「AIっぽい」「流暢なのに話が入ってこない」。東大出身の一流企業の営業マンは自分の話し方に対する評価が低いことに悩んでいる。
アナウンサーで気象予報士の佐藤圭一さんが、かつての就活や仕事の失敗経験の中で培った「きちんと相手に伝わる話し方のコツ」とは――。
■上手なのに“感じの悪い”話し方
「嘘くさい」「なんか薄っぺらい」「感じが悪い」
企業の話し方研修で講師をするとき、私はスラスラと流暢に話すビジネスパーソンの動画を見せて、こう聞いてみる。「この人から商品を買いたいですか?」。すると参加者から返ってくるのが、冒頭の言葉だ。
「うまく話せているのに、なぜ?」と思うかもしれない。実はそこに罠がある。私自身もまさに「うまくしゃべろうとするほど伝わらない」罠にはまっていた時代があった。
■100社落ち続けた私が、やっと気づいたこと
私はアナウンサーを目指し、全国100社以上の放送局を受け続けた。最終選考まで残ったことも、序盤であっさり落とされたこともある。その中で、不思議な法則に気がついた。
カメラテストや面接で「うまくしゃべれた」と感じた日は、たいてい落ちている。一方で「少し噛んでしまった、情けない」と落ち込んだ日に限って、通過している。

そのことを当時のアナウンス学校の恩師であるベテランアナウンサーに相談した。返ってきた言葉は、意外なものだった。
「自分が『うまくしゃべれた』と満足している時は、たいてい独りよがりになっていて、相手には何も伝わっていないことが多い。少し拙くても、必死に『伝えよう』としている姿の方が、結果的に相手に思いが届き、好感をもたれるんだよ」
そして、こう続けた。
「アナウンサーの技術とは、自分が『うまくしゃべる』ためのものじゃない。相手に『伝える』ためのものだ」
この言葉で私の「ノーミスでうまくしゃべるべき」という価値観ががらりと変わった。
「うまくしゃべること」と「伝わること」は、全く別のことだったのだ。これはビジネスの喋りにも、そのまま当てはまる。「うまく喋ろう」という努力が、気づかないうちに間違った方向へ向かってしまっている人は少なくない。では、どうすればいいか。
まずは自己流の話し方で陥りやすい「2つの罠」を知ることが大切だ。
■罠① 助詞が上がると子供の作文朗読
声に出して次のフレーズを読んでみてほしい。

「私は↑御社の↑課題を↑解決します↑」
「は」「の」「を」「に」といったすべての助詞を上げるように読んだとき、どう聞こえるか。そう、小学生が国語の授業で作文を発表している、あの喋りだ。
プレゼンで緊張したときや暗記した原稿をそのまま喋ろうとするとき、無意識に助詞をすべて上げてしまう人が多い。聞き手はそれを敏感に察知し
「あ、用意した文章を読んでいるだけだ」「台本丸暗記だな」
と感じて一気に冷めてしまう。
解決策は、シンプルだ。助詞の音程を、グッと下げる。
「私は↓」「御社の↓」「課題を↓」「解決します↓」
全ての助詞を下げる必要はないが、意識するだけで一気に自然で落ち着いた喋りに聞こえるはずだ。また、助詞に加えて語尾も下げるとさらに大人の喋りに近づく。アナウンサーが自然に聞こえる理由の、かなりの部分がここにある。原稿を暗記して臨むこと自体は悪くない。ただ本番では、「助詞と語尾」を意識して下げてみてほしい。聞き手の受け取り方が、ずいぶん変わるはずだ。

■罠② 流暢なのに「鼻につく」原因
流暢なのに、なぜか中身が入ってこない。むしろ、鼻につく。そういう印象を与えてしまう人には、共通の癖がある。文字の羅列を追いながら、なんとなく「上手い人のリズム」を真似しているのだ。「何を伝えるか」が抜け落ちた喋りは、どれだけ流暢でも独りよがりになってしまう。大切なのは、情報を絞ること。そして、絞った言葉を強調して読むことだ。
たとえば次のニュース原稿を読んでみてほしい。
「東京株式市場で日経平均株価が続伸し、終値は前日より500円高い5万8700円となり、史上最高値を更新しました」
これをただ、アナウンサー風に読んでも何が重要なのか伝わらない。
そこで必要な作業は情報を絞るということだ。この文章であれば「日経平均」と「史上最高値」の2語で内容はだいたいわかるだろう。その2語だけに○をつけ、高く、あるいはゆっくり読む。
残りは、抑揚を控えめにして流す。これが伝わるメリハリだ。
より深くメリハリを学びたい人には落語をお勧めする。落語の音やリズムの抑揚にはすべて意味がある。実は、落語を学んで一流の喋り手として活躍している人は多い。とあるテレビ番組で、俳優の大泉洋さんや予備校講師の林修さんが対談し、お二人とも喋りの原点には落語があると話していた。
伝えたい言葉を選択し、どうしゃべるか意識する。そのメリハリが、話を「心に刺さるもの」に変えてくれるのだ。
■優秀な人ほど陥る「流暢さの罠」
「うまく話そう」とするあまり、肝心の「伝えること」を見失ってしまう。この罠は、真面目で優秀な人ほど陥りやすい。
以前、とある東大出身の一流企業の営業マンから相談を受けた。彼は完璧によどみなく話しているのに、聞き手から「AIっぽい」「話が入ってこない」と言われてしまうという。
「なぜ、自分より不器用に見える同僚のほうが、心に響くプレゼンができるのか」と悩んでいた。
そこで私は、彼にこうアドバイスした。
「15分のプレゼンの中で、本当に伝えたい言葉を『3つ』だけ選んでください。そして、その3つの言葉をどう話すかだけを考えて本番に臨んでみてください」
後日、プレゼンを終えた彼から報告があった。
「今までで一番の手応えだった。自分はこれまで『何も伝えようとしていなかった』ことに気づいた」と話してくれた。彼は見事に、伝えるためのコツを掴んだのだ。
■劇団四季の「母音法」で大変身
「助詞が上がる」「文字の羅列を追う」といった2つの罠を避けた上で、簡単にできて即効性のある話し方の技術をお伝えしたい。
私は学生時代、滑舌が悪かった。地道な発声練習で少しずつ改善してきたのだが、ビジネスパーソンに「毎日練習してください」というわけにはいかない。
そこでおすすめしている練習法が「母音法」だ。
この母音法は、劇団四季がセリフの練習で行っていることでも有名で、私自身、学生時代にアナウンサーの師匠から教わり、一気に上達した感覚をつかんだ。
日本語の音は、母音(あいうえお)に支えられている。この母音を意識して発声するだけで、一音一音の輪郭がくっきりし、声に張りが生まれる。
たとえば「こんにちは、本日はよろしくお願いします」という一文。この母音だけを取り出すと
「オ・ン・イ・イ・ア、オ・ン・イ・ウ・ア、オ・オ・イ・ウ・オ・エ・ア・イ・イ・ア・ウ」
となる。まずはこの母音だけで発声する。知らない人が聞いたら、何をふざけているんだろう、という意味不明な文字列の発声練習だ。
次に、その母音を意識しながら、元の言葉を発音する。それだけで、発声がずいぶん変わり言葉が聞き取りやすくなる。さらに、母音を意識することで一文字一文字を大切に話すようになり、緊張で早口になってしまうことを防ぐといった効果もある。私の経験を踏まえれば、この母音練習により、プレゼンやスピーチの評価が10倍になるといっても過言ではない。
最初の一文だけでいい。プレゼンの冒頭だけ、これを練習してから喋りだしてみてほしい。するとその後の喋りも、自然と引き締まってくるのだ。
■うまく話そうとしなくていい
きっと多くの人が、プライベートでは自然に人を惹きつける話し方をしているはずだ。好きなものや自分に起きた出来事を話すとき、その感情がのった言葉は、相手にちゃんと届いている。
ところが、ビジネスの場になった途端に喋りが変わる。緊張や「うまくやらなければ」という意識が、本来持っている伝える力を押しつぶしてしまうのだ。そんな場面でこそ「何を、どう伝えるか」を意識してみてほしい。
うまく話そうとしなくていい。
少し意識が変わるだけで「人の心を動かす」伝え方ができるはずだ。

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佐藤 圭一(さとう・けいいち)

気象キャスター、リポーター

長野県岡谷市出身。学生時代、アナウンサーを志すも100社以上から不採用通知を受け取る。それでも粘り強く挑戦を続け、ローカル局でキャリアをスタート。その後、文化放送の報道記者・リポーターとして国会や首相官邸、災害現場など幅広い取材を経験。現在は気象予報士としての資格を生かし全国ネットのテレビ局やラジオ局で気象キャスターとして活動している。

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(気象キャスター、リポーター 佐藤 圭一)
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