株式市場の変動が激しくなると心配になる人も多いだろう。経済評論家の頼藤太希さんは「相場が下がったときに慌てて売ってしまう人は損をする。
勝てる投資家になるためには、投資版『行動経済学』を理解して、罠に陥らないための仕組みをつくっておく必要がある」という――。
■投資で損する人の共通点
投資における不安は、感情に支配されてしまうことで生まれます。失敗するのは大抵、冷静な判断ができなかったときです。たとえば、損をしそうなとき。多くの人は慌てて「損をしないために行動した」結果、損をしてしまうのです。
また、人間は一時の感情だけでなく、直感(無意識・先入観)で損をする行動を取ってしまうこともわかっています。人は直感に従うことで、すばやく迷わず決断し、行動することができるのですが、その直感は常に正しいとは限りません。
こうした感情や直感の罠にはまって投資で失敗しないようにするには、従来の経済学に心理学を組み合わせた「行動経済学」を学び、人間の癖を理解し対策するのがひとつの手です。
しかし、行動経済学の本を読んでも投資に役立てるのは難しいことが多い。そこで行動経済学の考え方を投資に生かしやすいよう、投資版「行動経済学」としてまとめました。
投資における行動経済学の罠を避けるためには、「過去の経験・先入観によるバイアス」と「損失回避(プロスペクト理論)によるバイアス」の2つに分けて理解する必要があると考えています。
■「直感」のメリットとデメリット
過去の経験や先入観などをもとに直感で物事を判断する思考法を「ヒューリスティック」といいます。
直感で判断するのですばやく意思決定できるのがメリットですが、ときに判断を間違えてしまうのがデメリット。行動経済学では、合理的な判断を誤らせる良くないものとして扱われます。
株に投資する際に、「人気のある株は儲かる株だ」と思ってしまうのもヒューリスティックのひとつです。確かに、人気のある株は儲かりそうな感じがしますが、人気がある株と儲かる株は別のもの。
人気がある株はすでに値上がりして、自分が買うころには高値つかみになっている場合もあるからです。投資の格言でも「人の行く裏に道あり花の山」といって、人と同じことをしていては儲からないことを説くものがあります。
もちろん、だからといって常に大勢と逆のことをすれば良いというわけでもありません。直感で考えず、論理的に考えることが大切なのです。
過去の経験・先入観によるバイアスの中から「妥当性の錯覚」と「確証バイアス」を紹介します。
■過去の経験と先入観で判断を誤る
自分の予想に過度な自信を持ってしまう「妥当性の錯覚」
「この株は上がる」と予想して、上がった経験がある人もいるでしょう。たまたまうまくいったに過ぎないのですが、「予想が当たったから」と、自分の予想に過度な自信を持ってしまいます。これを「妥当性の錯覚」といいます。

自分の思い込みで投資をしていると、いつか思惑に反する値動きによって大きく損をする可能性があります。また、損を抱えていてもなお「自分の予想が正しいに決まっている」と信じ込んで、傷口を広げてしまう可能性があります。論理的に考えることはもちろん、果たして自分の予想は正しいのか、振り返って確認・修正することが必要です。
自分を正当化するための情報を集めてしまう「確証バイアス」
「確証バイアス」は、自分がすでに持っている偏った先入観や仮説などを正当化するために、自分にとって都合の良い情報ばかりを集めてしまう傾向のことです。妥当性の錯覚と合わさると、損を被る誤った行動をし続ける可能性が高まります。
妥当性の錯覚によって「この株は上がる」と思い込み、確証バイアスにとらわれてしまうと、「この銘柄は絶対値上がりするに違いない」と自信過剰になってしまい、それを後押しする根拠を探しにいってしまいます。たとえその銘柄が値下がりする可能性を示す情報があっても、目に入らなくなってしまうのです。
X(旧Twitter)、Instagram、YouTube、TikTokなどのSNSには、自分の見た投稿や動画と似た内容のコンテンツを紹介される「おすすめ」「レコメンド」の機能が搭載されています。勧められたコンテンツは往々にして自分の興味のある内容や知りたい内容ですから、確証バイアスにとらわれる可能性が高まります。
これを防ぐには、経済や投資に関する情報であれば日本経済新聞など、自分の興味とは関係なしに網羅的に情報を発信しているツールを確認することが大切です。
また、ウェブサイトの記事やインフルエンサーの情報だけで判断するのも危険。あくまでひとつの見方でしかありませんし、真偽も定かではないからです。
その情報のソースはどうなっているのか、政府や公的機関などが出している1次情報を必ず確認しにいきましょう。
■損失の悲しみは2~2.5倍大きい
人は誰しも損をするのは嫌なもの。しかし、そうした感情が非合理的な判断を引き起こすのです。
たとえば、次のようなくじ引きがあるとします。どちらかを必ず引かなければならないとしたら、どちらを引きますか?
(1)必ず100万円がもらえる

(2)50%の確率で200万円がもらえるが、50%の確率で何ももらえない
ほとんどの人は(1)を選ぶでしょう。では、次のくじ引きではどうでしょうか。
(3)必ず100万円を支払う

(4)50%の確率で200万円を支払うが、50%の確率で支払いがなくなる
どちらも引きたくないかもしれませんが、この場合は(4)を選ぶでしょう。
しかし、数学的にみれば、(1)(2)のくじ引きの期待値(ここでは、得られる金額の平均値)は100万円、(3)(4)のくじ引きの期待値は-100万円でどちらも同じです。
しかし、目の前に利益があるときは損失を回避する行動を取り、損失があるときはリスクを負ってでも損失を取り戻す行動を取りがちだということがわかります。
損失の悲しみは、利益の喜びの2~2.5倍大きく感じるといわれています。
ですから、保有している株などの金融資産が少し値上がりしたとき、まだまだ価格上昇が見込めそうなのに利益確定してしまったり、反対に今後価格上昇が見込めなさそうな銘柄をそのまま保有し続けてしまったりする可能性があります。
損失回避によるバイアス(プロスペクト理論)の中から「反転効果」と「情報のカスケード(バンドワゴン効果)」を紹介します。

■「損をしたくない」気持ちが起こす行動
損をしたときにリスクの高い選択をしてしまう「反転効果」
「反転効果」とは、儲けの領域では「リスク回避的」であっても、損失の領域では「リスク追求的」になることをいいます。目の前に利益があるときは損失を回避する行動を取り、損失があるときはリスクを負ってでも損失を取り戻す行動を取る傾向にあります。
プロスペクト理論の喜びと悲しみのイメージの図表2でも、100万円をもらった場合の喜びはできるだけ手放したくないですから、リスクをとらないようにします。とりあえず、いったん落ち着いて次の投資のことを考えるでしょう。
しかし、100万円損した場合は、その損失を取り戻すためにイチかバチかの投資をしてしまう可能性があります。何しろ、損失の悲しみは利益の喜びの2~2.5倍です。取り戻そうという気持ちも強いものがあるでしょう。
しかし、イチかバチかの投資はリスクの高い投資になっていることが多いものです。加えて、「イチかバチかの投資」であることと「投資がうまくいくこと」の間には何の関係もないのですから、無理をしてさらに損する可能性が高いでしょう。
人気がさらなる人気を呼ぶ「情報のカスケード(バンドワゴン効果)」
損をしたくないからこそ、周囲の多数派の意見にしたがってしまうことを「情報のカスケード」といいます。
たとえば、2軒のレストランのうちどちらかを選ぶときに、なんとなくお客さんの入っているレストランを選んでしまった経験はありませんか。そのレストランや店を選ぶ理由はないのに、情報のカスケードによって「お客さんがいるからおいしいに違いない」と勘違いして、同じレストランを選んでしまったのです。
周りの人と同じ行動をしたほうが安心ですからね。
新NISAでオルカンやS&P500への投資が急増したのは、まさにこの情報のカスケードによるものが大きいでしょう。「多くの人が投資している」と言われれば、その投資先の良し悪しよりも「多くの人が投資しているのだから、良い投資先に違いない」と判断して投資をしてしまいます。
ところがオルカンは、全世界株とはいえ日本株の割合が数%なのでほぼ外国株。S&P500は米国株100%です。外国株は、リスクが比較的高い投資先です。それにもかかわらず、多くの人が投資しているからといって、リスク許容度の低い人もこぞってオルカンやS&P500に投資しているのが現状なのです。
こうした「ハーディング現象(横並びの行動)」はバブル相場を生み出すきっかけになります。投資先は人に流されることなく、自分で判断して決めるようにしないと、意図せずお金を大きく減らすことになりかねません。
ハーディング現象と似たものに「バンドワゴン効果」があります。バンドワゴン効果は、多くの人が支持している物事に、さらに支持が集まることをいいます。
株も多くの人が「欲しい」と思って買うことで値上がりします。
バンドワゴン効果によって買いが集まれば、株価が一段と値上がりすることもあるでしょう。しかし、「早く買わないと」と飛びついたところで高値つかみになって、以後は値下がりしてしまうことも考えられます。短期間の流行で値上がりした銘柄は、流行が過ぎると短期間で値下がりしてしまうことも多いものです。
その資産・商品は本当に価値があるものなのか、長期的に右肩上がりになるのかと冷静に分析してから投資行動を取ることがもっとも重要です。
■行動経済学の罠に陥らない仕組みをつくる
行動経済学の「罠」に陥らないようにするには「自己規律」が必要です。
といっても「行動経済学の罠を意識して、気をつけるようにします」だけで回避できるのであれば苦労はありません。意識や努力にかかわらず行動経済学の罠を回避できるようにする仕組みを作って、それを実行するようにしていきましょう。
1 ドルコスト平均法
「ドルコスト平均法」は「一定の金額で一定の期間ごとに商品を購入する」という積立投資の方法。投資金額を毎月一定にすることによって、購入価格が高いときは少なく、安いときは多く買うことができます。その結果、平均購入単価が自然と下がり、その後少しの値上がりでも利益を出しやすくなります。
ドルコスト平均法を活用すれば、暴落があっても慌てずに済みます。むしろ安いところで買うことができるので、暴落でさえも味方につけることができます。
2 利益確定・ロスカットルール
投資に感情を挟まないようにするため、短期売買をする際は、あらかじめ「30%値上がりしたら利益確定、20%値下がりしたら損切り」などと、利益確定・ロスカットのルールを厳格に決めておき、条件を満たしたら例外なく実行することも大切です。
3 現金比率ルール
投資はお金を増やすために必要ですが、だからといって資産をすべて投資に回すのはNG。お金は、無リスク資産(現預金・個人向け国債)とリスク資産(株・投資信託・金など値動きのある資産)にわけて保有することが大切です。
無リスク資産とリスク資産の割合は、「自分の年齢」と「120から自分の年齢を引いた数字」を対応させる「120の法則」がおすすめです。今40歳ならば、無リスク資産:リスク資産=40:80というイメージです。
過去の記事「資産のうち投資は何割がベストか…お金の専門家が見出した『年代別・貯金と投資の最適バランス』」も参考にしてください。
万が一のケガや病気、リストラなどの事態に対応できるようにするため、最低でも生活費の6カ月~1年分は必ず現預金で保有しておきます。このような現金比率ルールを定めておき、投資をしすぎないようにするのです。
4 資産配分ルール(コア・サテライト戦略)
「コア・サテライト戦略」とは、自分の資産を長期安定成長・守りの資産(コア資産)と積極運用・短期売買の資産(サテライト資産)に分けて運用する戦略です。
資産の大部分にあたる7~9割は「コア資産」。現預金に加えて、インデックス型・バランス型の投資信託や債券、金といった比較的値動きの安定した金融商品で用意します。
残りの1~3割は「サテライト資産」として、株やアクティブ型の投資信託など、値動きの大きな金融商品を活用します。こうすることで、コア資産で安定的に運用しながらサテライト資産で積極的に利益を狙います。
資産配分ルールをきちんと守ることで、リスクを取りすぎることを防ぎ、お金を減らさずに増やすことができるでしょう。

----------

頼藤 太希(よりふじ・たいき)

経済評論家・マネーコンサルタント

Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。早稲田大学オープンカレッジ講師。ファイナンシャルプランナー三田会代表。慶應義塾大学経済学部卒業後、アフラックにて資産運用リスク管理業務に6年間従事。2015年に現会社を創業し現職へ。日テレ「カズレーザーと学ぶ。」、フジテレビ「サン!シャイン」、BSテレ東「NIKKEI NEWS NEXT」などテレビ・ラジオ出演多数。ニュースメディア「Mocha」、YouTube「Money&YouTV」、Podcast「マネラジ。」、Voicy「1日5分でお金持ちラジオ」運営。『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)など書籍110冊超、累計190万部。日本年金学会会員。ファイナンシャルプランナー(CFP®)。1級FP技能士。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。宅地建物取引士。日本アクチュアリー会研究会員。X(@yorifujitaiki)

----------

(経済評論家・マネーコンサルタント 頼藤 太希)
編集部おすすめ