首都圏の中学受験が盛り上がっている。受験・学歴研究家の伊藤滉一郎さんは「背景には、親世代の価値観の変化と環境を買うという新しい教育観が存在する」という――。
(第5回)
※本稿は、伊藤滉一郎『子どもが沈まない 親が無理しない 小中高大受験戦略』(日本経済新聞出版)の一部を再編集したものです。
■首都圏の中学受験「異常な高止まり」の正体
近年、首都圏の中学受験市場はかつてない盛り上がりを見せています。前回の中学受験の盛り上がりは、今から約20年前の2007~2008年ごろでしたが、その直後に発生したリーマンショックによる景気の冷え込みで、一気に参入者が減ってしまいます。そこから7年ほどは受験率の低迷が続いていたのですが、アベノミクス効果で景気が回復したおかげか、2015年ごろから再び上昇に転じます。
そして2020年代に入り、20年前のピークを上回る過去最高の受験率を更新するようになりました。中学受験塾大手・日能研の集計によると、2024年度首都圏の中学受験者数は対前年度比900人減の6万5600人と9年ぶりに減少した一方で、受験率は22.7%と、過去最高を記録した2023年度入試をさらに0.1ポイント上回りました(※)。
特に、東京23区に限っては受験率が30%を超えていて、小学生の約3人に1人が中学受験をしている計算になります。
※都圏の公立中高一貫校の志願者が大きく減っている4つの「理由」とは?【2024年中学入試を読み解く】(AERA with Kids Plus
■3人に2人が第1志望に届かない残酷なリアル
子ども1人当たりの平均受験校数は6~7校程度、そして多くの私立中学の入試倍率は3倍程度と、なかなか厳しい競争が展開されています。全受験生のうち3人に2人が第1志望に合格できないというショッキングなデータもあります。
近年の入試では、御三家や早慶付属などの最難関校の出題が難しいのは相変わらずでしたが、中堅校や、かつては「出願すればほぼ受かる」と言われたような学校のいくつかも、非常に難度が上がってきている点が特徴的です。
そして、御三家を狙うようなトップレベルの学力を持つ子が中堅校を受験するという、一昔前にはあまり見られなかった現象も発生しています。名門中学の人気は揺るがないものの、そこそこの進学実績を誇る中堅校や、独自のカリキュラムを提供する特色校にも人気が集まっているようです。

日本全体で見ると、私立中学に通っている中学生は全体の約8%と圧倒的少数派ですが、東京の一部地域ではそんな日本のリアルが信じられないほど、中学受験の割合が高まってきています。
■SAPIXに入塾待ち100人という話も
特に受験熱が高い港区や文京区、中央区などではクラスの半数以上が中学受験に挑み、全体の約4割が私立中学に進学するという小学校も珍しくありません。こうした受験熱の高まりは首都圏に限った話ではなく、関西や中部地方でも受験者数増加の兆しがあります。このブームは今後全国に波及していく可能性も十分考えられるでしょう。
大手中学受験塾・四谷大塚の公表では、小学生や幼稚園児・保育園児が対象の「全国統一小学生テスト」の受験者数は今も増加傾向にあります。特に小学校低学年生が多く受験していることから、今後も中学受験者は増えると予想されます。
国内の少子化は激しく進行していますが、「東京都」に限ってみると、近隣県からのファミリー層の流入も多いことから、少子化の進行速度は緩やかです。都心の中学受験熱も、これから10年程度は続いてもおかしくないでしょう。
大手中学受験塾・SAPIXでは入塾者の低年齢化が進み、低学年のクラスが満員となっている校舎もあるようです。最近では落ち着いてきましたが、2021年には港区にあるSAPIX白金高輪校が定員オーバーとなり、100人以上の入塾待ちが発生したという話もありました(※)。
※小6/サピックス:サピックス校舎満杯問題が予想通りに(戦記
■「小4」からの中学受験はもう遅いのか
一昔前は小4からの入塾が一般的でしたが、近年は「席が確保できなくなる」という懸念から早期の入塾者が増加しているとのことです。SAPIX小学部のホームページ内にある「募集停止の校舎一覧」というページで校舎ごとの空き状況が確認できるので、不安な親御さんは確認しておくとよいと思います。

ただ、塾側としては小4あたりから入塾してくる優秀な生徒用の席を残しておきたいので、低学年の段階で早期に募集を締め切るという事情もあるようです。中学受験率増加の要因としては、都市部の児童数の増加、1990年ごろの中学受験ブームを経験した世代が親世代になっていること、1世帯当たりの子どもの数が減って教育費が1人に集中投下されるようになったことなどが挙げられるでしょう。
高校受験や大学受験では、塾に通わずに学校の勉強と自宅学習のみで難関校に合格するということもたびたび起こるのですが、こと中学受験においては、塾に頼らずに合格するというのはほぼあり得ないと言えます。勉強するのは小学生です。大人のサポートや周囲の環境(意識の高い友人)なくしては、自発的に勉強などしないでしょう。
■中学受験の鍵となる「学習塾の選び方」
そんな中学受験の鍵となる学習塾ですが、その色は様々です。まず、「都心の中学受験塾といえば」で最もイメージされることが多いのはSAPIXかと思いますが、こちらは「復習主義」を採用していることで有名です。テキストはプリントとして毎回の授業で配られるので、そもそも、予習しておくことはできません。
そのため、授業で配布されたプリントを使って、家庭内で復習をすることになりますが、薄い復習プリントも回数を重ねると膨大な量になり、ファイリングやスキャンなどの管理を親がしなければなりません。親とお子さんの二人三脚で取り組まなければ、SAPIX生として授業に耐えることはできないとすら言われています。
一方、四谷大塚や早稲田アカデミー(早稲アカ)は、中学受験業界としては1980年代から「予習主義」を掲げていました。早稲アカでは学期の初めに、製本されたテキスト(その名も「予習シリーズ」。
早稲アカでも同じテキストを使っている)が配布されます。自宅で予習をしてから授業に参加することが基本スタイルです。
■大手4大塾の内情と家庭への負荷
なお早稲アカでは予習シリーズに加えて独自のテキストも採用していて、近年は予習よりも復習を重視しています。親が最も負担を強いられるのは、やはりSAPIXでしょう。復習プリントをファイリングする負担は大きく、親御さんの事務処理能力が問われます。
一方、早稲アカは「全部塾に任せてください」というスタンスなので、テキストやプリント整理の負担はSAPIXに比べ少ないと言われています。日能研も宿題は少なめで、テスト中心のカリキュラムであるため、そこまで親の負担はかからないようです。
ただし、四谷大塚・早稲アカ・日能研は授業時間が長いため、お弁当を用意する必要があります(外部の配食サービス会社と連携しお弁当を提供してくれる塾もあります)。SAPIXは生徒の集中力を切らさないために、休み時間がなく、ぶっつづけで授業を進めますので、基本的にお弁当は必要ありません(※)。
※『中学受験の“不都合な真実”』(戦記[著]、みんかぶマガジン[編集])
このように大手塾でも内情は様々ですので、各ご家庭に合った塾選びをしていただけたらと思います。

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伊藤 滉一郎(いとう・こういちろう)

受験・学歴研究家、じゅそうけん代表

1996年愛知県生まれ。早稲田大学社会科学部卒業後、メガバンクに就職。
2022年じゅそうけん合同会社を立ち上げ、教育機関向けの広報支援サービスを展開する。高学歴1000人以上への受験に関するインタビューや独自のリサーチで得た情報を、XやYouTube、Webメディアなどで発信している。著書に『中学受験 子どもの人生を本気で考えた受験校選び戦略』(KADOKAWA)、『中学受験はやめなさい 高校受験のすすめ』(実業之日本社)がある。

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(受験・学歴研究家、じゅそうけん代表 伊藤 滉一郎)
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