※本稿は、榎本博明『【新装版】かかわると面倒くさい人』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。
■独りよがりの正義感を振りかざす人
ネット時代になって目立つのが、独りよがりの正義感を振りかざす行為だ。
自分なりの正義感からみて、落ち度があると思われる出来事があると、「許せない!」といった感じで攻撃する。
たとえば、消防団員が消防車を店の駐車場に止め、制服のまま食事しているのを見つけると、
「勤務中に食事をするのはけしからん」
「消防車を私用に使うのは許されないことだ」
「これは市民の税金の無駄遣いだ」
などと非難する。
お米のイメージガール募集のチラシに、「色白でスタイルの良い方募集」といった表現を見つけると、
「女は色白でないといけないのか、差別だ」
「色白でない女性を見下している」
などと批判する。
うどんを食べる習慣を広めるために販売する予定だった「うどんかるた」の中に、「強いコシ 色白太目 まるで妻」という句を見つけると、
「妻をバカにしている」
としてクレームをつける。
どれも実際にあったクレームだ。いずれも自分なりの正義感に駆られた行動なのだろうが、あまりに一方的で、相手の立場に対する想像力が欠けている。
忙しい勤務の合間に制服を着替える暇もなく食事をとっていることに対する理解があってもよいだろう。米だから色白を求めただけで、べつに女性は色白でないといけないなどと言っていないし、別の商品だったら小麦色の肌をした女性を募集したかもしれない。ユーモア精神で妻を引き合いに出したことに対して、「やあね」と笑う妻はたくさんいても、これで傷つく妻がどれほどいるだろうか。
■口癖は「絶対」「あり得ない」
この種のクレームに多くの団体は非常に神経質になっているが、こうしたタイプが社内にいると、ほんとうに厄介なことになる。
会議でどんな提案が出ても、独りよがりの正義感を発揮し、
「こういうクレームが予想されますし、ここは慎重になった方がいいんじゃないでしょうか」
などと言い出す。そうなるとだれも強く反論しにくい。だが、これではアイデアの芽がつぎつぎに潰されてしまう。
このような独りよがりの正義感を振りかざすタイプの口癖に、「絶対」とか「あり得ない」といった言い回しがある。人の意見を聞いて、自分の考えと違うと思うと、
「それは絶対に違います」
「それは絶対におかしいです」
「そんなのあり得ません」
などと反論する。自分の視点を絶対視し、相手の考えを全否定するのだ。
ふつうは、自分と違う意見が出ると、
「それはちょっと違うんじゃないかな」
と思っても、
「そんな見方もあるんだな」
と、相手の視点にも想像力を働かせようとする。
だが、このタイプは、自分の視点から抜け出すことができないため、相手の視点に立った場合にどのように見えているかを想像することができないのである。それぞれに理屈があるといった視点に立てず、相手が間違っていると一方的に決めつける。
このタイプと議論になると、まったく聴く耳をもたないため、議論が噛み合わない。相手の理屈を理解しようといった姿勢がないため、意見が違うと、「絶対におかしい」「あり得ない」ということになり、ときに「許せない」と非常に攻撃的になることもある。
■「自分が絶対に正しい」と思い込む
このタイプの心の中には、「自分は正義の味方だ」といった自己陶酔があったりする。
ソーシャル・ジャスティス・ウォリアー(SJW)という言葉があるが、これは元々は進歩的な観点に立って社会を改革しようとして発言したり、運動を推進したりする人を指すものだった。だが、今では、異物を排除しようとするような保守的な人を指したりもする。
いずれにしてもSJWの特徴は、社会や組織を良くしたいといった自分なりの正義感に基づいて、自分と価値観の合わない人物や組織、制度などを徹底的に攻撃するところにある。
本人は自分が絶対に正しいと思い込んでおり、正義の味方を気取っているが、冷静な第三者からしたら、偏見に凝り固まっているようにしか見えなかったりする。
あまりに強硬かつ攻撃的で、違う意見に対してまったく聞く耳をもたず、冷静さを失っているようにしか見えないからだ。
■おかしいと思うと黙っていられない
ちょっとでも「おかしい!」と思うことがあると黙っていられない。
「あの人のやり方はおかしい」
「あの制度はおかしい」
「この組織はおかしい」
などと糾弾が始まる。周囲の人たちは、その勢いに退き気味で、
「それはちょっと極端じゃないかな」
「そんなに目くじら立てるほどのことでもないんじゃないの」
などと取りなそうとするが、本人は自分の言い分こそが絶対に正しいと信じ込み、
「なんでみんなわからないんだ!」
「そんな事なかれ主義でいいのか!」
といきり立っている。それを見て、周囲の人たちは、
「そこまでムキになるほどのことじゃないだろうに」
「そんなに事を荒立てる必要はないのに」
と呆れるわけだが、本人は事なかれ主義で見過ごすのは間違っていると思っており、みんなが言いにくいこともはっきり主張する必要があると、使命感すら感じている。
■ヒーロー気取りの背景に劣等感がある
おかしいことがあっても見て見ぬフリをする保身的な人が多いなかで、言うべきことをきちんと主張する自分は正義の味方であり「正義のヒーロー」なのだといった意識さえ抱いている。
そこに潜んでいるのがメサイア・コンプレックスだ。
本人は正義感で動いているつもりなのだが、心の深層には劣等感と歪んだ優越感が複雑に絡み合い、うごめいている。だから極端になってしまうのだ。
自分が仕事で有能さを発揮していなかったり、周囲に溶け込めずに不適応感をもっていたりして、劣等感を無意識のうちに抱えており、それを振り払おうとするかのように、正義のヒーロー気取りで、標的とする人物や組織、制度を叩こうとするのである。落ち度のある標的を叩くことで、自分の価値を高めることができる。
無意識の衝動に突き動かされており、冷静な心の動きでないため、建設的な議論にならないのだ。ゆえに、いくら諭しても人の意見に耳を傾けようとせずに、自分勝手な理屈を振りかざすだけ。ほんとうに厄介な存在なのである。
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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。
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(心理学博士 榎本 博明)

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