政治を動かすのは国会議員だけではない。「ロビイスト」たちは、企業や団体を代表し、政治家や官僚に働きかけることで政策決定に影響を与えている。
その実態とは。2025年の国会議員面会数160回超というロビイストの山本雄史さんの著作『ロビー活動とは何か』(平凡社新書)より、一部を紹介する――。(第1回)
※記載事項は2025年12月時点のものです。
■国会議員を“口説く”ための事前準備
国会議員に会う時には、入念な準備が必要だ。まず、その議員がどういう経歴で現在に至っているのかを徹底的に調べるべきだ。当選回数、選挙区、自民党ならば、かつて派閥に所属していたのかどうか(現在も麻生派は存続)、立憲民主党ならどのグループなのか、という具合に手当たり次第に詳細に把握する。国会議員要覧だけでは足りないので、各種の検索やAIも試し、有料記事なども時には利用する。
その後、その議員が若手であれば、誰が「上司」格にあたるのか、師匠にあたるのか、ボスにあたるのかを調べる。政界は誰かの導き、誘いで入るケースが圧倒的に多い。必ず、誰かしら仕える先輩がいる。
次に普段、誰と一緒に仕事をしているのかを確認する。実はこれは結構簡単で、SNSの投稿で確認できる。
SNSの写真に一緒に写っている議員の顔をみておけばいいのだ。SNSを更新しない議員もたまにいるが、今時SNSをまったくやっていない議員はごく少数である。これまでの仕事や実績も、ホームページで細かくチェックする。過去に大きな実績があれば、その話題を切り出せるように理解しておく。
■挨拶代わりの話題の選び方
一連の下調べは、誰でもできるものであるし、民間企業であれば日常的に行われている事前準備だろう。国会議員の場合、幸いにして略歴やプロフィールが公式に明らかになっているので、すぐにでも着手できる。意思さえあれば、可能な作業だ。
2025年12月上旬、筆者は数人の若い経営者と一緒に某省の副大臣と面会した。その副大臣は数日前、高市首相の地方視察に同行していた。高市首相のすぐそばにいたので、報道やニュースの映像、写真にもその副大臣は映っていた。当然、私はその話題を挨拶代わりにしようと事前にチェックしていた。「高市首相はどんな様子でしたか」と。

しかし、驚いたことに同行した経営者たちはそれらの事実を知らなかった。ニュースもみていなかった。その副大臣が高市首相と一緒に行動していたことも知らない状態だった。面会時には、筆者がその話題を切り出し、話は弾んだ。
事前準備が有効な事例だろう。
■資料は1~2分で説明する
筆者が企業や団体を個別に国会議員に面会させるときは、説明資料の準備に最も多くのエネルギーを注ぐ。この伝え方でいいのかどうか、事前に時間をかけて、資料も論点も整理する。
国会議員との面会に際して、どういう資料で説明するべきか。巷ではいろいろ言われているが、簡潔で適切な情報量であれば何でもいい。
官僚出身の国会議員の中にはA4サイズ1枚にまとめたものを好む人もいるが、こだわる必要はない。スライドの枚数は、多くても10枚前後に収まるといい。20枚を超えると、読む気をなくす国会議員が続出する。
タブレットを使って説明する場合もあるが、基本は紙にプリントアウトした状態で説明するのが好まれる。もちろん、タブレットがダメというわけではない。
国会議員の面会時間は、せいぜい10分と思って準備するべきだ。もっというと、1分ぐらいで、口頭で提案やプレゼンができるまで解像度を上げる必要がある。1分や2分で説明できないものは相手にされないと思ったほうがいい。筆者は基本的に1分や2分で説明しきれるぐらいにまで解像度を上げて、初めて国会議員のアポイントを取っている。
■事前準備で8割は決まる
即答できる準備も最優先で進めておくべきだ。地方議員も含め、いわゆる政治家という人種は「で、何をすればいいの?」と聞いてくる。それに即答できるかどうかが運命の分かれ目になる。
「えーと……」とか「あー……」とか言っている場合ではない。歯切れよく、ビシッとプレゼンできるように、筆者が顧問先や依頼側に対し、事前に猛特訓を行っていることも多い。プレゼン能力はロビー活動に不可欠だ。
話すのが苦手な人には、スピーチトレーニングを薦める場合もある。
さて、幸いに30分時間が取れるようなことがあっても、ダラダラと自分たちの考えていることを話しているだけではダメだ。その議員が何を考えているのか、その議員の関心事は何なのかを見極めて話をしないといけない。議員の関心事を探るには、SNSとニュースのチェックが適切だ。相手の懐に入るために役立つ。話を弾ませるためにできることは何でもやる。事前準備で8割は決まる。
では、国会議員からみるとどうだろうか。繰り返しになるが、議員は、恒常的に企業団体、業界側の陳情、要望を聞いている人たちなので「予算をつけてほしいのか、法律を変えてほしいのか、それとも何をしてほしいのか」をすぐに聞きたがる。だから、プレゼンする側も、要領良く説明しないといけない。
■自分たちの都合なんて関係ない
閣僚を2回経験した自民党国会議員はあるとき、プレゼンに来た企業の話を3分ほど聞いただけで遮り、「話が長そうなんだが、今聞いてみて、資料もみさせてもらって、だいたいわかった。○○で○○をすればいいのか? 俺は何をすればいい? それを先に言ってくれ、すぐに今ここで対応するから」と発言した。

企業側は飛びあがるほど驚き、戦慄が走ったが、その議員は目の前で霞が関の枢要部署に電話をし、案件を処理した。議員からすると、ダラダラと10分も20分も話を聞く時間はない。
大前提として筆者は、「国会議員は偉い」と思っている。なぜなら有権者の負託を受けて国会で議席を得ているからだ。議員に面会できること自体が貴重だから、そのチャンスを生かすために事前に相手のリサーチを行ったり、プレゼンの練習をしたりするのは当たり前だろう。これは民間でも一緒だ。
にもかかわらず、議員の面会になると、途端にそういう準備をやらなくなる人が多い。議員を軽くみているから、そういう態度になるのだろう。国会議員は存在自体が「偉い」のだから、すべてこちらが合わせるべきだというのが筆者の持論だ。よって、議員が遅刻することはOKだが、我々が遅刻することは許されない。議員が公務多忙で日程が変更になったりしても、不満そうにしてはいけない。議員の方が「偉い」のだから、議員の都合がすべてだ。
自分たちの都合なんて関係ない。
■LINEの連絡をしないワケ
多くの国会議員はLINEやフェイスブックのメッセンジャーを使いこなしているし、ショートメールであればアナログな議員でもほぼ使っている。よって、民間人でも議員と直接やりとりするケースがある。仲良くなってLINEのスタンプを送る人もいる。
それは大いに結構だし、信頼関係があるからこそできる芸当だが、筆者は国会議員とダイレクトにやりとりするのはなるべく避けている。忙しい議員の時間を奪うことになるからだ。それは当然、相手に対して失礼になる。「偉い」国会議員に申し訳ないという意味合いと、セキュリティー面でのリスクも考慮してのことだ。
筆者は相当な人数の国会議員の携帯番号を知っているし、LINEでやりとりする議員もそれなりにいる。よく電話もかかってくる。それでも、用があるときに自分から電話したり、LINEをしたりすることは極力控えている。日常的な情報提供や、相手側のプラスになるような話ならLINEなどでもいいが、相手に負担をかけるような話は対面でのみ行うことを徹底している。そもそも、流出のリスク、安全性を勘案して、LINE等を使っていない政府高官や議員もたくさんいる。
■事務所や秘書には必ず話を通す
ロビー活動の依頼や相談は、事務所や秘書を通すのが原則だ。議員とだけ話を詰めても基本的には事務所や秘書を通す形にする。何かを飛び越えてやりとりするのはトラブルの原因になるからだ。
議員と親しいからといって事務所や秘書と付き合わない方もいるし、議員もそれを許容する場合もあるが、それは中長期的にみると良くない。
筆者は事務所のスタッフや秘書に相談するときも、話がこみいっている場合は必ず議員会館まで行って直接話をする。長年の関係があれば電話やメールでもOKだし、忙しい場合はその方が都合がいい場合もあるので、臨機応変に対応している。
なお、政局の際に、表に出せないような内密な相談もあったりするので、そういう場合は秘書だろうが誰だろうが、絶対に誰にも言わないのが永田町の鉄則だ。コミュニケーションはとにかく丁寧に、入口から手順を踏むというのが永田町と接するコツだと思う。
■「ご都合のいい日程を教えてください」は×
日程調整についても、筆者なりのこだわりがある。「ご都合のいい日程を教えてください」ではなくて、まずはこちらから日程案を投げるというスタイルだ。
相手に空いている日程を提示させるのは、相手に配慮しているようにみえるが、それは少し違う。相手に日程を用意させているのは、負担をかけていることになるので、こちらから選択肢を示して選んでもらうのが筆者の方法だ。
その次の段階で、こちら側から提示した日程がすべてダメな場合、議員側から日程が出てくる。そのときに最も大事なのは、いただいた日程に極力合わせることだ。当たり前といえば、当たり前である。
ここで、都合が悪いので別の日で、というのは、そもそも忙しい議員と面会することよりも優先度の高い「用事」「案件」があることになる。筆者からすると、議員の面会よりも大事な日程なんてあるのだろうか、と率直に思う。いただいた日程を拒否することは通常はあり得ない。もちろん、どうしても無理ということはあるが、そのあたりも勘違いしている民間企業の方がいる。とにかく国会議員の都合に合わせるのがすべてだ。

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山本 雄史(やまもと・たけし)

ロビイスト、一般社団法人日本金融経済研究所政策顧問

1978年、大阪府岸和田市出身。早稲田大学社会科学部卒業。産経新聞政治部記者、同社新規事業部門の管理職などを経て、2023年2月に政界ロビー活動専門会社「ヤマモト・ストラテジック・ソリューションズ合同会社(YSS)」を設立。大企業やスタートアップを中心に永田町・霞が関対策を指南、自治体セールスをサポート。法律改正や規制緩和を政府高官や与野党の有力議員を通じて実現している。『ロビー活動とは何か』が初の著書。

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(ロビイスト、一般社団法人日本金融経済研究所政策顧問 山本 雄史)
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