■子ども部屋が勉強部屋と決めたのは誰か
首都圏有名私立中学に合格した子どもたちは家で何をしていたのか?
特に、子ども部屋は何をする場所であったのか? このテーマに基づいて、20年ほど前に私は実際の家庭を調査・研究しました。
調査を始める前の仮説として、子ども部屋こそが勉強部屋であり、子どもたちは学校と塾から家に帰って来たら子ども部屋に閉じこもって勉強しているのだろうという結果を想定して、疑いを持っていませんでした。
その前提で、麻布・開成・武蔵、桜陰・雙葉・女子学院に代表される男女有名私立中学校に合格したご家庭を調査したのですが、結果は驚くべきものとなりました。「できる子は、子ども部屋で勉強していない」という実態が判明したのです。
“できる子は子ども部屋では勉強しない”
ではどこで?
答えは、“家中で勉強していた”ということでした。玄関、廊下、階段、キッチン、リビング、トイレ、お風呂、家中いたる所で勉強していたのです。この調査をまとめたのが『頭のよい子が育つ家』(渡邊朗子氏との共著、日経BP、2006年)です。
そもそも、「子ども部屋=勉強部屋」と決めたのは誰でしょうか? これは誰かがそうしたということではなく、なんとなくそういうものだという、言わば大人の常識だったのです。その常識は『頭のよい子が育つ家』によって見事に上書きされたのです。
■「勉強のできる子」と「頭のよい子」は違う
勉強のできる子、それは学校の成績がよい子のことでしょう。過去に出題した前例があり模範解答のある問題をきちんと暗記してテストで正解できる子どもです。それに対し、頭のよい子は前例のない、模範解答のない問題に仮説を立て、自分の考えを導き出せる子どもです。
世代の違いはあれど、「イイクニカマクラバクフ」と多くの方が学校で習われたと思います。私たちはこれが勉強であると、ずーっとそう思ってきました。いかに知識を沢山覚えるか。沢山覚えた子が勉強のできるこどもでした。
それに対して、頭のよい子は、与えられた知識を自分の生活や社会にどう活かしていくかを自分で考え、仮説を見いだせる子どもです。「イイクニカマクラバクフ」という知識を、知恵に替えられる子どもなのです。
それは、得た知恵を使って実際の社会課題の解決に挑戦する子どものことです。
■「頭のよい子」が繰り返していた学習法
私は2000年から、25年間にわたり、「頭のよい子」のあらゆる生活パターンについて、1000件以上のケースを調査してきましたが、できる子=頭のよい子は子ども部屋で勉強しないという結論は、頭のよい子を育てるための唯一の回答でありません。家は、あくまでも生活の舞台、すなわち「すまい」であって、大切なのは、どんな「くらし」をしたいのか、という家族の意思なのです。
頭のよい子たちはどんな本を読んでいるのか、テレビを誰とどのようにして観ていたのか、夏休みの自由研究はどのようにしていたのか、こづかい帳はどのようにつけていたのか、何を母親の想い出の味として大切にしてきたのか、それはなぜか。そのためには台所のレイアウトはどうなっていたのか、などなど……。「頭のよい子は子ども部屋では勉強しない」という結論は、頭のよい子を育てるための環境づくりに必要なさまざまな要素のごく一部にすぎなかったのです。
「頭のよい子が育つ家」では、どの家庭でも、まず最初にあったのは、「知識を知恵に替える」という目的です。それに対して、「台所で繰り返し探究学習を行う」という目標を設定し、その最適手段として、あるべき台所のプラン・レイアウトをデザインする、日々のくらしの中でこうした繰り返しをしていたのです。
難関校に合格した家庭では、特別な教材があったわけではありません。
日常の中で、
・気になったことを調べる
・自分の言葉で話す/書く
・家族で共有して深める
という行動が繰り返されていました。私はこの循環を「3X」(Explore=探求、Express=表現、Exchange=共有)と名付け、「生涯コミュニケーション探究学習」という概念にまとめました。
■「細かく区切らない」間取りがいい
それでは実際に、「頭のよい子」がどんな家で育っていたか、実例を見てみましょう。
例えばマンションでは75平方メートル=3LDKを基本とした場合、これまでは75平方メートルをいかにして4LDKにするかが、差別化のポイントと考えられていましたが、20年前、伊藤忠都市開発と埼玉県北与野市に「頭のよい子が育つマンション」を作ったとき、夫婦のベッドルーム以外は全てガラス張りでオープンにしました。
これは、業界の定義では1LDKとなるのですが、これまで狭く感じた空間が広く、明るくなったと好評でした。またキッチンを中心とした親子のコミュニケーションスペースも初めて採用しました。結果、多くの問い合せ、大阪や北海道からモデルハウス見学、テレビ取材など大きな反響を呼びました。そして今では、スケルトン・インフルによるワンスペースを基本とするマンションも多数登場しています。
■親子のコミュニケーションが成長を促す
もちろん、頭のよい子を育てるには、スケルトン・インフルにすればよいというだけではありません。大切なのは空間の使い方です。
こちらのプランをご覧ください。Gさんの家の間取りです。子ども部屋にある本棚が家族で共有されていたことで、本棚が家族の集まる場所となっていました。
お父さんが子どもの頃読んでいた、漫画『巨人の星』を手に取った女の子のGさんは、主人公のガールフレンドがガンに侵され6カ月の余命である場面に接し、1秒も無駄にできない生き方を悟ります。
さらにいうと、ただ本を置くだけではダメでして、どんな本をどうやっておくのか。実はこれが頭のよい子を育てる最大のポイントなのです。
■祖父母との同居がもたらす効果
もう一例、ご紹介しましょう。武蔵中学に合格したIくんの家です。こちらは都内では珍しく当時4世代同居していた家族です。
もの心ついたときから日常の関係であるお父さん、お母さんと過ごす2階の空間、おじいちゃんとひいおばあちゃんが生活している1階の非日常空間での暮らしは、男の子のIくんの中に、年配者を大切にするという優しい心を育みました。また、おじいちゃん、ひいおばあちゃんが食べているもの、観ているテレビ、読んでいる本、全てが刺激となりました。
本好きとなったIくんが小学生4年生のときに学校で書いた作文、“らくがきするな”は、教室の後ろにある「4年2組のうしろの黒板」が生徒たちに「らくがきしないでね!」と語りかける擬人法で書かれた作文です。好奇心旺盛なIくん、擬人法の発想は、おじいちゃんの読んでいた夏目漱石の『吾輩は猫である』をヒントにしたものでした。
その他にも、おじいちゃんの読んでいた本を見て知らない漢字を覚えたり、おじいちゃんが集めていた切符を見て地名を覚えたりと、お父さん、お母さんだけと同居している家庭とは違った生活を楽しんでいました。
■「頭のよい子」が育つ家を作ろうとしたが…
私は調査結果をふまえ、建築家の堀越英嗣先生、松岡拓公雄先生とともに、先述の「生涯コミュニケーション探究学習」の考え方を反映させた家づくりを開発しました。
家をつくるとき、親なら誰でも考える子ども部屋、あるいは、子ども部屋に該当するスペースは必ずしも勉強部屋、スペースではないことを、一般子育て世代に普及させようと考えました。幸い、新しいテーマを欲していたマンションデベロッパー、ハウスメーカー、地方の建設会社、工務店などから多くの問合せがありました。また、テレビ、新聞、ラジオを中心に多くのメディアからも取材があり、これで「生涯コミュニケーション探究学習」3Xが一般の子育て世代に普及すると大変期待しました。日本の子どもたち全員を「頭のよい子にする」というのが、私の目標となりました。
■「客寄せパンダ」になった
しかし、結果は私の期待通りにはなりませんでした。デベロッパーやハウスメーカー、建設会社にとっては、マンションや家を売るのが目的であって、頭のよい子が育つ家のコンセプトは、集客という目標のための1つの手段に過ぎなったからです。「日本中の子どもたちを頭のよい子にしたい」という私の思いとは、そもそも目的が違っていたのです。
また、メディアの取り上げ方、特にテレビでは、時間の制約上、結論だけ切り取られる事も多く、そこに至るプロセスが全く無視されてしまい、情報の本当の意味・価値が全く伝わりませんでした。
特に多くあったのが、「頭のよい子はトイレで勉強していた」というもので、トイレに辞典を置いておくとよいという情報提供です。結論としては間違ってはいませんが、なぜそうなのか? というプロセスが無視されているので、当然真意が伝わりません。
逆に、トイレに本置くだけで頭よくなれば、誰も苦労しないという当たり前の反応が返ってきたのです。
■過度な愛情は逆効果になる
もう一点、問題となったのはご両親、特に母親のお子さんに対する過度な愛情です。私はこれまで過去20年、200回を超える講演・セミナー・設計相談などを開催してきました。来場者に共通しているのは、子育て中のご両親、特に母親の熱心さです。
一言も聞き逃すまいという真剣な眼差しは私にも十分伝わってきましたが、なぜか、私の話がなかなか広がらないのです。理由は、貴重な子育て情報を「自分だけで独占したい」という過度な愛情・独占欲であったのだと思います。
ソフトにお金を払わないのでプロセスを無視した結果、カタチだけ真似した住宅、自分の家だけ「頭のよい子が育つ家」になれば、あとは関係ないという態度が「頭のよい子が育つ家」の普及を妨げたと思います。皮肉なことに、カタチだけ真似した「頭のよい子が育つ家」のプランは普及しましたが、プロセスが伴わないので、頭のよい子は育ちません。また、プロセスを理解しているご家庭では情報を独占しているので、それでは日々のくらしの中で地域の方々と「生涯コミュニケーション探究学習」を繰り返すしくみができていないので、せっかくのプランも宝の持ち腐れです。
■20年後の「頭のよい子」たち
こうした状況の中、20年前に私がお会いした「頭のよい子」たちは、その後、どうなったのでしょうか。
実は、そのほとんどが、この狭い日本の器には収まらずに、海外で活躍しているのです。アメリカの大学に進み、そのままAmazonやGoogle、Appleなどで活躍しています。一旦は日本の大学から大企業に進みながら、早々と見切りをつけ、海外に新天地を求めた頭のよい子たちも少なくありません。
「前向きに検討する」という不思議な言葉を使って実際には「何もしない」日本の企業風土。そもそも「検討する」というのは、前向きなのが前提のはずなのに、日本社会では、「前向きに検討します」というのは、「何もしない」と同義なのです。
そんな社会風土、給料が保証された身分制度に決別して、「頭のよい子」たちは、海外に渡っていってしまったのです。この問題の解決こそ、「頭のよい子」から改めて学ぶことであると、そのように考えています。
■本当に大切なのは、間取りではない
「頭のよい子が育つ家」のデザインやプランについては、3年ほど前に画期的な動きがありました。これまで認められなかった住宅のデザインやプランに関して、特許取得の道が開かれました。
20年前、『頭のよい子が育つ家』がベストセラーとなり、読者の関心は間取り一点となりました。しかし、その後の調査・研究からいえることは、「大切なのは間取りではない」という事実です。間取りは補助的なものにすぎず、頭のよい子が育つ家には、家族との濃いコミュニケーションがありました。家の中で「調べる→話す・書く→共有する」、つまり、探究=Explore、Express=表現、Exchange=共有の3Xが循環しているのか、こうした家族のコミュニケーションこそが、頭のよい子が育つ家をつくるのです。
まずは、Explore, Express, Exchange! 3X、この循環に挑戦してみましょう!
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四十万 靖(しじま・やすし)
探究学習社会実装家=ビジネスモデルライセンサー&コンテンツプロバイダー
1959年生まれ。一般社団法人四十万未来研究所代表理事、スペース・オブ・ファイブ株式会社代表取締役。1982年慶應義塾大学経済学部卒業、伊藤忠商事入社。日米構造協議に参加、米国PPG社JV設立プロモーター、「フランク・ロイド・ライト」ブランド住宅ライセンスビジネス、地方創生事業などを担う。慶應義塾大学、東京大学他にて産学連携実績多数。2006年『頭のよい子が育つ家』を刊行。探求・探究学習第一人者。2019年より文部科学省リカレント教育、society5.0、DX人材教育プログラム開発と実施委託事業主宰。現在、令和リカレント日本人主導Private Equity Initiative推進中。
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(探究学習社会実装家=ビジネスモデルライセンサー&コンテンツプロバイダー 四十万 靖)

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