外資系金融機関の年収は新卒でも1000万円前後とされ、日本の同業種よりも高い水準となっている。金融ジャーナリストの鈴木雅光さんは「彼らがそれほどの利益を上げられるのは、日本の銀行や証券会社にはできないビジネスモデルにある」という――。
(第1回)
※本稿は、鈴木雅光『銀行の本店はなぜ仰々しいのか?』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
■謎に包まれたゴールドマン・サックスの正体
ゴールドマン・サックスやモルガン・スタンレーなどの外資系金融機関に対し、皆さんはどんなイメージをお持ちでしょうか。人気俳優さんの結婚相手が外資系金融機関勤務であることも少なくないので、華やかなイメージをお持ちの方も多いでしょう。
ネットニュースや動画などでよく目にする外資系金融機関であるけれども、実際に知り合いがいる、もしくはそこで働いている人と対面で会った、という方は意外に少ないのではないかと思います。それは当たり前で、大半の外資系金融機関は、店舗を東京にしか持っていないからです。
しかも店舗とはいえ、日本の銀行のように路面店があるわけではなく、その多くは都心の超高層ビルに入っていたりします。その構えからもわかるように、大半の外資系金融機関は、日本の個人を相手に商売をしていません。
たとえば米国の投資銀行であるゴールドマン・サックスの日本法人が入っているビルは、港区にある虎ノ門ヒルズ ステーションタワーです。ちなみに、移転前に入っていたのは、六本木ヒルズ森タワーです。六本木ヒルズ森タワーに入っていた時も現在も、ゴールドマン・サックス専用のエレベーターがあります。
東芝メモリ売却の裏で稼いだ巨額報酬
正直、このオフィスを見ると、「外資系金融機関って儲かっているんだなー」と思ってしまうのですが、どうしてそのような超高級オフィスに入居できるほど、利益を上げられるのでしょうか。それはもう、ひとえに「BtoBビジネス」に特化しているからに他なりません。

日本の銀行のように預金を集めることもしなければ、日本の証券会社のように投資信託を販売することも一切しません。彼らのビジネスのメインターゲットは、大手企業なのです。
ゴールドマン・サックスが直近で絡んだ大型案件としては、米国原子力発電事業の巨額損失で債務超過に陥った東芝が、上場廃止を逃れるために、稼ぎ頭だった東芝メモリを売却した件が挙げられます。2017年のことです。
最終的に東芝は、2017年9月に米国のプライベートエクイティファンド(未公開企業に投資するファンド)であるベインキャピタルを中心に組成された、日米韓連合の株式会社Pangea(パンゲア)に、東芝メモリを2兆3億円で売却する契約を締結したのですが、この巨額ディールの裏側にいたのがゴールドマン・サックスでした。ちなみに東芝メモリは2019年に、キオクシアへと社名が変更されました。この巨額ディールで、ゴールドマン・サックスにどのくらいのアドバイザー料が支払われたのかは定かではありません。
■負債だらけの会社をドル箱にする戦略
ただ、ブルームバーグが関係者に取材したところによると、東芝が上場を維持するための資本増強を目的に、海外ファンドなどから第三者割当増資によって6000億円の資金調達を行った際には、200億円の手数料を得たとされています。
アコーディア・ゴルフというゴルフ場運営会社の裏側にいたのも、ゴールドマン・サックスです。1980年代のバブル期に行われたゴルフ場の乱開発によって、日本のゴルフ場は供給過多に陥っていました。結果、多くのゴルフ場が経営破綻の危機に直面していたのです。
ここに目をつけたのがゴールドマン・サックスでした。
経営破綻、もしくは破綻寸前のゴルフ場を買い集め、スケールメリットを活かして、低コストでゴルフ場を運営する計画を打ち出したのです。
ゴールドマン・サックスは、経営難による和議申請をし、事実上の倒産に陥っていた日東興業を2001年11月に買収しました。そして2003年にアコーディア・ゴルフへと社名を変更し、次々にゴルフ場の買収を始めたのです。
事実上の倒産会社を買収して社名を変更し、それを器にして、さらに倒産寸前のゴルフ場を買収する。ダメ会社にダメ会社を積み上げることで、莫大な利益を生み出せるなんてことは、少なくとも当時の日本人には思いもつかなかったでしょう。
■日本勢が勝てない投資銀行ビジネスの裏側
でも、それをゴールドマン・サックスはやってのけたのです。アコーディア・ゴルフは買収したゴルフ場の再生に成功し、2006年に株式を上場しました。そして2011年には、保有していたアコーディア・ゴルフの株式を全部売却して、アコーディア・ゴルフとの提携を完全に解消しました。
ここまでの過程で、ゴールドマン・サックスは株式の売却益も含め、莫大な利益を得ているはずです。これらの事例でおわかりいただけると思いますが、米国の投資銀行が行っているビジネスは、日本の銀行や証券会社とは全く異なる性質を持っています。
では、こうしたビッグ・ディールにどうやってアプローチするのかについては、外資系金融機関から企業にオファーを出すケースもあれば、大規模なM&Aを行いたい企業や敵対的買収の危機に直面している企業が、外資系金融機関に助けを求めるケースもあります。もちろん、日本の金融機関でも、たとえば野村證券、大和証券、そして3メガバンクは投資銀行的な業務を行っているものの、(このような言い方をすると失礼だとは思いますが)あくまでも“的なもの”でしかありません。

■東芝を救ったゴールドマンの圧倒的な資金力
実際、東芝の経営危機に際しても、三井住友銀行とみずほ銀行が融資で支え、SMBC日興証券やみずほ証券が資本増強の提案を行い、さらに野村證券も東芝の財務アドバイザーに就いていたにもかかわらず、6000億円の第三者割当増資を行う際の単独主幹事という座を射止めたのは、ゴールドマン・サックスでした。
なぜ国内金融機関ではなく、ゴールドマン・サックスだったのかというと、決め手はグローバル・ネットワークだったようです。ロイターによると、この増資では、総勢30社、合計60ファンドを引受先としており、そこには日本の証券会社では会うことさえできないメンバーが顔を揃えていたということです。
唯一、日本の金融機関でゴールドマン・サックスに近いグローバル・ネットワークを持っているのは、三菱UFJモルガン・スタンレー証券くらいでしょう。三菱UFJフィナンシャル・グループは、米国の投資銀行であるモルガン・スタンレーに出資している関係があり、グローバルなディールに強みを発揮しているからです。
外資系金融機関では、このような巨額ディールで得られた莫大な利益が、従業員の年収に反映されている――何とも羨ましい世界ではあります。

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鈴木 雅光(すずき・まさみつ)

金融ジャーナリスト

岡三証券、公社債新聞社、金融データシステムを経て独立。単行本の制作、執筆の他、各種オンラインメディアに、投資信託や金融市場全般に関する記事を寄稿。

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(金融ジャーナリスト 鈴木 雅光)
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