※本稿は、榎本博明『すぐに「できません」と言う人たち』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■「好きな仕事探し」の落とし穴
「好きなこと探し」にとらわれていると、大事なことを見逃してしまいがちである。そこで考えるべきは、仕事の楽しさ・おもしろさとはどのようなことを指すのか、ということである。学生時代を思い出して、アルバイトでも部活でも、どんなときに「楽しい」「おもしろい」と思ったかを振り返ってみればいい。
多くの人があげるのが、できないことができるようになったときだ。はじめから楽しいというようなことはあまりなく、できないことができるようになることで楽しいと思えるようになり、それをすることが好きになる。
「楽しい」と思い、「好きだ」と思えるようになる前に、たいていは苦しい時期がある。それを頑張って乗り越えることで、克服する喜びを感じることができ、成長の実感も得られ、それが「楽しさ」につながっていく。
このような「楽しさ」の意味を考えると、「好きな仕事を見つけたい」「思ってたのと違って仕事がおもしろくない」「もっと楽しく働ける仕事に変わりたい」という場合の、「好きな仕事」「仕事のおもしろさ」「楽しく働ける仕事」の内容を考え直す必要があるだろう。
学生たちの悩みを聞いていると、「楽しい」とか「おもしろい」ということの意味を勘違いしていると言わざるを得ないケースが少なくない。そのあたりの内容を授業で取り上げた後の気づきレポートでは、つぎのような記述が目立った。
■楽しいは「内容」ではなく「やり方」次第
「コンビニでバイトをしているが、はじめは淡々とこなすだけで嫌としか思えなかった。
「アルバイトをしていて『仕事が楽しい』と感じるのは、仕事のやり方が充実しているときで、自分でやり方を工夫して成果が出たときなどに感じることが多い。選んだ仕事が楽しいかつまらないかは自分のやり方次第だと私は思った」
「最初アルバイトを始めた頃は、わからないことだらけで、行くのが毎日嫌だった。しかし、1年くらい続けていると仕事もできるようになり、楽しくなっていた。だれだってできるようになるまで頑張らないと、どんな仕事も楽しくならないと思う」
このように学生たちは、授業で刺激を与えることで、「好きなこと探し」の呪縛から自由になり、さまざまな仕事を楽しめる方法を模索し始めている。
■「やりたい」よりも「できる」ことを増やす
キャリア教育においては、「好きな仕事を見つけよう」とか「理想のキャリアをデザインしよう」などと促すよりも、仕事の「おもしろさ」や「楽しさ」とはどういうものかについてじっくり考える機会をもたせることのほうが重要であり、それが就職後の仕事力の発達にもつながっていくのではないか。
やりたいことにこだわりすぎることの弊害について説明してきたが、若い頃に大切なのは「できること」を増やしておくことである。スポーツでも、音楽でも、何でもそうだと思うが、できることの水準が上がれば、やりたいことの水準も上がっていく。仕事も同じだ。「できること」が増えれば、「やりたいこと」も変わってくる。
そこで大切なのは、「好きなこと探し」に没頭することではなく、目の前のことに没頭することである。「これは自分がほんとうにやりたいことなのだろうか」などと、「好きなこと探し」ばかりしていると、目の前の勉強や仕事が疎かになりがちである。
目の前のことに没頭することで、「できること」が増えていく。「できること」が増えていくこと、それは成長の実感につながる。気になることは何でも調べてみる。あるいは何でもやってみる。頼まれた仕事は、特別な事情がないかぎり、どんな仕事でもやってみる。
■「まず動く人」が成長する理由
余分な仕事も可能な範囲内で引き受けてみる。定型的な仕事をする際も、いつもと違うやり方を工夫してみる。気になる資格があれば、取得を目指して勉強してみる。
ちょっとでも気になる本があれば、とりあえず読んでみる。そうした積極的な行動が、「できること」を増やすことにつながっていき、新たに「やりたいこと」が出てきたりする。その「やりたいこと」を意識して勉強したり仕事のやり方を工夫したりしているうちに「できること」が増えてくる。
そうすると「やりたいこと」も変わってくる。そのような好循環こそが仕事力の向上にとって大事なことであり、今この時点での「やりたいこと」にとらわれすぎると身動きが取れなくなり、仕事力の成長が滞ってしまう。
「やりたい仕事は何か?」「好きな仕事は何か?」といくら考えても、実際にやってみないことには、なかなかわからないものである。やってみて初めて実感が得られる。
「これ、得意かも」「意外に面白い」といった実感も、「ちょっと無理」「何だか物足りない」といった実感も、実際にやってみることではじめて得られるものだ。自分に合う仕事も、合わない仕事も、やってみて初めて実感することができる。
■向いているかどうかを考えるのは時間の無駄
自分の適性も、仕事に求められる適性も、やってみて初めてわかるということが多い。自分に合っているだろうと思っていた仕事も、実際にやってみると、予想していたのと違って、どうも合わないということになることもある。反対に、自分には合わないだろうと思っていた仕事も、試しにやってみると、案外合っていたというようなことも、けっして珍しくはない。
キャリア教育的情報で、どの仕事にはどんな適性が必要かなどと知らされても、実際にやってみないと、それぞれの仕事に求められる適性など実感としてわからないし、そもそも情報として知った必要な適性を自分がもっているかどうかも実感としてわからない。
ある仕事に自分が向いているかどうかは、いくら考えてもよくわからないものである。考えてもわからないときは、とりあえず考えるのをやめて、勢いに任せてやってみることだ。
すでに決まっているものではなく、これからつくられていくといった面もあるのだ。自分の適性を狭くとらえることで、職業選択の間口を狭めてしまい、自分に合った仕事に就く機会を逃してしまうこともある。
■自分の適性は挑戦の先に見えてくる
ちょっと古いデータではあるが、約50社の社員を対象に行われた調査の結果をみると、20代や30代ばかりでなく40代や50代以上でも、キャリアに関する悩みや迷いの筆頭に上がるのは、「適性」と「能力」で、この2つが群を抜いている。
ともに5割を超えており、長く仕事を経験していても、半数以上の人たちは自分の適性や能力がはっきりつかめず、悩んだり迷ったりしているのである(『労政時報』第3489号 2001年4月27日)。
自分がどんな仕事に適性があるのか。自分にはいったいどんな能力があるのか。何十年も仕事をしている40代や50代の人たちにもよくわからないのだ。そんなわかりにくいものにとらわれていたら、決断が遅れ、いろいろなチャンスを逃すばかりだろう。
経験の積み重ねが適性をつくっていく。
必死にならないといけない状況に追い込まれると、総力を結集してがむしゃらに動くしかない。そんなときに、これまでにない力を発揮することがある。潜在的な能力が引き出されたのだ。
■成長の実感が次の努力を生む
ここから言えるのは、追い込まれれば追い込まれるほど、私たちの能力は開発され、取り組んでいる仕事に対する適性が増していくということだ。自分の限界に挑戦しているといった姿勢で必死に仕事に取り組んでいると、絶えず潜在的な能力が引き出される。負荷がかかることで潜在的な能力が開発されていく。
それは適性が開発されていくことでもある。今の自分の能力で無理なくこなせる仕事が自分に向いた仕事であり、自分に適性がある仕事だというように、適性というものを固定的にとらえると、成長が止まってしまう。
できないことができるようになるのが成長であり、自分が成長しているといった実感が喜びや充実を生む。それが、さらなる頑張りの原動力となり、ますますできることが増えていく。
慣れない仕事を任されたとき、自分には適性があるのだろうかと不安になる人もいるだろうが、自分の中に新たな適性を育てるチャンスかもしれないと考えると、チャレンジしてみようという前向きな気持ちになれるのではないか。
「この仕事に対する適性が自分にあるのだろうか」と自問するのではなく、「新たな適性が開発されるチャンスかもしれない」と前向きにとらえることで、適性はかぎりなく開発されていくはずである。
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榎本 博明(えのもと・ ひろあき)
心理学博士
1955年東京生まれ。東京大学教育学部教育心理学科卒業。東芝市場調査課勤務の後、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程中退。カリフォルニア大学客員研究員、大阪大学大学院助教授などを経て、現在、MP人間科学研究所代表、産業能率大学兼任講師。おもな著書に『〈ほんとうの自分〉のつくり方』(講談社現代新書)、『「やりたい仕事」病』(日経プレミアシリーズ)、『「おもてなし」という残酷社会』『自己実現という罠』『教育現場は困ってる』『思考停止という病理』(以上、平凡社新書)など著書多数。
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(心理学博士 榎本 博明)

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