資産を増やすには、どこに預ければいいのか。金融教育家の上原千華子さんは「銀行口座より投資信託のほうが利回りが良いことが多いが、だからと言ってすぐ使うお金まで投じてしまうのはリスクが高い。
大切なのは、お金の目的に合った置き場所を選ぶことだ」という――。
■「一番増える場所」を選ぶと失敗する
新年度が始まる4月。心機一転、今度こそ資産形成を始めたいと思っていませんか。とはいえ、いざ始めるとなると「とりあえずNISAでいいのだろうか」「他の方法はどうだろうか」と迷う人も少なくありません。最近では、生活防衛資金まで投資に回してしまう「NISA貧乏」を心配する声もありますよね。
だからこそ大切なのは、「とりあえず始める」ことではなく、お金の置き場所を考えることです。同じ月1万円でも、どこに置くかによって5年後、10年後の差はじわじわと広がっていきます。
ここで大切なのは「一番増える場所」を選ぶことではありません。近いうちに使うお金なのか、遠い将来に備えるお金なのか。目的によって向いている置き場所は違うからです。
では、何を基準に選べばよいのでしょうか。代表的な5つの置き場所を比較しながら考えていきましょう。

■ノーリスク・ハイリターンな商品はない
まず、お金の置き場所を考えるときに大事なのが、「安全性」「収益性」「流動性」の3つの視点です。「安全性」は元本や利子がどの程度確実に守られるか、「収益性」はどのくらいのリターンが期待できるか、「流動性」は必要なときに換金しやすいかを指します。
残念ながら、この3つ全てを兼ね備えた金融商品はありません。元本割れしにくいものは大きく増えにくく、大きく増える可能性があるものは、値動きも大きくなりやすいのです。
では、実際にどのようなお金の置き場所があるのでしょうか。
まず「中身」となる主な金融商品には、預貯金、株式、債券があります。株式や債券は、個別銘柄を直接持つこともできますし、投資信託を通して持つ方法もあります。こうした金融商品を持つときに使う制度が、財形、NISA、iDeCoです。
また、銀行預金や個人向け国債のように、商品そのものがお金の置き場所になるものもあります。
資産形成でよく使われる代表例として、銀行預金、財形、NISA、iDeCo、個人向け国債の5つを比較してみましょう。
■半年~1年分の生活防衛資金は銀行口座へ
図表1のように、5つのお金の置き場所はそれぞれ特徴が異なります。
すぐに使う可能性がある場合は、安全性と流動性が高い銀行預金が向いています。
生活防衛資金として、まずは6カ月~1年分の生活費を銀行預金で確保しておきたいところです。また、5~10年以内に使う予定のお金も、値動きの少ない商品にしたほうが安心です。
一方、老後資金のようにしばらく使わないお金なら、iDeCoやNISAが向いています。特にiDeCoは、運用益が非課税になるだけではなく、掛金が全額所得控除の対象になります。
例えば、所得税率20%・住民税率10%の方が毎月1万円ずつ拠出した場合、年間3.6万円の軽減効果があります。
■5年積み立てて「赤字」になる場合も
それでは、以下の設定で毎月1万円を5年・10年・20年と積み立てた場合を考えてみます。
銀行預金:年0.4%(税引後 0.319%)

財形:金銭信託型 年0.4%(税引後 0.319%)、定期預金型 年0.7%(税引後 0.558%)

個人向け国債(5年):固定金利 年1.58%(税引後 1.2590230%)(※1)

個人向け国債(10年):変動金利 年1.40%(税引後 1.1155900%)(※1)

NISA・iDeCo:同じ投資信託(※2)を積み立てる
※1 令和8年3月5日~31日募集の適用利率(財務省「個人向け国債」より)

※2 日本株式:TOPIX配当込み株価指数、日本債券:BPI総合インデックス、海外株式:MSCIコクサイインデックス(円換算ベース)、海外債券:FTSE世界国債インデックス(除く日本、円ベース)

同じ月1万円でも、お金をどこに置くか、何年積み立てるかによって、結果は大きく変わります。特に5年では値動きの影響を受けやすく、10年になると置き場所による差が見え始めます。さらに20年では、複利の効果がよりはっきり表れてきます。順番に見ていきましょう。
まずは5年後のシミュレーションです(図表2)。
預金や財形、個人向け国債は大きくは増えないものの、見通しを立てやすいのが安心材料です。
一方、NISAやiDeCoで投資信託を積み立てた場合、5年という比較的短い期間では運用成果にかなり幅があり、元本割れとなる可能性もあります。
教育費や住宅資金など、使う時期が見えているお金まで値動きのある商品に寄せすぎると、必要なときに下がっていることもあるため注意が必要です。
■10年後、国債と投資信託では2~7倍の差
積立期間が10年になると、置き場所による差はかなり開いてきます(図表3)。
預金や財形、個人向け国債は着実に積み上がりますが、増え方は緩やかです。
これに対して、NISAやiDeCoで投資信託を積み立てると、想定利回りによって幅があるものの、複利効果で資産は増えやすくなっています。
10年先以降を見据えたお金なら、投資をする意味は大きくなります。ただし、使う可能性があるお金ならNISA、老後資金として確実に分けたいならiDeCoというように、目的に合わせて制度を選ぶことが大切です。
■銀行に20年預けても8万円しか増えない
20年という長い時間軸で見ると、複利の差はさらに大きくなります(図表4)。
預金や財形は元本保証の安心感がある一方で、増え方は限定的です。一方で、NISAやiDeCoで投資信託を積み立てると、長く続けるほど資産は増えやすくなります。
老後資金のように20年以上先を見据えられるお金であれば、短期の値動きに一喜一憂せず、時間を味方につける発想が大切です。
■「NISA貧乏」になってはどうしようもない
同じ月1万円でも、置き場所と時間軸によって結果は大きく変わります。
ただし、「とにかくNISAが正解」「預金はすべて損」といった単純な話ではありません。生活防衛資金や数年以内に使う予定のお金まで値動きのある商品に回してしまえば、いわゆるNISA貧乏につながりかねません。
大切なのは、すぐ使うお金、5~10年後に使うお金、老後まで使わないお金を分けて考えることです。「一番増える場所」を探すのではなく、そのお金の目的に合った置き場所を選ぶこと。それが、今も将来も安心できる資産形成につながるのではないでしょうか。

※本稿のシミュレーションは、あくまでも上記前提に基づく試算であり、将来の投資成果を予想・保証するものではない。

投資信託の利回りは金融庁「NISA早わかりガイドブック」を参考に設定。

税金の扱いは預金・財形・国債は利子課税を反映し、NISA・iDeCoは運用益非課税で試算。

銀行預金と財形は、実際の商品の利息計算をそのまま再現したものではなく、便宜上税引後年利をもとに月次積立で試算した。

個人向け国債は単利で計算している。

投資信託は元本保証ではないため、運用成果に幅を持たせた。

iDeCoのシミュレーションには、口座管理手数料、掛金の全額所得控除や受取時の退職所得控除、公的年金等控除等による税制メリットは含まれない。



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上原 千華子(うえはら・ちかこ)

金融教育家

金融教育家。欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴26年。証券外務員一種、最新の心理学NLPを使ったマネークリニック®認定トレーナー。2018年、ウェルス・マインド・アプローチ創業。資産運用講座を実施し、2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。ライフプランから資産運用までマンツーマン指導。著書に『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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(金融教育家 上原 千華子)
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