曖昧な指示の本来の意図を読み解くにはどうすればいいか。500以上の企業や官公庁に組織変革支援を行ってきた沢渡あまねさんは「ふわっとした依頼の不明点を明確にするには、『仕事の5つの要素』に沿って問いを立てるといい」という――。

※本稿は、沢渡あまね『任され型』(三笠書房)の一部を再編集したものです。
■ある日突然、新商品開発の依頼を受けたら……
あなたは、埼玉県所沢市にお店を構えるパン屋さんの店長です。
今日は9月1日。オーナーから次のメッセージをチャットで受け取りました。
「親子で楽しく食べられるパンを開発してください! 10月30日の地域のお祭りに間に合わせたいです。よろしくお願いします」
さて、あなたはこの依頼(オーダー)に対してどのように仕事を進めますか?
ある日突然、オーナーから新商品開発の依頼を受けたあなた。
このとき、もしあなたが何も問いを立てず、オーナーと対話もせず、あなたやあなたに近い周りの人たちの想像だけで「親子で楽しく食べられるパンを開発」しようとしたらどうなるか? まずは、起こりがちな残念なケースを見てみましょう。
お祭りまであと10日となったある日、あなたはオーナーを呼んで成果を報告します。
オーナー「わあ、親子で楽しく食べられるパン、できたのね」
あなた「はい、とても苦労しました。これが、そのパンです」
オーナー「んんん? 何やら不思議な形をしているけれども……それに、なんでこんなに真っ黒なの?」
あなた「はい。生地にイカスミを混ぜることでミステリアスな雰囲気を押し出してみました! ハロウィンも近いですし」
オーナー「あ、そっちの楽しさを追求したのね? まあ、いいわ。とにかく、食べてみますね……って、うっ……何これ、めっちゃ辛い、ケホ、ケホ!」
あなた「あ、オーナーそれ『アタリ』です。
10個に1個、激辛カレールーを入れてみました。ロシアンルーレットのようなワクワクがあって、楽しめるかと思いまして!」
オーナー「ええっ、そうなの? それにしても辛すぎるでしょ……」
水をガブガブ飲み終え、落ち着きを取り戻したオーナーはあなたにこう伝えました。
オーナー「申し訳ないけれども、やり直して。私が期待した「親子で楽しめるパン」はこれじゃない……。辛いのが苦手な親子や、スリルを求めていない親子にとっては楽しくないし、お店の評判が悪くなりそう……」
そもそも「楽しい」のイメージが、オーナーとあなたとで違っていたようです。
■「ふわっ」とした指示の適切な受け取り方
「親子で楽しく食べられるパンを開発してください! 10月30日の地域のお祭りに間に合わせたいです。よろしくお願いします」
なんとも「ふわっ」としたメッセージ。そして、このひと言だけでは、受け取ったあなたもおそらく「モヤッ」とすることでしょう。
気にすることはありません。このような「ふわっ」としたオーダー(依頼)から始まる仕事など日常茶飯事、世の常ですし、受け取った人が「モヤッ」とするのもあたりまえ。この、「ふわっ」「モヤッ」を「スッキリ」に変えていくために、「目的」「インプット」「成果物」「関係者」「効率」という「仕事の5つの要素」があります。
まずは、この「仕事の5つの要素」に沿って、あなたなりに不明点を明確にしていくための「問い」を立ててみます。
今回の依頼内容に対する「問い」と想定の一例を挙げてみますので、一緒に考えてみてください。
問いと想定
●1 目的→新商品開発の背景や狙いは?
  • ・何のために新しいパンを開発するのか?

    ・地域のお祭りで売る狙いは?

    ・親子向けとしている目的は?

    ・「楽しく食べられる」の狙いやイメージは? 「楽しい」とはどのような状態を指すのか?
新商品開発の目的を「地域のお祭りを盛り上げること」と考えたとします。そのとき、とにかくお祭り期間だけの売り上げ増を目指すのか、それとも、お祭りはあくまできっかけにすぎず、その後も新たなラインナップとして売り続けたいのかによって、開発すべき商品は変わってくるかもしれません。
また、「親子向け」としている背景についても考えておく必要があるでしょう。単に新しい客層を取り入れたいこともあれば、その客層が訪れる特定の曜日や時間帯を狙っていることもあるかもしれません。
さらに、「楽しく食べられる」のイメージも、人によって千差万別です。激辛の風味でゲーム的に盛り上がることをイメージする人もいれば、キャラクターパンのビジュアルを楽しむことだと思う人、さらには、一緒に作るプロセスも含めて楽しむことだと考える人もいるかもしれません。
■集めて知っておくべき情報の種類
●2 インプット→必要なデータ・食材の仕入れ先を明らかにする
  • ・原材料には何を使うか?

    ・地域の親子のライフスタイルや行動パターンの特性を知るための情報や情報源(ソース)はどこにありそうか?

    ・今どきの親子のトレンドは? 何(キャラクターなど)が流行っていて、何がウケそうか? それを知るための情報源はどこにありそうか?

    ・価格設定や売り方を検討するための判断基準やデータは? 決めるための参考情報や知識はどこにありそうか?

    ・パンを安全安心に提供するために知っておくべき情報は?
親子にいい店舗体験をしてもらうために、スタッフに施したい人材育成要件は?子どもが対象ということで、「健康にいいパン」を目指すのであれば、無農薬栽培の小麦や食材を仕入れることが考えられます。
また、地域(今回の場合は所沢市の店舗近隣)に住む人の特性、たとえば高くてもいいものを好むか、なるべく安いものを好むのかなども考えます。今のトレンドなども知っておいたほうがいいでしょう。
安全安心な提供という面では、食物アレルギーの品目リストやガイドラインのチェックが考えられます。接客スタッフの育成については、マニュアルを整備するのか、接遇研修を受ける体制を整えるのかなど、考えておく必要があるかもしれません。

■「目に見えない」物事をどこまで想像できるか
●3 成果物→どのような状態に仕上げることを求められているのか
  • ・「開発した」とはどのような最終状態を指すのか?

    ・具体的な商品の完成物イメージや名称は?

    ・価格や販売数量などは?

    ・「親子でパン作り教室」のような、体験の提供を成果物とするのか?

    ・関係者がどのような状態になっていれば成功といえるのか?
今回の場合の「開発」とは、試作品を作ればいいのか? それとも、具体的な商品の完成物イメージや、「激辛カレーパン」「キャラクターメロンパン」などの名称まで決定し、量産して販売するまでの状態をイメージすればいいのか? など、その完了状態を確認しておきたいものです。
また、「成果物」は具体物だけではなく、携わった人たちの状態の変化も含みます。今回であれば、親子に笑顔のコミュニケーションが生まれることなのか、お店として地域の親子の嗜好や行動特性のナレッジ(知識)が増えることなのか、など、広い範囲に及びます。
●4 関係者→ターゲットの細かな設定やその周辺環境のイメージ
  • ・「親子」とあるが、対象となる層や行動特性など、細かく設定しなくていいか?

    ・親子以外の人たちは想定しなくてもいいか?

    ・顧客(親子)に価値を提供しうる、顧客以外の関係者はいないか?

    ・インプットを提供してくれる人や組織や情報源は?

    ・どのような巻き込みや関係構築をしておいたらいいか?

    ・そのほか、相談しておいたほうがいい人・組織などは?
ひと口に「親子」といっても、子どもの年齢も幅広く、未就学児なのか、小学校低学年くらいの児童なのかで、開発する商品の内容も変わってくるかもしれません。
また、地域メディアのライター、販売代理店、流通を担う企業など、顧客以外にも関わることになる人はたくさんいそうです。原材料メーカー、生産者、食物アレルギーの専門家がいたり、地域の商工会議所や商店会、情報メディア、書籍など、さらに幅広い人々を巻き込んでいく必要があるのかもしれません。
■限られた力で最大を生む生産体制
●5 効率(または進め方)→生産目標やスケジュール
  • ・構想決定、試作完了、プロモーション開始、量産開始など各タスクの目標期限は?

    ・内製するか? 外注も視野に入れていいか/入れるべきか?

    ・製造(生産)する際の目標所要時間や目標数量、歩留まりは?

    ・製造にかかった、実際の所要時間や数量、歩留まりは?

    ・親子の顧客がどれだけ増えたかをどのように計るか?
生産にあたっては、たとえば「スタッフ2名体制で1日あたり100個生産する」といった、具体的な時間、人、数量の数をもとに目標数を決めておきましょう。
また、効果検証の手立ても考えておくことで、今後のための改善を図ることができます。今回であれば、親子の顧客がどれだけ増えたかを調べるために、店舗の入り口にセンサーを設置してITシステムで自動判定する、スタッフの目視でなんとなく傾向を把握する、などの方法が考えられます。
■まず実際に試してみて、あとから測定する目線も
いかがでしょうか? 「仕事の5つの要素」に沿い、問いや想定を言葉にしていくだけでも、その後のアクションや、依頼相手とのコミュニケーションの中身が確実に前向きに進化し、建設的な対話や議論ができるようになります。
ここでひとつ強調しておきたいのが、何がなんでも5つの要素すべてを埋める必要はないという点です。
たとえば、効率などは事前に目標を設定するよりは、まず実際に試してみて、あとから測定する、あるいはあとから課題を言語化して議論するほうがいいケースも多々あります。
今までに取り組んだことのない、未知(新規)のテーマの仕事であればなおのことです。
5つの要素に沿って問いや想定を洗い出すことばかりに気をとられ、先に進まないのでは本末転倒。これは、真面目な人たちほど陥りやすい罠です。
(5つの要素の)わかっているところから埋める。わからないところはわからないと言い、相手と一緒に考える。わからないなりに進めてみて、あとで振り返って補う。これらの所作も大切にしてください。
完璧主義を手放す。その発想をお忘れなく!

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沢渡 あまね(さわたり・あまね)

作家/ワークスタイル&組織開発専門家

1975年生まれ。あまねキャリア株式会社CEO/株式会社NOKIOO顧問/浜松ワークスタイルLab所長/国内大手企業人事部門顧問ほか。「組織変革Lab」主宰、DX白書2023有識者委員など。日産自動車、NTTデータなどを経て現職。
400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。『問題地図』シリーズ(技術評論社)をはじめ、『新時代を生き抜く越境思考』(同社)、『職場の科学』(文藝春秋)、『チームの生産性をあげる。』(ダイヤモンド社)、『仕事は職場が9割 働くことがラクになる20のヒント』(扶桑社)など著書多数。

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(作家/ワークスタイル&組織開発専門家 沢渡 あまね)
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