鎖で、世界の主要国の中で最も大きな打撃を受けるのは日本だという分析が出ている。原油の中東依存率は95%、LNG備蓄はわずか2~4週間分。
そんな「最も脆い国」に海外メディアが注目している。トランプ支持とも、イランが悪いとも明言しない高市首相に、日本独自の生き残り戦略を見出している――。
■エネルギーの海外依存が際立つ日本
中東での対立が激化している。
英BBCは3月10日、ピート・ヘグセス米国防長官がイラン国内での攻撃が「最も激しい」一日になると警告したと報道。情勢を受け国際エネルギー機関(IEA)は、各国が備蓄する原油数百万バレルの放出など、世界石油市場の安定化策を協議している。
そんななか、ホルムズ海峡の危機を巡り、石油供給で主要国中最大の打撃を被るのは日本だとする分析が出ている。
国際的なエネルギー分析機関のゼロカーボン・アナリティクスは2月、中東情勢を受けた各国の石油の供給途絶リスクを分析した。その結果、日本のスコアは6.4と最も高く、韓国(5.3)、インド(4.9)、中国(4.4)を大きく上回った。
この調査では、米エネルギー情報局(EIA)による海峡通過量データと、エネルギー専門シンクタンク・エンバーの各国依存度データを参照。海峡を通過する石油・天然ガスの各国シェアと輸入化石燃料へのエネルギー依存度の2軸でリスクを数値化した。値が大きいほどリスクが高い。
エンバーの分析によると、日本はエネルギー消費の87%を輸入化石燃料に頼っており、主要国のなかで群を抜くという。

さらには、その調達先が中東に集中している。米金融情報サービスのブルームバーグが伝える経済産業省の統計では、日本の中東原油依存率は通常90%前後で推移し、今年1月時点では95.1%に達した。その大半がホルムズ海峡を通る。
自国で天然ガスを産出し、パイプラインと液化天然ガス受入基地の双方で調達先を分散させる中国や、国内に厚いエネルギー生産基盤をもつインドとの比較でも、エネルギーの海外依存が際立つ形となった。
■海峡封鎖、カタールのLNGも停止
きっかけは中東情勢の悪化だ。
2月28日、アメリカ・イスラエル両軍がイランへの大規模軍事攻撃を開始した。米外交専門誌のディプロマットは、この攻撃で最高指導者アリ・ハメネイ師が死亡したと報じている。
イラン革命防衛隊は報復を宣言し、世界の石油の約5分の1が通過するホルムズ海峡を航行する船舶に警告した。数十隻のタンカーが航路を変更し、日本の大手海運各社も通航の一時停止を迫られた。
3月2日、イラン革命防衛隊の上級司令官がホルムズ海峡の封鎖を正式に宣言。通過を試みたならば、あらゆる船舶を攻撃対象にすると警告した。米ビジネスニュース専門局のCNBCがイランメディアの報道として伝えている。

ホルムズ海峡はイランとオマーンの間に位置する狭い水道で、世界の石油海上貿易の大動脈にあたる。エネルギーコンサルティング会社ケプラーの集計では、2025年には日量約1300万バレルの石油が通過し、海上原油輸送全体の約31%を占めている。封鎖が長期化すれば、原油が1バレル100ドル(約1万6000円)を超えるとの見方もある。
原油に加え、天然ガスの供給網も打撃を受けた。世界有数のLNG供給国カタールでは、イランのドローン攻撃により、LNG生産・輸出の中核拠点である工業都市ラスラファンとメサイードのLNG施設で生産が停止した。
ケプラーの推計では、ペルシャ湾経由で輸送される世界のLNG輸出量は全体の約20%に達する。日本のエネルギー供給は、原油とLNGの双方で途絶リスクにさらされている。
■電気・ガソリン値上がりの懸念
もっとも、パニックに陥る必要はない。高市首相は3月2日、日本は約254日分の石油を備蓄していると国民に説明している。これはIEA(国際エネルギー機関)が加盟国に義務づける備蓄基準90日分の約3倍にあたる。
それでも、原油の高騰が続けば、日本の家計への打撃は避けられない。ディプロマットによると、3月2日の原油市場では国際指標のブレント原油が1バレル約82ドル(約1万3000円)、アメリカ産標準油種のWTIが約72ドル(約1万1000円)へ急騰し、上げ幅は4年ぶりの大きさとなった。

ブルームバーグによると、野村総合研究所のエグゼクティブ・エコノミスト、木内登英氏は、完全封鎖には至らずとも混乱が長引くと仮定した場合、GDP成長率が0.18ポイント低下し、インフレ率が0.31ポイント上昇するとの試算を示している。原油が1バレル87ドル(約1万4000円)へ上がるとの仮定だ。
ゼロカーボン・アナリティクスが各機関の見通しを整理したところ、JPモルガンは封鎖時の原油を1バレル130ドル(約2万1000円)、イラクのフアード・フセイン副首相兼外相は200~300ドル(約3万2000~4万7000円)と予測する。
イギリスのオックスフォード・エネルギー研究所は、封鎖が1年続けば日本のLNG価格が約170%急騰すると試算した。
日本国内では、2022年の高騰も記憶に新しい。ロシアのウクライナ侵攻に伴い、一般家庭の電気代は平均25.8%上昇し、ガソリンは1リットルあたり170円台後半に達した。元売り各社への補助金がなければ200円を超えていたとの指摘もある。
政界ではすでに、重要な課題との認識が広がる。自民党の鈴木俊一幹事長は3月1日のテレビ出演で、「エネルギー、原油、LNG、ホルムズ海峡がどうなるかという問題は日本経済に甚大な影響を与える。国民の日常生活にも大きな打撃となる」と述べ、党として情勢を注視する考えを強調した。ブルームバーグが伝えている。
■LNG備蓄はわずか2~4週間分
同じ危機に直面するアジアの主要国の間でも、耐久力には大きな差がある。

CNBCが複数の調査機関のデータを基に報じたところでは、中東産原油への依存度は日本が75%、韓国が約70%に上り、ともに供給元が中東に集中している。LNG在庫は日本が約440万トン、韓国が約350万トンにとどまり、安定需要を前提にすればわずか2~4週間分で底をつく計算だ。
国際決済大手コンベラのアジア太平洋担当マクロ・FX首席ストラテジスト、シア・リー・リム氏は、エネルギー輸入依存度の高い日本や韓国型の経済は、供給ショックの影響を受けやすいと指摘する。
一方、世界最大の原油輸入国である中国は事情が異なるという。
米CNBCによると、原油輸入の約40%がホルムズ海峡を経由し、LNG輸入の約30%もカタール・UAEが占めるなど、湾岸への依存は小さくない。ただし、中国国内での原油生産に加え、ロシアや中央アジアなどからパイプラインで陸上調達できるため、海上輸送が途絶えた際の耐性は高いとされる。
2月末時点のLNG在庫も760万トンと、日韓合計(約790万トン)に迫る水準にある。ケプラーの主任アナリスト片山剛氏は中国について、「実質的なリスクにさらされているが、対応の柔軟性は高い」と評価している。
一方、南アジアに目を向けると、日本よりもさらに深刻な国が存在する。片山氏はパキスタンやバングラデシュについて、貯蔵能力も調達の柔軟性も乏しいと警告する。インドについても、LNG契約の多くが原油価格に連動するため、原油価格の急騰が石油・LNG双方の輸入コストを押し上げる二重のショックに見舞われるとみる。
■原発事故後に進んだ化石燃料依存
なぜ日本はここまで脆いのか。
その答えの一端は、エネルギーミックス(電源構成)にある。
ゼロカーボン・アナリティクスは、福島原発事故(2011年)後に日本とドイツが対照的な道を歩んだと分析している。両国とも原発を停止したが、ドイツは再生可能エネルギーの急拡大で対応し、電力に占める再エネ比率を2010年の16.9%から2024年には58.8%へ引き上げた。
日本は原発停止の穴を化石燃料で埋める道を選び、電力に占める化石燃料比率は64.5%から68.8%へむしろ上昇した。再エネにも発電量が天候に左右されるなど課題は多いが、ことホルムズ海峡に関しては、化石燃料への依存が裏目に出た。
同分析が引用するブルームバーグNEF(ブルームバーグ傘下のエネルギー専門調査機関)の推計では、2010~2022年に日本が化石燃料の輸入に費やした額は累計約1兆8000億ドル(約280兆円)、GDP比3%超に相当する。言い換えれば、海外に流出した資金の量でもある。
このように、日本は島国という事情に加え、エネルギーミックスの課題を抱える。一方、次に挙げるような独自の強みもあると分析されている。
■日本が70年かけて築いた外交資産
最初の手札は、70年以上かけて築いた確固たる外交関係だ。その原点は1953年の日章丸事件にまでさかのぼる。
当時、イギリスがイランの石油国有化に反発し、国際的な禁輸運動を主導。
そんな中、石油元売り大手・出光興産のタンカー「日章丸」がペルシャ湾に向かい、イラン産原油を買い付けた。
こうして中東との独自の対話ルートを切り開き、その後の強力な日本・イラン関係の礎となった。
時代は下り、約70年かけて築かれた対話チャンネルに危機が訪れたことがある。2018年5月、アメリカがイラン核合意から離脱し同年秋に制裁を再発動すると、両国の対立が先鋭化した。
制裁のさなか、イランのロウハーニー大統領(当時)は日本に対し、原油を継続して購入するよう持ちかけた。米ビジネス誌のフォーチュンは、アメリカの同盟国である日本としては板挟みの状況だったと指摘。結果としては、一貫して制裁を遵守した。
だが、それと同時に、安倍晋三首相(当時)は2019年6月、日本の首脳として41年ぶりにテヘランを訪問している。こうして、アメリカとの同盟を守りながら、イランとの対話も絶やさない外交スタイルを鮮明にアピールした。
この姿勢は現政権にも引き継がれている。高市首相は2026年3月の衆院予算委員会で、「イランの核兵器開発は断じて容認できない」と明言しつつも、アメリカとイスラエルが進める軍事作戦への明確な賛否は避け、外交ルートでの解決を求めるにとどめた。
ディプロマットは日本の特異な立場に注目する。アメリカにとってアジアで最も緊密な条約同盟国でありながら、イランとも歴史的に友好関係を保ってきた特殊な立ち位置の国だ。
3月19日に控えるトランプ大統領との首脳会談を前に、同盟国としての結束を損なわずに対話の回路も残す、慎重な判断だったと同誌は分析している。
■法制面では「存立危機事態」条項の備え
外交に加えて、法制面での備えもある。対中関係で話題となった「存立危機事態」条項が、中東情勢でも活用できるとする見方だ。
2015年の安保法制審議で、安倍首相(当時)は、ホルムズ海峡の機雷封鎖を国会で取り上げた。密接な関係にある他国への武力攻撃で日本の存立が根底から脅かされる「存立危機事態」にあたるとし、日本が直接攻撃されていなくても集団的自衛権を行使できる具体例であると示した。
日本国憲法は国外での武力行使を原則として禁じているが、ホルムズ海峡での機雷掃海は、この地理的制限の下で政府が唯一認めた例外だと、米安全保障法政策メディアのローフェアは指摘する。船舶の安全航行を確保するための「必要最小限度の実力行使」に該当するとの解釈だ。
もっとも、3月に現実となった封鎖は、この想定とは異なる形をとった。米公共放送NPRは、イランが機雷や対艦ミサイルではなくドローンを選択的に投入し、海峡付近で数隻のタンカーを攻撃したことで、保険会社が引き受けを停止。これを受けた海運会社が航行を見合わせる「保険主導の封鎖」が成立したと指摘する。
機雷が敷設されていない以上、掃海を根拠とする法的枠組みは発動の前提を欠くおそれがある。法的な備えは確実に存在する一方で、現実的にはドローンを根拠とした集団的自衛権の行使に至るかは不透明だ。
■脱中東依存が求められる
このように、外交、備蓄、法整備と、日本が半世紀以上かけて積み上げてきた多層の備えにより、石油の供給が途絶えるリスクはある程度緩和される可能性がある。
だが、ブルームバーグが指摘するように、資源に乏しく中東依存度が突出して高い日本にとって、エネルギー価格が上昇すれば、他の主要国以上に重い経済負担となる。今後もホルムズ海峡への依存から脱却するのは容易ではない。
将来のリスクを見据えるならば、エネルギー転換も視野に入れる必要があるだろう。すでに地政学的リスクを契機に転換に成功した例もある。欧州では2022年のロシアのウクライナ侵攻を契機に再生可能エネルギーへの転換と省エネ化が加速し、域内の天然ガス輸入量は2021年から2025年にかけて13%減った。
日本国内の主な選択肢としては一般に、原発の再稼働か再エネ促進かに集約される。いずれの手段を講じるにせよ、中東依存のリスクが続く現状よりも優れた選択となり得るだろう。

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青葉 やまと(あおば・やまと)

フリーライター・翻訳者

1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)
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