高市早苗首相とはどのような政治家なのか。2000年8月から続いていた公式ブログ記事1000本(現在は削除)を検証したライターの中野タツヤさんは「過去の投稿を読み解くと、高市首相の本質は『リベラル寄りで、意識高い系の国際派エリート』だと感じられた。
結局、選挙に勝つために『保守派』を名乗っているだけではないのか」という――。(第2回/全2回)
■保守層から「失望」の声があがるワケ
「高市内閣になれば、歴史見解はすぐに修正します」
筆者が出演した「文藝春秋PLUS」の動画でもご説明したが、高市首相はかつてこのように発言していた(参照:小林よしのり他『希望の国・日本 九人の政治家と真剣勝負』飛鳥新社)。
なのに、いざ首相に就任し、衆院選で圧倒的多数を獲得しながら、「歴史見解の修正」に取り組む姿勢はいまのところ見せていない。
前回記事に挙げた状況証拠の数々を踏まえると、高市首相は結局、保守強硬派を装っているに過ぎず、「外国人労働者の抑制」や「韓国との領土問題」「歴史見解の修正」といった「保守派の悲願」に取り組む気は最初からなかったのではないか、と思ってしまうのだ。
実際、高市氏を支持してきた保守層の中にもそのように見る向きが増えている。前回ご紹介した百田尚樹氏の「失望発言」と「高市批判」は、従来の支持者がそうした高市首相の二枚舌に気付き始めていることを示すものだろう(参照:百田尚樹チャンネル「怒りライブ『高市総理の正体!彼女は移民推進派だった』」)。
■「意識の高い国際派エリート」としての姿
そもそも高市首相のブログを通読した筆者には、高市首相が保守強硬派とはどうしても思えないのだ。
むしろ、ブログから漂ってくるのは「意識の高い国際派エリート」としての高市首相の姿だ。「産業政策に通じる改革派」で、かつ、小泉純一郎氏や竹中平蔵氏を思わせる「自己責任論者で、市場原理主義の新自由主義者」という印象も強い。
具体的にブログの記述を引用しながら見ていこう。2006年8月3日付高市ブログ「格差社会論に思うこと」には次のような一節がある。
私は、一定の格差が生じるのは当たり前のことだと思いますし、規制緩和が進むほどに格差が拡大する可能性も否めないと思っています
(2006年8月3日付高市ブログ「格差社会論に思うこと」より)

この記述は、いわゆる小泉改革によって格差が広がったという自民党への批判を受けて、反論として書かれたものだ。
「頑張った人間が報われる社会には格差がある」と、格差を容認している点が注目される。
ただ、経済成長に伴う一定の格差は許容される方も多いだろうし、この記述だけであればそれほど違和感を覚えないかもしれない。
■「派遣切り」に対する辛辣な意見
他のブログ記事も見てみよう。
特に、正社員として工場で働いておられる方々からは、昨年末に別のテレビ番組が報じた「派遣を打ち切られた途端に、住む場所も食べるものも無い。残金は1000円足らず」といった内容について、疑問の声が多く上っていました。

「景気が良い時には、複数の派遣会社に登録して給与の良いところを渡り歩いていたのだから、生活費の蓄えが全く無いということが不思議だ」、「昨年、当社に来ている派遣労働者に正社員にならないかと誘ったが、残業や休日出勤は嫌だと言って断られた」、「そもそも派遣労働者が派遣先のメーカーに直接文句を言うのは筋違いだ。本来、派遣会社が派遣先メーカーと契約しているのだから、派遣会社に対して次の派遣先探しや途中解約の損害賠償確保を求めるなら分かるが」、「行政がすぐに就職できる企業のリストを提示したのに、それを断って生活保護の申請をするのはおかしい」等々…
(2009年1月28日付「いわゆる『派遣切り問題』への対応①」より)

いわゆる「年越し派遣村」への対応について書かれたものだ。
2009年といえば、リーマン・ショックを受けて日本全体が不況にあえいでいた時期だ。特に製造業を中心に大規模な派遣切りが行われ、生活困窮者が続出したことで日比谷公園に「年越し派遣村」が生まれた。
■「小泉流の新自由主義者」の雰囲気
そんな時期に、派遣切りにあった人に対して高市首相がかなり辛辣な意見を書いていることが注目される。あくまで「高市氏が聞いた話」としてではあるが、わざわざブログに書いたのは、もちろんこうした意見にも一理あると主張したいからだろう。
続く「いわゆる『派遣切り問題』への対応②」では、次のように書いている。

国会では、野党議員を中心に、「製造業への派遣禁止」を求める声が上っています。

今は副大臣として内閣の片隅に居る立場ですから、今後、麻生総理や関係閣僚がどのような判断を下されるのかを注視しなければならないのですが、私自身は、「今さら製造業への派遣を禁止する」ことには、慎重な考えです
(2009年2月3日付高市ブログ「いわゆる『派遣切り問題』への対応②」より)

と、「製造業派遣の禁止」に反対していることが注目される。別の個所では高市氏の事務所が派遣スタッフに頼っていることも書かれており、「派遣労働の拡大に賛成」の立場だったと見られても仕方がないだろう。この点で「積極財政を推進する保守派」というよりも、「小泉流の新自由主義者、市場原理主義者」といった雰囲気が漂う。
■「赤ちゃんポスト」にも厳しい指摘
もう一つ、2007年5月15日付高市ブログ「いわゆる『赤ちゃんポスト』について」にはこうある。
慈恵病院理事長が「こうのとりのゆりかご」設置を発表されて以来、「子供の命を守るためには『赤ちゃんポスト』を全国各地に設置すべきだ」といったご意見を新聞の読者欄で目にしたり、私宛のお手紙でいただいたりもするのですが、私は全国各地に同様のものを設置することには賛成できません
理由として違法性の指摘をしつつ、次のように「親の責任」を説いている。
第3に、子供を育てるという親の責任を放棄することを、世の中全体で容認してしまってはいけないと思います。

第4に、「未成年者が望まぬ妊娠をした場合に、赤ちゃんポストが必要」とのご意見もありましたが、そもそも新しい生命を授かることの尊さを認識していただくことが重要だと考えます。道徳教育や性教育のあり方は政治の場で議論されるべき課題ですが、それ以前に「妊娠してしまったらポストがあるし・・」という環境を整えるべきだとは思いません
(2007年5月15日付高市ブログ「いわゆる『赤ちゃんポスト』について」より)

■「社会保障のただ乗り」を許さない
「親としての責任」を説くこと自体は、保守派らしく伝統的な価値観を尊重する姿勢のあらわれとも言える。
しかし、赤ちゃんポストの利用者は、経済的に困窮しているとか、DV被害者であるなど、やむにやまれぬ事情があって利用しているとされる。そうした状況の人に「親としての責任」を説く高市氏の論調からは、「社会保障のただ乗りを許さない自己責任論者」の厳しさを感じてしまうわけだ。
こうした記事以外にも、「社会保障へのただ乗り」を批判する記事や、自己責任論を肯定する記事が高市ブログには散見されるのである。

そもそも高市首相は松下政経塾を出て、アメリカに渡り、帰国後はテレビに出演して有名になった。その点では「グローバルエリートの一人」と見ることもできる。
こうした経歴からしても、「伝統を重んじる保守派」の印象が薄いのである。
■原点は米民主党リベラル派議員の事務所
松下政経塾の出身者といえば、野田佳彦氏や前原誠司氏といった旧民主党系議員の顔ぶれも目立つ。
また、高市首相がかつて働いていた「アメリカ下院議員事務所」とは、パトリシア・シュローダー議員の事務所のことだが、シュローダー氏は民主党で、かなり過激なリベラル派の政治家として知られている。
現在“保守強硬派”のはずの高市氏は、なぜアメリカ民主党のリベラル派議員のもとで働こうと思ったのか。
しかも、高市首相は2008年11月に民主党のオバマ氏が大統領選に当選した際、ブログに興奮気味の文体でこう綴っている。
オバマ上院議員が勝利宣言、来年1月には、アメリカ合衆国大統領に就任されることになりました。

大親友がオバマ陣営で働いていたこともあって、先程、お祝いメールを送ったところです
(2008年11月5日付高市ブログ「オバマ氏が、米国大統領選挙で勝利!」より)

■本音は「トランプ嫌い」で、演技している?
オバマ氏といえば、トランプ大統領からも激しく批判されており、保守派にとって敵とも言える政治家のはずだ。2008年時点のこととはいえ、保守強硬派のはずの高市氏がオバマ氏の当選を喜んでいるのは違和感がある。しかもオバマ陣営に大親友がいるとまで書いているのだ。
3月の訪米時も積極的にハグしにいくなど、トランプ大統領に媚びていると批判されがちな高市首相だが、オバマ氏への態度を見ると、案外本音は「トランプ嫌い」なのかもしれない。
本音はトランプ氏が嫌いな分、過剰に愛想良く振舞おうとしている。だからどこかウソくさく、演技っぽい振る舞いが目立つのではないか。
そもそも高市首相が尊敬する政治家といえばマーガレット・サッチャーだ。サッチャー氏はかつて「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる手厚い社会保障で知られたイギリスに、市場原理主義を持ち込んだ新自由主義の政治家であり、「伝統を守る保守派」というよりは「伝統を破壊した政治家」だ。
この辺りの状況証拠を見ていくと、高市首相が本当に保守派なのか、根の部分ではリベラル寄りなのではないか、という疑問を抱かざるを得ない。
■なぜ日本史や皇室への言及が少ないのか
もちろん高市首相はタカ派として知られる故・中川昭一氏とも昔から近い関係にあり、いわゆる歴史教科書問題にもコミットしてきた。ブログでも安倍元首相のキャッチコピー「美しい国」や、「教育勅語」に関するエピソードについても書いている。一方で、伝統を守る保守派にしては、日本史や日本文化への言及が少ないように感じる。
例えば皇室問題について語る際、高市首相の論点は「初代から受け継がれたY染色体を伝えるには、男系に限る」という点にあり、天皇家の歴史についてはほとんど言及がない。
また、積極財政派を自称するなら、例えば第一次世界大戦後のいわゆる「高橋財政」について触れてもいいように思う。1929年以降の世界恐慌から当時の日本経済はいち早く立ち直ったとされるが、それは当時の大蔵大臣・高橋是清が採用した「積極財政」が功を奏したとされ、積極財政派の論者がよく引用するからだ。
高市ブログで語られるのは基本的には第二次世界大戦以降の話で、戦前の政治に言及することはほとんどない。
あくまで筆者の主観ではあるが、高市首相は日本の歴史にあまり興味がないような印象を受けた。もちろん政治家が歴史に詳しい必要はないが、「日本の伝統を守る保守強硬派」というイメージを裏切るのも事実だ。
■選挙のために「保守派」を名乗っているだけ
結局のところ、高市首相の本質には「リベラル寄りの意識高い系グローバルエリート」で「競争が大好きな自己責任論者かつ新自由主義者」の部分があるのではないのか。選挙のためには保守派としてのイメージを売り出したい。だが、高市氏のもともとの性格や思想信条からすると、保守強硬派になり切れない部分もあるため、なにかパフォーマンスするたびにウソくささが漂ってしまう。そうした演技が保守層に見破られつつあり、疑いの目を向けられている。これが実態なのではないだろうか。
単なる筆者の推測とはいえ、そう考えるといろいろな点でつじつまが合う。
前述した百田尚樹氏らの反応は、高市首相のそうした本音を察知したものだったように思われる。
支持者の「高市離れ」はすでに始まっている。筆者らの推測が誤りだと言うなら、高市首相みずからが表に出て発言し、疑惑を正していくしかないだろう。

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中野 タツヤ(なかの・たつや)

ライター、作家

出版社で書籍・Web編集者として活躍したのち独立。
ヒグマ関連記事を多数手掛けた経験をもとに、日本および世界のクマ事件や、社会・行政側の対応について取材している。tatsu_naka1226@ymail.ne.jp

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(ライター、作家 中野 タツヤ)
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