※本稿は、中尾正一郎『減塩より実は簡単! 週末「無塩・無糖」のすすめ』(青春出版社)の一部を再編集したものです。
■“減塩”より“無塩・無糖”のほうが簡単な理由
健康診断などで高血圧を指摘されると、必ず、「減塩してくださいね」と医師から言われるはずです。ところが、減塩はなかなかうまくいきません。
日本では、高血圧の人は1日の食塩摂取量を6g未満にするように指導されますが、数年前に聞いた学会発表では、高血圧の専門医の外来でも6g未満を達成できている患者さんは1割しかいませんでした。残りの9割の患者さんは減塩に失敗しているのです。
減塩が難しい理由は“引き算”になるからです。
減塩の調味料を使いましょう、塩分の多い加工食品は頻度を減らしましょう、麺類の汁は残しましょう……などと、いつもの食事から食塩を“引き算する”のが減塩です。
でも、減塩調味料に変えても使う量が増えれば、食塩摂取量は変わりません。また、もともとどのくらいの食塩をとっているのかを知らなければ、どれだけ引けばいいのかもわかりません。
引き算の減塩では、結局、トータルで何gとっているのかがわからず、「減らしているつもりが、まだまだ多い」といったことが起こりやすいものです。
その点、「無塩・無糖」はゼロからの足し算になり、わかりやすいのです。
■「蒸し野菜にポン酢」がなくなった瞬間
私自身も、ゼロからの足し算だったからうまくいったのではないかと思っています。「今日から食塩はやめよう」と妻に宣言した日から、食塩も、食塩の入った調味料も料理には使わなくなりましたが、すぐに食塩ゼロの味に慣れたわけではありませんでした。
例えば、いろいろな野菜を蒸して食べる「蒸し野菜」も、今でこそ、そのままで十分に野菜の甘みを感じておいしいのですが、最初の頃は物足りなかったので、ポン酢をかけたりしていました。
でも、“ゼロから足す”やり方だったので、食塩量がわかりやすかったのです。味に慣れるにつれて足す量を少しずつ減らしていったら、いつの間にか何もかけなくてもおいしく感じられるようになっていました。
「減塩・減糖」を実践するにしても、いつもの料理から“引く”より、「無塩・無糖」の料理から“足す”ほうが、うまくいきやすい。それは、自分自身の経験から自信をもって言えます。
■「減塩」「低糖質」食品に潜む落とし穴
食塩も糖質もとりすぎはよくないということはよく知られているので、巷(ちまた)には、「減塩」や「低糖質」を謳(うた)った調味料や加工食品が出回っています。
毎日使うような調味料、食品ほど、減塩や低糖質のものに置き換えたほうが健康にいいだろう、と思うでしょうか。ここで、気をつけてほしいのが原材料です。
「塩分○%カット」「糖質○%カット」などと謳った商品は、食塩や糖質を減らしながらも、もともとの味を維持するために、食品添加物が加えられていることが多いのです。
商品を選ぶときには、表側の「○%カット」という数字だけではなく、元の商品と減塩・低糖質タイプの商品の原材料を見比べて、添加物が増えていないかを確認してください。
私の経験上、減塩や低糖質タイプの商品は、添加物が多くなりがちです。そうであれば、食塩や砂糖が使われていても、昔ながらのシンプルな材料・製法で作られた調味料や食品を少量使うほうが、むしろ健康的で安全だと思います。
■減塩30%のお菓子を食べる必要性はあるか
ところで、先日、日本高血圧学会に参加したところ、企業が、減塩バージョンのせんべいなどのお菓子を紹介していました。各ブースに並べられた商品を見ていると、減塩の割合が30%以上のものはほとんど見当たらなかったので、ブースの担当の方に「50%カットにはできないのですか?」と尋ねてみました。
すると、どの企業の方からも共通して返ってきたのが、「元の商品と味が変わってしまうから、できないんです」という答えでした。味が変わらない範囲で最大限に減塩した商品が、30%カットだったのです。
消費者の健康のために食塩量を減らしつつもおいしさは損なわないようにという企業努力には頭が下がりますし、減塩バージョンを選んで購入する方も健康を意識されていてえらいなと思います。
ただ一方で、そこまでしてしょっぱい味を求めなくてもいいのではないか、とも思うのです。
健康のために減塩や低糖質バージョンを選ぶのであれば、もう一歩考えを進めて、そこまでしてその嗜好品を食べなければいけないのか、ちょっと立ち止まって考えてみてください。
■高血圧は「世界一の殺し屋」だった
血圧が多少高くても、体が痛むこともなければ、つらい症状に見舞われることはほとんどありません。
そのため、高血圧は「サイレントキラー」と呼ばれることがあります。「静かなる殺し屋」です。
ただし、高血圧は、自覚症状なく静かに忍び寄る殺し屋というだけではなく、実は「世界一の殺し屋」でもあります。
「Global Burden of Disease Study(世界疾病負荷研究)」という有名な研究があります。
世界中の国と地域を対象に、何が寿命を縮め、健康状態を悪化させているのかという健康課題を明らかにするための研究です。
この2001年のデータによると、世界中で約5600万人が亡くなっていて、そのうちの約760万人が高血圧によって命を縮めていました。命を縮める要因はさまざまありますが、ダントツに多かったのが高血圧だったのです。
この世界疾病負荷研究の結果は数年おきに発表されていて、最新のデータでも、高血圧が最大のリスク要因であることは変わりません(※1)。
高血圧があると、まず血管が傷つき、動脈硬化が進みます。
そうすると、心筋梗塞をはじめとした心臓病、脳梗塞や脳出血などの脳卒中のリスクが上がります。また、脳卒中によって起こる血管性認知症にもなりやすければ、腎臓病のリスクも高まります。
腎臓の働きが低下する原因はいろいろありますが、その6割を占めるのが糖尿病と高血圧です。6割のうちの3分の2が糖尿病、3分の1が高血圧です。腎臓の働きが低下すれば、いずれ人工透析が必要になるわけですが、その背景にも高血圧が隠れているのです。
ほかにも、心臓から血液を送る大動脈で動脈硬化が進むと大動脈瘤や大動脈解離の原因になり、目の血管がもろくなると網膜症などを引き起こし、失明することもあります。
このように、命にかかわる病気や生活の質を著しく下げる病気の大きな原因が高血圧なのです。逆にいえば、高血圧を予防することは最大のリスクヘッジになるということです。
※1 Burden of 375 diseases and injuries, risk-attributable burden of 88 risk factors, and healthy life expectancy in 204 countries and territories, including 660 subnational locations, 1990-2023: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2023.Lancet. 2025 Oct 12; doi: 10.1016/S0140-6736(25)01637-X. Epub 2025 Oct 12.
■日本の食塩の目標値は甘すぎる
高血圧は「世界一の殺し屋」といえるほど多くの病気にかかわっていて、高血圧を引き起こす最大の原因が食塩です。日本では高血圧の人の10 人中9人が「食塩高血圧」だと、私は考えています。
日本高血圧学会は、食塩摂取量の目標として「1日6g未満」を掲げています。
ところが、この目標値は、世界を見渡してみるとずいぶん甘いのです。
WHO(世界保健機関)や欧州の高血圧学会、心臓病学会は、「1日5g未満」を目標としています。
アメリカはさらに厳しく、米国心臓病学会・米国心臓協会の目標値は、「1日3.8g未満」です。なぜ3.8という中途半端な数字なのかといえば、理由は単純明快で、3.8g未満に減らせば血圧が下がるという明確な科学的根拠があるからです。
例えばDASH研究という、2001年に発表されたアメリカの有名な研究があります(※2)。この研究では、1日の食塩摂取量を、平均8.3gから5.8gに減らすと血圧が下がり、さらに3.8gまで減塩するともっと血圧が下がりました。
■血圧が大きく下がる1日3.8g未満を目指す
一方、日本の「6g未満」という基準はというと、根拠はあるものの降圧効果は弱めです。日本高血圧学会としても、減塩すればするほど血圧がより下がることはわかってはいるものの、日本人の現状を考えると1日3.8g未満を達成できるとはとても思えない。
そうであればまずは、1日6g未満でどうか――。
そんなふうに、日本人らしい思いやりで決まった目標値のようです。
2025年に高血圧の治療ガイドラインが改訂された際、日本の減塩目標も改められるのではないかと淡い期待を抱きましたが、変わりませんでした。なぜアメリカのように厳しくできないのかといえば、現状の6g未満という目標でさえ達成できていないからです。
ただし、日本の治療ガイドラインでも、「食塩摂取量を6g/日より下げることで、血圧のさらなる低下が期待できる」ということはハッキリ書かれています(※3)。
血圧が大きく下がり、高血圧を予防できるという明確なエビデンスがあるのが1日3.8g未満なのです。そうであれば、1日3.8g未満をめざすほうが本来は理想的だと私は思います。
※2 DASH-Sodium Collaborative Research Group. Effects on blood pressure of reduced dietary sodium and the Dietary Approach to Stop Hypertension(DASH)diet. N Engl J Med 2001: 344: 3-10.
※3 日本高血圧学会高血圧管理・治療ガイドライン委員会[編]『高血圧管理・治療ガイドライン2025』ライフサイエンス出版、2025年
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中尾 正一郎(なかお・しょういちろう)
医師、医学博士
日本循環器学会専門医。日本内科学会認定内科医。1973年、鹿児島大学医学部卒業。
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(医師、医学博士 中尾 正一郎)

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